株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
【人材マネジメント実態調査2021】人事評価の課題、従業員の納得度や評価基準のあいまいさなどが挙がる
2021.08.04
組織・人材マネジメント、人事評価、昇進・昇格に関する人事の課題認識とコロナ禍による変化を調査
リクルートマネジメントソリューションズ(東京・品川)は8月2日、現在人事業務に携わっている管理職491名に対して実施した「人材マネジメント実態調査」の結果を発表した。
調査結果によると、組織・人材マネジメントの課題として半数以上の人が挙げたものは「次世代経営人材の不足」「ミドルマネジメント層の過重な負荷」「新人・若手の立ち上がりの遅れ」「中堅社員の小粒化」の4つだった。人事評価は、「人事評価制度への従業員の納得感が低い」「評価基準があいまいである」「テレワーク下での部下の仕事ぶりの評価が難しい」「管理職によって取り組みや意識・スキルにばらつきがある」がいずれも4割以上の人が課題に挙げた。そのうち、コロナ課で認識が高まったものを聞くと「テレワーク下での部下の仕事ぶりの評価が難しい」が最も回答率が高かった。以下、リリースより。
調査結果の詳細
【前編】(https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000987/)
【後編】(https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000988/)
- 「人材マネジメント実態調査2021」概要
-
- 調査の背景
- 組織・人材マネジメントの課題は「次世代経営人材の不足」「ミドルマネジメント層の過重な負荷」「新人・若手の立ち上がりの遅れ」「中堅社員の小粒化」。コロナ禍で「ミドルマネジメント層の過重な負担」が高まる(図表1)
- 人事評価の課題は「人事評価制度への納得感」「評価基準のあいまいさ」。コロナ禍で「テレワーク下での部下の仕事ぶり評価の難しさ」が高まる(図表2)
- 昇進・昇格の課題は「昇進・昇格そのものの魅力」。その一方で、管理職の資質が厳しく問われるように(図表3)
- 人材マネジメントの成果指標としては従業員満足度が突出(図表4)
- 従業員を動機づけるために重要なものは、現在、5年後とも「仕事のやりがい」「高い給与」「多様な働き方の選択」は現在より10ポイント以上多い(図表5)
- 調査担当研究員のコメント:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 研究員 主任研究員 藤澤理恵、藤村 直子
- 調査概要
調査の背景
中長期を見据えた組織・人材課題の認識およびその変化、それらを踏まえた「人事の役割」の認識に関する実態調査を、新型コロナウイルス感染症への対策が優先される社会情勢(以下、コロナ禍)に対応しながらの2度目の年度を控えた2021年2月に実施した。
組織・人材マネジメントの課題は「次世代経営人材の不足」「ミドルマネジメント層の過重な負荷」「新人・若手の立ち上がりの遅れ」「中堅社員の小粒化」。コロナ禍で「ミドルマネジメント層の過重な負担」が高まる(図表1)
・ 現在の課題認識としては選択率の多い順に、「1.次世代の経営を担う人材が育っていない」(55.2%)、「8.ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」(55.2%)、「2.新人・若手社員の立ち上がりが遅くなっている」(51.9%)、「3.中堅社員が小粒化している」(51.1%)の4項目が突出している。
・ 上記4項目は、コロナ禍において課題感が高まっているとの認識も相対的に高い(それぞれ22.0%、26.1%、24.2%、17.5%)。特に、コロナ禍において「8.ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」(26.1%)という課題認識の高まりがうかがわれる。
・ 上記の他に、コロナ禍での課題感の高まりが指摘されるものには、「15.テレワーク・在宅勤務に関する今後の方針が定まらない」(21.0%)、「9.職場の一体感が損なわれている」(20.6%)、「10.従業員にメンタルヘルス不調者が増えている」(18.7%)などがある。
図表1 組織・人材マネジメント課題
自社の組織・人材マネジメントの現状としてあてはまるもの、また、コロナ禍において課題感が高まったものはどれですか。それぞれあてはまるものをすべてお選びください。(複数回答/n=491/%)
人事評価の課題は「人事評価制度への納得感」「評価基準のあいまいさ」。コロナ禍で「テレワーク下での部下の仕事ぶり評価の難しさ」が高まる(図表2)
