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社労士解説


2023年度 人事総務がおさえておくべき法制度の改正・動向

2023.01.12

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新しい働き方・人的資本・スタートアップの環境整備

2022年は「育児・介護休業法」や「高齢者雇用安定法」、企業年金関連など人事・総務業務に関連性の高い法改正が多かった。さらに大きな影響力を持つ人的資本関連の法整備が本格化した。そのため、2023年の法改正をチェックする際は、こうした一連の法改正・法整備の流れが、政府は本質的に何を目的として行っているのか、自社の経営戦略・人事戦略とどのように関連付けて対応していけばよいのかを、見据えながら確認していくことが求められる。

今回、例年行っていた年度別の法改正解説ではなく、過去・未来の法制度の整備・改正の流れがあるなかで、特に2023年度に確認しておきたい法制度の動向解説を、社会保険労務士でフォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表の松井勇策氏にお願いした。

目次
  1. はじめに
  2. 【新しい働き方/働き方改革の進展】
    2023年4月 中小企業の60時間の残業超の時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ
    2023年4月 育児介護休業法の男性育児休業開示義務
    2023年4月 給与のデジタル通貨払いの解禁
    2024年4月施行予定 医師の働き方改革・運送業/建設業に関する働き方改革関連法制度の施行
  3. 【人的資本経営の実施】
    有価証券報告書での人的資本関係の情報開示を義務化(上場企業において2023年3月31日以降の決算に適用、有価証券報告書のサステナビリティや人的資本に関する情報開示)
    法務省のビジネスと人権のガイドライン・関連するガイドラインの強化
  4. 【スタートアップ企業への関連施策の充実】
    具体的な政策内容について
    若手人材の教育の場での工夫
    再チャレンジを支援する環境の整備・スタートアップへの労働移動
    WEB3技術に関する組織や事業への活用の促進・支援
    社会的起業のエコシステムの整備とインパクト投資の推進

はじめに

2023年度の雇用に関わる法制度の動きとしては、

・新しい働き方/働き方改革の進展
・人的資本経営の実施
・スタートアップの環境整備

の主題があると言えます。2022年度やそれ以前の法改正・制度改正と趣旨が連続しているものもあり、特に人事労務面で2023年度に意識すべき法制度の改正について、法改正に至る経緯も重視して解説します。

全般的に、人事労務面の運用に影響を与えそうな内容が単なる雇用ルールの整備だけではなく、経済や経営全般の動きが影響するような状況になっています。そのため雇用全体への国の行政機関の関りが大きく広がっており、主に雇用に関するルールをつかさどる厚生労働省だけではなく、内閣官房や経済産業省、法務省など、省庁横断で「働き方」に関係する多くの法制度が発出される状況になっています。

企業で経営や人事の担当の方々も、支援をする立場の士業やコンサルタントの方々も、より広い視野で人事関係の事象を捉えていくことが必要になってきていると言えます。。

【新しい働き方/働き方改革の進展】

「働き方改革の徹底」においては多様な働き方の徹底実現、再チャレンジ可能な社会に向けての改革が続いています。法改正ではないため今回の文章中には記載してありませんが、同一労働同一賃金の判例なども新しい基準が多く出てきており、また業務委託等についても新しい判断事例の動きがあり、一層多様な働き方の実現が目指されています。

時間外労働に対する割増賃金率の引き上げは中小企業の給与や労務管理に非常に大きな影響を与える改正となっています。また、給与のデジタル払いの解禁も行われ、様々な角度での人事給与のデジタル対応・DX化が一層進展すると言え、対応方法の考慮が採用力にも直結する時代になってきているとも考えられます。
また育児介護休業法の改正等、全世代の活躍に関する法改正がここ数年行われてきました。男性育休比率などの開示に関する法改正が行われます。

ほか2023年ではなく2024年4月以降に順次開始となりますが「医師の働き方改革」ならびに運送業・建設業などの働き方改革に関連する法制度が施行され、雇用に当たっての上限時間等の規制が設けられることになります。これは、2017年以降の働き方改革関連法の法制度について、業界を限定して一部猶予されていたものの各論が決定され施行されるという趣旨となります。こうした法制度への対応の準備が求められるものであると言えるでしょう。

