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社労士解説


2024年度の法改正まとめ|人事総務関連制度の動向を社労士が解説

2024.01.12

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2023年は「働き方改革」の進展や「人的資本経営」、スタートアップ企業関連施策など、多様な働き方や人材活用に関連する法改正が多くあった。新型コロナウイルスの流行が収まって人材不足感が顕在化する中、この動きは2024年においても継続していくことが見込まれている。これらの改正は人事総務の実務はもちろん、企業の労働者に対する認識や経営計画にも大きな影響を及ぼしそうだ。

人事総務担当者が2024年度に確認しておきたい法改正や政策の動向解説を、社会保険労務士でフォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表の松井勇策氏にお願いした。【公開:2024年1月12日、最終更新:1月25日】

関連資料:【社労士監修】労務担当者の主な業務「年間スケジュール」-2024年3月版-

目次
  1. はじめに
  2. 人的資本経営に基づく戦略・実質賃上げ
    概観
    2023年10月より引き続き実施 年収の壁支援強化パッケージ
    2024年4月~ 労働条件通知書/求人募集内容の要件変更
    2024年4月~ 裁量労働制に関する要件強化
    2024年10月~ 社会保険適用拡大
  3. 多様な働き方の推進と働き方改革の徹底
    医師・運送業・建設業等の働き方改革 時間外労働上限規制の全面適用
    障害者雇用促進法の改正
    2024年12月8日 健康保険法の改正でマイナンバーカードと健康保険証を一体化

はじめに

2024年の法改正は、全体を見ると、変化する社会の中での個々の企業や個人の持続性を増大させ、多様化する社会的なニーズに応えられる状態を目指すものであると言えます。特に、次の2つを基調とした法改正や政策に大きく分けられます。

  • 人的資本経営に基づく戦略/実質賃上げ
  • 多様な働き方の推進と働き方改革の徹底

それぞれに含まれるものとして、以下が挙げられます。

1. 人的資本経営に基づく戦略/実質賃上げ ・年収の壁支援強化パッケージ
・労働条件通知書/求人募集内容の要件変更
・裁量労働制の適用要件の変更
・社会保険の対象者の拡大
2. 多様な働き方の推進と働き方改革の徹底 ・医師・運送業・建設業等の働き方改革、労働時間の上限規制
・障害者雇用促進法の要件拡大
・健康保険証の廃止とマイナンバーカード一体化

企業は従業員のスキルアップやキャリア開発を支援する体制を整える必要があります。これには、教育訓練の機会提供やキャリアパスの明確化などが含まれます。

また、実質賃上げにより、従業員の生活水準の向上と経済全体の活性化を図ることも重要です。これにより、労働者のモチベーション向上と企業の生産性向上が期待されます。

人的資本経営に基づく戦略・実質賃上げ

画像:2024法改正|@人事

以下の法改正は、適用に当たって企業の人事管理の変革を要するものだと言えます。

・年収の壁支援強化パッケージ
・労働条件通知書/求人募集内容の要件変更
・裁量労働制の適用要件の変更
・社会保険の対象者の拡大

年収の壁支援強化パッケージは、2023年中に実施された制度改正ですが、それ以外の2024年の法改正と一体的な意義を持ち、さらに制度含めて詳細が出続けていますので今回の解説に加えました。

これらの法改正は、企業に対して従来の労働管理方法の見直しを促し、戦略的な人材管理、仕事の明確化などが前提となるものと言えます。

より分かりやすく言うと、上記のそれぞれについて「単にルールが変更されたために、ルールへの対応を行おうとする」だけの対応では本質的な対応を行うことが難しく、人材管理自体を見直して、正社員など無期・正規の労働者のみではなく、有期雇用の契約社員・アルバイト・パートなどの方に至るまで、下記のような対応が必要だと言えるでしょう。

1. それぞれの方が仕事において何をする役割か
2. それぞれの業務でキャリアアップの意思がある方のその後の業務内容や処遇
3. 現在の仕事からの業務内容や場所等の変更や異動の可能性