・ 現在の課題認識としては選択率の多い順に、「1.人事評価制度への従業員の納得感が低い」(48.7%)、「2.評価基準があいまいである」(48.3%)、「6.テレワーク下での部下の仕事ぶりの評価が難しい」(46.0%)、「7.管理職によって取り組みや意識・スキルにばらつきがある」(40.3%)で、いずれも40%以上の選択率である。コロナ禍において課題感が高まったものとしては、「6.テレワーク下での部下の仕事ぶりの評価が難しい」が39.3%と突出している。
図表2 人事評価に関する課題
人事評価に関する課題として現在あてはまるもの、また、コロナ禍において課題感が高まったものはどれですか。それぞれあてはまるものをすべてお選びください。(複数回答/N=491/%)
昇進・昇格の課題は「昇進・昇格そのものの魅力」。その一方で、管理職の資質が厳しく問われるように(図表3)
・ 現在の課題認識としては選択率の多い順に、「6.昇進・昇格そのものに魅力を感じない者が増えている」(57.4%)、「1.昇進・昇格要件(基準)があいまいで納得性がない」(42.6%)、「7.現管理職の後に続く人材が枯渇してきている」(41.8%)、「8.管理職全体の質(レベル)が低下してきている」(41.8%)で、いずれも40%以上の選択率である。
・ コロナ禍において最も課題感が高まったのは「6.昇進・昇格そのものに魅力を感じない者が増えている」で、25.9%の回答者がそのように考えている。
⇒コロナ禍の環境下でマネジメント層が苦労する場面が増えていることが、そのような課題認識を強めているのかもしれない。
図表3 昇進・昇格に関する課題
昇進・昇格に関する課題として現在あてはまるもの、また、コロナ禍において課題感が高まったものはどれですか。それぞれあてはまるものをすべてお選びください。(複数回答/n=491/%)
人材マネジメントの成果指標としては従業員満足度が突出(図表4)
・ 現在の人材マネジメントの成果指標については、「1.従業員満足度」(60.3%)が最も多く選ばれていた。何を成果指標と置くかは、自らの貢献領域の認識に通じるところでもあるが、約6割が人材マネジメントでの各施策を通じて従業員満足度の向上を実現したいと考えているようだ。「2.有給休暇取得率」(48.9%)、「3.時間外労働時間」(47.7%)、「4.総額人件費」(44.0%)、「5.従業員一人当たりの売上あるいは利益」(41.3%)がそれに続く。
・ 今後について、「7.女性管理職比率」(31.4%)が「1.従業員満足度」(37.1%)に次いで多く選ばれていた。
図表4 現在と今後の人材マネジメントの成果を捉える指標
次の指標のうち、「人材マネジメントの成果」を捉える指標として用いているものはどれですか。現在と今後について、それぞれあてはまるものをすべてお選びください。(複数回答/n=491/%)
従業員を動機づけるために重要なものは、現在、5年後とも「仕事のやりがい」「高い給与」「多様な働き方の選択」は現在より10ポイント以上多い(図表5)
・ 従業員満足度の重視度合いが高まるなかで、どうやって従業員を動機づけたらいいのだろうか。それを考える1つの手がかりとして、従業員を動機づけるために重要なものを選んでもらった結果としては、現在については「1.仕事のやりがい」(58.0%)、「2.高い給与」(46.4%)が多く選択されている。
・ 5年後についても、「1.仕事のやりがい」(48.7%)、「2.高い給与」(36.7%)が多いという傾向に変わりはないが、「8.多様な働き方の選択」(26.9%)は現在(15.1%)より10ポイント以上多く選択されている。
⇒コロナ禍でのテレワークの急拡大により、世の中的には多様な働き方の選択への関心は高まったかにみえたが、企業の多くは急場の対応となっていて、従業員の動機づけを高めるといった本来的な目的での多様な働き方については、今後の課題として捉えられているのかもしれない。
図表5 従業員を動機づけるために重要なもの
お勤めの会社において、現在、従業員を動機づけるために重要なものは以下のうちどれだと思いますか。また、5年後に重要になっているものはどれだと思いますか。それぞれ3つまでお選びください。(複数回答・3つまで/n=491/%)
調査担当研究員のコメント:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 研究員 主任研究員 藤澤理恵、藤村 直子
