人事の10分読書vol.28『一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全』
2023.07.05
@人事が、本の要約サイト「フライヤー」とコラボし、人事のスキルアップにつながる書籍の要約をお届けする連載企画「人事の10分読書」。
第28回は、『一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全』(河出書房新社)を紹介する。
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おすすめポイント
本書は、心理学者・臨床心理士である著者が、心の健康に役立つ技術とスキルを詰め込んだ「道具箱(ツールボックス)」のような一冊である。
心の浮き沈みは、誰もが経験する。気分が落ち込んだとき、やる気が出ないとき、自信を失い自己嫌悪に陥ったとき……本書を手に取り、自分に必要なページを開いてみよう。辛い気持ちに対処するためのヒントが得られるだろう。
著者のジュリー・スミス氏は、SNSで300万以上のフォロワーを持つメンタルヘルスの専門家だ。本書で紹介するスキルは、著者自身が実際にセラピーの中で実践してきたものばかりである。ここで語られるのは、「常にポジティブに考えよう」「他人のことは気にするな」といった、自己啓発的なアドバイスではない。科学的エビデンスと経験に支えられた、本当に効果のあるテクニックである。
充実した人生を送りたいのなら、メンタルヘルスを育むスキルを知り、身につけることが大切だ。そして、ネガティブな感情に溺れないようにするには、自分の感情や価値観を受け入れ、理解する必要がある。本書には、自分を理解するために使える問いかけやフレームワークも多数掲載されている。どのアドバイスもシンプルでわかりやすく、実際に「ツール」を使うことができるのも魅力である。これらのツールは、自分を客観的に見つめ直し、より良い選択をするための一助となるだろう。ぜひ本書を手に取り、有意義な人生への一歩を踏み出してほしい。
【藤井亜子 (ライター詳細)】
著者プロフィール
ジュリー・スミス(Julie Smith)
心理学者・臨床心理士。英国心理学会所属。オンラインでの発信やカウンセリングが人気を博し、300万以上のSNSフォロワーを持つ。心理学・精神医学に基づく適切な知識をショート動画でわかりやすく届ける活動は、BBC等にも取り上げられる。
『マインドフルネスが最高の人材とチームをつくる』の要点
- メンタルヘルスの知識や知恵は、充実した人生を送るために欠かせない「ツール」である。心の働きを理解し、感情をコントロールするための方法を身につければ、望ましいあり方に変わることができる。
- 感情は、思考・体の状態・行動と影響し合っている。思考や行動を変えることで、感情を良い方に変えることも可能である。
- 自信をつけるためには、快適な範囲(コンフォート・ゾーン)から出て、未知の世界に踏み出すことが大切だ。
- 人生を有意義なものにするための第一歩は、自分の価値観を明確にすることだ。
心の健康を保つ「道具箱」
メンタルヘルスの向上には「知識」が必要
充実した人生を送るために必要なものは、「知識」である。本書では、心理学者・臨床心理士である著者が、心の働きに関する知識と知恵、そして実践的なテクニックを紹介する。本書は、感情をコントロールし、メンタルヘルスに役立つ方法を身につけるための「道具箱(ツールボックス)」である。
メンタルヘルスの向上は、健康を促進することと同じである。健康な人が日頃からバランスの良い食事をとって体を鍛えているように、たとえ今悩みがなくとも、本書のスキルを試してほしい。うまくいっているときからレジリエンスを構築し、心の健康を育む方法を身につけておけば、困難に直面してもうまく乗り越えていくことができるはずだ。
気分が落ち込むとき
気分が落ち込むのはなぜ
誰にでも気分が落ち込む日がある。臨床心理士として長年働いた著者が言えることは「人は気分が落ち込んでいることを、誰にも言わない」ということだ。落ち込みに苦しみながらそれを隠し、周囲の期待に応えようとする。そして、「自分はどこかおかしいのではないか」と考え、性格や脳の欠陥のせいにしようとする。しかし、実際はそうではない。気分は、内外のさまざまな影響によって浮き沈みするのである。
気分が落ち込む原因は脳だけではなく、睡眠不足や脱水といった体の状態、人間関係、ライフスタイルなどが複合的に絡んでいる。また感情は、思考・体の状態・行動と影響しあっている。疲れて気分も落ちているから運動する気になれず、じっとしていたらエネルギー不足になり、より気分が落ち込む……という具合だ。
しかし、相互に影響しあっているからこそ、行動や思考を変えれば感情を上向きにすることも可能なのである。
思考バイアスに気づく
思考と感情は影響しあっているため、気分が落ち込んでいるときは、偏った思考パターンに陥りやすくなる。このようなときに起きやすい思考バイアスは、次のようなものだ。「友だちが変な目で見るから、自分は嫌われているに違いない」と思い込む「マインドリーディング」、朝ミルクをこぼしただけで「今日は絶対悪夢のような日になる」と決めつける「過度の一般化」、SNSの投稿に否定的なコメントばかり探してしまう「心のフィルター」、すべてを「白か黒か」で考えてしまう「全か無かの思考」などである。しかし、思考の偏りを見抜ければ、さらなる気分の悪化は防げるだろう。
思考バイアスに気づくためには、自分の思考、感情、身体的感覚を書き留めよう。このとき「わたしは……という考えを抱いている」というように、客観的視点に立った表現を使うといい。また、毎日決まった時間に、自分の考えに注意を向けることもおすすめだ。
自分の思考を俯瞰することは容易ではないが、練習を積むことで自分を観察できるようになるはずだ。
運動・睡眠・栄養
落ち込んでいるとき、人が最初に手を抜くのは日常生活である。友人と疎遠になり、コーヒーをがぶ飲みし、眠れなくなって運動もしなくなる。日常生活は、わたしたちの健康を支えてくれる土台であり、地味だが非常に重要な存在なのである。
メンタルヘルスには、運動や睡眠、栄養、人とのつながりといった、日々の基本的なことが大切だ。運動をするとドーパミンが増え、喜びを感じる能力が高まる。睡眠が不足すると、ほぼ確実に気分が落ち込み、生活のあらゆる側面に多大な影響を及ぼす。
精神の健康と肉体の健康には相関性があり、栄養状態がいいと抑うつの症状が飛躍的に改善することがわかっている。そして、良好な人間関係はメンタルヘルス向上の最強ツールである。気分がふさいでいるときこそ、人に会いに行こう。行動することで、気分は後からついてくる。人と過ごす時間が長くなるほど、メンタルヘルスは改善するのである。
辛い感情との付き合い方
感情は「事実」ではない
セラピーを受ける人の多くは、辛く不快な感情を消し去って、楽しくて穏やかな感情を取り戻したいと話す。しかし、セラピーで学ぶのは感情を消し去る方法ではなく、ありのままの感情を知り、コントロールすることである。
感情に抵抗したり、締め出そうとしたりしてはいけない。感情は押し寄せる波のようなもので、抵抗すればするほど足をすくわれ、飲み込まれてしまう。しかし、波に身をまかせて通り過ぎるのを待っていれば、感情は自然に落ち着くだろう。
また、感情は事実ではない。感情は推測であり、選択肢の一つである。感情は、脳が外界の情報と体の情報、これまでの記憶を結びつけて意味づけした、一つの見方にすぎない。
感情と事実は異なるということを理解するには、好奇心を持つことだ。自己批判や自己嫌悪をやめ、自分の行動や感情がどう自己に影響を与えたかを、より広い視野に立って考察することが大切だ。そこに自己攻撃はいらない。好奇心を持って見つめれば、辛く認めがたい過ちも、学びに変えることができるだろう。
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