「副業」新時代-企業の向き合い方 vol.7
副業に戦略的に活用できる助成金や補助金~最新の産業雇用安定助成金の情報もあり
2021.04.22
第7回のテーマは、副業の効果を高めさらに促進するための「助成金や補助金の戦略的活用」について。最新の産業雇用安定助成金を含め副業に関連する7種類以上の助成金・補助金の概要や特徴、利用する際の注意点など社会保険労務士の松井勇策氏が解説する。助成金や補助金を有効活用することで、大幅コストカットだけでなく、イノベーションをさらに推し進める戦略的な投資を行うことも可能になりうる。
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助成金や補助金を有効活用して副業施策の有効性を一層強める
副業に生かせる助成金などについてポイント絞って解説いたします。助成金や補助金にはさまざまなものがあり、国や地方公共団体のものすべてを含めると数千種類以上とも言われています。
副業を戦略的にに行う場合、社外の知見や技術によるイノベーションに繋がり大きな価値創出ができることもあり得ますし、ワークシェアリングとして労働者の方と協調して進める場合には大幅コストカットにもなりえまするものだと思います。助成金や補助金を有効活用することで、イノベーションをさらに推し進める戦略的な投資を行うことができます。あるいは、コストカットに加えてさらに資金調達を行うこともできるでしょう。このようにして、施策の有効性を一層強めることができると思われます。
今回は、地方での副業についての助成金から、厚生労働省の比較的新しい助成金を3種類、それ以外にも補助金を紹介しています。その中でも特に、後述する「産業雇用安定助成金」が、2021年に大規模に行われる形で政策が発表されています。
これは企業間の在籍出向に関する助成金ですので副業を主眼にしたものではないですが、部分出向の形態も認められているため、副業に近い形態についても対応できる助成金だと言えます。環境変化による業務量の減少などに対応するワークシェアリング観点で検討の余地がある助成金で、従業員の方の賃金が補填されるため、経費上のメリットが大変大きいものです。
その他、企業向けではありませんが、副業を通じて事業を行っていこうとする方が使いやすい助成金などについても触れます。副業における活動範囲の増大が、本業企業の事業メリットにもなり得るような仕組みができていれば、非常に効果が大きいものです。
地方公共団体の、地方の企業で副業を行うことに対する助成金
「副業人材を雇用したら出る助成金」は、地方公共団体において、主に地方創生やIUターン就職の勧奨などを目的としてさまざまに設定されていることがあります。
政府から、2020年に約1,000億円の地方創生推進交付金を活用し、1人当たり年間50万円を上限に3年間で最大で150万円を支給することを想定している旨の方針が示されました。そういった方針に沿う形で、各地方自治体で、交通費の支援などの制度が設けられていることが多いと思います。
その他にも、様々な支援制度が設けられています。時限的な施策であることが多いことと、地域によって要件が違うため、よく確認してみると良いでしょう。額やメリットが非常に大きいものもあります。
副業関連の助成金 働き方改革推進支援助成金
事業の効率性向上のために使えるのが「働き方改革推進支援助成金」です。2021年度のこの助成金の正式な発表は恐らく4月以降となるため執筆時点ではまだ最新の情報がありませんが、事前の情報を見ると、行われること自体は決定しているといってよいと思います。
以下、本助成金については2020年度の情報のうちで、恐らく2021年度も同様だと思われる部分について私見として予測して解説します。
特徴は、事業の効率性向上のための機器の購入や、主に労働時間管理等のルール整備のためのコンサルティングに要した投資額の4分の3、3分の2、2分1(コースによって違う)などの助成が行われることです。社外の副業を生かすための機器の購入や、副業を含めた時間管理を行うためのシステムの導入などについての助成が認められる可能性があり、副業を通じた施策について一層の効果の向上が図ることができるものです。
助成金の要件としては、インターバル制度と呼ばれる就業後に始業までに一定の時間を取ることを規定する制度を創ったり、時間外労働の削減や、休暇制度の設置をしたりといったことが定められています。申請時には36協定の制定の確認やその他帳簿の確認など、細かい申請にあたっての要件があるため、社会保険労務士等の専門家に、申請支援を依頼する効果の大きい助成金だと言えます。