これらを明確化しないと対応できない部分が大きいものと言えます。こうした、個々の従業員の成長やキャリアアップと企業の経営の方向性をすり合わせるような考え方が一般的に「人的資本経営」と呼ばれるものですが、こうした取り組みが求められています。この観点でのそれぞれの法令や制度の改正に必要な対応を概観すると以下の通りです。

概観

年収の壁支援強化パッケージ

「年収の壁」の問題に対処するもので、年収の壁の対象の従業員について時間や報酬の増大を助成金で補助したり、扶養から外れなくて良いようにしたりするパッケージです。企業にとっては、この対象者となる方をどう選定するか、待遇をどう公正なものにするかの戦略的な判断が求められると言えます。

労働条件通知書の改定

雇用契約に関する情報の透明性を高めることを目的としています。特に労働条件、職務内容、報酬、労働時間などの詳細を明確に示す必要があります。特に無期転換時等の、有期雇用の方のキャリアの見通しを明確化する必要もあります。

裁量労働制の厳格化

特に専門業務型裁量労働制の労働者の方に対しても同意が必要となり、責任と期待される役割を明確に伝えることが重要になりました。どう専門的で期待役割が何なのかといった考慮が必要だと言えます。

社会保険の対象者の拡大

51人以上の企業にも社会保険の対象となる要件が広がることになりますが、保険料の負担増加を理由に社会保険への加入を望まない方も多いものと考えられるため、従業員の意向を確認して業務設計を進める必要があると考えられます。


 これらの法改正は、企業が従業員の仕事の責任と役割を明確化し、報酬や待遇、キャリアの面があらかじめ計画されていることを前提としていると言って良いと思います。こうした準備を行った上で、戦略的で透明な取り組みを行うことを強く促しているものだと言えます。人材不足の中で、それぞれの企業が採用力の向上や戦略的な人材活用に取り組む必要があるのです。

また、社会的にも賃上げが強く要請されますが、単なるベースアップのみではなく、業務内容およびキャリアの専門性や柔軟性を向上させることでの戦略的な賃上げを企業に求めていと言えるのではないでしょうか。

以下、個別の法改正内容を解説します。

2023年10月より引き続き実施 年収の壁支援強化パッケージ

日本においては、人手不足の解消が急務とされる中で、配偶者の社会保険で扶養されている短時間労働者が、一定の年収範囲内で働くことを選ぶ傾向が課題となっています。この背景には、所得税や社会保険料の負担が変わる「年収の壁」が関係しています。

年収の壁|@人事

引用:厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」より

「年収の壁」とは、扶養家族としての条件が年収によって変化する状況を指します。具体的には、配偶者が年収103万円以下ならば所得税の負担はなく、夫の税金も増加しないという「所得税の壁」が存在します。さらに、106万円と130万円の年収の壁では、社会保険料の負担が発生します。特に106万円の壁は、勤務先の従業員数によって異なり、2024年10月からは51名以上の企業に勤める人にも適用される見込みです。一方、130万円を超えると勤務先の規模や扶養状況に関わらず社会保険に加入する必要があります。

これに対処するため、厚生労働省は「年収の壁・支援強化パッケージ」を2023年10月より開始しました。このパッケージは、短時間労働者が年収の壁を意識せずに働けるように、社会保険料負担の軽減や企業の支援策を提供しています。

主な施策は以下の通りです。

1. 106万円の壁への対応:新たに社会保険に加入する従業員に対し、賃金の増加や手当の支給を行う企業に最大50万円の助成金が総説されました。具体的には、社会保険適用促進手当の支給や労働時間の延長、これらの併用などがあります。
2. 130万円の壁への対応:労働時間増加によって年収が130万円を超えた場合、一時的な収入増であることを証明すれば、引き続き扶養家族として認められる制度です。
106万円の壁対策イメージ|@人事

