ワークスタイル変革最前線
経営戦略としてのテレワークを組織に浸透させる秘密兵器「Fチェア」
2016.10.03
ICTを活用した、場所や時間にとらわれない働き方「テレワーク」。女性活躍や離職防止、生産性向上など、企業にさまざまなメリットをもたらすテレワークを成功させるために、社員の意識改革や業務プロセスの改善、ツールの活かし方などの観点からコンサルティングを行うのが、株式会社テレワークマネジメントである。
同社の提供する、テレワークの在席管理システム「Fチェア(エフチェア)」の導入によって得られる効果を中心に、テレワークのマネジメントを成功させる秘訣について、代表取締役の田澤氏に伺った。
テレワーク導入のボトルネックになっていた「社員の労働時間管理」
まず、Fチェアの開発・提供を始めた背景について、田澤氏は次のように語っている。「本来、テレワークはICTを活用した、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を意味します。ところが日本では、好きなときに自由に働くフリーランス的な働き方と混同されがちです。雇用されて働くという働き方が一般的な日本においては、雇用されている社員が、オフィスから離れた場所でもオフィスと同じように仕事に集中でき、子育てや介護と両立できるという『日本型テレワーク』の普及が欠かせません。
これまで、クライアント企業のテレワーク導入のコンサルティングを行ってきましたが、ボトルネックになっていたのが、『在宅勤務中の社員の労働時間管理』でした。とりわけ、デスクワーク中心の職種ですと、営業の達成件数や制作物といった具体的なアウトプットが見えづらいケースも多いため、『在宅勤務中の社員は、本当に働いているのだろうか』という懸念を持つ企業が多かったのです。こうしたニーズをもとに、『時間管理に適したツールがあれば不安を解消できる』と思い、Fチェアを開発し特許を取得しました」
Fチェアの管理者画面
Fチェアの特長は、着席・退席のボタンをクリックするだけなので、細切れの時間でも自動的にトータルの業務時間が算出できること。着席中の社員のパソコン画面をキャプチャし、記録しているので、管理の時間やコストがかからず、同僚の在席状況をみんなで共有できるという。
オンオフの切り替えができ、「一緒に働いている」という安心感が醸成される
Fチェアを導入した企業は、どんな効果を得ているのだろうか。「官庁・企業の人事担当者さまからは、社員の集中力が高まったという声をいただいています。例えば、障害者雇用の就業訓練でFチェアを導入された企業からは『在宅だと、お手洗いの介助などで途中離席の時間が長い就業者がおり訓練の時間が曖昧だったが、Fチェアのおかげで離席状況が明確になり、着席のボタンをクリックしたら集中しよう、というように、就業者の訓練へのモチベーションが高まった』という声をいただいています」(田澤氏)
テレワークマネジメント代表取締役の田澤由利氏
また、社員側が感じている効果は、着席・退席のボタンを押すことで、自宅にいてもオンオフの切り替えができ、オフィスで働くときと同じ緊張感を持って働ける点だという。何より、在宅勤務の社員を苦しめてきた「サボっていると思われるのではないか」というストレスを軽減できるのが大きなメリットである。
「もちろんキャプチャの記録をとっているだけで、管理者である上長が監視しているわけではないのですが、『あ、●●さんは今日は資料作成やメール対応で忙しそうだな』などと、一人一人の様子を知ることができます。だから社員も、自分で仕事を抱え込んで夜遅くまで働き、過労に陥る……ということなく、持続可能な働き方ができます。また、当社ではFチェアだけでなく、ネット上のバーチャルオフィスSococo Virtual Office(ソココ バーチャル オフィス)というサービスも提供しています。
これは社員のコミュニケーション、プレゼンス(存在感)確認のツールですが、同じ空間にいない社員同士が、声を掛けあったり、会議に呼び出したりするなど、文字や声、映像で簡単にコミュニケーションができます。そのため、それぞれ別の場所で働いていても『一緒に働いている』『見守ってもらえている』という安心感につながるようです。
日本はもともと仲間と協力して目標を達成していくチーム力が強みです。『結果だけ出せば労働時間はどうでもいい』という成果主義的な考え方よりは、チーム力を活かす考え方のほうが日本の風土にあっているんです」(田澤氏)
