【転職市場における人事関連職種の動向】『リクルートエージェント』転職決定者データ分析
人的資本経営を背景に「人事制度構築系・組織系人事コンサル」の転職決定人数が2.31倍に
2023.05.30
リクルートは5月16日、転職支援サービス『リクルートエージェント』のデータを分析した、転職市場における人事関連職種の動向をまとめた。
人事関連職種の求人件数は2018年度比で2.40倍、転職決定人数は同1.77倍に増加したほか、ポジション別の求人件数では「採用・人員計画立案」が同2.72倍に増加していた。
また、人事関連職種で起きている変化として次の4つを挙げた。
- 人的資本経営を背景に「人事制度構築系・組織系人事コンサル」の転職決定人数が2.31倍に
- 「HRBP」の求人件数が一貫して右肩上がりで増加。2年前と比較して約3倍に
- 企業内人事と人事コンサルティングの比較では、人事コンサルの求人件数がより伸びている
- 企業内人事・人事コンサルティングともに、異職種からの決定割合が高まっている。(越境転職)
※HRBP : Human Resource Business Partner
事業責任者の戦略パートナーとして、事業戦略を実現するために人材や組織に関するあらゆる支援を行うポジション
以下、リリースより。
人事関連職種の求人件数および転職決定人数の動向
4年前と比べて求人件数は2.40倍、転職決定人数は1.77倍に増加(2018年度比)
『リクルートエージェント』における人事関連職種の求人件数は、2018年度を1として指数化すると、2022年度は2.40と伸長しています。また、同様に転職決定人数は1.77となっています。2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて求人件数・転職決定人数ともに落ち込みを見せましたが、翌2021年度には2019年度と同水準まで回復しました。特に求人件数は、直近1年で急増していることがわかります。
ポジション別の求人件数では「採用・人員計画立案」が一時の落ち込みから顕著な伸びを示す
人事関連職種の求人件数をさらにポジション別に分類してみると、「人事制度構築系・組織系人事コンサル」と「採用・人員計画立案」のポジションが2018年度に比べて2.7倍以上となっています。特に「採用・人員計画立案」は、2020年度には0.88まで落ち込みを見せましたが、その後急回復しています。
労働力人口の減少が続く日本は、「構造的な人手不足」の状況にあります。リクルートが実施した「中途採用動向調査」では、中途採用計画に対して未充足であった企業の割合が80%前後の高い水準で推移しています。このような状況の中、各社が人手不足解消に向けた採用関連ポジションの人員強化に動いていることがわかります。
出所:リクルート「2022年度上半期 中途採用動向調査」(https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2022/1201_11847.html)
人事関連職種の転職市場に起きている4つの変化
人事関連職種の求人件数・転職決定人数が増える中、転職市場にはどのような変化が起きているのか。データから見えてきた4つの変化をご紹介します。
① 人的資本経営を背景に「人事制度構築系・組織系人事コンサル」の転職決定人数が2.03倍に増加
1つ目の変化は、「人事制度構築・組織系人事コンサル」の転職決定人数の増加です。このポジションは求人件数においても伸びが顕著でした。「人事制度構築系・組織系人事コンサル」のポジションの転職決定人数は2018年度に比べて2倍以上となっており、特に2021年度から2022年度にかけて他にはない伸びを見せています。
背景として考えられる大きな要因が、「人的資本経営の潮流」です。昨年発表された政府の骨太の方針は、「人への投資」が前面に示されました。人的資本経営を実現するためには、企業の骨格となる人材マネジメント方針や人事制度を構築し、目指す方向を実現するような人的資本投資をデザインする必要があります。企業内でそういった業務に携わる「人事制度構築系」や、外部からそれらを支援する「組織系人事コンサル」の転職決定人数が増えていることは、企業の人的資本経営に関する取り組みが本格化していることを示唆しています。
② 「HRBP」の求人件数が一貫して右肩上がりで増加。2年前と比較して約3倍に
2つ目の変化は、「HRBP」の求人件数の急増です。HRBP(HRビジネスパートナー)とは、事業責任者の戦略パートナーとして、事業戦略を実現するために人材や組織に関するあらゆる支援を行うポジションのことを指します。採用のみならず研修や組織開発など多様な役割を担い、事業における人材戦略を計画・遂行します。
