女性活躍推進の時代に、人事担当がするべきこと
【前編】あなたの会社は大丈夫?「働き続けるため」の制度に留まっていませんか
2016.08.10
政府の成長戦略に後押しされ、女性活躍推進の機運は高まるばかり。ダイバーシティ推進室など、専門の部署を新設する企業も増えています。
今回は、数多くの企業のコンサルティングや、女性の新規事業開発を支援する経営塾「DIW(デュー)塾」などを実施しているクオレ・シー・キューブの代表・岡田康子氏と、シニアコンサルタント・稲尾和泉氏にお話を伺いました。前編では、女性活躍推進に必要な制度について迫ります(取材・尾越まり恵)。
――女性活躍を推進するにあたり、企業が整えるべき「制度」についてお聞かせください。
代表の岡田康子氏(左)とシニアコンサルタントの稲尾和泉氏
稲尾:子どもが小学校6年生まで短時間勤務ができたり、会社に出勤できない時はテレワークができたり、目に見えやすい部分での制度は、どの企業もかなり整ってきていると感じます。ただし、企業からは「制度は充実しているんです。なんですけどねー…」というお話を聞くことが多いですね。
――制度は整っても、社内に浸透していないということでしょうか?
稲尾:いざ自分の部下が妊娠するというような場面に遭遇すると、どうすればいいか分からなくなるマネジャーが多いようです。「え、続けられるの?」なんてうっかり言ってしまって、部下は「制度はあるけど、この会社では続けられないんだな…」と思って辞めてしまうパターンもあります。
マネジャーにとって、まだ「自分ごと」になっていないのでしょう。きちんと社内に浸透させるためには、マネジャー自身がその制度にどのような意味があって、実際にどんな場面で必要なのかを理解することが大事だと思います。
――まずはマネジャーがダイバーシティの本質を理解するということですね。
稲尾:マネジャーが会社や自分にとってメリットがあると思えなければ、本気にならないと思うんです。今、ダイバーシティは「経営戦略」だと言われていますが、実際に自分の会社にとってどんな利益につながっているのか?を理解できているでしょうか。
国の戦略だからではなく、「ダイバーシティを推進しなければ、会社が倒産してしまう」、「ダイバーシティによって売り上げを伸ばすんだ」など、具体的にイメージできるような経営戦略としてのダイバーシティ推進が必要ですよね。
――人事スタッフがするべきことは何でしょうか?
稲尾:人事戦略や経営戦略を見据えて上層部にプレゼンしたり、説得したりできるような材料を作ることだと思います。ダイバーシティを推進する部署やプロジェクトが発足しても、まだ予算化されていない企業もあるようです。いかにお金をかける意義があるかを経営層に理解してもらって、説得しなければなりません。
人の動きをより流動的にする柔軟な制度を
岡田:自社だけでなく他社、他業界との連携を考えると、いろいろなやり方があると思うんです。短時間勤務も、自分の取引先やパートナー企業と交渉すれば、取得しやすくなるでしょう。自社で完結しようとせず、もっと世の中全体で回していくことを考えるべきではないでしょうか。
例えば、時間が不規則なサービス業などは出産期や育児期には勤めにくいかもしれない。その場合は、どこか別の業界で働いてもいいわけです。そうして、管理職として働けるような中堅・中核になる頃に他の業界を経験した人が戻ってくる。子育て期間に留学させてもいいでしょう。
自社の中でずっと働く制度は整っているけれど、長く働いた結果、企業の負担ばかり増えて活躍の場がない状況になってしまうのでは意味がない。業界を超えて、人の動きにもっと流動性や柔軟性を持たせるような制度、能力を身に着けるための制度が必要だと思います。そこまで考えないと、女性活躍推進はただの「福祉」になってしまうんです。
稲尾:会社が一生懸命「人を育成する」と言っても、現場の女性たちはしらけていることも多いですよね。「どうせ本気でやるつもりないんでしょ」って。
経営層は、そういう人に対して、「あなたたちがやらないと会社は潰れるんだよ」と植え付けていって、1人ひとりが会社をどうしていきたいか、どんな施策が必要かを考えて提案できるようになることが必要だと思います。
岡田:私たちは「DIW(デュー)塾」という女性育成塾をやっているんですが、これは、女性が経営視点を持ち、事業を作る力を養うための経営塾です。
日本はこれまで、基本的にはものづくりに最適な組織を作り上げ、男性を中心にして組織が回っていました。男性たちも組織に自分をピッタリ合わせてきたんです。そこに女性が入っていくと、どうしても「割り込み」だとか「下駄を履かせる」だとかの不満が出てしまう。それはそうでしょう。男性たちが何十年掛かって作り上げた組織なのだから、それを乱されることには腹が立ちますよね。
だから、既存の事業に女性が入っていくのではなく、新しいビジネスを作ればいいんです。メーカーのまわりにはソフトもあればサービスもあります。新事業を作っていけば、総合的に企業は大きくなっていきますし、男性が、女性がと対立せずに済みます。
会社に依存する社員ではなく、自立した社員を育成する
――制度に対して社員から不満が出た場合、人事スタッフはどう対応すべきでしょうか?
