リクルートHRセミナー|第1回・企業調査からひも解く”日本型雇用の変化”・前編
人材流動化時代に選ばれる企業へ。カギは「Closed to Open」
2023.12.25

株式会社リクルート(東京・千代田)は、11月24日、「“働く”のこれから 企業と個人の変化と2024年以降の展望」をテーマにセミナーを開催。第1回の今回は、同社研究員の津田郁氏と水野理哉氏が登壇し、「人材流動化時代」における企業の雇用のあり方についての調査結果や企業の取り組みを解説した。
労働力人口が減少する中、そして働く人の価値観が多様化する中、企業が持続的な成長をするためには何が必要か? この「人材流動化時代」において、企業と働く人の幸せを実現する雇用の在り方とは? 調査結果に基づく分析、解説と、ゲスト企業によるパネルディスカッションで考察した本セミナー。
前編では、調査分析解説部分、「人材流動化時代」に選ばれる企業の特徴とClosed to Openの考え方、生産性向上のためのエンゲージメント向上の鍵について紹介する。
調査結果に見る労働市場の変化
津田氏はまず、データから企業が置かれている状況を整理する。
先進諸国の主に2010年代の経済成長率の伸びを比較すると、日本の経済成長率は労働参加率によるところが大きく、労働生産性による企業の成長率は国際的に見て低い。すでに労働参加率が各年代で高い水準にある現在、今後の経済成長においては労働生産性を高めていくことが企業に必須の命題である。
労働市場の現状はどうか。
2013年頃から、日本ではビジネスの状況に対する人手不足感が強くなり、そのギャップは急速に拡大していることから、日本の労働市場は構造的な人手不足が常態化している。
さらに転職市場の状況を見ると、求人数はコロナ禍の1年目、2020年度に一時落ち込んだもののすぐに回復し、現在ではコロナ禍前の約2倍の水準まで増えている。また、転職によって年収が1割以上増加した人の割合は、観測を始めてから最高水準を更新しているという。働く人にとって、転職市場で得られる機会は増えている。
最後に働く人の価値観として、若手社員の方を対象にした調査を紹介。
「今の会社で定年までずっと働きたい」と考えているのは全体の2割程度、割合が約30%と最も多いのは「2、3年働き続けたい」という回答であった。また、学生を対象に「企業独自の特殊な能力」か「どこの会社に行ってもある程度通用する汎用的な能力」のどちらを身に付けたいか問う調査では、約8割が「どこの会社に行ってもある程度通用するような能力」を志向している。
これらの調査結果から、津田氏は労働市場に起きている変化を以下のようにまとめた。
- 構造的な人手不足を背景に、労働市場における選択権が企業から個人側に移ってきている
- 転職市場が過熱し、働く人にとって機会や選択肢が増えている
- 働く人の価値観としてキャリアオーナーシップが前提になっていく
津田氏は、このような人材流動化時代において、これからの企業の一つの課題は「どのように働く人から選ばれるようになっていくか」ということであり、そのためには従来の雇用のアップデートが必要なのではないか、というテーマを提示する。
選ばれる企業になるための方向性「Closed to Open」
一つの方向性として、津田氏は「Closed to Open」という考え方を提示する。
内向きであった人事制度や雇用慣行を開いていく、人材のまだ使われていないポテンシャルを開放していくという考え方である。人事制度の制度ややり方を内向きから外向きに開いていく人事改革が必要であるとする。
企業の人事担当者約5000人を対象に人事管理や人材活用の実態について調査したところ、現在の人事課題について、「次世代リーダーの育成」や「従業員モチベーション」、「管理職のマネジメントスキル」に続いて、「中途採用キャリア採用の強化」が4位となり、以前では見られない高水準となった。この結果から津田氏は、人手不足もあり、外部から人材を獲得するという課題が重要度を増していることが見て取れるとする。