106万円の壁対策イメージ

引用:政府広報オンライン「『年収の壁』対策がスタート!パートやアルバイトはどうなる?」より

130万円の壁対策イメージ|@人事

130万円の壁対策イメージ

引用:政府広報オンライン「『年収の壁』対策がスタート!パートやアルバイトはどうなる?」より

この支援パッケージは、短時間労働者や企業にとって有益な制度ですが、利用条件や企業による取り組みの違い、期間限定の措置であることなど理解しておくべきポイントがあります。前提として、現在の被扶養者や短時間労働者の方の今後の処遇やキャリアについて整理する必要性が高いものです。この制度によって短時間労働者が年収の壁を超えた働き方を検討するきっかけにもなるでしょう。

参考:厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」

2024年4月~ 労働条件通知書/求人募集内容の要件変更

2024年4月から施行される労働条件の明示に関する規則の改定は、労働基準法施行規則の一部を修正する形で行われます。この改定の主な目的は、労働者と雇用者間での認識の不一致や、有期契約から無期契約への変更に伴うトラブルを未然に防ぐことです。

また、ポイントとして下記の1・2については、労働条件通知書に関する改正だけではなく、同時に職業安定法の改正も行われるため、求人の条件としても明示する必要がある項目です。そのため、求人条件としても具体的な仕事の内容や変更範囲、上限等の明示が必要であり、業務設計やキャリアの明確化の程度が採用力に直接影響するような改正だとも言えます。

改正の主要な内容は以下の通りです。

1. 就業場所・業務の変更の範囲の明示:全ての労働契約で、採用時の勤務地や業務内容だけでなく、これらの変更可能性についても明確に記載する必要があります。
2. 有期労働契約の更新上限の明示:有期労働契約における更新の上限に関する情報も書面で提供する必要があります。
3. 無期転換申込権の明示:有期契約労働者が「無期転換申込権」を行使できる更新の際に、その権利についての情報を提供することが義務付けられます。
4. 無期転換後の労働条件の明示:無期転換後の労働条件に関する情報も、明示する必要があります。

労働条件通知書/求人募集内容の要件変更|@人事

引用:厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」より

これらの変更により、労働者は自身の権利をより理解しやすくなり、自らの意思で無期転換を選択するか否かを判断できるようになることが期待されています。特に、無期転換申込権に関する明示は、有期契約労働者が自分の権利を認識しやすくするための重要な措置です。

具体的な対応として、業務レベルでは、各企業で以下のような対応を行う必要があるものと考えられます。

  • 労働条件通知書や労働契約書のテンプレートを見直し、新たな規定に沿った内容に更新する。
  • 無期転換申込時の手続きや無期転換後の労働条件について、社内での準備やフローを確立する。
  • 通算契約期間が5年を超える有期雇用労働者からの無期転換申し込みに備えるための対策を講じる。

ただ、上記だけでは特に1の要件に対応することはできないと考えられ、そもそも現在の業務やその後のキャリアなどの個別の検討が必要です。企業における経営計画や仕事内容についての見直しが求められると言えるでしょう。

2024年4月~ 裁量労働制に関する要件強化

2024年4月1日より施行される労働基準法施行規則の改正は、裁量労働制の導入や継続において重要な変更をもたらします。この改正により、企業は裁量労働制の適用に際して、労働者の同意を得るプロセスを強化する必要があります。

改正の概要は以下の通りです。

企画業務型裁量労働制:
労使委員会の決議に以下の内容を追加する必要:
1. 制度の適用に関する同意の撤回手続き
2. 賃金・評価制度の変更に関する労使委員会への説明義務
労使委員会の運営規程には、賃金・評価制度の内容に関する説明、適正な運用の確保、6カ月以内に1回の開催頻度などの項目を追加する。

専門業務型裁量労働制:
労使協定に以下の内容を定めることが必要:
1. 制度の適用に当たっての労働者本人の同意
2. 同意しない労働者への不利益な取扱いの禁止
3. 同意撤回の手続き

