曽和利光氏 特別寄稿
曽和利光の「性格と採用」|【第1回】知的好奇心が旺盛な人って本当に必要?
2016.09.16
「人には強みや弱みなど無く、あるのは特徴だけ――」
どんな事業や仕事をするかによって、ある人の性格や能力における特徴が強みにもなったり、弱みにもなったりします。ところが人を表現する言葉には明らかに”社会的望ましさ”の高低があり、例えば「暗い」よりは「明るい」人が良いとされるために、人の目は濁っていきます。
本コラムでは、人の持ついろいろな特徴の表裏を取り上げ、本当にその「望ましい特徴」は自社の求める人物に必要な要素であるのか?という、考えるヒントを提供できればと思います。
「知的好奇心が旺盛な人材」って本当に必要?
様々な会社の人材採用の広報で、求める人物像として「知的好奇心が旺盛な人」という言葉が使われています。
もちろんレベルは様々だと思うのですが、「旺盛」というぐらいですので、人よりは飛び抜けていて欲しいものです。具体的行動でイメージするならば、「月に本を2桁以上は読んでいる(2桁では少ないでしょうが)」とか、「会いたい人がいれば、できる限りの努力をして、どんな遠い人にでも会いに行こうとする」とか、「とにかく知らないことに出会いたい(自分にとって「奇」なるものを好む心ですので)から、毎年3週間は世界中の様々なところに旅行に行っている」……という人物像でしょうか。
この「知的好奇心が旺盛」という人を表現する言葉は、“社会的望ましさ”が大変高い言葉であるために、多くの企業でも重要だと言われています。
求める人物像の議論をする時など、あまりきちんとした議論がされずに、満場一致で採用基準として入れておこう、となるケースがままあるのです。
「好奇心」は「飽き性」?
確かに、時代的に創造性を求められる仕事が増えたこともあって、実際に「知的好奇心」が重要になっている会社も増えているのでしょう。ただ、中には、私が見ている限りですが、「本当にこの会社、この仕事に、知的好奇心の旺盛さが必要なのだろうか」と思うこともしばしばあります。
例えば、特定の専門職や職人さんのように、1つのことをコツコツと長年に渡って続けていくことで、なんらかの技能や知識を身に付けていき、その道のプロになっていくような仕事の場合(俗に「1万時間の法則」と言いますが、一流になるにはルーチンワークをそれぐらいはこなさないといけない)、「知的好奇心」は必要でしょうか。
自分の仕事についての知識を「深めていく」という意味まで含ませるなら、それはもちろん必要ですが、「好奇心」という言葉は、一般的には「いろいろなことを知りたい」という意味に使われることが多く、その意味では、別の言い方をすると「飽き性」とも言えます。
「飽き性」な人は、いろいろなモノに目移りしてしまうことが多く、これまでとは異なる流行の新しいトレンドを生み出すような仕事には向いているかもしれませんが、一つのことをコツコツと続けていくような仕事は苦手かもしれません。
「好奇心+継続力」人材を見つけるには多大な採用コストが…
「いやいや、知的好奇心もあって、継続力もある人がいいのだ」と自覚しておっしゃる場合は、それで問題ないと思います。
確かにそういう仕事もあると思います。しかし、好奇心と継続力は(双方とも「狭義」でですが)なかなか両立しにくい性質であり、それを両立させている人を見つけるためには、多大な採用コストがかかるということは認識しておかないといけないと思います。
そこを認識せずに両立しにくい性質を採用基準として掲げてしまうと、採用担当者は大変苦労し、最終的に良い人材が採用できないかもしれません。
そうであれば、一人の人の中に好奇心と継続性を求めるのではなく、別々の求める人物像にして、チームとして二つの要素を獲得しにいくというのも手ではないでしょうか。
執筆者紹介
曽和利光(そわ・としみつ)(株式会社人材研究所 代表取締役社長) 京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。また多数の就活セミナー・面接対策セミナー講師や上智大学非常勤講師も務め、学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立(http://jinzai-kenkyusho.co.jp/)。
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