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特集

ChatGPT等の生成AIが一般化する社会で必須の人材戦略・人的資本経営の方法論vol.1


【2024年の人的資本開示で必須】生成AIの「働く場」への影響と、全ての企業で必要な今後の人材戦略

2023.11.10

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生成AIが一般化する社会の中で、人材戦略・人的資本経営のをどのように行うべきか考える特集。社会保険労務士でフォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表の松井勇策氏が人的資本経営の中でのAI活用について、開示実務を含んで各論で解説する。

第1回は、生成AIが「働く場」にもたらす影響と、今後の人材戦略について考える。

目次
    1. 生成AIが雇用にもたらすインパクト
    2. 生成AIの導入に求められる経営戦略
    3. 生成AIの導入と人的資本経営
    4. 本特集について

生成AIが雇用にもたらすインパクト

欧米の動きとして「生成AIの影響で、数万人の人員削減を行う」等のニュースがインパクトを持って伝えられています。この背景には、生成AIの普及、特にChatGPTの台頭とそれが引き起こす広範な技術的変革があります。この情勢は雇用にも新しい変化を生み出しつつあります。

特にアメリカでは、人員削減の可能性がある場合はとにかく宣言を行ってから実際の計画に入るということが慣行になっています。日本で働く感覚からすると、「人員削減」という言葉が目立って大きなインパクトを感じますが、そこで言われているのは基本的には、「退職させる」、「首を切る」ということよりは、「雇用の構造が大きく変わり、現状の定義された仕事が入れ替わる」ということの宣言に近いものです。

そして、そういった意味であれば日本でも状況は全く同じであると思います。本特集では、ChatGPTが「働く場」に与える影響と対応を具体的に考えますが、生成AIによって今後、雇用に関するあり方がガラッと変わり、この技術進化の波が経営や人事の手法全体に大きな影響を及ぼすものと考えられます。そして、その対応方法で最も重要になってくるのが、人的資本経営の指標に基づく人材戦略であると言えます。

画像:生成AIの「働く場」への影響と、全ての企業で必要な今後の人材戦略(@人事編集部)

生成AIの導入方法や状況

さまざまな種類の生成AIツールが開発されており、その大きな特徴は、活用方法が非常に多様であることだと思います。例えば、ChatGPTなどのツールでは、質問等への人間のような筋道立った呼応、文章生成などが可能となっており、業務効率化に大きく寄与し得ます。さらに、Microsoftコパイロットのようなツールが登場し、ビジネス文書の作成が一瞬で可能になる可能性が広がっています。

また、社内情報のストックや活用についても、LLMのオプトイン(自社への個別導入)型のモデルが登場しており、企業内の情報活用が劇的に向上することが期待されています。さらに、グラフィック系のクリエイティブコンテンツ作成においても高いレベルのツールが出現し、音楽や映像分野への波及が予想されています。

生成AIの影響と活用の方向性

一部には、生成AIの影響を過小評価する意見も存在しますが、現状のツールの水準を鑑みると、例えばビジネス文書の作成や、企画の案出しなどのビジネスでよくある業務が、数倍~場合によっては数十倍の速度で可能になるような効果は誰でも体感できるものと言え、さまざまな業務の効率化が図れることは間違いないと思います。こうしたツールが積極的に雇用環境で活用される場合の生産性や働き方への影響が極めて大きいことも間違いないのではないでしょうか。そのため、現場での活用方法を熟慮し、適切に取り入れていくことが求められます。

生成AIによって、確かに「働く場」への影響が大きく出ることになりますが、単にリスクだけを見るのではなく、非常に大きな可能性があることを直視すべきです。企業や働く人々は、この技術を活用し、業務効率や生産性の向上を図ることで、新たな価値を創造していくことが期待されています。

画像:生成AIの「働く場」への影響と、全ての企業で必要な今後の人材戦略(@人事編集部)

引用元:スタンフォード大学 THE AI INDEX REPORT 2023 “Measuring trends in Artificial Intelligence” (https://aiindex.stanford.edu/report/)

上記のスタンフォード大学のAIの影響に関する調査レポートによると、アメリカでは2021年から2022年にかけて、全業種で例外なくAI関係のスキル需要が伸びているという調査結果があります。同様の状況が日本でも出てくると思われます。