専門業務型裁量労働制の導入または継続を行う場合、2024年3月末までに本人の同意および労使協定の締結が必要になります。また、労働基準監督署への届出も行う必要があります。労使協定の様式も変更されるため、提出に際しては注意が必要です。

協定届の記載例|@人事

協定届の記載例

引用:厚生労働省パンフレット「専門業務型裁量労働制について」より

裁量労働制は、労働時間よりも成果を重視する柔軟な働き方を促進するために設計されました。専門業務型裁量労働制は、特に専門性の高い業務に従事する従業員に適用されます。しかし、長時間労働の常態化や不正確な適用が問題視されていたことから、この改正は労働者の保護を強化する狙いがあります。

特に専門業務型裁量労働制については、「労働者の裁量性がある専門的な労働であることの説明・同意」が必要になる大きな改正であり、業務内容が制度趣旨に合っているのかどうかを確認し、従業員の同意取得や労使協定の見直しを行う必要があります。また、従業員から通常の労働時間制度への移行を求める申し出に対応するための方策も検討する必要があります。

参考:厚生労働省リーフレット「裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」

2024年10月~ 社会保険適用拡大

2024年10月の法改正により、パートタイマーやアルバイト従業員に対する社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用範囲が拡大されることが予定されています。この改正は、従業員の福祉向上と企業の責任拡大を目指すもので、特に従業員数が51人以上100人未満の中小企業に大きな影響を及ぼすことが予想されます。

この改正の背景には、非正規雇用者の社会保障へのアクセスの強化があります。従来、パートやアルバイトの従業員は、社会保険の対象外となることが多く、その結果、これらの労働者は社会保障の恩恵を受けにくい状況にありました。しかし、2024年10月以降、以下の条件を満たすパート・アルバイト従業員には社会保険の加入が義務付けられます。

1. 週の所定労働時間が20時間以上であること
2. 月額賃金が88,000円以上であること
3. 2カ月以上の雇用が見込まれること
4. 学生ではないこと

これまでの経緯として、2016年10月以降、社会保険適用の対象企業は段階的に拡大されてきました。初めは従業員数101人以上の企業が対象でしたが、2024年10月からは51人以上の企業にも適用されることになります。

しかしながら、保険料の負担増加を理由に、社会保険への加入を望まないパートタイマーも少なくありません。このため、企業は早期に従業員の意向を確認し、業務設計を進める必要があると考えられます。特に、今回の改正により影響を受ける企業は、対象となる従業員の把握と準備に早急に着手することが求められます。

参考:厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」
参考
厚生労働省「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の更なる適用拡大に 係る事務の取扱いに関するQ&A集の送付について 」

多様な働き方の推進と働き方改革の徹底

画像:2024法改正|@人事

2024の下記の法改正は、深刻な社会的変化に対応し、新しい時代に合った持続可能な労働環境を目指すという趣旨が大きいものと言えます。この改正は、急速に進む高齢化、労働人口の減少、女性の社会進出とキャリアの中断、障害者の社会参加、そして社会保険制度の課題に対処するためのものだと言えるでしょう。

・医師・運送業・建設業等の働き方改革、労働時間の上限規制
・障害者雇用促進法の要件拡大
・健康保険証の廃止とマイナンバーカード一体化

労働人口の減少と柔軟な労働参加を促すこと、障害者の社会参加の拡大は、多様性のある社会の実現に向けた重要なステップです。これらの改正は、労働環境の持続可能な改善、多様な労働力の活用、そして社会全体の包摂性の向上を目指しています。

この法改正は、日本社会のさまざまな変化に対応し、より包摂的で持続可能な労働環境を目指すものであり、高齢者、女性、障害者の社会参加を促進するとともに、労働市場全体の安定と発展を図るための重要な一歩と言えるでしょう。

