曽和利光氏 特別寄稿
曽和利光の「性格と採用」|【第2回】挫折経験のある人は根性があるの?
2016.10.21

「挫折経験のあるやつを採れ」とは言うけれど……
昔在籍していた会社で「挫折経験のあるやつを採れ!」と、上司や先輩達から度々言われたものでした。
曰く、「挫折経験のあるやつは根性があってストレスに強い」と。確かに、そういう人を採用したところ、上記の通り活躍した方もたくさんいました。
しかしながら、20年以上新卒や若手の採用を見ていると、「挫折経験者」の評価も時代の変化に応じて変わってきているのではないかと思っています。もっと言えば、挫折経験がマイナスに働くことも出てきたり、挫折経験なくすくすく育ってきた人が強かったりする場合もあるのではないかと思うのです。
挫折経験がハイパフォーマーになるには条件がある
これまで挫折経験者がハイパフォーマーであったというのは、ある程度事実でしょう。
その理由として言われていたのは、挫折経験によるコンプレックス(ここでは劣等感の意)がバネになって、根性やエネルギーが出る。コンプレックスを跳ね返すために、誰かを見返すために頑張る、ということです。
劣等感を跳ね返すために、人に認められる。自分の承認欲求を満たすために頑張る。わかりやすい理屈です。ただ、これには条件があります。やっていることに「勝ちパターン」があるということです。先人が試行錯誤をして、勝ちパターンを見つけてくれていれば、後はわかっている方向に向かってまっしぐらに進むだけです。それは結局、努力や頑張りで成果が決まる。
だから、コンプレックスからエネルギーをもらった人が最後は勝つということです。高度成長期には欧米という追い付け追い越せの対象となる目標がありました。その時代には挫折経験者は強かったのでしょう。
挫折経験者は創造的な仕事には向かない?
しかし、近年の日本での様々な事業においては「勝ちパターン」がまだ見つかっていないフロンティアな仕事が多くなっています。この場合はどうなるでしょうか。
上記の「他者からの承認」のようなものは外発的動機付け(何らかのインセンティブ(エサ)によってやる気を起こさせること)の一種ですが、創造性を高めるために重要なのは内発的動機付け(そのもの自体に対する興味関心などからやる気が生じること)の方であると言われています。つまり、挫折経験者の「やる気」はあまり創造的な仕事には向いていない可能性があります。
さらに、「勝ちパターンが決まっていない」ということは試行錯誤が必要ということであり、そこには必然的にたくさんの失敗が生じるということです。承認欲求をベースに動いている人は、この失敗の連続(つまり未承認の連続)に耐えることができないかもしれません。
一方、以前は「根性のないやつ」と決めつけられることの多かった、「挫折なく、すくすくと育ってきた人」はどうでしょうか。
彼らにとっては、コンプレックスをバネにしたり、他者に認めて欲しいなどと思って仕事をしたりするというよりは、自分の興味関心の赴くままに仕事をすることが自然です。内発的動機付けでやる気を出していることが多いとも言えます。
つまり彼らのようなすくすく育ってきた人は、創造的な仕事に向いている可能性があります。「負けたくない」と思って、面白いアイデアを出せるでしょうか。
「人に認められたい」と思っている人が、何度も失敗を繰り返し、人に見下されることに耐えられるでしょうか。「すくすく」な彼らなら、そんなことも難なくできるかもしれません。これは「強い」「根性がある」と言ってもよいのではないでしょうか。
「強いタイプ」は状況によって変わる
「挫折」と「すくすく」、そのどちらが偉いなどと言うつもりはありません。しかし、今回見てきたように、要は「状況によって、強いタイプは変わるのだ」ということをお伝えしたいです。
一般論で考えるのではなく、自社の仕事の特徴をきちんと考えて、そういう仕事に耐える力のある人が、自社にとっての「根性のある人」なのだと、検討していただければと思います。
執筆者紹介

曽和利光(そわ・としみつ)(株式会社人材研究所 代表取締役社長) 京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や上智大学非常勤講師も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立(http://jinzai-kenkyusho.co.jp/)。
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