「もう少し様子を見てからでよいのでは」、「とりあえず多少使って様子を見るという会社からの方針がある」、「今取り組み始めても、情報が氾濫していてよくわからない」といった意見をお持ちの方もいるかもしれません。しかし、私はこの考え方は現状を見るとあまり良いものではなく、少なくとも全く安全なものではないと考えています。

技術の進化によって市場や業界が大きく変化する中で、生成AIの活用を遅らせることで、適切なタイミングでの導入が難しくなることは明らかではないでしょうか。遅れて導入するほど企業が取り組むべき課題や変革が複雑化し、適応が難しくなると思われます。早期に取り組むほど、技術的・組織的ノウハウが構築でき、早いスピードで進む事業環境の変化の中で、大きな効率化や創造性を発揮できる企業になり得るのではないかと思います。

生成AIの導入に求められる経営戦略

画像:生成AIの「働く場」への影響と、全ての企業で必要な今後の人材戦略(@人事編集部)

重要:生成AIを活用するために必要な働く場の変化

見逃せないのが、生成AIの普及と活用により企業の経営戦略や働き方にも大きな変化が必要であることです。まず、生成AIの技術は今後も速いスピードで変化していくと思われ、情報を受け取って浸透させるような経営上の工夫が必要になります。

また、生成AIのツールは、既存のシステム導入のような「ある固定された業務をきっちりと置き換える」という性質は弱く、多様に使えるところに最大の特徴があります。そのため、企業内での育成や情報共有、マネジメントの工夫、異動やリスキリングを含めた組織上の工夫が必要になります。

さらに、労働環境の変化に伴い、労働条件や評価基準の見直しも必要となります。企業は柔軟な働き方を推進し、従業員が新しい技術を活用して働ける環境を整えることが大切です。そして、AIとLLM導入がもたらす企業文化の変化や組織風土の改善についても、実践的なアプローチや成功事例を参考にしながら取り組むべきです。

総じて、生成AIは多くの可能性を秘めていますが、大きな変化を可能にするには雇用環境や働き方を変化させていくことも重要だということです。このような対応を行わない場合、生成AIによる効率の向上などの影響をスムーズには実現していくことが難しくなるのではないかと思われます。

画像:生成AIの「働く場」へのインパクト~制度や体制・育成や人事制度、採用について(@人事編集部)

筆者は人的資本経営や先進的な雇用系の対応についてコンサルティング・対応を行うことを専門とする組織コンサルタント・社労士であり、生成AIが一般化する中で、企業や組織において、今までにない対応が必要なのではないかとの認識に基づいて、AI専門家や技術者、システムインテグレーターの方々との国外事例や先進事例の検討を行ってきました。結果として、生成AIの事業効率性の向上のためには、大きく下記の分野にわたる留意点が必要であると考えています。

  1.  全体計画(経営体制・人材戦略の開示等)
    生成AIは技術導入だけでなく人材戦略・組織戦略とも関わるため、技術情報等の主管部署・組織関係の部署など担当や体制を決め、生成AIの活用の方針を決める必要があります。社会と業界の状況を見定めて随時、決定を行うこと。また、取引先やステークホルダーを含め、人事戦略を開示する方針を決めることも必要です。
  2. 組織の検証(エンゲージメント・ダイバーシティ)
    組織へのインパクトや変化をとらえるために、エンゲージメントの把握やダイバーシティに関する組織制度の検証を行い、生成AIを使うことによる負荷・精神的な疲労や脅威・属性別の影響度などの課題を把握する必要などがあります。
  3. 制度や体制(育成・流動性)
    生成AIに関する育成の体制や人事制度、採用や退職について。生成AIの使用方法や業務改善方法などを習得させる育成、また柔軟な体制変更を可能にする制度やマネジメントの方法論、採用要件や退職に関する影響といった課題を把握をする必要があります。
  4. 労務や人事制度(健康安全・労働慣行・コンプライアンス)
    生成AIを活用することにより業務効率が急激に向上するために生じる体制の変更などに適合した人事制度/労務上の整備の必要があります。また急な組織変動に対するコンプライアンス上の問題点や、反対に一部の人にかえって業務が集中することでの過負荷など、変化する労働状況への対応ができる状態になっているかを確認します。

上記のような内容が生成AIの導入において組織的に求められるものであると考えています。そしてこうした内容は全て、「人的資本経営」を構成する人材戦略で重要になってくる要素と一致しています。生成AI導入の成功は、全体計画の策定から、組織の検証、制度や体制の整備、労務や人事制度の構築まで、各要素が一貫性を持って機能することで実現しますが、こうした人材戦略を立てて実行していくことが人的資本経営の要素となるということです。