2023年4月 中小企業の60時間の残業超の時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ

中小企業においても月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が50%に引き上げられます。大企業へは2010年4月に適用済でしたが、今までは猶予期間となっていました。この改正で大企業・中小企業ともに50%への引き上げとなります。
既に36協定の限度時間である45時間を超える残業時間(特別条項による残業時間)については、働き方改革関連法の中で1年間のうち6ヶ月以内となり、上限時間も設定されました。法定労働時間を超える残業は、健康に大きな悪影響があるのみならずメンタルヘルス上の疾患の原因の理由なるものとされています。

(深夜労働との関係)
深夜(22:00~5:00)の時間帯に1か月60時間を超える法定時間外労働を行わせた場合は、深夜割増賃金率25%以上+時間外割増賃金率50%以上=75%以上となります。
※1か月の起算日は、賃金計算期間の初日、毎月1日、36協定の期間の初日などに
することが考えられます。
(代替休暇制度)
1か月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の方の健康を確保するため、 労使協定で算定方法などについて定めることにより引上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができます。

2023年4月 育児介護休業法の男性育児休業開示義務

育児介護休業法の改正により、2022年に男性育休の取得促進の趣旨の「出生時育児休業」の制度が制定されました。また、出生時育休と通常の育休の使用で育休の柔軟な分割取得が可能となり、制度の柔軟性も向上しています。

参考:
育児・介護休業法が改正されました ~令和4年4月1日から段階的に施行~(厚生労働省)
育児・介護休業法の改正について[PDF](厚生労働省)

関連記事:2022年育児休業・女性活躍の法改正対応(規程例・文書例つき)【社労士解説】

こうした法改正を受けて、全企業に努力義務、従業員数が1000人超の企業については必須の義務として、男性育休の取得率の開示の義務化が行われます。これは趣旨としては次項の「人的資本経営」と密接に絡む法改正ですが、働き方改革の徹底の趣旨も大きいためこちらに挿入しました。

改正後の制度の概要

・常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主は、育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務付けられます。
・具体的には、以下の「育児休業等の取得割合」または「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」のいずれかの割合を公表する必要があります。インターネットの利用その他適切な方法で、一般の方が閲覧できるように公表することとなっています。
なお、2022年に新しく開始された出生時育児休業も「育児休業」に含みます。

割合の計算式

画像:育児休業等の取得割合」または「育児休業等と育児目的休暇の取得割合の計算式(厚生労働省)

※1 公表前事業年度: 公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度
※2 育児休業等: 育児・介護休業法第2条第1号に規定する育児休業 及び 法第23条第2項(所定労働時間の短縮の代替措置として3歳未満の子を育てる労働者対象)又は第24条第1項(小学校就学前の子を育てる労働者に関する努力義務)の規定に基づく措置として育児休業に関する制度に準ずる措置が講じられた場合の当該措置によりする休業。産後パパ育休(出生時育児休業)も含まれる。
※3 育児を目的とした休暇: 目的の中に育児を目的とするものであることが明らかにされている休暇制度。育児休業等及び子の看護休暇は除く。
《例えば…》
失効年休の育児目的での使用、いわゆる「配偶者出産休暇」制度、「育児参加奨励休暇」制度、
子の入園式、卒園式等の行事や予防接種等の通院のための勤務時間中の外出を認める制度(法に基づく子の看護休暇を上回る範囲に限る)などが該当。
【図および注釈】厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」P33「育児休業の取得の状況の公表の義務付け」より

2023年4月 給与のデジタル通貨払いの解禁

デジタル通貨払いが解禁になります。

2023年4月解禁のデジタル給与払い概要

2023年4月に、いわゆるデジタル給与払いが解禁されることが決まっています。現金払い、銀行口座振込に次ぐ第3の支払い手段となります。すべての資金移動業者が対象になるわけではなく、参入にあたって一定の基準を満たしたうえで認可を受けた事業者のみがデジタル払いを行うことができるようになるルールとなります。

給与のデジタル払いとは、企業が銀行の口座を介さず、スマートフォンの決済アプリや電子マネーを利用して振り込むことを可能とすることです。○○ペイ、等という名称の決済サービスが多く存在していますが、そういったサービスに企業から直接給与を送金することが可能になるということです。これまで、給与は通貨による支払いを原則としていましたが、QRコードを利用したキャッシュレス決済が広まる時代に合わせた変化だと言えます。