一方、実際に企業の人事制度や雇用慣行を変える必要性を感じているかという実態調査では、企業の60%以上は必要を感じているが、それに「適応できている」と答えた企業は約4割、「できていない」と答えた企業が約36%であった。また、「適応できている」と答えた企業と「できていない」と答えた企業の組織成果の傾向を比較したところ、制度改革に積極的である企業の方が明確に労働生産性が増加したと回答した割合や従業員エンゲージメントの平均スコアが高いことを紹介。その分析から見えてきたのが、「Closed to Open」という方向性だという。
選ばれる企業になるための4つのポイント
津田氏は、「外から選ばれる」ための取り組みと「中から選ばれる」ための取り組み、そしてそのそれぞれについて人事制度や雇用慣行のようなシステムを開く取り組み、働く人に注目をしてポテンシャルや強みを見出して開く取り組み、という4つのポイントを紹介する。
ポイント1:「外から選ばれる」外部労働市場の接続
転職市場を代表的とする外部労働市場に制度やシステムを開くこと。
制度改革に積極的な企業は、外部市場の人材の市場価値をモニタリングし、それに応じて定期的に賃金など報酬を見直し、さらに賃金の納得度を社員に確認しているという。従来の内部公平性のみでなく、外の状況を把握してシステムを開いたり変更したりしており、中にいる既存の従業員が納得して仕事に取り組めるためにも良い取り組みとなる。
ポイント2:「外から選ばれる」多様な人材、働き方の選択肢
制度改革に積極的な企業は多様な人材を受け入れ、場合によっては必要な人材に応じて内部のシステムを適応させており、さまざまなキャリアパスで処遇しているという。働き手のキャリアや生活に適応し、多様な人材を受け入れ活躍させている。
ポイント3:「中から選ばれる」積極的な情報開示
例えば評価の場合、人材評価の考え方や基準をあいまいにせず、社員に公表し、フラットにパフォーマンスを評価して納得感を確認する。そしてその評価結果を活用して次の成長目標やチャレンジにつなげる取り組みを実施している割合が高いという。働く人も仕事においてその基準を満たすようなパフォーマンスをするようになる人材活用のやり方が現在は進んできている。
ポイント4:「中から選ばれる」個の尊重と機会の提供
個々の主体性を尊重し、個人主導のキャリア開発に切り替えていくこと。働く人それぞれに自発的な行動を促す。一人一人のキャリアや生活について、希望や違いを尊重し、自律的、主体的な行動を支援する。またそれに応じて社内外の成長機会を提供する取り組みも見られるという。
働く人のエネルギーを開放するエンゲージメント向上のカギ
続いて水野氏が登壇し、エンゲージメント向上のカギについて、人事担当者に聞いた人材マネジメントに関する調査と働く個人に聞いたキャリア事実に関する調査の2つの調査を元に解説した。
従業員エンゲージメントにおいても、Closed to Openの考え方が重要になるという。
調査によると、エンゲージメントを高く持って働いていると回答した人は2割から4割であった。ただし、この数値は質問の問いかけ方や年代、性別などの属性によっても変わる。そのため、一つの数字を追うよりは細かく属性別に分析することで組織のエンゲージメントの課題が見えてくるのではないかと水野氏は指摘する。
エンゲージメントという要素と会社、組織、職場の要素の相関を分析したところ、以下の4項目で相関が高いという。
- 主体的に考えることが促進されている職場かどうか
- 社内外のネットワークが活性化している職場かどうか
- 新たなトライができる職場かどうか
- 周囲からフィードバックがあり共に学べる職場かどうか
水野氏は、この4つを一言でまとめるとキャリア自律支援そのものであり、一人ひとりの解像度を上げ、新たな機会に解き放って対話をしていくこと、心の内側から湧き上がるような仕事に対するモチベーションや組織とのつながりの実感をエンゲージメントとして捉えていくことが重要だと解説した。
※記事内のスライド資料画像は株式会社リクルートより提供されたものを使用
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