リクルートワークス研究所「ワークス採用見通し25年卒」
引き続き高い採用意欲。新しいインターンシップ制度の実施はこれから本格化か
2023.12.26
リクルート(東京・千代田)内の、人と組織に関する研究機関 ・ リクルートワークス研究所が12月20日、民間企業における2025年卒の新卒者を対象とした採用見通しに関する調査結果を発表した。調査対象は従業員規模5人以上の全国の民間企業7,750社で、期間は2023年10月2日〜11月9日。回収率は55.6%だった。
同日、リクルートワークス研究所によるメディア発表会も開かれた。同研究員/アナリストの中村星斗氏は今調査の特徴として、中小企業も含む幅広い民間企業を対象としているため採用・就職活動の全体像が把握できること、毎年同じ企業に調査を依頼することで前年との比較ができることを挙げた。
2025年卒者の新卒採用見通し(大学生・大学院生)
2025年卒の採用見通しも「増える」が「減る」を上回る
- 2025年卒の大学生・大学院生を対象とした新卒採用見通しは、「増える」(15.6%)が「減る」(4.8%)を上回った(+10.8%ポイント)。2024年卒は「増える-減る」のポイントが+11.9%ポイントであったため、前年から1.1%ポイントのマイナスとなった。
- 2025年卒の採用見通しは、「増える」が2024年卒の15.5%から15.6%へ0.1%ポイント微増した。また、「減る」は2024年卒の3.6%から4.8%へ1.2%ポイント増加した。「変わらない」は2024年卒の46.7%から47.7%へ1.0%ポイント増加した。
- 「分からない」が2024年卒の22.6%から21.8%へ0.8%ポイント減少し、採用人数の方針が明確化した企業が増加した。また、「以前も今後も採用しない」は10.1%で、2024年卒の11.7%から1.6%ポイント減少となった。
従業員規模別:全体的に採用意欲が高い状況
- 従業員規模別に見ると、全ての従業員規模で「増える」が「減る」を上回った。
- 「増える-減る」のポイントが最も大きい従業員規模は5,000人以上企業(+18.0%ポイント)であった。一方、ポイントが最も小さい従業員規模は5~99人企業(+1.7%ポイント)であった。
- 「増える-減る」のポイントは1,000人以上企業が+16.3%ポイント、1,000人未満企業が+9.0%ポイントであり、従業員規模が大きいほど採用意欲が高い結果となっている。これは、おおむね2024年卒の傾向と同様である。
- 5~99人企業以外の従業員規模では「増える-減る」のポイントが10%ポイントを超えており、全体的に採用意欲が高いことが分かる。
業種別:全ての業種で採用意欲が高い状況
▼業種5区分の内訳
- 業種別に見ると、大分類と中分類ともに、全ての業種で「増える」が「減る」を上回った。
- 大分類で見ると、2024年卒の採用見通しとの比較では、製造業と流通業では「増える-減る」のポイントが増加。建設業、金融業、サービス・情報業では「増える-減る」のポイントが減少した。しかしながら、いずれも「増える」企業の割合が高いことは前年と同様の状況であり、採用意欲が高い結果となっている。
- 中分類で見ると、「増える」が「減る」を大きく上回ったのは、機械器具製造業(+15.5%ポイント)、情報通信業(+14.8%ポイント)、飲食店・宿泊業(+14.4%ポイント)、小売業(+14.2%ポイント)であった。この傾向は2024年卒の採用見通しと大きく変わらない(*)。
(*)リクルートワークス研究所「ワークス採用見通し調査(新卒:2024年卒)」
2025年卒者の新卒採用見通し(高校生)
高校生の新卒採用においても、「増える」が「減る」を上回る
- 2025年卒の高校生を対象とした新卒採用見通しは、前年に続き「増える」(8.6%)が「減る」(3.2%)を上回った(+5.4%ポイント)。「増える-減る」のポイントは、2024年卒の+5.9%ポイントから+5.4%ポイントへ、0.5%ポイント微減した。
- 2025年卒の採用見通しは「増える」が2024年卒の8.2%から8.6%へ0.4%ポイント微増した。また、「減る」は2024年卒の2.3%から3.2%へ0.9%ポイント増加した。
- 「分からない」は19.5%で、2024年卒(20.6%)から1.1%ポイント減少している。また、この値はコロナ禍前の2021年卒の採用見通し(19.4%)と同水準であり(10ページ 図表9)、採用人数の方針が明確化した企業が増加している。
従業員規模別:特に大手企業で、「増える-減る」のポイントが高い
- 従業員規模別に見ると、全ての従業員規模において「増える」が「減る」を上回った。