ほか制度の詳細

・資金移動業者は銀行に比較して許認可要件が緩く倒産リスクなども高いと言えるため、リスク防止のために、資金決済法に基づいた現在の金融庁のルールに加え、さらに厚生労働省が設けた基準を満たす事業者のみに「給与デジタル払い」の許可を出す形で運用されるという基準が設けられます。

・厚労省での具体的な許認可のルールは2023年4月1日の施行に向けて順次公開されるものとみられます。報道によれば、4月から申請受付を開始して、数カ月の審査を経て事業者登録が行なわれるとのことで、同制度の活用が始まるのは4月以降、当分経ってからのことになりそうです。

・「給与デジタル払い」で利用する決済事業者のアカウントの残高上限は100万円までとなっています。これは既存の上限額ですが、給与に関しても同じ規制が適用されます。ただし、送金不可能となることを避けるため、給与について上限を超える金額についてはアカウントに紐付けた銀行口座などへの待避などの対策が盛り込まれることになっています。この点が問題で、本来、銀行口座が作成しにくい外国人労働者向けの利便性を図ったサービスだった趣旨が骨抜きになりかねないと批判されているところです。各論はまだ不明な点がありますので、今後の発表を待ちたいところです。

・デジタル払いは労働者が希望したときのみに支払い手段として選択でき、雇用者がその手段や事業者を強制することは認めないものとされています。この点は現在の銀行口座振り込みと同様の扱いです。労働者の同意なく資金移動業者のアカウントへの支払いが行なわれた場合、労働基準法違反なるものとされています。

2024年4月施行予定 医師の働き方改革・運送業/建設業に関する働き方改革関連法制度の施行

2017年以降に働き方改革に関連する法制度が順次施行され、労働時間に関する上限規制やその他の環境整備が行われてきました。そうした中で、医療・運送・建設業等の特定の業界に関しては、急の規制を行うことが実情に合わないということで法制の適用が延期されていました。
これらの業界について個別の規制が議論され、2024年4月より順次適用となります。それぞれ審議会で具体的な規制内容が議論され、ほぼ各論で定められた内容も多くなってきていますが、施行時期に向かって詳細資料等が今後発表されていくものと思われます。制度の詳細については予定情報が多いことと、2024年以降の施行となるため、今回の特集では法制度の検討状況を記載するのみに留めます。

【人的資本経営の実施】

人的資本経営については、2022年の「新しい資本主義に関するグランドデザインと実行計画」において主要な政策として進めることが明記され、順次関係する法改正が実施されています。近年の法制度まで視野に含めると、以下のような法改正が行われています。2023年には、上場企業に関する有価証券報告書の記載事項に関する金融商品取引法に関する改正が行われ、今後の推進が行われていくことになります。

人的資本の「制度開示(法令上の制度となっている人的資本の情報開示)」の一覧

1.有価証券報告書での人的資本関係の情報開示を義務化(上場企業対象、2023年の法改正として今回掲載
・人的資本に関する情報として社内環境整備方針・人材育成方針、多様性として、男女賃金差・男性育休取得率・女性管理職比率等を記載することになっている。

2.雇用関係の法令や制度の改正で定められた事項(全企業対象、人数要件があるものもある)
・男女・正規/非正規社員の賃金差の開示義務(既に府令改正済、開示は今後)
・副業・兼業についての情報の開示義務(既にガイドライン改定済)
・男性社員の育児休業取得率の開示義務(2023年の法改正として今回掲載
・健康経営の強化と健康情報のより強化された開示(義務ではなく任意、方針実施中)
・中途採用比率の開示義務(既に施行済)
・育成・リスキルの強化についての政策の強化(既に実施が進められている)

※前提として、近年増えている「措置義務」が定められている法改正や、女性活躍推進法や次世代法の情報開示・一般事業主行動計画の規定義務などの制度全体も、制度趣旨が人的資本経営と強い繋がりを持っており、広い意味での制度開示と一体的なものであり、一体的に扱う必要があるものと考えられる。

関連して「ビジネスと人権」関係の動きも人的資本経営と広い視野では関係する動きとして進められており、人的資本経営で特に「コンプライアンス」「リスクマネジメント」の視点として重視される動きとなります。これについても2022年以前以降の動きを概観します。

関連記事:【速報解説】人的資本の整備に「新しい資本主義の実行計画&骨太の方針」の影響が大!

