「男性育休白書 2021 特別編」・積水ハウス株式会社
全体の8割が「男性育休に賛成」回答も、経営層の4人に1人は男性の育休取得に後ろ向き
2021.09.27
積水ハウスは、企業の一般従業員から経営層および就活生など2,800人を対象に実施した調査をまとめた「男性育休白書2021特別編」を発表した。同社は、男性の育児休業取得をよりよい社会づくりのきっかけとしたい、との思いから9月19日を「育休を考える日」に記念日制定し、2019年から企業で働く男性の育休取得実態を探る全国調査を行っている。今回は、2022年4月の「改正育児・介護休業法」施行を前に、男性の育休取得の壁となる、当事者と周囲の人々との意識のギャップに注目して調査を行った。
「男性育休白書2021特別編」https://www.sekisuihouse.co.jp/ikukyu/special/
発表によると、全体の8割が「男性育休に賛成」「取得したい」と回答した一方で、経営層の4人に1人は男性の育休取得に「賛成しない」と回答。マネジメント層は75%が 「取得して家族を大切にしてほしい」と思いつつ、ほぼ同数の73.8%が「人手不足で会社の業務に支障が出る」と懸念を示していたことが分かった。また、就活生の97.8%が男性育休に賛成し、73.8%が男性育休の推進に注力し、制度整備を行っている企業を選びたいと回答し、企業の育休への取り組みが採用活動へ影響する点が示された。以下、リリースより。
関連記事:小室淑恵氏が解説。法改正で注目の男性育休の課題と企業で推進させる方法
- 「男性育休白書2021 特別編」サマリー
-
- <男性育休の壁>
全体の8割が「男性育休に賛成」「取得したい」と回答。一方で、経営層の4人に1人は男性の育休取得に後ろ向き - マネジメント層の半数が、男性従業員の育休取得の促進策を検討中
- 男性従業員の育休取得を促進しない理由は「企業規模が小さく人の手当ができない」から
- <男性育休の現場>
男性従業員の育休取得の労使ギャップ:マネジメント層は促進しているつもりでも取得したい当事者には届いていない? - 男性従業員の育休取得:背中を押したい気持ちはあるものの、困りごとが頭をよぎるマネジメント層
- <男性の育休制度と就活>
男性従業員の育休制度は、就活層の企業選びにも大きく影響。男性就活層の約8割が男性の育休推進企業を「選びたい」 - 就活生にとって男性従業員の育休制度の充実度は、経営層が考える以上に影響力が大!
- 「男性育休白書2021特別編」調査概要
- 解説:就活層の男性育休意識と企業の変化対応能力(ジャーナリスト/東工大准教授 治部れんげさん)
- 解説:男性の育休取得は、企業の成長にもプラスの作用(NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事・ファウンダー 安藤哲也さん)
- <男性育休の壁>
<男性育休の壁>
1.全体の8割が「男性育休に賛成」「取得したい」と回答。一方で、経営層の4人に1人は男性の育休取得に後ろ向き
厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査結果」によると、日本の男性の育休取得率は12.65%です。一方で、今回の当社のアンケートで男性の育休取得の賛否を聞くと、全体の88.1%が「賛成」と答え、就活層は97.8%ほぼ全員が賛成しています。一方、経営者・役員の賛成は76.0%にとどまり、4人に1人は「賛成しない」(24.0%)と答えており、残念ながらギャップが生じています[図1]。
2.マネジメント層の半数が、男性従業員の育休取得の促進策を検討中
経営者や役員、部長クラスなどのマネジメント層400人に、男性従業員の育休取得制度の今後の予定について聞きました。すると、「促進予定があり、現在具体的に検討中」27.3%、「促進予定はあるが具体的な検討はしていない」25.0%となり、半数以上(52.3%)のマネジメント層が、男性従業員の育休取得制度を一層促進させる予定があることがわかりました[図2]。
2022年4月からの「改正育児・介護休業法」の施行もあり、男性の育休取得環境は一層推進されそうです。
3.男性従業員の育休取得を促進しない理由は「企業規模が小さく人の手当ができない」から
上記[図2]で男性従業員の育休取得を「促進する予定がない」と答えたマネジメント層に、促進しない理由を聞きました。すると、「企業規模が小さい」(53.4%)が最も多く、「従業員の人数が少なく、休業中の従業員の代替要員の手当ができない」(30.4%)、「休業する従業員以外の従業員の負担が大きい」(28.3%)などの理由が上位に挙げられました[図3]。
企業規模や従業員数など、男性従業員の育休取得を進めたくても進められないさまざまな事情がありそうです。
<男性育休の現場>
4.男性従業員の育休取得の労使ギャップ:マネジメント層は促進しているつもりでも取得したい当事者には届いていない?
