2024年新卒採用を専門家が解説|大学生の就活動向と価値観の変化・後編
「蛙化現象」への対策。コミュニケーションの鍵を握るのは企業側のフォローとフィードバック
2023.12.07
リクルートマネジメントソリューションズ(東京・港)が11月20日、インターネット集計をもとに行った「2024年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」の結果を発表した。
メディア向けのオンライン共有会の前半では、同社HRアセスメントソリューション統括部の主任研究員である飯塚彩氏が採用・就職活動の動向、学生の志向や価値観の変化について解説した。
>>>前編「コロナ禍の影響か不確実性を避け、納得感を持った選択を重視」
後半では、同研究員の橋本浩明氏が内定前後に学生側に起こる「蛙化現象」を取り上げながら、採用コミュニケーションをめぐる新たな問題について説明し、これからの採用コミュニケーションのあり方を提示した。
就職活動における「蛙化現象」とは
橋本氏は前半の振り返りとして以下の3点を挙げた。
・安定を求める気持ちが強く、現在のライフスタイルを維持できる働き方を希望
・個の尊重×選択肢に溢れる社会で育ったため、自分に合わない条件や自分で選択できない
こと(配属ガチャ等)に不安を感じる
・転職に関する情報の流通が増え、新卒の就職活動時点から転職が選択肢に入っている
これらのことから、学生の中では「企業と一緒にキャリアを作っていく」よりも「自分に合う条件の企業を自分で選ぶ」という意識が強まっており、ファーストキャリアとして納得できる企業選びを重視していることが考えられると話した。
その上で昨今、就職活動においても用いられることが増えた「蛙化現象」について解説した。
「蛙化現象」とは本来、恋愛において「片思いの相手から行為を向けられることをきっかけに相手に嫌悪感を持ってしまう現象」とされているが、就職活動においては「内定や入社をきっかけに学生のモチベーションが急激に下がるように見える現象」として使われている。
橋本氏は「蛙化現象」が起こる背景として、「本当にこの会社に決めて良いのか」という学生たちの不安があると説明。そうした「最終的決定の難しさ」を感じさせる今日的な要因に、インターネットが普及したことで企業の悪い口コミやほかの就活生の情報にもアクセスしやすくなったことも関係しているのではないかと推測した。
さらに内定前後に学生が感じる不安の内実を具体的な4つに分類【上画像】。いずれも就職活動において「蛙化現象」という言葉が使われるようになる以前から存在しているものだが、近年の社会環境の変化によって不安が生じやすくなったのではないかと話した。
「蛙化現象」にどう対応する?
橋本氏は、内定前後で「本当にこの会社に決めていいのか」という不安が生じることは極めて自然なことだとしながら、この不安をきっかけに学生は企業理解や自己理解を深め、企業は学生の状態を把握し、内定後も含めてフォローすることが重要であると強調した。
続いて、学生が入社予定の企業との接点を望む理由について調査したグラフを紹介。「社風や職場の雰囲気」「仕事内容や進め方」「同期や先輩と上手くやっていけそうか」といった項目が比較的高かったものの、回答率にはばらつきがある。接点を望む理由は学生によってさまざまながら、やはり学生は内定後も入社予定企業との一定の接点を求めているという結論を提示した。
学生が抱く4つの不安と対応策
加えて橋本氏は、先ほど示した4つの不安について、パターンごとの対応策を学生側・企業側に分けて紹介。
不確定要素や条件への不安
「不確定要素や条件への不安」に対して、学生側へはなぜその条件を重視するのか整理すること、企業側へは学生が重視する条件を把握し、ネガティブな内容も含めて情報提供すること(RJP:リアリスティック・ジョブ・プレビュー)、という対応策を提案した。
軸が不明確なことによる不安
「軸が不明確なことによる不安」に対して、学生側へはやりたいこと・ありたい姿・働く上で大切にしたいことを明確にすること、企業側へは対話を通じて学生の自己理解を促進し、自社との合致点を伝えることを推奨した。
内定後に得た情報への不安
「内定後に得た情報への不安」に対して、学生側へは断片的な情報で判断していないか振り返り、追加で情報収集すること、企業側へは学生が不安を感じた点を把握し、追加で情報提供することを勧めた。
企業からの評価に対する不安
「企業からの評価に対する不安」に対して、学生側へは自分の強みや持ち味を再確認し、企業との合致点を振り返ること、企業側へは対話を通じて把握した学生の強みと自社との合致点を伝えることをアドバイスした。
「自己理解」育む取り組みを
橋本氏はこれらをまとめ、学生が自己理解を深めていなければ軸がぶれがちになり企業理解や仕事への理解にもつながりにくいとして、「企業は自己理解が不足している学生を優先的にフォローする必要がある」と強調した。
一方で、学生は単に就職活動の手段として自己理解を深めるのではなく、生涯を通じて納得感を持ったキャリアを築いていくために、さまざまな体験や活動を通して継続的に自分を知る姿勢を身につけることが大切だとのべた。
これからの採用コミュニケーション
橋本氏は不安解消に向けて重要な要素である3つの要素「自己理解の促進」「企業からのフィードバック」「現実主義的な情報開示(RJP)」に関する調査結果を引用。就職活動を経ても、自己理解ができているという旨の回答をした学生は6割程度にとどまることが明らかになった。
また、大学1、2年生時に就職活動の一環でインターンシップや学外のイベントに参加したり、就職活動について他者に相談したり、社会人と話す機会を持った学生は、そうではなかった学生に比べて、より自己理解を深めていることが分かった。
次に、フィードバックを受けた経験と印象についての調査結果が共有された。採用時にフィードバックを受けたことのある学生は約6割で、フィードバックに良い印象を持っているのは約7割に上るそうだ。
橋本氏は、「自分は企業に十分に理解されているという感覚を学生に与えたり、学生の自己理解を促進したりすることにもつながるため、企業は学生の特徴を踏まえた上で、その学生のどのような点が自社に合うと考えたか、入社してから求められそうなことは何かなどを誠実に伝えることをお勧めしたい」と話した。
その上で、人物像のフィードバック、情報提供、働くイメージの提示という3つのステップを意識することが大切だとのべた。
最後に、入社先に納得している学生と納得していない学生とに分けて情報提供の状況について聞いた調査結果を参照し、入社先に納得している学生の方がネガティブな内容を含めた情報開示を受けたと感じていることを示した。
橋本氏は「学生が納得感を持って意思決定をすること、そして入社後のリアリティショックを予防するためにもこうした情報開示が重要だ」としながら、コミュニケーションの鍵を握るのは、企業側のフォローとフィードバックであると強調した。
※記事内の画像は発表資料より抜粋
関連記事:【2024年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査】入社の決め手は「社員・社風」から「仕事内容・勤務地」へシフト
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