有価証券報告書での人的資本関係の情報開示を義務化(上場企業において2023年3月31日以降の決算に適用、有価証券報告書のサステナビリティや人的資本に関する情報開示)

金融証券取引法の内閣府令が改正され、2023年3月31日以降の決算期となる有価証券報告書において、サステナビリティ・コーポレートガバナンスに関する開示時と共に、人的資本に関する開示が義務化されます。内容的には、2022年の初めから金融審議会で検討されていた開示案とほぼ同じ内容となりました。

人的資本、多様性に関する開示の内容

人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針及び当該方針に関する指標の内容等について、必須記載事項として、サステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」と「指標及び目標」において記載が求められます。

また、改正された女性活躍推進法・育児介護休業法に基づき、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表している会社及びその連結子会社に対して、これらの指標を有価証券報告書等においても記載を求めることとされています。

画像:有価証券報告書のサステナビリティや人的資本に関する情報開示(厚生労働省)

補足事項

なお、これらの指標を記載するに当たって「任意で追加的な情報を記載することが可能」であることが定められました。単に指標の数量を開示するだけではなくその指標の背景となる、人的資本経営に関する人材戦略や施策の方針を含めて記載することが行政によって求められていると解釈されるような表現であると言えます。

また「サステナビリティ記載欄の「指標及び目標」における実績値に、これらの指標の記載は不要であることを明確化する」という記載が府令改正案にあります。サステナビリティに関する環境や企業の持続性に関する情報とは峻別して、人的資本に関する情報についてはそれぞれの企業で人材戦略としてのまとまりをもって記載することが求められているものだと言えます。

参考:サステナビリティに関する記載・コーポレートガバナンスに関する記載

有価証券報告書等に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、「ガバナンス」及び「リスク管理」については、必須記載事項とし、「戦略」及び「指標及び目標」については、重要性に応じて記載を求めることとされました。

サステナビリティ情報をはじめとした将来情報の記載について、将来情報について社内で適切な検討を経た上で記載されている場合には、記載した将来情報と実際の結果が異なる場合でも、直ちに虚偽記載の責任を負うものではないことを明確にする旨の制度上の方針も記載されています。他にも「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待される、ということも制度上に方針として記載がされています。

他、コーポレートガバナンスに関する記載事項として、取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、出席状況)、内部監査の実効性(デュアルレポーティングの有無等)及び政策保有株式の発行会社との業務提携等の概要についても記載を求めることとされました。

法務省のビジネスと人権のガイドライン・関連するガイドラインの強化

2020年10月に、省庁横断で日本政府として「「ビジネスと人権」に関する行動計画」を策定しました。政府としては、日本企業が人権尊重の責任を果たし、また、効果的な苦情処理の仕組みを通じて問題解決を図ることを期待するとともに、そのような取組を進める日本企業が正当に評価を得る環境づくりを目指しています。

参照:「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)について(法務省)

2022年9月、さらに省庁横断で政府から発出された企業が人権対応を進めるための指針「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」が具体的な内容をしめすものとなっています。企業における人権デューデリジェンスの実施を後押しする内容となっており、企業の対応が具体的に書かれており、具体例も提示されています。日本で事業活動を行う企業は、企業規模や業種等に関わらず、すべて人権に配慮していくことが求められるとの記載があります。2023年に関してはこうしたガイドラインが一層推進され、さらに「ビジネスと人権」についての制度の充実が図られることと思われます。

参照:ビジネスと人権(法務省)

「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」の内容について

同指針は、すべてのリスクに対して、企業が同時に対処していくことを求めるものとなってはいません。企業の規模や事業の性質を考慮したうえで、優先順位の高い課題から順次対応していくことが重要だとされています。企業の取組みとしては、まず経営陣のコミットメントを得たうえで、ステークホルダーとの対話を重ね、取引先との関係を維持しながら問題の防止・軽減に努めることが重要だとされます。その上で、取引停止を「最後の手段」と位置づけ検討することを求める内容です。
2020年に発出された行動計画と同じく法的拘束力を持たないものの、海外での義務化の動きを受けて、今後日本でも法制化に向けた検討が進めるものとされています。

