レポートThinkings「2025年卒採用トレンド予測」発表会・後編
重要なのは人的リソースとのかけ合わせ。AIを活用した採用DXの取り組み事例
2023.12.12
Thinkings(東京・中央)は11月29日、テクノロジーの進化による採用環境の変化や「sonar AI」の活用実態、採用担当者と就活生への「採用でのAI活用」に関するアンケート結果を基に、「2025年卒採用トレンド予測」を発表した。メディア向け発表会の前半では、同社CHROの佐藤邦彦氏が採用環境の変遷と2025年卒採用のトレンドキーワードである「採用3.0」の内容について解説した。
>>>前編「新たなトレンドは『採用3.0』。AI活用が欠かせない時代に」
後半では、AIを活用した採用DXの取り組み事例について、実践企業担当者へのインタビューが行われた。ウシオ電機株式会社人事部 人財・組織開発課の千葉嵩大さんが登壇し、「採用でのAI活用」を通して得られた効果について語った。
採用環境の変化を肌で感じ
ウシオ電機株式会社は1964年創立。「光技術」の可能性を開拓し、照明にとどまらず化学エネルギーや熱エネルギーなど、あらゆる分野における活用方法を開発してきた。千葉さんは2020年の入社以降、新卒採用業務を担当。
採用担当者は企業全体でおよそ5名で、新卒と中途にチームが分かれており、千葉さんは新卒採用チームの主力として活躍している。新卒チームでは毎年、約30名ほどを採用しており、内訳は技術系が20~25名、営業管理系が5~10名だという。
自身も同社に新卒で採用された千葉さん。当時は今ほどの売り手市場ではなかったため「とにかくたくさん応募しよう」という気持ちで就職活動に臨んだと振り返る。就職活動は主に求人サイトを通して行った。
「売り手市場」への課題意識
ここから、佐藤氏によるウシオ電機のAIを活用した採用DXの取り組み事例に関するインタビューが行われた。以下、Q&A形式で紹介する。
Q.新卒採用における特徴やこだわりは?
前提として弊社は、採用における企業と学生の立場は対等であると考えている。そのため無意識に高圧的な場になってしまわないようにとの思いから「面接官」という表現を避け、自分たちを「面接員」と呼んでいる。
昨今は売り手市場。選ぶだけではなく、選ばれなければならないという危機感があり、そのためには採用のスタンスを変えなければならないと考えた。結果、現在の特徴につながっていき、実際に従業員の新卒比率は7割に上る。
Q.先進的な採用活動に至った背景は?
採用活動も学生に選ばれる形に変えていかなければならなかった。特に、弊社には地方の学生からも応募があるのだが、対面の面接やグループディスカッションの日程が合わず選考を辞退する例が少なくなかった。こうした機会損失をどうにかできないかとの考えから、AIの活用に至った。
導入において苦労した点は、社内で理解を得ること。新しいことをする際には一定数の反発が予想される。そのため、まずは面接フェーズで限定的にAIを導入し、人の手で行った場合と比べても選考の精度や内定受託率に悪影響が及ばないといったデータが取れた上で、全面的なAIの活用へかじを切ることにした。
AIで業務効率化、対面でしっかりフォロー
具体的な活用方法についても掘り下げられた。
Q.採用活動におけるAIの活用方法は?
対話型AI面接サービスを導入し、選考初期段階において活用している。学生がAIを相手に回答した様子が録画されるため、採用担当者は空いた時間に動画の内容をチェックし合否の判断を行っている。現地での対面面接しか手段がなかったときは地方の学生が辞退してしまうと前述したが、その数が減ったことは一つの導入効果だと感じている。
加えて、従来のような対面での面接では、会議室の確保から始まり、交通費支給や労働時間など従業員のリソースが大幅にかかっていた。AIを活用したことで学生がいつでも好きな場所で面接を受けられるため、そうしたリソースの削減につながった。
ポイントは「選考初期段階」だと考えている。毎年、新卒の採用人数は30名ほどだと話したが、それが初期段階となると相当な数になる。AI面接サービスを導入することで採用担当者の時間が浮いたことが一番のメリットだ。浮いた時間を学生のフォローにあてたり雑談の場を設けたりするなど、重要な対面の機会に割けるようになった。
Q.採用活動におけるテクノロジー活用の数値的な効果は?
内定承諾率が高まっている。いっときは技術系の学生の内定承諾率が20%しかないこともあったが、学生とのコミュニケーションを増やすことで現在は40%台にまで回復している。
次回選考への移行率も向上した。24卒で言うと、最終面接への移行率は90%を超え、選考を辞退する学生がほとんどいなかった。印象も良かったようで、後輩たちにも弊社を紹介していただき、次年の母集団形成にもつながるという好循環が生まれた。現在は母集団を集めるのも大変。来てくれた学生たちに、いかによく思ってもらえるかが大切な時代だと思う。
数値以外の評価―今後の課題も
最後に、今後のAI活用についての話があった。
Q.AIや採用DXなど採用活動の今後について
これからもどんどん採用業務の中でAIを活用していきたい。ただし、気をつけるべき点もある。現在あるAIサービスの多くは、あくまでも過去の実績を基に未来を予測するものが多く、まったく未知のものに関してはどうしても一定の割合で人が介入して判断しなければならない。任せきりにしてはいけないということ。引き続き、新しいテクノロジーを取り入れながら模索していく。
質疑応答
その後、佐藤氏も参加して、会場からも質疑応答が行われた。
採用を辞退する学生はどのような思考でそうした判断に至っているのかという質問に対して佐藤氏は、「売り手市場がここまで来ると内定を取ることのハードルがあまり高くない」と返答。千葉さんもそれに同意しつつ、「学生側も目が肥えてきており、数多くの情報を咀嚼(そしゃく)する力があるため、内定を受けた中から自分にフィットしそうな企業を選んでいるのだと思う」と答えた。
続いて、偏差値などの数値では測れない人間力やカルチャーフィットのような部分はどのように判断しているのかとの質問が。
佐藤氏は「大学の入試状況も激変してきており、昨今はAO入試(※)のパターンも非常に多様化している。そうした前提を踏まえて、学生時代に何を学び、現在どのようなポテンシャルがあるのかをどう測っていくかというのは今後の大きな課題だと思う。AIに限らず、人が面接してもその点が大きな難しさになっている」と話した。
※AO(アドミッション・オフィス=入学管理局)入試とは、詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接などを組み合わせることによって、入学志願者の能力・適性や学修に対する意欲、目的意識などを総合的に判定する入試方法。
千葉さんは、「学生には選考初期の段階で適性検査学力と性格診断を両方受けてもらい、その結果を参考情報として面接で話を引き出すようにしている」と回答した。
最後に、AI活用とのかけ合わせで効果があった施策について聞かれた千葉さんは、AI面接後にフィードバックを実施することだとのべた。
「対面での面接なら、相手の表情や反応を見ながら学生側も手ごたえを感じやすい。しかしAIが相手だとそれができず、どうしても不安になりがちだ。そのため、AI面接が終わったあと『あなたのこういうところが良かったです』『面接時の話し方を工夫すれば、エントリーシートに書いた内容がもっと良く伝わるのではないか』というように、弊社のことだけでなく、その学生自身のことを思ってフィードバックをする。それが思いがけず、その先の辞退を減らすことにつながった」(千葉さん)。
限られた人的リソースを重要な場面で生かし、採用活動を通して魅力ある企業のPRに務める。AIに頼り切るのではなく、そうした目的を持ってうまく活用することがこれからの採用活動において重要であることが示唆された。
※※記事内の人物画像、スライド資料画像はThinkings社より提供を使用
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