これらの要素は相互に関連し、連動する一連の要素であり、全てが連携し、組織全体を通じて一貫した戦略として機能することが求められます。これは、生成AIという新たな技術が組織全体に影響を及ぼし、全体的な経営戦略と人材戦略の見直しを必要とするからです。

こうした全体的な課題について、各企業で組織の課題点をまとめるためのシートを、筆者のWebサイトで配布しています。「生成AI活用 人的資本経営・人材戦略シート」(フォレストコンサルティング経営人事フォーラム)。上記で見たような組織課題が、もう少しブレークダウンしてまとめられた内容になっています。

画像:生成AIの「働く場」への影響と、全ての企業で必要な今後の人材戦略(@人事編集部)

生成AIの導入と人的資本経営

人的資本経営と人材戦略

人的資本経営は2023年10月現在、社会的に話題になっている経営手法です。根本は、現代の変化の速い事業環境に適応するために、企業が人材の有効活用を通じて人材に関する価値を最大化することを指します。

最も重要なのは、企業が経営戦略とつながった人材戦略を構築して実施することです。このための要素として、行政から公開されている人的資本経営のガイドでは、「エンゲージメント・ダイバーシティ・人財育成・流動性・労働慣行・健康安全・コンプライアンス」等に関する事実を把握して戦略を検討することで、人材の確保や能力の最大限の発揮、また従業員の満足度の向上などを実現することが方法論となります。このような方法は、生成AIの活用においてまさに求められるものと一致します。

人的資本経営の形骸化と、AIへの対応で必要になる本質的な人材戦略の必要性

しかしながら現状を見ると、人的資本経営に関してこうした人材戦略に関する理解が確立している状況とは言えないと思われます。人事的な慣行のどれか1つを特に重視して「人的資本経営」と呼ぶケースも見られますし、システムなどを使用した人事業務の行い方を「人的資本経営」と呼ぶケースも見られます。法的義務であるということからも、かえって内容が形骸化して捉えられてしまっている懸念があります。上場企業に人的資本の情報開示が求められていることによる、開示への過度な重点の置き方もさらにその傾向を助長しているのではないかと思われます。

こうした中で、生成AIの導入によって必要になると思われる、働き方や雇用環境の変化への対応には、形骸化した人的資本経営ではなく、現場の実情に基づいた本質的な人的資本経営と、その中核となる人材戦略が必要であると思われます。人的資本経営を真に実践し、組織の戦略と連動させた人材戦略を策定し、運用することが必要です。

本特集について

生成AIの導入には、制度的に柔軟で人の価値を発揮させられ、かつリスクマネジメントもできているような人材戦略が必要であることは間違いありません。そのため、本質的な人的資本経営が生成AI対応するための重要なツールとなるのではないかと思われます。生成AIがもたらす変化を人材戦略に反映させ、その戦略を基に人的資本経営を推進することが重要になります。そうすることで、生成AIの導入による変化に対応しつつ、組織のパフォーマンスを最大限に引き出すことが可能となります。

先に紹介したツールがそのガイドラインを提供するものと思われますが、本特集では、より具体的な内容について紹介し、生成AIが一般化する時代の中で、大きな効率の上昇とより柔軟で人間らしい活躍をもたらせるような企業の経営と人事について考察する一助になれば幸いです。

【vol.2「生成AIの「働く場」へのインパクト」につづく】

※情報は記事公開時点

執筆者紹介

松井勇策(まつい・ゆうさく)(組織コンサルタント・社労士・公認心理師) フォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表、情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議議長・責任者。 最新の法制度に関する、企業の雇用実務への適用やコンサルティングを行っている。人的資本については2020年当時から研究・先行した実務に着手。国際資格も多数保持。ほかIPO上場整備支援、人事制度構築、エンゲージメントサーベイや適性検査等のHRテック商品開発支援等。前職の㈱リクルートにおいて、組織人事コンサルティング・東証一部上場時の上場監査の事業部責任者等を歴任。心理査定や組織調査等の商品を。 著書「現代の人事の最新課題」日本テレビ「スッキリ」雇用問題コメンテーター出演、ほか寄稿多数。 【フォレストコンサルティング経営人事フォーラム】 https://forestconsulting1.jpn.org

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