制定の背景や経緯、影響等

2011年に国連人権理事会で合意された「ビジネスと人権に関する指導原則」は企業活動における人権尊重のあり方に関する基礎的な国際文書となっています。企業の人権尊重を促す様々な政策が各国でも講じられており、国境を越える活動を展開する企業は、事業を実施する国の国内法令を遵守するだけではなく、国際的な基準等に照らしてその行動が評価されるようになっています。企業規模を問わず、取引先も含む人権尊重の状況についてリスクを特定し、適切な対策を講じる必要があります。

また、企業活動における人権尊重は、いわゆる「ESG投資」を構成する「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」のうち、「社会」に区分される重要な要素の一つであり、拡大するESG資金の呼び込みの観点からもその重要性は増してきています。投資家は、企業による人権分野の取組の情報開示と、それに基づく広範なステークホルダーとの対話を期待するようになっています。

資本市場や産業界とも連動した取り組みであり、東京証券取引所が、2021年6月に公表した「改定コーポレートガバナンス・コード」では、人権の尊重がサステナビリティを巡る課題の1つに挙げられたほか、経団連が2021年12月に公表した「改定企業行動憲章 実行の手引」では、第4章に人権を尊重する企業の責任が記されています。

【スタートアップ企業への関連施策の充実】

スタートアップ支援施策は「新しい資本主義」でも注力される政策の軸の1つでしたが「スタートアップ育成5か年計画」が案として「新しい資本主義実現会議」で2022年11月に発出され、順次確定に至る見込みです。これは、5年間をかけて予算の投下10兆円を予定する大型の政策パッケージとなります。ロードマップで時期が明示されている施策も多くあります。

参考:第3回スタートアップ育成分科会配布資料

政策の目的としては、日本におけるスタートアップの成長率が低く、ユニコーン(時価総額1000億円以上の未上場企業)の数も欧米に比べて低いことを問題視し、日本にスタートアップを生み育てるエコシステムを創出し、将来においてはユニコーンを100社創出し、スタートアップを10万社創出することにより、我が国がアジア最大のスタートアップハブとして世界有数のスタートアップ集積地となることを目指すものとしています。

画像:「「スタートアップ育成5か年計画ロードマップ」案(」政府・新しい資本主義実現会議)

【図】資料「スタートアップ育成5か年計画ロードマップ」案(内閣官房)より

特に重視されるのが「スタートアップの担い手の多数育成」であり、若い人材の発掘や起業家育成が重視されています。その上で、スタートアップの投資やイグジット戦略の充実を図るものとし、政策の軸として以下の3点を置いています。

【1】スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
【2】スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
【3】オープンイノベーションの推進

具体的な政策内容について

政策内容は、上記の3つの柱を軸として多岐にわたりますが、本稿においては特に、人材育成・雇用政策に近い政策のみをピックアップして概観して参ります。これらの政策は、順次実行に移されるものとされています。

若手人材の教育の場での工夫

若手人材の発掘、育成について以下のような方針が決定されています。企業でも、特に採用においてこうした施策を参考にして特にイノベーションを目指す組織の育成方針を決定したり、こうした人材へのアプローチを行っていったりすることなどが考えられています。具体的には以下のような方針が掲げられています。

  • メンターによる支援事業の拡大・横展開として、IT 分野では、「未踏事業」(情報処理推進機構)において、産業界・学界のトップランナーが、メンターとして才能ある人材を発掘(採択審査)し、プロジェクト指導を実施してきている(年間 70 人規模)。全体で育成規模を「年間 70 人」 から5年後には「年間で 500 人」へと拡大する。
  • 海外における起業家育成の拠点の創設、起業を志す若手人材 20 名を選抜してシリコンバレーに派遣する派遣事業 について、今後、派遣規模5年間で 1,000 人規模に拡大する。さらに、シリコンバレーとボストンに日本のビジネス拠点を新設する。
  • 大学・小中高生でのスタートアップ創出に向けた支援が多様に行われる。

再チャレンジを支援する環境の整備・スタートアップへの労働移動

スタートアップ企業を創業したり、他の企業に属している労働者がスタートアップで働きやすくするため、再チャレンジを支援するような制度や副業兼業の促進、専門家活用の促進などが行われることとされています。具体的には以下のような方針が掲げられています。

