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企業とシニア求職者のミスマッチをひもとく 第3回


シニア人材の活躍事例――これまでの人生経験を生かす

2023.08.25

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シニア層の活躍: 未経験業界への挑戦

第1回は、シニア層の就業実態および意識をシニア個人と企業双方の視点からお伝えし、第2回では、積み重ねたキャリアで得たスキルや専門性を生かして生き生きと活躍しているシニア就業者の事例を紹介しました。最終回となる今回は、これまでの人生・生活で培った知識と経験をもとに未経験の業界に飛び込んで活躍するシニアに注目してみましょう。

参考:
第1回 「シニア層の就業実態・意識調査2023」分析レポート
第2回 シニア人材の活躍事例――これまでのキャリア・専門性を生かす

解説 株式会社リクルート ジョブズリサーチセンター長 宇佐川 邦子

ジョブズリサーチセンター長 宇佐川 邦子さん|株式会社リクルートリクルートグループ入社後、一貫して求人領域を担当。2014年4月より現職。
さまざまな業界の特色を踏まえ、求人・採用活動、人材育成・定着、さらに活躍促進のための従業員満足メカニズムなど、「『働く』に関する課題とその解決に向けた新たな取組」をテーマに全国で講演・提言を行う。全国求人情報協会常任委員のほか、経済産業省、厚生労働省、東京商工会議所などにおいて委員も務める。

解説 株式会社スタッフサービス・ホールディングス 執行役員 平井真(ひらい まこと)

株式会社スタッフサービス・ホールディングス 執行役員 平井真(ひらい まこと)さん|株式会社リクルート2002年、株式会社スタッフサービスに入社。事務職派遣の営業職、エンジニア派遣のオフィス長
を経た後、2013年にユニット長として近畿エリアを統括。2015年4月から株式会社スタッフサー
ビス・ホールディングス執行役員(事務領域事業担当)。2019年4月から執行役員(エンジニア領
域事業担当)。2022年4月から執行役員(メディカル領域事業担当)を務める。

目次
  1. 「これまでの人生・生活で培った知識と経験」を生かし職場の戦力に
  2. 人手不足の飲食業界でも、シニア層の活躍が広がる

「これまでの人生・生活で培った知識と経験」を生かし職場の戦力に

今回ご紹介するのは、シニアが未経験の仕事に就き、人生や生活で培った経験を生かしている事例です。
「短時間勤務」などの柔軟な働き方を創出することで、シニアの力を生かすことに成功しています。
株式会社スタッフサービス・ホールディングス執行役員・平井真さんにお話を伺いました。

医療・介護分野の人材派遣を手がけるスタッフサービス・メディカル(SSM)では、60 歳以上の派遣スタッフが増加傾向にあり、コロナ禍前の2019年と比較して 3.06倍となっています(2023 年 3 月度)。その要因は、介護業界の人手不足に伴い、資格不要の介護補助職ニーズや、1日4時間などの短時間勤務の求人が増えたことが挙げられます。

「SSMでは2022年4 月から『介護ベースプロジェクト』として、介護未経験者の就業・定着に注力。未経験者でも働きやすくする仕組みを派遣先企業に提示し、短時間勤務や介護補助職の求人を創出した結果、シニア層人材の就業者数の増加につながっています」(平井さん)

具体的には、介護の仕事を48 種類に分解。起床・食事・入浴・就寝・清掃・在庫補充・クリーニングなどの業務を、対人業務・身体負荷・実施時間・場所などと掛け合わせ、介護未経験者でもできる仕事を特定。それらを担う求人を生み出すことで、未経験者でも無理なく就業できる環境を作っています。
就業後も派遣先と連携し、その人の業務習熟度を確認し都度フィードバック。そのため、成長を実感しやすく、長く働くことを視野に入れやすくしているのです。

また、資格や実務経験など目に見えるスキルだけでなく、育児などの経験によるコミュニケーション力、人への共感力、家事力、同時進行で複数の仕事を進めるマルチタスク力など「汎用性あるスキル(ポータブルスキル)」をSSMが見いだし、派遣先とマッチング。特に介護分野の仕事は育児・家事の経験や能力と親和性があり、シニア層人材ならではの特性を生かしやすいといえます。

未経験から介護職へ派遣就業し、派遣先で直接雇用に転換した事例を2つご紹介します。

【事例-1】68歳で未経験から介護補助職に就業

Cさん(68歳/女性)は、大手正社員の事務職、パート・アルバイトを経て、65歳からハローワークで再就職先を探していました。求職期間は2年に及び、その間に介護職へも応募したそうですが、体力面を問われて自信を持てず、就業に至らなかったといいます。
Cさんには「勤務時間」にもこだわりがありました。お孫さんの面倒を見るため、勤務は15時まで、週何日かの休日を希望していました。結果的にCさんは、SSMが創出した「短期時間勤務」の求人に応募し、特別養護老人ホームの介護補助として派遣就業。週3~4日・8時30分~14時30分と、希望にかなう条件です。

介護職は初めてのCさん。当初はどんな仕事をするのか不安があったそうですが、派遣会社の担当者から仕事内容についての詳細な説明を受けると、「自分でもできそう」と就業に踏み切れたそうです。仕事内容を理解していたことで、働き始めてもギャップを感じることはなかったといいます。
そして、自分よりも年齢の高い方が活躍していたり、自分の資質を生かせることに気付いたりと、「ここならやりがいをもって長く働いていけそう」と自信を持てたようです。「困っている人を助けるのも好きだし、今では天職だと感じている」とのことです。

