ワークスタイル変革最前線
メールや会議をチャットに集約。人間らしい働き方を手助けする「ChatWork」
2016.10.19
ワークライフバランスや多様な働き方を実現させるために、業務効率の改善は欠かせない。多くの企業がさまざまな施策を導入している中で、メールや会議の無駄をなくす新しいコミュニケーションツールとして注目されているのが「チャットワーク」だ。その名の通り、「チャット」で仕事のやりとりができるサービスで、11万3000社以上で導入されている(2016年9月末時点)。
LINEやFacebookメッセンジャーのビジネス版だとイメージしてもらえれば分かりやすいだろう。個人向けのアプリケーションにはない特徴のひとつが、「ビジネスプラン」、「エンタープライズプラン」についている「管理者機能」だ。使用できる端末を会社のPC、スマートフォンのみに制限するなど、管理者がチャットワークを使用できる範囲を自由に設定できる。また、個人向けアプリを業務で使用すると、公私の区別をつけづらかったり、社員が退職した後の情報管理などが難しくなったりするが、チャットワークであれば、退職した社員のアカウントを管理者が削除することで、コンプライアンス上の問題も解決できる。
もう1つの特徴が「タスク管理機能」だ。チャットはどんどんやりとりが流れていくため、「○日までに資料作成をお願い」といったやりとりがあった場合、忘れないようにチャット内でタスク化し、期限を設定して進捗を管理することができる。
伝言用の付箋がなくなり、効率アップ
ChatWork株式会社専務取締役の山本正喜氏
開発者であるChatWork株式会社の専務取締役、山本正喜氏が推奨する使い方は、プロジェクトごとや部署、組織単位など小さなグループを作って目的ごとに分けて使うことだ。
「たとえば、オフィスのレイアウトを話し合うグループや、雑談、趣味、部活動というグループを作っている会社もあります。社員が何十人もいる会社だと全員が入っているグループがあっても話しづらいので、グループを小分けにして話す内容を明確にすることで、コミュニケーションが活性化するんです」と山本氏。業務効率アップだけでなく、社員同士のコミュニケーション活性ツールとしても役立っている。
チャットワークを導入している企業の多くは、電話やメール、会議などコミュニケーションの洪水に溺れて困っていたという。
奈良県のある建築会社では、取引先回りなどで社員が離席することが多かった。会社に戻ってくると、PCの周りに伝言の書かれた付箋がヒマワリのように貼られている。「その付箋を1つひとつはがしながら、『あぁ、あの件か』と確認していくわけですが、たまに風が吹いて、その付箋が飛んでなくなったりして(笑)。『あの件どうなりました?』と聞かれて『何のこと?』となるようなことが多かったそうです。社内の伝言をすべてチャットワークに集約させたところ、付箋の文化もなくなり、業務がすごく効率化されたとのことでした」(山本氏)
また、進捗共有など、定例のミーティングをチャットワークのやりとりに変えた企業もある。議論が必要な会議だけを残したら、会議の数が格段に減ったという。
「会議をメールに集約させるのは難しいですが、チャットなら可能です。メールとチャットの一番の違いは、インタラクティブ(対話)性にあります。つまり、『ここだけちょっと教えて』『これってどういうこと?』『了解!』というような口頭に近い細かいやりとりがしやすいんです。メールで説明するのが面倒で、結局内線で聞くというようなことがなくなりますし、過去のログが残るので、プロジェクトに新しいメンバーが入った時なども、『このログを見ておいて』と言えば、ある程度の情報がキャッチアップできます」(山本氏)
社内ツールからスタートし、世界中で使われるツールに成長
山本氏がチャットワークの開発を考案したのは、2010年。もともとは現社長である兄と一緒に起業し、中小企業のIT化を支援していた山本氏。当時、社内ではSkype(スカイプ)のチャット機能を頻繁に使用していた。しかし、Skypeは個人向けのアプリケーションであるため、オフラインだと使用できない、検索機能がないなど、ビジネスとして使用するには不便な点が多かった。山本氏はビジネス用のチャットがあれば便利だろうと考えた。
「これは絶対にいける!と興奮して、社内でプレゼンしたら、見事に却下されまして(苦笑)。それでもどうしてもやりたかったので、1人ひとり説得して、社内ツールとしてなら、とようやく許可をもらいました」と山本氏は当時を振り返る。
張り切って開発したものの、社員たちはこれまで使っているSkypeからの置き換えを渋った。そこで、山本氏は既存のSkypeのグループを1つひとつ手動でチャットワークに移し替え、古いグループには「移行済」と付けていった。そうした努力に社員もようやく納得し、チャットワークを使用するようになったという。
操作性を改善しながら、社内で「Skypeよりいいよね」という反応を得られたため、2011年に社外サービスとしてリリースした。しかし、当時は Facebookが流行り始めたソーシャル全盛期。チャットワークは見向きもされなかったという。
「時代がSNSだと言っているときに、『チャットです』って言っても、ちょっと古く思われたんですよね。また、『ビジネスでチャットなの? 遊びでしょ』という反応も多かったですね」(山本氏)
局面が変わったのは、数年後のLINEのヒットだ。多くの人がLINEを利用するようになったことで、チャットが見直されることになった。時代の波に乗り、チャットワークは多くの企業に広まり、現在は日本国内だけでなく、世界205の国と地域で利用されるツールとなった。
ITなのか人なのか、使い分けが大事
周囲の反対に負けず、山本氏が強い信念を持ちチャットワークの開発・普及を推し進めてきたのは、「必ず世界に先駆けるツールになる」という自信があったからだ。
「まだビジネスチャットを開発している会社はなく、技術的な自信もありましたし、ビジネスの場にチャットが必ず必要だという確信もあった」という。
「新しいものを取り入れるにはそれなりにパワーが必要ですので、躊躇する気持ちも分かります。でも、以前だったら考えられないような技術革新がどんどん起きているんです。昔に比べると、操作もすごく簡単になっているし、コストも掛からない。チャットワークもまずは無料版で試す会社も多いんです。昔に比べると、導入のハードルはどんどん下がっているので、食わず嫌いして使わないのはもったいないのではないかと思います」(山本氏)。チャットワークを導入する際は、まずは小さな部署、プロジェクトから開始し、日報だけをチャットワークに移行するなど、使用目的を絞ることで混乱を防げるとアドバイスする。
チャットワークはビジネスにおけるコミュニケーションを大きく変えるツールだが、山本氏の理想は、業務のすべてをIT化することではなく、ITとリアルのコミュニケーションを使い分けることだ。
「『餅は餅屋』というのが私たちの思想なんです。これは得意なことを得意な人に任せるという意味ですが、ITと人も同じだと思っています。毎日の定型業務、作業的な部分はITが得意です。それはどんどん効率化すればいい。でもアイデアを出す、メンバーの体調をケアするといった、人にしかできないこと、対面でしかできないことは人がしっかり時間を割くべきですよね。ITで無駄を省くことで、本当に必要なことに時間を使えることになるので、むしろ人間が人間らしく生きて、人間らしく語れるようになると私は思っています」(山本氏)
先入観にとらわれず、新たな技術を積極的に試すことに、組織をより良くする可能性が秘められている。
執筆者紹介
尾越まり恵(おごし・まりえ) フリーランスライター。福岡県北九州市生まれ。結婚情報誌ゼクシィの制作に携わり、2011年に独立。「女性の生き方」をテーマに取材・執筆を続けている。福山雅治、ホークスが好き。
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