医師・運送業・建設業等の働き方改革 時間外労働上限規制の全面適用

2019年の労働基準法改正により、時間外労働の上限規制が導入され、特定の業種に対しては2024年4月1日からこの規制の適用が始まります。

建設業、自動車運転業、医師、および鹿児島県と沖縄県における砂糖製造事業など、特定の業務に関して設けられていた時間外労働の上限規制の適用猶予が、2024年4月1日をもって終了することを指します。これらの業界では、時間外労働の上限が月45時間、年間360時間に厳格に制限されるようになります。これにより、これらの業界では従来の業務運営や人員配置を大きく見直す必要が生じています。

時間外労働の上限規制についての今までの経緯としては、以下のような経過をたどって改正と施行が行われてきました。

原則的な労働時間の上限規制の適用時期・規制の内容
大手企業:2019年4月から施行
中小企業:2020年4月から施行
特定業種(建設業、自動車運転業、医業に従事する医師、鹿児島県及び沖縄県の砂糖製造事業):2024年4月1日から施行‥これが今回の改正となります。

規制の内容
残業の上限:月45時間、年間360時間
特別な状況における例外:特別な状況が認められる場合のみこれを超えることが可能であり、6カ月平均1カ月80時間、1カ月100時間、年間720時間を最大の上限とする

上限規制のイメージ図|@人事

引用:厚生労働省「時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務」より

ただし、今回の特定業種に関しては、以下のような条件となっています。上記の原則的な規制がそのまま適用されるわけではありません。

事業 適用される内容 適用されない内容
工作物の建設の事業 残業時間の上限規制の720時間等のルールがすべて適用されます。 災害時における復旧及び復興の事業には、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制は適用されません。
自動車運転の業務 残業時間の上限規制が年960時間に緩和されて適用されます。 時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制が適用されません。
時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月までとする規制は適用されません。
医業に従事する医師 残業時間の上限規制が最大1,860時間に緩和されて適用されます。ただし1,860時間は特別の場合であり、通常は960時間と定められています。
医療法等に追加的健康確保措置に関する定めが置かれます。
時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内とする規制が、時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月までとする規制は適用されません。

これらの規制強化は、特定業種における労働環境の改善と労働者の健康保護を目的としており、事業者はこの法改正に合わせて、適切な対応策を講じることが求められます。

特に自動車運転業においては、ドライバー不足が深刻であり、時間外労働の上限規制の強化が物流への影響を及ぼす可能性があるため、業界全体での対応が重要です。また、建設業界においても、長時間労働と高齢労働者の問題が深刻で、働き方の大幅な見直しが必要となります。

これらの業界では、新たな労働時間規制に適応するために、早期からの業務見直し、顧客への説明、人材採用の強化など、多岐にわたる対策が求められます。企業は、法施行までにこれらの対応を完了させる必要があり、適切な対応を怠ると業務運営に重大な支障を来す可能性があります。

これらの法改正は、労働者の健康保護と労働条件の改善を目指し、特に労働時間に関する厳格な規制を設けるものです。事業者は、この法改正に対応するために、労働時間の管理、労務管理の見直し、そして必要に応じて人員配置や業務プロセスの改善を行うことが重要となります。

参考:厚生労働省「適用猶予業種の時間外労働の上限規制 特設サイト はたらきかたススメ」

障害者雇用促進法の改正

障害者の雇用促進に関する法律の改正により、障害者の法定雇用率は今後段階的に引き上げられることになりました。この改正は、障害者の社会参加と職場での機会均等を促進することを目的としています。

法定雇用率の変更点
1. 2024年4月:障害者の法定雇用率が2.5%に引き上げられます。
2. 2026年4月:法定雇用率がさらに2.7%に引き上げられる予定です。

対象企業の範囲拡大
2024年4月から:従業員40人以上の事業主が障害者を最低1人雇用する必要があります。
2026年4月から:従業員37.5人以上の事業主が対象となります。