以下のグラフは、前述の人事関連職種の求人データをさらに詳細に分析して、HRBPに関する求人を抽出したものです。HRBPの求人件数は一貫して右肩上がりを続けており、2020年度に比べて3.09倍と急増しています。
HRBP求人はどのような業界で多く募集されているのか。2022年度のHRBP求人の業界別シェアをまとめたものが以下のグラフです。主に、インターネット業界、製造業・IT業界・医療業界などが高いシェアを示しています。インターネット業界のシェアは33.3%でした。
グローバルにビジネス展開をしていたり事業が多角化していたりする場合、それぞれの事業が置かれているビジネス環境に応じた人材戦略が求められます。また、昨今は外部環境や顧客のニーズに合わせて素早く戦略を組み立て、機動的な戦略人事を実行していく必要性が増しています。これらのようなニーズからHRBPを活用する企業が増えていると考えられます。
解説:人的資本経営の潮流と人事関連職種への期待
2020年に起きた世界的なパンデミックは、日本の労働市場にも大きな影響を与えました。『リクルートエージェント』の求人件数や転職決定人数も、第1回緊急事態宣言が発せられた2020年4月には急激な落ち込みを見せました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大はその後も続いたにもかかわらず、社員領域の転職市場は回復し、今では求人件数や転職決定人数はコロナ禍前を大きく上回っています。
本稿で解説した人事関連職種も同様の傾向を示しています。働き方改革、テレワークの浸透、ジョブ型雇用の検討、多様性、リスキリング、情報開示など、近年の人事課題は枚挙にいとまがない状態です。そして今、これらの課題は「人的資本経営」という言葉に集約されているように思います。
人材を資本と捉え、その価値を最大限引き出して企業成長につなげるために、業界・業種を問わずあらゆる企業で検討や議論がスタートしています。企業経営における人事関連職種のプレゼンスが上がってきており、本稿で見てきた求人件数や転職決定人数の伸びがそれを示しています。
人事担当者から、人事プロフェッショナルへ
人事関連の仕事に携わる人や人事関連職種を目指す人にとっては、労働市場にたくさんの機会がある状態と言っていいでしょう。「HRBP」といった新しい人事機能も登場してきています。また、一時期落ち込んでいた「異職種転職」の割合は、企業内人事・人事コンサルティングともに高まっています。
人的資本経営を実現するためには、経営戦略と連動した人材戦略を実行していかなくてはなりません。働く人々の多様な価値観を尊重し、一人ひとりの強みを活かし、そのエネルギーを企業価値につなげることが必要です。そのために必要な採用や育成・評価などの在り方を考え、人事制度や施策に落とし込んでいく。今求められているのは、戦略的な志向を持ち、経営に資する「人事プロフェッショナル」ではないでしょうか。
現在、人事関連職種に大きな期待が寄せられていることは間違いなく、同時に求められている役割も変化しつつあります。人事関連職種へのチャレンジを検討されている方は、このような状況を踏まえて、自身はどのような組織貢献と自己実現を成し遂げたいかを考えていただきたいと思います。
解説者:リクルート HR 横断リサーチ推進部 マネジャー/研究員 津田 郁
2011年リクルート海外法人(中国)入社。グローバル採用事業『WORK IN JAPAN』のマネジャー、リクルートワークス研究所研究員などを経て2021 年より現職。
現在は労働市場に関するリサーチ業務に従事。専門領域は人的資本経営、リーダーシップ、人材マネジメントなどの組織論全般。経営学修士。
調査概要
調査方法:リクルートエージェントの転職決定者
調査対象:リクルートエージェントを利用して転職した方
有効回答数:非公開
調査実施期間:2023年2月~2023年4月
調査機関:リクルート
本件の詳細をこちらより御覧ください
『リクルートエージェント』転職決定者データ分析 転職市場における人事関連職種の動向 人手不足や「人的資本経営」を背景とした4つの変化を解説(2MB)
【プレスリリース「『リクルートエージェント』転職決定者データ分析 転職市場における人事関連職種の動向 人手不足や「人的資本経営」を背景とした4つの変化を解説」ならびに詳細版資料より|23年5月16日・株式会社リクルート】
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