ワークスタイル変革最前線
リコージャパンが進める「コミュニケーション空間変革」とは?
2016.10.28
仕事の課題に徹底的に向き合い、お客様に提供する価値を自ら実践する―。リコー製品の国内での販売、運用・保守を手掛けるのはもちろん、高品質なビジネスサービスや高度ソリューションの提供にも力を入れているリコージャパン。同社が進める 「コミュニケーション空間変革」の取り組みについて取材した。【トップ写真:コーポレート本部コーポレートコミュニケーション部の立石信吾部長(右)と、MA事業本部マーケティングセンター プロセス革新部 プロモーショングループの光永布美子さん】
社員の声を改革に結びつける
販売部門、サービス部門、システム開発部門、業務部門を統合した新生リコージャパンが設立されたのは2014年7月のこと。これにより、およそ1400人が東京都港区の田町事業所へ移転することとなった。
「クリアデスク」を徹底しているため、いつでも柔軟なレイアウト変更ができるオフィス。フリーアドレスだが座席は100%確保されている。
「移転にあたっては“お客様に提供する価値を自ら実践する”、“仕事・課題を基軸に知恵を出し合う”などのほか、グローバル化やワークライフバランスの実現などにつながる5つのコンセプトを掲げました。せっかくの機会なので、単なる移転ではなく、“コミュニケーション空間変革”として位置付けたのです」
そう話すのは、MA事業本部マーケティングセンター プロセス革新部 プロモーショングループの栗原渉さん。都合によりテレビ会議システムで取材に答えてくれたが、社内を案内してくれた同グループに所属する光永布美子さんによると「このような打ち合わせは日常的」だという。
大手企業や官公庁を担当する「MA事業本部」は2011年から「ワークスタイル変革」を掲げ、直行直帰スタイル、フリーアドレスオフィスなどに取り組んでいた。このころの座席数は社員全体の70%、席幅は80㎝/人。外回りの多い営業職のオフィス在席率などから想定した数値であったが、社員にアンケートを取ると、不満のある人が約半数にのぼる、という結果になった。その理由は「座る席がないときがある」、「打ち合わせスペースが足りない」などだった。
フロアの両端に設置したコピーコーナー。消耗品の在庫確認や廃棄文書の管理なども一元的に行える。
そのため田町事業所では、現在、フリーアドレスは継続しつつも100%の座席数は確保し、席幅も100cm/人に拡大。一人当たりの占有スペースを広げるために、取り組んだことの一つが、OA機器の最適配置だった。
振り返ってみれば10数年以上前は部署ごとに選定した機種が多数設置されていた。これを設置場所の集約による最適配置を行った。さらに使用状況を調査したところ、紙のサイズではA4 が約9割であることが判明した。そのため田町事業所に移転する際には、A4機も取り混ぜて配置した。例えば1フロアの両端に、A3機を配置したコピーコーナーを2カ所設け、中央部にはA4機を置くというレイアウトに変更。田町事業所の9階から13階まで、どこからでも出力可能な環境(ロケーションフリー印刷)を整えた。その結果現在は約2割程度の台数での運用が可能となった。
ストックが無いカタログや、急に必要になったパンフレットなどは、社内のオンデマンド印刷機でタイムリーに出力が可能。その都度、印刷すればよいので、過剰在庫をかかえることがない。
このような取り組みにより、執務スペースの拡大と、OA機器導入コストの削減などで効果をあげた。さらに印刷物のセキュリティを管理するため、ICカードをかざさなければ出力できない仕組みとし、取り違えによる紛失や置忘れによる情報漏洩を防止している。このICカードは社内の入室管理にも使われている。
会議準備の時間も削減
プロジェクトチームが占有して使えるフォーメーションエリア。
前事業所で不満のあった打ち合わせスペースの不足については、まずプロジェクトチームが占有できる空間を「フォーメーションエリア」として設けた。これにより、いちいち会議室を確保しなくても、スピーディーなミーティングが可能になった。空室時は他の社員も利用できる柔軟性を持たせるため、オープンな空間になっているのも特徴だ。
