特集

「経営判断ツール」「企業価値創出ツール」としてのISO 30414実務完全マニュアルvol.4


ISO 30414の「経営」「組織のあり方」の捉え方、重視すべき日本の労働環境・法令と制度

2022.02.15

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「ISO 30414」を人事担当者や経営者が「経営判断ツール」「企業価値創出ツール」として労務や人事企画で実践していくための方法論や活用方法を紹介する特集。前回は、ISO 30414と「人事労務監査」の関係性や、ストレスチェック、エンゲージメントサーベイなど組織調査・研修について触れた。
今回からは、いよいよISO 30414をツールとして使うための解釈と活用に入る。
解説は、ISO 30414リードコンサルタントの松井勇策氏と米澤裕美氏、監修はSP総研代表でHRテクノロジーコンソーシアム理事の民岡良氏が務める。

参考:
vol.1:ISO 30414とは――日本企業が労務と人事企画で取り入れる価値
vol.2:明日からISO 30414を「使う」ための最重要ポイント~使う目的と方法~
vol.3:ISO 30414の重要論点~IPO等の場面での人事労務監査との同時実地&必須の組織調査や研修のまとめ~

目次
  1. ISO 30414の捉え方と「経営」「組織のあり方」カテゴリについて
  2. 各カテゴリを解釈する上での既存の労務法務上の制度や人事慣行との間の考え方
  3. 「経営」カテゴリの具体的な領域の解釈・活用
  4. リーダーシップ・日本の人事の問題点であるマネジメントの課題への対応
  5. 「組織のあり方」カテゴリの重要な点
  6. 「3ダイバーシティ」の指標と、近年法改正が続く様々な法体系や制度
  7. 「5組織風土」「6健康・安全・幸福」の留意点
  8. ISO 30414と労災 メンタルヘルスマネジメントと日本国内の法令制度

ISO 30414の捉え方と「経営」「組織のあり方」カテゴリについて

vol.1で、ISO 30414は、その目的・内容を実質的に見るときに、
企業規模を問わず使うことができる、多面的で完成度の高い、“人”の側面からの「経営判断ツール」である。さらに、ISO3041の観点で整備をして外部開示を行うことで企業価値に対する評価を飛躍的に高め、大きな信頼性向上をもたらす「企業価値創出ツール」である。
と述べました。

そのようなツールとして使うためには、各論での活用方法や、国内での労務法務や人事的な運用の一般水準を踏まえつつ、有機的に解釈を行う必要があるのです。本特集ではその方法を具体的に解説していきます。
今回のvol.4は、まずISO 30414の11領域を、便宜的に4つのカテゴリにまとめたもののうち、「経営」と「組織のあり方」の2カテゴリについて見ていきます【下画像の赤枠の領域】。

画像:「経営判断ツール」「企業価値創出ツール」としてのISO 30414(@人事編集部)

各カテゴリを解釈する上での既存の労務法務上の制度や人事慣行との間の考え方

ISO 30414を活用する上で、特に4つのカテゴリの中の「組織のあり方」「人材管理」は既存の日本の法制度と趣旨や運用が共通するものが多いです。

しかしながら、ISO 30414の体系自体は米国や欧州でまとめられたものであるため、各領域や指標自体に日本の法制度に基づく用語や概念は出てきません。
そのため、日本の法制度と重なる部分については既存の労務法務上の運用を反映させて捉える必要があり、それを認識しないと同一の事項への、法令に基づいた既存の制度運用との間で矛盾した解釈となる可能性があるだけでなく、極端な場合は違法性を帯びるということもあり得ます。

具体的に、たとえは労災や健康・安全・幸福の項目で、既存のストレスチェックや健康診断、衛生管理体制や労働安全衛生法におけるルールを踏まえない抽象的な概念整理がされたり、ダイバーシティ関連の項目で、既存の女性活躍推進法・育児介護休業法・障碍者雇用促進法・高齢者雇用安定法の、特に行動計画等の制度との相互の関係性に配慮がない形での分析がされることなどが考えられます。

たとえば上記のような項目は、既存の法制度上で既に行われている法令上の義務や努力内容をもとに情報整理をすれば良いのであって、現行法上の方針を良く踏まえる必要性が非常に高いと思われます。