勤め先の企業は男性従業員の育休取得を促進しているかと聞くと、3割が「促進している」(29.3%)、7割が「促進していない」(70.7%)となりました。経営者・役員(36.0%)や部長クラス(48.0%)は「促進している」と答える割合が高くなっていますが、働く一般層では25.8%と低く、74.2% は「促進していない」と感じています[図4]。
マネジメント層は男性従業員の育休取得を推進しているつもりでも、取得したい当事者は自分の会社で取れるとは感じてないのかもしれません。
5.男性従業員の育休取得:背中を押したい気持ちはあるものの、困りごとが頭をよぎるマネジメント層
次に、勤務先で自分以外の男性従業員が育休を取得した場合の自身の気持ちについて聞きました。
一般有職者(85.1%)もマネジメント層(75.0%)も「同僚には取得してもらい家庭も大切にしてほしい」と、働く仲間を思いやる気持ちがトップにきていますが、マネジメント層は「人手不足で会社の業務に支障が出る」(73.8%)が2 番目にきています。
両者の思いを比較すると、一般有職者の8 割は「取得して家族を支えたい」(82.0%)が強く、それだけに7 割が「職場で育休を取得できる雰囲気がない」(73.7%)、6割が「上司に育休取得の理解がない」(64.3%)と感じており、マネジメント層とのギャップが生じています[図5]。
従業員の育児参加を後押ししたいと思っているものの、実際の業務のことを考えると気持ちよく背中を押してあげられない…マネジメント層のそんなジレンマが感じられます。
<男性の育休制度と就活>
6.男性従業員の育休制度は、就活層の企業選びにも大きく影響。男性就活層の約8割が男性の育休推進企業を「選びたい」
20 代就活層の男性に、育休に関する思いを聞いてみました。前述[図1]の通り、就活層は97.8%が男性の育休取得に「賛成」しており、男性の育休制度や取り組みの有無が就職の動機に影響するかと聞くと、半数が「影響する」(50.0%)と答え、女性就活生(43.5%)より男性就活生(56.5%)の方が気にしています[図6-1]。また、入社先を選ぶ際、男性の育休促進に注力し、制度整備を行っている企業を選びたいかと聞くと、73.8%が男性の育休促進に注力する企業を「選びたい」と答え、男性就活生では77.5%とより高くなっています[図6-2]。
男性の育休推進は、今いる従業員だけでなく、これからの従業員の採用にも影響を与えるようです。
7.就活生にとって男性従業員の育休制度の充実度は、経営層が考える以上に影響力が大!
男性の育休制度が充実している企業に対するイメージを聞くと、就活層もマネジメント層(経営者・役員・部長)も「理解がある」(就活層58.3%:マネジメント層44.5%)、「従業員のことを考えている」(就活層54.0%:マネジメント層43. 8%)など良い企業として捉えています。しかし、就活生の方がいずれもスコアが高く、就活生の半数以上が「働きやすそう」(53.5%)と捉え、マネジメント層(36.3%)が思っている以上に就活層の魅力ポイントとなっていることが伺えます[図7]。
「男性育休白書2021特別編」調査概要
- 実施時期:2021年6月10日~6月12日
- 調査手法:
インターネット調査 調査対象:①経営層…従業員10人以上の企業の経営者・役員(200人)部長クラス(200人)の男女計400人 ②就活層…就活中の20代男女(各200人ずつ)計400人 ③一般層…20代~60代の一般生活者男女(各200人ずつ)計2,000人 合計2,800人
※構成比(%)は小数点第2位以下を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
当社は、男性社員の育児休業1カ月以上の完全取得を目指し、2018年9月より特別育児休業制度の運用を開始しました。2021年8月末時点において、取得期限(子が3歳の誕生日の前日まで)を迎えた男性社員1,052名全員が1カ月以上の育児休業を取得しており、2019年2月以降、取得率100%を継続しています。「男性の育児休業取得が当たり前になる社会の実現」を目指すべく、世の中に先んじたダイバーシティを今後も推進し、ESG経営のリーディングカンパニーを目指します。
解説:就活層の男性育休意識と企業の変化対応能力(ジャーナリスト/東工大准教授 治部れんげさん)」
調査結果から分かるのは、就活層の多数が男性育休を支持していることです。それを裏付けるのが、男性育休制度が充実していない企業に対する就活層の持つイメージで、「経営層の考え方が古そう」「世の中の動きに対して遅れている」「従業員を大事にしてない」と考える人が半数近くいます。男性育休の拡充が遅れていることが、自社にとってさほどマイナスにならない、と思っている経営層は考えを変えた方がいいでしょう。知っておくべきなのは、優秀な若手は就職先を選ぶことができる、ということ。「古い」と思われてしまうことは、人材獲得競争において致命的な不利につながります。経営層の4人に1人が男性育休に反対という事実は、残念ですが仕方ないことかもしれません。いつの時代も、変化に対応できない人は一定数いるからです。変化に対応できる75%の経営者に率いられる企業が、今後、優秀な人材を集めて革新的な事業を興し、市場をリードしていくのではないでしょうか。