組織・人事課題にはコロナ禍で高まったものもみられたが、その背景には根深い問題構造があり、それがコロナ禍によってあぶりだされたという見方もできる。すなわち、ミドルマネジメント依存のマネジメントの限界が顕在化しつつあるということである。本調査で明らかになった課題認識の地図を描いてみると、図表6のような仮説が立ち上がる。
図表6 組織・人材マネジメント課題の構造についての仮説
管理職の機能不全が、経営人材プールの枯渇や若手の立ち上がりの遅れにつながる。その結果として管理職の資質を鋭く問う視線が強まり、管理職を魅力的に思う従業員が減っていく。管理職への信頼や魅力が低下すると、会社にとどまり中長期的な社内キャリアを形成する動機づけが弱まる。社内にスキルの幅を広げたり多様な個人の価値観に合うキャリアを形成したりする機会が少なければ、社内キャリア形成の動機づけはさらに弱まり、また社内に変革・異能人材が育たなくなる。その結果、次世代経営人材や管理職候補人材が不足し、ミドルマネジメント層の負荷が高まり続けるバッドサイクルが回るようになる。ミドルマネジメント層の過剰な負荷は以前から問題視されてきたが、コロナ禍やテレワークなどの環境変化が拍車をかける形だ。
これらはデータのうえで関連性が実証されたものではなく、あくまで仮説であるが、もしこのような構造的な問題があるならば、ミドルマネジメントをハブとする縦方向の集権構造を緩め、多様な人材の横方向の主体的な連携を促していくことが必要なのではないだろうか。
しかし、組織・人材マネジメントの課題に加えて、「人事の役割」を問うた本調査では、希望も見いだされた。コロナ禍は組織・人材マネジメントの課題をさまざまにあぶりだし、人々の生活にも「ニューノーマル」と呼ばれるような新しいトレンドが生まれ始めている。そのようななか寄せられた人事の役割・貢献に関する自由記述コメントには、不確実性の高い変動の時期だからこその、変化対応の重要性に関するものが最も多かった。また、働き方の多様化や働きがいに関しても具体的な言及が複数みられ、従業員満足度重視との呼応も感じられた。この機会に取り組みたい課題もさまざまに挙げられていた。人事領域における役割や立場に応じた一人ひとりの自負が語られ、変化の時代における人事の存在の大きさを感じることができた。有事にも対応できる強い組織づくりが人事の役割であるといえるだろう。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 主任研究員 藤澤 理恵
人事制度設計のコンサルティングや、研修開発、組織調査などに従事したのち現職。東京都立大学大学院 社会科学研究科 経営学専攻にて、2021年博士号授与。同大学博士研究員。“ビジネス”と”ソーシャル”のあいだの「越境」、仕事を自らリ・デザインする「ジョブ・クラフティング」、「HRM(人的資源管理)の柔軟性」などをテーマに研究を行っている。経営行動科学学会2020年度JAAS AWARD・奨励研究賞。人材育成学会2020年度学会賞・奨励賞。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 主任研究員 藤村 直子
HRR株式会社、株式会社リクルートにて人事アセスメントの研究・開発、新規事業企画等に従事した後、人材紹介サービス会社での経営人材キャリア開発支援等を経て、2007年より現職。リーダーシップ、社会人学習、中高年のキャリアに関する調査・研究を行う。
調査概要
リクルートマネジメントソリューションズについて
ブランドスローガンに「個と組織を生かす」を掲げ、クライアントの経営・人事課題の解決と、事業・戦略推進る、リクルートグループのプロフェッショナルファームです。日本における業界のリーディングカンパニーとして、1963年の創業以来、領域の広さと知見の深さを強みに、人と組織のさまざまな課題に向き合い続けています。
●事業領域:人材採用、人材開発、組織開発、制度構築
●ソリューション手法:アセスメント、トレーニング、コンサルティング、HRアナリティクス
また、社内に専門機関である「組織行動研究所」「測定技術研究所」を有し、理論と実践を元にした研究・開発・情報発信を行っております。
※WEBサイト:https://www.recruit-ms.co.jp
【プレスリリース「【調査発表】人材マネジメント実態調査2021」より|2021年8月2日・株式会社リクルートマネジメントソリューションズ】
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【執筆:武藤久美子(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ / シニアコンサルタント、主任研究員)】
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