「経営」カテゴリの具体的な領域の解釈・活用

4 リーダーシップ

※①リーダーシップに対する信頼 ②管理職1人当たりの部下数 ③リーダーシップ開発

10 後継者計画

①内部継承率 ②後継者候補準備率 ③後継者の継承準備度( 即時) ④後継者の継承準備度(1-3年,4-5年)

※★は必須の外部開示項目、※は大企業のみの開示項目とされている

「経営」に位置づけられる基準については、日本のローカライズされた現状を良く踏まえて捉えていくべき項目です。

特に「経営」カテゴリのリーダーシップの領域は多義的であり、トップマネジメントとミドルマネジメントを含む意味合いに取れるようなものであると解釈してよいと思います。
管理職や経営層の能力開発と、従業員側からの信頼度等の定量調査が置かれており、これらへの経営方針や実態を背景とし、それぞれの項目の定量データの背景にある解釈・方針に従って分析・開示するものとなるでしょう。

また、後継者計画、サクセッションプランについては日本であまりなじみのない考え方であると言えます。欧米型の人事慣行とジョブ型の人事によるものですが、日本は定期評価制度と人事異動等の実態をもとにした課題抽出と定量化で良いのではないかと思われます。一方で、グローバルな人事施策も見据えた整理が必要であると言えます。

リーダーシップ・日本の人事の問題点であるマネジメントの課題への対応

日本の非常に大きなローカルの組織課題の1つが「マネジメント」であることは間違いがないと言えます。
まず、マネジャーの負荷の問題があります。プレイヤー業務を抱えるマネジャーは98.5%もおり、業務の半分がプレイヤーというマネジャーも49.1%にのぼります(出所:「上場企業の課長に関する実態調査」2019 産業能率大学総合研究所)。

プレイング化が進む中で、マネジメント業務に割ける時間は少なくなっています。それにも関わらず、仕事への制約があるさまざまな事情を抱えた部下が増え、メンタル不良への対応やコンプライアンス問題への対応もしなければなりません。

ISO 30414で定められている指標で「リーダーシップに対する信頼」というものがありますが、こうした部下視点での指標に対しての各企業のスタンスや工夫を見極めるという意味合いで、非常に意味深い指標であると言えます。また、「管理職1人当たりの部下数」において、組織体制の妥当性も複合的に見えるような仕組みになっています。

現状の日本の法制度は、メンタルヘルスマネジメントの領域で現場上長によるケア=「ラインケア」の要としてのマネジャーの役割が重視されています。また、ストレスチェックにはエンゲージメントを測定する項目もあり、集団分析も努力義務として推奨されています。こうした指標を用いることも考えられると思います。。

「組織のあり方」カテゴリの重要な点

1 倫理とコンプライアンス

※①提起された苦情の種類と件数 ※②懲戒処分の種類と件数 ★③倫理・コンプライアンス研修を 受けた従業員の割合) ④第三者に解決を委ねられた紛争 ⑤外部監査で指摘された事項の数 と種類

3 ダイバーシティ

※①年齢 ※②性別 ※③障害 ※④その他 ※⑤経営陣のダイバーシティ

5 組織風土

①エンゲージメント/ 満足度/コミットメント ②従業員の定着率

6 健康・安全・幸福

※①労災により失われた時間 ★②労災の件数(発生率) ★③労災による死亡者数(死亡率) ④健康・安全研修の受講割合

※★は必須の外部開示項目、※は大企業のみの開示項目とされている

組織のあり方としてカテゴライズした部分については、日本も人的資本的な取り組みを求める法制度や既存の仕組みが多く、日々の人事業務と密接に絡んだ活用ができる部分です。

コンプライアンスの領域は懲戒件数等の報告が求められていますが、日本で近年、セクハラ・パワハラ・マタハラ等の禁止と措置義務を定めた法令群が制定され、各企業での取り組みが行われていることと思います。こうした取り組みがまず必要であり、単に人事方針上の定めがあることだけではなく、法令上の措置義務と対応した内容であるかどうか含めた確認が実質的に重要です。
法令上の措置義務において定められた相談先と対応した相談件数が、そのまま紛争として把握される内容となると思われます。こうした内容が、法令に基づいた規程整備が行われた形で実施されているかも重要なポイントとなると考えられます。

