人事の10分読書vol.15『心理的安全性のつくりかた』
2022.05.24
@人事が、本の要約サイト「フライヤー」とコラボし、人事のスキルアップにつながる書籍の要約をお届けする連載企画「人事の10分読書」。
第15回は『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)を紹介する。
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レビュー
「心理的安全性」とは、組織やチーム全体の成果に向けて、率直な意見や素朴な疑問、そして違和感の指摘がいつでも、誰でも気兼ねなく言えることだ。
この考え方の重要性を見出したのは、グーグルである。同社が4年の歳月をかけて「効果的なチームはどのようなチームか」を調査・分析した結果、「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」のほうが真に重要だということがわかった。さらに圧倒的に重要なのが心理的安全性であり、心理的安全なチームは離職率が低く、収益性が高いとも結論づけられている。
もちろん心理的安全性の重要さは、グーグルだけが発見したわけではない。組織行動を研究する研究者たちも、さまざまな成果を学会に発表しており「業績向上に寄与する」「イノベーションのプロセスや改善が起きやすくなる」「意思決定の質が上がる」といったビジネスの現場における有用性が次々と報告されている。
いま、新型コロナウイルスの感染拡大によって生活や仕事で大きな変化を余儀なくされている方も多いだろう。このように先が見えず、変化の激しい時代には「確固とした正解がある」時代のチームマネジメントは役に立たなくなっている。だからこそチームの心理的安全性を高め、「挑戦・模索」からチームの学習を促進することの重要性が増しているのだろう。
本書は単なるノウハウ集ではなく、理論と体系に基づいて実践に向けた指針が示されており、多くのビジネスパーソンにとって、これからの働きかたの実現に向けた必携の書となるだろう。
【ヨコヤマノボル(ライター詳細)】
著者プロフィール
石井遼介(いしい りょうすけ)
株式会社ZENTech取締役
一般社団法人 日本認知科学研究所理事
慶應義塾大学 システムデザイン・マネジメント研究科 研究員
東京大学工学部卒。
シンガポール国立大 経営学修士(MBA)。
神戸市出身。
研究者、データサイエンティスト、プロジェクトマネージャー。
組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発すると共に、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。2017年より日本オリンピック委員会より委嘱され、オリンピック医・科学スタッフも務める。
『心理的安全性のつくりかた』の要点
- チームの心理的安全性とは、一言でいうと「メンバー同士が健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をすることに力を注げるチーム・職場のこと」である。
- 心理的安全な職場とは、メンバーどうしが和気あいあいとしているだけの「ヌルい職場」ではない。高い基準の目標を達成するため、健全な衝突が起こる職場のことだ。
- 日本の組織では、「話しやすさ・助け合い・挑戦・新奇歓迎」という4つの因子があるとき、心理的安全性が感じられるということが、著者の研究で確認されている。
【必読ポイント!】 心理的安全なチームとは、「ヌルい職場」?
そもそも「チーム」とはなにか
「チームの心理的安全性」という概念を提唱したのは、ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授だ。教授は論文の中で「チームの心理的安全性とは、チームの中で対人関係におけるリスクをとっても大丈夫だ、というチームメンバーに共有される信念のこと」だと定義した。より現場に即した言い方をすれば、「メンバー同士が健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をすることに力を注げるチーム・職場」が心理的に安全なチームである。
そもそも「チーム」とはなにか。実は職場でチームという考えが導入されたのは、比較的最近のことだ。マサチューセッツ工科大学のオスターマン教授は、「職場における、チームという概念それ自体が、1980年代以降、最も広まったイノベーションのひとつだ」と評している。単なる人の集団、すなわちグループは、共通の目標に向かって互いにアイデアを生み出し、ともに問題に取り組むという活動や相互作用によってチームへと変わっていく。
ハイ・スタンダードの仕事
「心理的安全性」の誤解の最たるものが「ヌルい職場」という認識だろう。この誤解を解き、心理的安全性を正しく機能させるためには、「仕事の基準」(スタンダード)という考え方を理解する必要がある。
ビジネスでは、さまざまな制約で「妥協」の必要性が生じるものだ。ハイ・スタンダードとは、この妥協点が高いことを指す。
「仕事の基準」と「心理的安全性」でマトリクスで描き、職場を4象限に分けて考えてみよう。心理的安全性が高いが、仕事の基準が低いのが、和気あいあいとしているが仕事の充実感はない、「ヌルい職場」だ。「ヌルい」原因は、心理的安全性にあるのではなく、「仕事の基準」が低いことにある。
仕事の基準も心理的安全性も低いと、リスクを冒してまで他人と関わろうとしない、事なかれ主義の「サムい職場」になる。
一方で仕事の基準は高く、心理的安全性が低いのは「キツい職場」だ。ここではメンバーは罰を避けるために努力することになる。
本書が目指すのは、ハイ・スタンダードで、心理的安全性の高い「学習して成長する職場」だ。メンバーは健全な衝突を起こし、多様なアイデアを効果的に活用することができる。このような職場では、離職率が低く、収益性も高くなることが特徴だ。
日本のチームの心理的安全性
エドモンドソン教授の作成した心理的安全性を計測する質問では、米国とは異なる文化背景を持つ日本の職場の心理的安全性を正確に測定することができなかった。そこで著者は、「日本のチームの心理的安全性」を計測する組織診断サーベイを開発し、これまで6000人・500チームで計測している。
そこから見えてきたのは、「日本の組織では(1)話しやすさ、(2)助け合い、(3)挑戦、(4)新奇歓迎、という4つの因子があるとき、心理的安全性が感じられる」ということだ。
この4つの因子にアプローチして、心理的安全性を高める取り組みは、変えやすい順に「行動・スキル」「関係性・カルチャー」「構造・環境」という3つの段階がある。組織構造や意思決定プロセスなどが含まれる「構造・環境」の変革は難しい。「構造・環境」は前提環境として認識し、本書のスコープは「関係性・カルチャー」レベルでチームの心理的安全性をもたらすこととする。
心理的安全性をもたらすリーダーはあなただ
心ではなく「行動」にフォーカスする
地位や役職にかかわらず、自分のチームや組織に心理的安全性をもたらそうという意思を持って行動すれば、あなたは心理的安全性をもたらすリーダーだ。
現在の心理的安全性の度合いは、組織やチームの歴史が積み重なった結果である。メンバーが不安や罰を避けるために意見を言わないのだとしたら、それがカルチャーとして染み付いてしまっているのだ。
一つ一つの行動を変えていかなくては、チームは変わらない。その土台になるのが本書が提案する「心理的柔軟なリーダーシップ」だ。「その時々に応じて、本質的に役に立つことをする」リーダーシップを発揮できれば、チームの心理的安全なチームをつくることができる。著者らの研究では、リーダーやメンバーの心理的柔軟性の向上はチームの心理的安全性を向上させること、特にリーダーの心理的柔軟性はチームの心理的安全性にチームの学習の促進にも影響があることがわかっている。
心理的柔軟性の3要素
心理的柔軟性には「必要な困難に直面し、変えられないものを受け入れる」「大切なことへ向かい、変えられるものに取り組む」「それら変えられないものと、変えられるものをマインドフルに見分ける」という3つの要素がある。
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