労働時間の算定変更
週所定労働時間が10時間以上20時間未満で働く重度の身体・知的障害者、精神障害者は、1人につき0.5カウントとして算定できるようになります。

さらに、障害者雇用を促進するための事業主支援が強化されます。これには助成金の新設や拡充が含まれ、詳細は決定次第発表される予定です。

参考:厚生労働省 第124回労働政策審議会障害者雇用分科会資料「新設助成金の設定及び既存助成金の拡充について(案)」

このほか、特定の業種で障害者の雇用が困難な場合の責任を緩和するための「除外率制度」がありますが、この制度も2025年4月に改訂され、除外率が一律に10ポイント低下することになります。これは、障害者雇用の責任をより多くの企業に広げるための措置です。

参考:厚生労働省 第123回労働政策審議会障害者雇用分科会資料「令和5年度からの障害者雇用率の設定等について」

この法改正は、障害者の職場への参加機会を拡大し、より多くの障害者が働きやすい環境を作ることを目指しています。企業にとっては、障害者雇用に関する新たな要件への対応が必要となります。企業は早期から対策を講じることが望まれ、障害者雇用の推進や職場環境の整備に向けた取り組みが重要となります。また、助成金制度などの支援を活用することで、障害者雇用の推進をより効果的に行うことができるでしょう。

障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則の改正により、障害者の法定雇用率が段階的に引き上げられることは、企業にとって重要な変更点となります。この改正により、障害者の雇用を促進し、より包括的な労働環境を構築することが期待されています。

参考:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用納付金関係助成金の主な変更点について【令和6年4月1日改正分】

https://t.co/yLP5IWf0Od

2024年12月8日 健康保険法の改正でマイナンバーカードと健康保険証を一体化

2023年6月2日に可決された改正マイナンバー法は、マイナンバーカードと健康保険証の統合を核とした重要な改革でした。その当時からの方針として予定されていた施策の一つが健康保険証の一体化です。2024年秋からはマイナンバーカードが健康保険証としての役割も担うことになり、紙やカード形式の従来の健康保険証は段階的に廃止されることになります。

この変更の大きな特徴は、マイナンバーカードの使用が事実上必須となる点です。しかし、2024年秋以前に発行された既存の健康保険証については、有効期限(最長で2025年秋まで)が切れるまでは引き続き使用可能です。これにより、移行期間中の混乱を最小限に抑えることが意図されています。

さらに、マイナンバーカードを持たない人、登録がまだの人、あるいはカードを紛失した人も医療サービスを受けられるよう、健康保険組合等が「資格確認書」を無償で提供する予定です。この資格確認書の有効期限は当初1年とされていましたが、現在は5年まで延長される方針が示されています。

この法改正に伴い、企業の人事担当者や労務担当者は、新しい制度の理解と従業員への周知が求められます。具体的には、健康保険証の廃止とマイナンバーカードへの移行、資格確認書の発行に関する情報を従業員に適切に伝える責任があるものと言えます。

参考:厚生労働省 第166回社会保障審議会医療保険部会資料「マイナンバーカードと健康保険証の一体化について」

※2024年1月4日時点の情報をもとに解説しています

執筆者紹介

松井勇策(まつい・ゆうさく)(組織コンサルタント・社労士・公認心理師) フォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表、情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議議長・責任者。 最新の法制度に関する、企業の雇用実務への適用やコンサルティングを行っている。人的資本については2020年当時から研究・先行した実務に着手。国際資格も多数保持。ほかIPO上場整備支援、人事制度構築、エンゲージメントサーベイや適性検査等のHRテック商品開発支援等。前職の㈱リクルートにおいて、組織人事コンサルティング・東証一部上場時の上場監査の事業部責任者等を歴任。心理査定や組織調査等の商品を。 著書「現代の人事の最新課題」日本テレビ「スッキリ」雇用問題コメンテーター出演、ほか寄稿多数。 【フォレストコンサルティング経営人事フォーラム】 https://forestconsulting1.jpn.org

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