リクルートHRセミナー|第2回・2024年以降の転職市場の展望とリスキリング再考・後編
キーワードは「リスキリング」と「キャリア自律」。広い視野と能動的な姿勢を
2023.12.27
リクルート(東京・千代田)は12月15日、「“働く”のこれから 企業と個人の変化と2024年以降の展望」をテーマにしたセミナーを開催した。同セミナーは、2023年11月24日の第1回目「企業調査からひも解く“日本型雇用の変化”選ばれる企業の特徴とは?」に続いて企画されたものだ。
今回のテーマは「変わる転職市場・変わる企業の採用戦略、2024年以降の転職市場の展望とリスキリング再考」。Indeed Japanとの協働で行ったグローバルサーベイ(世界各国比較の取り組み)や調査結果をもとに、今後の日本の転職動向について解説した。
>>>前編「転職市場は活発化。求職者の引き付けるためには役立つ情報発信と学びの支援が必須」
後編では、AIを活用した採用DXの取り組み事例について、株式会社リクルート 特任研究員の高田悠矢氏による発表「健全な雇用流動化 と リスキリング再考」の内容を紹介する。
健全化しつつある日本の転職市場
高田氏ははじめに、2023年2月15日に総理大臣官邸で開催された「新しい資本主義実現会議」の概要を紹介。主な議題は「リスキリング」「労働移動」「構造的な賃上げの方向性」であり、特に注目すべき発言内容を抜粋した。
- 賃上げは、新しい資本主義の最重要課題
- 構造的な賃上げを実現し、同じ職務であるにもかかわらず、日本企業と海外企業の間に存在する賃金格差の解消を目指す
- 『キャリアは会社から与えられるもの』から『一人ひとりが自らのキャリアを選択する』時代へ
- 個人の自律的なキャリア形成を促すため、国の学び直し支援策については個人への直接支援を中心に見直す。また、海外と同様に在職期間中のリスキリングの習慣の形成を図る
その上でリクルート独自の調査を基に、現時点での課題を提示した。転職時の賃金変動状況を見ると、10%以上増加したと回答した人の割合が諸外国の中でも最下位であることが分かる。
高田氏は「賃金を上げることだけが転職の目的と言いたいわけではない。しかし、例えばパートナーの都合で東京から大阪へ引っ越すので転職したいという場合、現状としては賃金が下がってしまうことが多い。このように『賃金ダウン』というコストを払わなければいけないのは本来おかしいのではないかという意味で“不健全”という言葉をあえて使っている」と補足した。
また、こうした状況を見るにつけ、日本では転職がキャリアアップの手段になっていないと指摘。転職時に役職が上がった割合を見ても、日本の水準は著しく低いことが分かる。
このように諸外国との比較の中で見るといまだ課題は多いが、一方で日本国内の過去と現在を比べると、右肩上がりで改善が進んでいることも事実だ。高田氏は、「転職時の賃金変動指標は9四半期連続で過去最高値を更新しており、リーマンショック直前の好況時と比べ、異次元の水準となっている」と評価した。
リスキリングの実行度に遅れ
健全な雇用流動化に対応するための取り組みとして、日本でもリスキリングへの注目が高まっている。仕事をしていく上で「学び」や「リスキリング」の必要があると考えている人の割合は日本が70.9%であり、アメリカの69.6%と同水準であることが分かった。ただし、実行においては明確な差が生まれ、週に3時間以上の学びやリスキリングに取り組んでいる人の割合はアメリカが52.8%なのに比べ、半分以下の24.7%に留まった。
高田氏は、「リスキリングの実行と転職時の賃金変動にはおおむね相関があることからも、健全な雇用流動化が進んでいく未来には当然ながらリスキリングの取り組みが要求される、あるいは学びやリスキリングを実現して初めて健全な雇用流動化が実現するのではないか」と考察する。
では、どうして日本では学びやリスキリングを実行できないのか。一番の要因は、現在の業務との両立が難しく、時間が取れないことにあるという。そもそも日本は現在の業務のために学ぶという人が多く、実際にリスキリングを行っている層においても、転職を見据えたものにはなっていない場合が多いことが明らかになった。
「キャリア自律」をいかに高めるか
高田氏はこれらの背景にある「キャリア自律(変化する環境において自らのキャリア構築と学習を主体的かつ継続的に取り組むこと)」に対するスタンスの違いを掘り下げる。自分にとってキャリア自律は重要なことだと思うかとの問いに対しては、日本とアメリカで特に顕著な差が見られた。
それに伴い、キャリア自律できている割合の差も日本が26.6%、アメリカが78.0%と、さらに大きな開きがある。当然ながらキャリア自律の高さも転職時の賃金増と相関があり、健全な雇用流動化において必要な要素であろうことがうかがえる。
また、キャリア自律ができているとの回答を掘り下げてみても、キャリアプランの明確化・目標設定や労働市場の変化に対する情報収集といったコアな部分は低い傾向にあることから、日本の“自律者”はまだ視野が狭い可能性があると辛口な評価を述べた。
一方で、新たな挑戦に対する家族・親戚からの後押しに差があることに触れ、本人の意識面という内的要因だけではなく、外的要因もキャリア自律の低さに影響を及ぼしているのではないかと補足した。
雇用流動化の波に乗るために
高田氏は結びとして「現在の業務に過剰適合したような状態での近視眼的なリスキングではなく、キャリアを自らの責任でデザインしていくという適切なモチベーションのもとでのリスキリングが望ましい」としながら、「新たなキャリアに挑戦する人を周囲の人が心から応援している未来を築けるよう、市場の変化や求められる価値観を周知していきたい」と主張した。
※記事内の画像は発表資料より抜粋
参考:【セミナー動画配信のお知らせ】“働く”のこれから 企業と個人の変化と2024年以降の展望(株式会社リクルート)
関連記事:
・リクルートHRセミナー|第1回・企業調査からひも解く“日本型雇用の変化”・前編 人材流動化時代に選ばれる企業へ。カギは「Closed to Open」
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