また、内部監査報告については主に雇用法制上の法違反等についての客観報告が求められており、これについては最近設定された、全国社会保険労務士連合会の「経営労務診断」等が使いやすい仕組みであり、ここで言う「監査」は、いわゆる人事労務監査のことであると考えられます。これについては既に本特集のvol.2で解説しています。

vol.2:明日からISO 30414を「使う」ための最重要ポイント~使う目的と方法~

「3ダイバーシティ」の指標と、近年法改正が続く様々な法体系や制度

ダイバーシティは重要な項目ですが、単に性別や国籍などの変えられない属性についてのデモグラフィック・ダイバーシティだけでなく、考え方やスキル特性などについてのコグニティブ・ダイバーシティまで多く包含された概念だと言えます。

デモグラフィックな性別についての女性活躍や、育児・高齢者・病気治療との両立支援などについては、それぞれ法令や政策が様々に行われています。特に、女性活躍や育児についての一般事業主行動計画や法令上の制度活用については重要な項目であり、対象者数と背景の考え方の基軸となるものとして重要な内容だと言えます。こうした内容との連動性を踏まえた報告が求められるものであると考えられます。

他、人員構成や労働力、入社や離職を含んだ組織体制についての定量的な測定は、人材の管理の効率性を数値化するものであり、テクノロジーによる管理とも非常に適合性が高い重要な項目でしょう。この辺りは、「人材管理」カテゴリにおけるスキルやコンピテンシーともかかわりが深いため、特集の別の記事で述べます。

「5組織風土」「6健康・安全・幸福」の留意点

組織風土の領域については基準においてはエンゲージメントを測ることを中心とした記載がありますが、日本においても、特徴的な自社の制度や文化を、一定の方法で検討したり測ったりしている企業は多いものと思います。一定の「定量性・計測性・可能な限り第三者を交えた客観性」は必要ですが、こうした独自の計測を工夫する余地はあるものだと言えるでしょう。

健康・安全・幸福については、労災件数などの計算が求められていますが、安全に向けての取り組みを背景として記載すべきものであり、労働安全衛生法上の衛生管理体制は直接に接続される項目でしょう。

また、広がりを見せている「健康経営」における、健康診断の100%実施や健康安全向上のための運動・食・メンタルヘルスマネジメントに関する事項も直接関係してくるような項目であると考えられます。健康経営で重視されている項目でもありますが、ストレスチェックをはじめとした法制化もされているメンタルヘルス施策やその集団分析は直接かかわるような労災の予防策です。(メンタル問題の労災が日本においても最も増加率が高い内容であることからもそのことが言えます。)健康安全研修も接続した内容であると言えます。

ただし、今回挙げたような項目は、マイナスをプラスに転ずることが目的としては大きな施策であることを認識する必要があります。「健康・安全・幸福」の指標においてゴール地点になるのは、働く方の全人生的なウェルビーイングの実現であり、人的資本を最大化できるとも言えます。特に、キヤリアの志向や働き方の希望などについては、ツールや面談などでの把握や、実現に向かえる仕組み・組織風土・マネジメントの工夫などが背景にあって実現できるものだと考えられます。

ISO 30414と労災 メンタルヘルスマネジメントと日本国内の法令制度

他の論点として「健康・安全・幸福」の領域では、「労災による失われた時間」「労災の件数:労災による死亡者数」「健康・安全研修の受講割合」を公表することとなります。

企業は、安全衛生の研修・ハラスメント研修・長時間残業対策・ストレスチェック・安全衛生委員会等の実施・従業員の仕事適正を見るなどさまざまな取り組みをしていく必要があり、取り組んだ結果、労災事故が極力でないような環境づくりにつながり、それ自体が人的資本の必須の一部となるといえるでしょう。

仕事に関して不安やストレスを感じている労働者は約6割にのぼるといわれています。
年々、精神障害を発症し労災認定がおりる件数も増加傾向にあり、精神障害での決定件数は
平成30年1461件、令和元年1586件、令和2年度1906件と増加傾向あります。(出所:令和2年度「過労死等の労災補償状況」厚生労働省資料 より)