「インタラクティブ・ホワイト・ボード(電子ホワイトボード)」と、持ち運びできるテレビ会議用の「ユニファイド・コミュニケーション・システム」で、スピーディーに遠隔会議ができる。
また会議室での打ち合わせでは投影機器をその都度、持ち込んでいたが、プロジェクターの貸し出し手続きなどに時間と手間がかかっていた。そのため新オフィスでは全会議室にプロジェクターか、インタラクティブ・ホワイト・ボード(電子ホワイトボード、IWB)を設置。これによって会議の準備時間をトータルで45分も削減することができた。時給単価日本企業平均賃金で試算すると、月に約740万円のコストカットにつながったのは大きい。
さらにタイムロスを避けるため、テレビ会議においても持ち運びが容易で、簡単に設置できるユニファイド・コミュニケーション・システム(UCS)を導入。IWBに表示・手書きした内容は複数台でリアルタイムに情報共有できるため、UCSとIWBの組み合わせでどの会議室でもすぐにテレビ会議を始められるようになった。
フリーアドレスで困るのが「人事考課表を作りたい」といった悩み。そのようなときは、仕切りがされた「集中ブース」を利用できる。一人で集中したいときにも。
またグローバル化に対応するため、海外とのテレコン(電話会議)がスムーズにできる環境も常設。会議室の予約システムも刷新し、空予約や長時間利用を抑制して予約が取りにくい状況も改善した。
啓発事項をどう周知・徹底するか
営業職は都内に数カ所あるサテライトオフィスを活用し、直行直帰のワークスタイルが可能となっている。一方で課題として浮き上がってきたのが、個々が所有する名刺の管理と、啓発事項の周知だ。
オフィス内の表示はピクトサインと英語で行い、グローバル化に対応している。
名刺については電子化することで持ち歩きを不要にし、組織的な活用も可能とした。また、同社は「クリアデスク・クリアスクリーン」のスローガンのもと、外出や帰宅時には机の上に何も置かない、などの取り組みでセキュリティの強化につなげている。このような周知したい事項については、オフィス内に設置した「デジタルサイネージ」(液晶ディスプレイなどの映像表示装置)に表示。一方でデジタルサイネージは、必ずしも全社員の目に止まっていないことから、現在はPCの立ち上げ時、画面上にポップアップで表示することも併用して行っている。
さらにセキュリティ管理やお客様との対応などで遵守すべきことについて設問に回答する「CSR-Week セルフチェック」を毎月1回、全社員を対象に実施。重要なポイントの周知、徹底を確実なものにしている。
ライブオフィスで体感できる
個人ロッカーの高さは約25㎝しかなく、自然と整理整頓が身に付く。この中にノートパソコンやPHSなどを収納して帰宅するため、充電用のAC電源も付いている。扉に開いた穴から、郵便物が入れられる仕組み。
ほかにも業務プロセス改革を常に意識し、業務効率の向上とペーパーレスを実践。書類保管のための共有のキャビネットも減らすなど、オフィス環境の改革は続いている。「ロッカーの一番下は使いにくい」という声があれば、一番下を部門ごとの共有ロッカーに変えるなど、常に社員の意見を聞く姿勢は見習うべき点だろう。
栗原さんによれば、これらの取り組みによって「チーム内でのコミュニケーション改善や、閉鎖的な思考を打ち破るきっかけづくり、時間に縛られない働き方、空間を超えたコミュニケーションの実現、集中できる環境の設置などで効果が表れました」とのこと。「日々、自分たちで課題解決に取組み、お客様には最短でサービスを提供するのが私たちの役目です」という言葉には力強さを感じた。全国で実施されているライブオフィス「ViCreA(ヴィクレア)」で、ワークスタイル変革の様子をぜひ体感してもらいたい。
執筆者紹介
吉岡名保恵(よしおか・なおえ)
和歌山県の地方新聞で記者として勤務した経験を活かし、結婚、子育てを経てフリーライターとして独立。2015年には記者や編集職出身の女性ライターでユニット「Smart Sense」を結成し、仕事の幅を広げている。人の心を読み解く人物インタビューを得意とするが、企業や教育、医療関連の取材も多い。
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