  • 2022年に雇用保険法を改正し、失業給付について、本来なら原則離職後1年が経過すると受給資格を失うこととしたところ、起業して事業を行っている間は最長3年までは、受給期間に算入しないという制度が創設され、この制度の利用拡大を図ることとされています。
  • 国内の起業家コミュニティの形成促進
  • 労働者にスタートアップへの労働移動の機会を与えるためにも、企業間・産業間の失業なき労働移動の円滑化、リスキリング(成長分野に移動する学び直し)のための人への投資、これらを背景にした構造的賃金引上げ、の3つの課題の同時解決を目指し「労働移動円滑化のための指針」を 2023年6月までに取りまとめる。
  • スタートアップへの円滑な労働移動にも資するよう、労働政策として、副業・兼業の促進を強化し、副業に人材を送り出す企業又は副業の人材を受け入れる企業を支援する。また、大企業の人材による出向の形での起業に対する支援を強化する。
  • スタートアップの事業化に向け、経営・法務・知的財産などの専門家による相談や支援を強化する。また、ベンチャーキャピタルを通じて知財戦略専門家をスタートアップにつなぐなどの支援を強化する。

WEB3技術に関する組織や事業への活用の促進・支援

特に官民でも注目されている、ブロックチェーンを活用した新技術であるWEB3関係の領域の推進や手法としての活用が特に注力されるポイントとされています。DAOなどは新しい組織形態・働き方として注目されているものとなります。具体的には以下のような方針が掲げられています。

  • 地方創生や社会課題の解決に向け活用が期待される、ブロックチェーンを基盤とするDAO(分散型自律組織)の便益と課題を早急に整理する。
  • デジタル技術を用いたアート・ゲーム等のコンテンツビジネスの国際展開に向けて、新たなユースケースの発掘や支援を行う。
  • ブロックチェーン技術を始めとするデジタル関連先端技術を担う人材を国内で確保・育成する。
  • 高度な技術や専門知識を有する海外人材と日本のスタートアップとの協業を促すため、海外人材の呼び込み、民間と連携した国内外の Web3.0 人材の交流機会の創出など、海外人材が活躍できる環境整備を行う。

社会的起業のエコシステムの整備とインパクト投資の推進

スタートアップの中でも、特に社会的な課題の解決を意図した創業を促進する目的での起業や投資について、注力する旨の方針が掲げられています。具体的には以下のような方針が掲げられています。

  • スタートアップの起業の動機は「社会的な課題を解決したい、社会の役に立ちたい」が筆頭となっている。国内大学において社会的起業家(インパクトスタートアップ)に関する教育プログラム開発やネットワークづくり等を支援し、社会的起業家を育成する拠点づくりを促進する。
  • 社会的起業家を志す若手人材などを海外に派遣するプログラムを推進する。
  • これまで官が担ってきたサービスについても、多様なニーズにきめ細かく対応するため、民間の主体的な関与が期待されている。課題先進国であるといわれる我が国において、世界に先んじて社会的課題を成長のエネルギーとして捉え、解決していく仕組みを経済社会の中にビルドインしていく。インパクト投資の推進と社会的企業への支援強化等を図るため、民間で公的役割を担う新たな法人形態・既存の法人形態の改革の検討、国際認証を踏まえたインパクトスタートアップの日本版の認証制度の創設の検討を行う。
  • 社会的起業家への、公共調達の優遇や地方自治体との連携・ふるさと納税/企業版ふるさと納税の活用・ファンドの支援など、様々な政策が行われる。

※2022年11月末時点の情報をもとに解説しています

執筆者紹介

松井勇策(まつい・ゆうさく)(組織コンサルタント・社労士・公認心理師) フォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表、情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議議長・責任者。 最新の法制度に関する、企業の雇用実務への適用やコンサルティングを行っている。人的資本については2020年当時から研究・先行した実務に着手。国際資格も多数保持。ほかIPO上場整備支援、人事制度構築、エンゲージメントサーベイや適性検査等のHRテック商品開発支援等。前職の㈱リクルートにおいて、組織人事コンサルティング・東証一部上場時の上場監査の事業部責任者等を歴任。心理査定や組織調査等の商品を。 著書「現代の人事の最新課題」日本テレビ「スッキリ」雇用問題コメンテーター出演、ほか寄稿多数。 【フォレストコンサルティング経営人事フォーラム】 https://forestconsulting1.jpn.org

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