- 従業員規模が大きいほど採用意欲が高く、特に5,000人以上企業では+10.1%ポイントであった(2024年卒の採用見通しでは、+10%ポイントを超える従業員規模はなかった)(*)。
- 2024年卒と比較して、「増える-減る」のポイントは1,000人未満の各従業員規模で横ばいから減少傾向に、1,000人以上の各従業員規模では横ばいから増加傾向となった。大手企業ほど、高校生に対する採用意欲が増加している(*)。
(*)リクルートワークス研究所「ワークス採用見通し調査(新卒:2024年卒)」
業種別:飲食店・宿泊業での採用意欲の増加が顕著
- 業種別で見ると、大分類については、全ての業種で「増える」が「減る」を上回った。製造業については、2024年卒の採用見通しの+9.8%ポイントに比べて2025年卒の採用見通しでは+8.0%ポイントと1.8%ポイント減少したものの、採用意欲が高い傾向は2024年卒の採用見通しと同様である。流通業では+4.0%ポイントから+6.2%ポイントへ2.2%ポイント増加、金融業では+3.1%ポイントから+3.3%ポイントへ微増した。
- 中分類で見ると、「増える」が「減る」を大きく上回ったのは、飲食店・宿泊業(+15.2%ポイント)、機械器具製造業(+8.8%ポイント)、小売業(+8.2%ポイント)、製造業(機械以外)(+7.5%ポイント)であった。これら4つの業種は「以前も今後も採用しない」と回答している企業の割合が他の業種に比べて低めであり、高校生採用を積極的に実施している。
新卒採用見通しの前年比較の推移
「増える-減る」のポイントは減少したものの採用意欲は引き続き高い傾向
- 大学生・大学院生の新卒採用見通しにおいて、「増える-減る」のポイントは+10.8%ポイントとなり、前年に比べて1.1%ポイント減となった。2022年卒はコロナ禍のため、10年間続いた採用数増加傾向がマイナスに転じたが、2023年卒でプラスになり、2024年卒でさらに上昇した。2025年卒では2023年卒以降の上昇が落ち着いた形ではあるが、「増える」の割合は15.6%でコロナ禍前のピークである2019年卒の採用見通しの15.8%に近い水準であり(10ページ 図表8)、採用意欲が高い傾向が続いている。
- 大学生・大学院生の新卒採用見通しにおいて、「分からない」と回答した企業は2024年卒の22.6%から21.8%へ、-0.8%ポイントと減少した(10ページ 図表8)。コロナ禍の影響のため採用人数の見通しが不明確であった2022年卒の26.1%から、年々割合が減少している。徐々に2018年卒~2021年卒頃の水準に近づいてきており、さまざまな不確実性を脱し、採用計画を明確にする企業が増えている状況と考えられる。
- 高校生の新卒採用見通しにおいても大学生・大学院生と同様、「増える-減る」のポイントは低下したが、「増える」が「減る」を上回っており、採用意欲は高い状況である。2022年卒は2014年卒以来、8年ぶりに「増える」が「減る」を下回ったが、2023年卒と2024年卒で「増える-減る」のポイントが上昇した。2025年卒では+5.4%ポイントと前年に比べて微減となった。
(注)「増える」「減る」については前年の採用数との比較となるため、過去のどの時点の採用予定数と同水準か、といった比較や、採用人数の水準そのものの比較ではないことに注意。
2024年卒採用の10月1日時点 充足率(大学生・大学院生)
過去11年間で最も低い充足率
- 2024年卒の新卒採用の10月1日時点での充足率(=2023年10月1日時点の内定数÷2023年4月時点の採用予定数)は74.7%となり、比較可能な2014年卒以降、11年間で最も低い水準となった。
- 従業員規模別に見ると、充足率は5,000人以上企業が90.3%、1,000~4,999人企業が93.5%、300~999人企業が80.8%、5~299人企業が60.0%であり、1,000~4,999人企業を除く全ての従業員規模で充足率が減少した。規模の大きい企業ほど計画通りの採用を行うという傾向は前年と同様だが、例年に比べて5,000人以上企業の充足率が低い結果となった。
- 業種別に見ると、建設業が49.1%と最も低く、2023年卒の67.0%から17.9%ポイント減少した。2022年卒の54.2%とおおむね同水準(*)であり、計画通りに採用が進んでいない状況とみられる。一方、金融業は63.7%から72.9%と9.2%ポイント増加した。その他では、製造業で83.5%から78.7%と-4.8%ポイント、サービス・情報業では80.8%から77.7%と-3.1%ポイントとなった。流通業はおおむね2023年卒と同水準であった。
(*)リクルートワークス研究所「ワークス採用見通し調査(新卒:2024年卒)」に掲載
汎用的能力・専門活用型インターンシップ(タイプ3)の実施状況(大学生・大学院生)