岡田:会社や上司が環境を「整えてあげよう」と思っているうちは、不満は出続けます。「会社も働き方も自分で選んでいるんだ」という意識に変えていかなければなりません。もっと、自立的な社員を育てていかなければ。
家庭中心の働き方もあるでしょう。その場合はそれなりの報酬です。出産後もしっかり働きたいなら、それに見合った報酬をもらえます。企業がやるべきことは機会を与えることで、選ぶのは本人です。今はあまりにも会社が配慮しすぎ、面倒を見過ぎだと感じます。
――配慮しすぎて女性から仕事を奪っていることもありますよね。
岡田:そう、残業や出張も自分で決めればいいと思うんです。出張したいと思えば、家のマネジメントは本人が調整できます。
そのためには、責任のある仕事をしっかり与えることです。そうすれば、「私はこれだけ重要な仕事をしているんだから、この日は子どもの面倒をみてほしい」と自信を持って言えるようになります。女性たちが自分の仕事に誇りを持てるように、きちんとマネジャーが関わっているか。そうすることで、女性も自分で自分の時間をマネジメントできるようになっていきます。
稲尾:ただ、マネジャー自身が会社に合わせることしか経験していないと、そのハンドリングは難しいかもしれません。私たちはマネジャーに向けて「自分自身がもっと多様になりましょう」「会社一本やりのあなただけじゃないでしょ」と働きかけるんです。自分の中の多様性を認められたら、人の価値観も理解できるようになります。
岡田:そういう意味では、制度として、マネジャーを完全に休ませるというのもいいかもしれません。しっかり休み、仕事以外のことを経験してレポートを書く。家事をやってみるだけでもいろいろなレポートが書けると思います。3カ月くらい休んで、地域の活動に参加して、自社のビジネスとどうつながるかをレポートに書くのもいいのではないでしょうか。
稲尾:マネジャーが3カ月間いなくても会社は回る、という体験も大事ですよね。そこで部下が育ったり、マネジャーの視点を持って代行する・分担するということができるようになったりします。そうすると育児以外でも、介護でマネジャーが休むなどの緊急対応もできるようになるので、組織は強くなっていきます。
ただ会社に長く張り付いているだけが仕事ではないですから、働き方改革や人材育成を制度としてどう入れ込んでいくかを今真剣に考えることで、企業の将来は変わると思います。フランスなど海外の国は日本よりずっと労働時間は少ないですが、GDPは高いですよね。働き方を変えることが、国際競争力にもなるんです。
岡田:工場は今急速にロボット化され、作業は早くなっています。それが日本の競争力です。一方で、ホワイトカラーの生産性は低い。これからはどんどん人工知能が入ってきます。そんな時代に、生産性の低い仕事をしたり、言われたことだけをこなしたりといった仕事をしている人は、お金を稼ぐことは難しくなるでしょう。自分がこの先、何十年も仕事をして生きていかなければならない中で、どのような働き方をしたいのか、何ができるのか、危機感を持って考えなければならないんです。それが自立した社会人だと思います。
執筆者紹介
尾越まり恵(おごし・まりえ) フリーランスライター。福岡県北九州市生まれ。結婚情報誌ゼクシィの制作に携わり、2011年に独立。「女性の生き方」をテーマに取材・執筆を続けている。福山雅治、ホークスが好き。
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