Cさんは事務職経験が長く、店頭対応やクレーム対応も担当した経験から、対人折衝力に強みを持っています。また、社員の手が届かないところへの気配りや気遣いもできる方です。そうした点が評価され、就業から約半年後に直接雇用のパート職へ転換されました。

【事例-2】「父の介護経験」を機に、63歳で介護施設社員として活躍

Dさん(63歳/男性)の経歴は、自営の電気工事業約20年、ゴルフコース管理、廃棄物仕分け、工場勤務など。父親の介護をきっかけに介護業界に興味を持ち、特別養護老人ホームの介護職として派遣就業しました。
ところが就業間もなく体調を崩し、1カ月ほど休職することに。それでも、初期の仕事ぶりが派遣先から評価され、同じ施設で復職することができました。

Dさんは休職中も「勤務時間のこだわりはないが、体力に無理なく働きたい」「介護業界で人の役に立ちたい」という希望を持ち続けていました。そこで、派遣会社から施設へ「正社員への転換」を提案。施設側は、電気工事業の知見を生かした積極的な施設の改善提案や、やる気・意欲の高さを評価。また、Dさんの勤務時間帯の柔軟性と人手不足の時間帯があるという課題がマッチし、16時30分~翌朝8時30分の宿直業務(施設巡回・環境整備)担当として直接雇用に至りました。

CさんとDさん、いずれのケースも、未経験のためシニア本人も受け入れ先も「できるのだろうか」という不安を抱いていましたが、実際に働いてみてその人の強みが発揮されました。そこから「この仕事も任せてみたい」と、仕事の幅の広がりや質の向上へつながっています。

人手不足の飲食業界でも、シニア層の活躍が広がる

コロナ禍で大きなダメージを受け、回復が遅れた「飲食業」。従来は若者中心の職場というイメージが強く、シニアの雇用ではバックヤードの清掃業務などが中心でした。
しかし現在、シニア人材を生かす取り組みが進んでいます。
焼き肉店やラーメン店を展開する株式会社物語コーポレーションのケースをご紹介しましょう。

●採用時の工夫――「丸源ラーメン」での取り組み

これまで「シニア雇用のイメージが湧かない」「体力などに不安要素がある」という理由で、シニア求職者からの応募があっても、なかなか採用に至っていませんでした。しかし、面接での対話を大切にし、得意/苦手なスキルの傾向を聞き出すことで、お互いが働くイメージを持つことができ、採用につながるようになったといいます。
店長の工夫ポイントは次のとおりです。

・シニア求職者の希望するワークライフバランスや働きたい時間や日数などを考慮した
・得意なところを中心に業務を切り出す、重いものは持たせないなどの任せる業務を工夫
・シニア求職者と一緒に何ができるかを考え、できる限り本人の望む業務を任せた

●接客時の工夫――「焼肉きんぐ」での取り組み

コロナ禍の時短営業中に、シニア従業員がシフトに入らなくなった途端、これまでにはなかった「掃除」に関する指摘が入ったことがありました。
これを機に、シニアの「丁寧さ」「真面目さ」に着目し、その得意なスキルを生かすことで、活躍してもらうという考えに変化しました。具体的な工夫は次のとおりです。

・各時間帯のシフト枠を埋める考え方から、時間帯によって異なるタスクに合わせて必要なスキルを持った属性で埋めるという考え方に変更
・得意/苦手なスキルの傾向の理解
※得意なスキルの傾向:「丁寧さ」「真面目さ」「コミュニケーション能力の高さ」
※苦手なスキルの傾向:「スピード」「体力」「インプットに時間がかかる」
・得意なスキルを生かせるタスクはシニア従業員に割り振り、苦手な傾向のタスクは、その強みを持つ他属性の従業員に割り振った。「業務を覚えるためインプットに時間がかかる」など、シニアが苦手とする部分については、根気よく何度も伝えるなどの対応でカバーし、シニアの力を最大限に引き出した

物語コーポレーションでは、今後、全ブランドでシニア求職者の雇用を強化予定。シニアのみならず「女性」、「インターナショナル(外国籍)」、「セクシュアルマイノリティ」、「チャレンジド」、「パートナー(パートタイマー)」のさらなる活躍を目指す「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)宣言」の一環として、幅広い年齢層の人材受け入れを実施されるようです。

このような積極的なシニア採用傾向・事例は少しずつ他の業界でも見られるようになっています。
シニアに対しては、苦手なことを無理にしてもらうよりも、得意なことを伸ばしてもらうのが有益であると考えます。シニアが苦手とする部分は、それを得意とする人と組み合わせる、あるいはデジタルやロボットで代替する方法もあるでしょう。
工夫次第で、シニアは強みを発揮し、他世代にも好影響を与え、活躍していただけるのです。

従業員の高齢化が加速することが予測される中、企業は画一的な働き方を求めるのではなく、より個人のニーズにあった多様な働き方を準備していくことが必要になるでしょう。
これからシニアなど新しい人材の採用を視野に入れる企業は、これまでのやり方にとらわれず、自社が求める人材要件を明確化し、それに合致しているかを軸にして、求職者に目を向けていくことが必要です。
また、すでにシニアが勤務している企業においては、定年直前ではなく早い段階から対話し、お互いが働きやすい環境を提供していく必要があると考えます。【おわり】

編集部注:この記事はリクルート社から提供の寄稿です。2023年7月時点の情報をもとに作成しています。

企業とシニア求職者のミスマッチをひもとく(全3回)

第1回 シニア層への採用意欲――「シニア層の就業実態・意識調査2023」分析レポート
第2回 シニア人材の活躍事例――これまでのキャリア・専門性を生かす
第3回 シニア人材の活躍事例――これまでの人生経験を生かす

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