変化に対応できるかどうかは自分と違う価値観、異なる生き方を選ぶ人を受容できるかどうか、に関わってきます。自らと同じ性別、同じような学歴、専門性を持つ若手社員たちが自分と異なるライフスタイルを持つことを受け入れ、支援できるかどうか。男性育休が社会から受け入れられる中、問われているのは、経営者の変化対応能力です。
治部れんげ(じぶ・れんげ) ジャーナリスト/東工大准教授
1997年一橋大学法学部卒、日経BP社にて経済誌記者。2006~07年、ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年よりフリージャーナリスト。2018年、一橋大学経営学修士課程修了。メディア・経営・教育とジェンダーやダイバーシティについて執筆。2021年4月より、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員。日本政府主催の国際女性会議WAW!国内アドバイザー。東京都男女平等参画審議会委員。豊島区男女共同参画推進会議会長。公益財団法人ジョイセフ理事。UN Women日本事務所、日本経済新聞社等による「アンステレオタイプアライアンス日本支部」アドバイザー。著書に『ジェンダーで見るヒットドラマ:韓国、アメリカ、欧州、日本』(光文社)、『「男女格差後進国」の衝撃:無意識のジェンダーバイアスを克服する』(小学館)等。2児の母。
解説:男性の育休取得は、企業の成長にもプラスの作用(NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事・ファウンダー 安藤哲也さん)
男性の育休取得率が12%を超えました。私が当団体を立ち上げた頃、男性の育休はかなりレアでしたから、当事者も経営層も、社会全体の育休への意識が大きく変わってきています。とはいえ、今回の調査結果にもあるように「取らせてあげたいが実際は難しい」という意見も根強いです。人手が足りないことが主な要因となっていますが、どうしたら推進できるのでしょうか。それぞれが複数のスキルを身に着けて他の人の代替になれる多能工化を推進してみるとか、ムダな会議や資料づくりなどの時間泥棒を見直し定時にみんなが退社できるようにするとか、日々の積み重ねから育休取得のハードルはぐっと下がるはずです。それは、育休の取りやすい職場であるだけでなく、ダイバーシティの観点から多くの従業員が働きやすい職場となるのではないでしょうか。
これからの父親像は、働きやすい職場で、仕事に加えて家事・育児を楽しみ、子どものロールモデルとなるような「しなやかな父性を携えた父親」だと考えています。父親には、昨今のコロナ禍で家族と過ごす時間が増えたことをチャンスと捉え、家庭での経験を豊かにしてほしいです。そして企業は、そういった従業員の経験を活かし、生産性の向上やリクルーティングにつなげていく。男性育休推進は企業の成長戦略の一環です。社会変革のため、目先の損得で決めず、長期的な視点を持って取り組むことが重要です。
安藤哲也(あんどう・てつや) NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事・ファウンダー
1962年生。二男一女の父親。出版社、書店、IT企業など9回の転職を経て、2006年に父親支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパンを設立し代表に。「笑っている父親を増やしたい」と講演や企業向けセミナー、絵本読み聞かせなどで全国を歩く。最近は、「イクボス」の養成で企業・自治体での研修も多い。厚生労働省「イクメンプロジェクト推進チーム」、内閣府「男女共同参画推進連携会議」、東京都「子育て応援とうきょう会議」、「にっぽん子育て応援団」等の委員も務める。著書に『パパの極意~仕事も育児も楽しむ生き方』(NHK出版)、『パパ1年生~生まれてきてくれてありがとう!』(かんき出版)、『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由』(廣済堂出版)、『できるリーダーはなぜメールが短いのか』(青春出版社)等。
【プレスリリース「『男性育休⽩書 2021 特別編』発表」より|2021年9月7日・積⽔ハウス株式会社】
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