厚生労働省では、「労働者の心の健康の保持増進のための指針(平成27年11月改正)」に基づき、会社は各事業場の実態に即した形でメンタルヘルスケアの実施に積極的に取り組むことが望ましいとしています。

平成27年に導入されたストレスチェック制度は、従業員が自身のストレスの程度を把握し、ストレスへの気づきを促してメンタルヘルス不調になることを防ぐ一次予防を強化するために、定期的に検査を行うものです。検査結果を集計・分析することは法令上の努力義務でもあり、職場のストレス状況を把握し、職場環境の改善に活用することが求められる指標であり、こうして分析された高ストレス者割合等は、労災にまで至ってはいないものの、労災に繋がりかねないリスクを表す値であり、内部開示に準ずる事項として使うべきものであるとも考えられます。

このように、メンタルヘルス疾患者が極力でないような「働きやすい職場」づくりのためにはさまざまな取り組みが長期的に必要で、取組んだ結果「働きやすく労災事故が少ない職場=人的資本経営が有効に行われている職場」であるという認識につながるといえるでしょう。このような観点では、今までは計測したり開示したりしづらい側面がありましたが、ISO 30414では、定量化して公表が可能となります。

【vol.5:ISO 30414の「人事効果」「人材管理」の捉え方~人的資本ROIの解釈とジョブの定義の方法論~につづく】

※情報は記事公開時点

この記事の執筆と監修

執筆:松井勇策

画像:松井勇作(社会保険労務士・公認心理師・ISO30414リードコンサルタント、WEBエンジニア。東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議 議長・責任者。フォレストコンサルティング労務法務デザイン事務所代表。)社会保険労務士・公認心理師・ISO 30414リードコンサルタント、WEBエンジニア。東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議 議長・責任者。フォレストコンサルティング労務法務デザイン事務所代表。法務・人事制度構築・労務監査・事業開発支援などを専門とする。前職の㈱リクルートにおいては組織人事コンサルティング・法務・東証一部上場時の上場監査・ITマネジメントの各リーダー職を歴任。ほか臨床心理・文化論の実務への応用を研究機関で研究中。著書「メンタルヘルス・マネジメント」ほか寄稿多数。
https://forestconsulting1.jpn.org/
https://advancedhr.jpnx.org/

執筆:米澤裕美

画像:米澤裕美氏(特定社会保険労務士・ISO30414リードコンサルタント、 ㈳日本テレワーク協会客員研究員、東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議 副責任者。ネットワークITベンダーでのインサイドセールス部門 統括リーダー、BPR(業務改革)チームリーダー、社労士法人勤務を経て独立。2度の育児休業経験も生かした女性活躍・ナレッジマネジメント・リモートワーク整備・人事制度構築などを専門とする。米澤社労士事務所代表。著書「図解でわかる社会保険 いちばん最初に読む本」ほか専門誌寄稿多数。)特定社会保険労務士・ISO30414リードコンサルタント、 ㈳日本テレワーク協会客員研究員、東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議 副責任者。ネットワークITベンダーでのインサイドセールス部門 統括リーダー、BPR(業務改革)チームリーダー、社労士法人勤務を経て独立。2度の育児休業経験も生かした女性活躍・ナレッジマネジメント・リモートワーク整備・人事制度構築などを専門とする。米澤社労士事務所代表。著書「図解でわかる社会保険 いちばん最初に読む本」ほか専門誌寄稿多数。
https://office-roumu1.com/

監修:民岡良

画像:民岡良(株式会社SP総研 代表取締役、人事ソリューション・エヴァンジェリスト、HRテクノロジーコンソーシアム 理事)株式会社SP総研 代表取締役、人事ソリューション・エヴァンジェリスト、HRテクノロジーコンソーシアム 理事。慶應義塾大学 経済学部を卒業後、日本オラクル、SAPジャパン、日本IBM、ウイングアーク1stを経て2021年5月より現職。日本企業の人事部におけるデータ活用ならびにジョブ定義、スキル・コンピテンシー定義を促進させるための啓蒙活動にも従事。「人的資本の情報開示」(ISO  30414)に関する取り組みについても造詣が深い。著書に「HRテクノロジーで人事が変わる」(2018年労務行政、共著)等がある。労政時報セミナー、HRテクノロジーカンファレンス等、登壇実績多数。
https://www.sp-inst.com/
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