汎用的能力・専門活用型インターンシップ(タイプ3)とは
2022年6月、「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省合意)が改正され、インターンシップをはじめとするキャリア形成支援にかかわる取り組みが4つに類型化された。
そのうち、タイプ3とタイプ4が「インターンシップ」に分類され、それぞれ「汎用的能力・専門活用形インターンシップ」「高度専門型インターンシップ」と称されている。
▼キャリア形成支援に係る取り組みの4類型
全体では3割弱の企業がタイプ3インターンシップを実施済・実施予定
- キャリア形成支援活動のうち、汎用的能力・専門活用型インターンシップ(タイプ3)(*)の実施状況について尋ねた。
- 全体では「実施済・実施予定」が27.6%であり、3割弱の企業がタイプ3インターンシップの実施見込みであることが分かった。
- 業種別に見ると、大分類では「実施済・実施予定」は建設業(37.5%)と製造業(33.7%)で高い結果となった。また、中分類で「実施済・実施予定」が高いのは機械器具製造業(44.1%)、建設業(37.5%)、小売業(34.2%)、情報通信業(33.3%)であった。「実施済・実施予定」が最も低いのは運輸業(12.8%)であった。
- 従業員規模別に見ると、「実施済・実施予定」は5~299人企業で17.7%、300~999人企業で32.0%、1,000~4,999人企業で39.3%、5,000人以上企業で53.5%となっており、従業員規模が大きいほど「実施済・実施予定」が高く、「実施しない」は従業員規模が大きいほど低い結果となった。
(*)就業体験を含む実施期間5日間以上などの条件で、取得した学生情報を採用活動に活用可能な形態のインターンシップ
汎用的能力・専門活用型インターンシップ(タイプ3)の実施目的(大学生・大学院生)
大手企業ほど理解促進を、中小企業ほど専門人材へのアプローチを目的にしている
- キャリア形成支援活動のうち、汎用的能力・専門活用型インターンシップ(タイプ3)の実施目的について単一回答で尋ねた。
- 全体では「学生の企業・仕事理解の促進」が65.8%と最も高く、次いで「専門人材への早期アプローチ」が21.0%、「学生のスキル・適性の見極め」が9.3%、「実施競合への対応」が2.2%であった。企業側の目的としては、自社や仕事について知ってもらうためのインターンシップとなっているようである。
- 業種別に見ると、製造業では「学生のスキル・適性の見極め」が10.5%、「専門人材への早期アプローチ」が26.1%と他の業種より高い。また、流通業では「学生の企業・仕事理解の促進」が77.8%と他の業種より高い結果となった。なお、この選択肢に対する回答率は最も低い製造業でも60.5%となっており、全体的に「学生の企業・仕事理解の促進」が主要な目的になっている。
- 従業員規模別に見ると、「学生の企業・仕事理解の促進」は、5~299人企業で61.9%、300~999人企業で64.8%、1,000~4,999人企業で69.7%、5,000人以上企業で70.7%となっており、大手企業ほどこの目的でタイプ3にあたるインターンシップを実施する割合が高い。また、「専門人材への早期アプローチ」については、5~299人企業で22.3%、300~999人企業で23.8%、1,000~4,999人企業で18.3%、5,000人以上企業で15.5%となっており、中小企業の方がこの目的でタイプ3にあたるインターンシップを実施する割合が高い傾向が見られた。
質疑応答
調査結果発表後、会場とオンライン参加者から質問が寄せられた。
2024年卒採用の充足率(10月1日時点)が5,000人以上企業で例年に比べて低い結果となった背景について聞かれた中村氏は、「5,000人以上の大手企業では求人数が増えている反面、求職者数が低下している。別の調査になるが、例えば2024年卒の大卒求人倍率を参照すると、5,000人以上の企業への求職者数が前年比から4.5%減少している一方で1,000~4,999人規模の企業では5.7%増加している。このことから、前年に比べて学生の希望が分散する動きが出てきたと考えられる」と回答した。
参照:第40回 ワークス大卒求人倍率調査(2024年卒)【大卒求人倍率1.71倍】コロナ前水準へ 中小の採用意欲も回復
しかし、全体で見ると5,000人以上企業の充足率はいまだ90.3%あり、一概に「大手志向が薄れてきた」とは言い切れないこと、今後も調査と分析が必要である旨を強調した。
※記事内の画像は発表資料より抜粋
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