今後の評価軸は「時間当たりの生産性」
とはいえ、社員数の多い企業が一気に導入するには壁もありそうだ。導入効果を高めるために人事担当者が心がけるべき点について、田澤氏はこう語る。
「テレワーク導入を成功させるポイントは、人事担当者が『在宅は特殊な仕事にしか適用できない』『自社では打合せが多いから無理』といった固定観念を捨てることです。FチェアやSococoのデモンストレーション動画を見れば、『自宅や外出先でも、オフィスと同じ働き方ができるようにするには?』というイメージが湧くのではないかと思います。まずは、ある部署で例えば『子育て中の社員に導入』などとプロトタイプをつくり、それを他部署に横展開していくなど、ステップを踏めば、全社にテレワークを広げていくことができます。
また、社員の評価をする際、成果と労働時間、そして仕事への姿勢などの行動評価の3つを足し合わせている企業が多いと思います。ですが、今後育児はもちろん、介護離職の増加が予測されている中で、労働時間の制約があるために、能力の高い人材が低い評価に甘んじるという状況が続けば、士気が下がり、挙句には退職を選んでしまいます。そこで、人材の評価軸を『成果÷労働時間』、つまり『時間当たりの生産性』に変えていく必要があります。そのためには社員の労働時間を計り、マネジメントすることが重要です。これは長時間労働の是正や、優秀な人材確保にもつながります。だからこそ、テレワーク導入は福利厚生ではなく、経営戦略の一つといえるのです。
情報漏洩などセキュリティー面が気になる企業の場合は、郊外や地方にサテライトオフィスやレンタルオフィスを設けて、そこでリモートワーク社員に働いてもらうのもよいでしょう。都心に大きなオフィスを構える必要がなく、固定費軽減にもなります。5~10年後にはオフィス自体のあり方も変わるのではないでしょうか」。
モノやサービスを個人・企業間で貸し借りするシェアリングエコノミーが席巻する今、レンタルオフィス、サテライトオフィスの活用は今後ますます敷居が低くなるだろう。
テレワークマネジメント自体、テレワークの社員が8割を占めており、「今月は全員テレワーク実施」などと、いつでもどこでもテレワークができる体制を構築している。だからこそ災害などの緊急時にも円滑にテレワークで仕事を進められるという。政府の働き方改革の追い風もある今こそ、こうしたテレワークが現場に浸透した成功事例が増え、業種や規模を越えて共有されていくことを切に願う。
田澤由利(たざわ・ゆり)
1962年8月17日、奈良県生まれ、北海道在住。上智大学卒業後、シャープ(株)でパソコンの商品企画を担当していたが、出産と夫の転勤でやむなく退職。 子育て中でも地方在住でも仕事をしたいと、3人の子育てと夫の転勤による5回の転居を経つつ、パソコン関連のフリーライターとして自宅で働き続けた。
1998年、夫の転勤先であった北海道北見市で「在宅でもしっかり働ける会社を作りたい」と(株)ワイズスタッフを設立。さまざまな業務を受託し全国各地に在住する120人のスタッフ(業務委託)とチーム体制で業務を行っている。
2008年には、柔軟な働き方を社会に広めるために、(株)テレワークマネジメントを設立。東京にオフィスを置き、企業等へのテレワーク導入支援や、国や自治体のテレワーク普及事業等を広く実施している。
同年、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2009」リーダー部門7位に選出。2015年総務省「平成27年度情報化促進貢献個人等表彰」を受賞。
内閣府政策コメンテーター、総務省ICT地域マネージャー/地域情報化アドバイザー、厚生労働省在宅勤務モデル実証事業検討会委員など。
執筆者紹介
松尾美里(まつお・みさと) 日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。教育出版社を経て、2015年より本の要約サイトを運営する株式会社フライヤー(https://www.flierinc.com/)に参画。ライフワークとして、面白い生き方の実践者にインタビューを行い、「人や団体の可能性やビジョンを引き出すプロジェクト」を進行中。ブログは教育×キャリアインタビュー(http://edu-serendipity.seesaa.net/)。
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