※編集部注:2021年3月14日執筆時点の情報。正式発表後に最新情報に後日更新予定。
副業・兼業労働者の健康診断助成金
独立行政法人労働者健康安全機構による助成金で、複数の会社で働く人の健康管理への取り組みを促すものです。健康診断費用が助成されるものですので、副業をしている方のいっそうの健康管理のために導入されると良いでしょう。
健康管理の重要性については、今回の特集の別の号でも解説しましたが、副業は法定労働時間以上の長時間労働を前提としている場合も多く、自身や企業側での健康管理が大変重要であると言えます。しかし、就業形態別の定期健康診断実施状況の資料よれば、企業側に健康診断義務のない、1週間の労働時間が事業所の労働時間の4分の3に該当しないパートタイマーに対する実施率は大変低いという状況があります。こうした状況を少しでも改善するために設けられたものです。
上限は1労働者あたり1万円、1事業場あたり 10万円で、次の要件を満たす副業・兼業労働者に対して企業において一般健康診断を実施している、あるいは自発的に一般健康診断を受診した当該労働者に対して健康診断の費用を負担している場合に、助成の要件を満たします。他にも細かい要件がありますので確認の上で申請を検討してください。
- 40歳未満の労働者(一般健康診断を実施する日の属する年度に40歳の誕生日を迎える労働者を除く)
- 本業や副業を問わず、雇用されている全ての事業場において1週間の労働時間数が当該事業場における同種の業務に従事する通常の労働者の一週間の所定労働時間数の4分の3未満の労働者。
産業雇用安定助成金
「産業雇用安定助成金」は、他の企業への出向を労働者に指示し労働者も同意をし、一定期間の出向の後に復職させることを約束している、在籍型出向を行うことが要件となっている助成金です。
新型コロナウイルス感染症によって売上や生産量が落ち込み、雇用調整に踏み切らざるを得なくなった事業主の支援が目的です。そのため、売上の回復が見込めない状況下で事業の縮小を迫られる事業主に対し、在籍型出向によって雇用を守る仕組みを提供するのが、当助成金の枠組みとなっています。
よって、あくまでも副業のために作られた助成金ではなく、勤務先の会社に在籍したままで他社への出向をする場合の助成金です。ただし、助成金の条件として、ある日は出向元企業に出勤し、ある日は出向先企業に出勤するような、「部分出向」も助成金対象となる出向として認められています。
コロナ感染症対応に関する社会の変動なども理由となり、自社の業務が減ってしまった時に企業主導でワークシェアリング的な観点での副業を行う場合がありますが、その時にこの助成金に当てはまるような形態を取り得ると思います。
注意点として、出向元企業での労働日数が出向先企業での労働日数より多いとそもそも要件を満たさなくなること、1日のうちで出向元企業と出向先企業の両方で働いた日は、助成金の対象となる日として認められないことなどがあります。
要件としては、出向元と出向先の企業で出向契約を結んだ上、双方と雇用契約を結ぶこと、出向元事業主に対しては、新型コロナウイルス感染症の影響により、生産性指標(売上や生産量)が一定量以上減少していることです。出向元・出向先ともに、雇用保険適用事業所であることなど、他にも細かい要件があります。
コロナ禍による事業縮小の雇用調整が目的であることから、出向の目的が「人事交流」「経営戦略」「業務提携」「実習」など、雇用調整を目的としない場合は助成対象外です。
また、出向元と出向先に親会社・子会社の関係性(資本金の50%超の保有)がないこと、出向元・出向先の代表取締役が同一人物ではないこと、一方の取締役が他方の取締役の過半数を兼務していないことなど、実質的に同一性がないことが求められています。
要件を満たした場合に、要件を満たした日についての出向対象労働者に支払われる賃金と関連経費、また出向労働者のための設備や教育訓練に要する費用が助成対象です。経費は2種類に分けられ、賃金支払いに付随する「出向運営経費」と、出向の送り出し・受け入れの準備に伴う「出向初期経費」として定められています。
出向初期経費は労働者一人について10万円まで(一定の条件の元に加算もされます)、出向運営経費は日額12000円までなどの上限があります。
ほか、出向運営経費の対象となる出向期間は、1カ月以上2年以内で、同一の従業員に対する支給限度日数は365日(12カ月)が上限など、限度も決まっています。ほか、出向の開始日の最も早い日から出向終了の最も遅い日までが2年以内となります。
副業を行う方向けの補助金など
副業を行う方で、特に個人事業を行う場合に生かせる補助金や助成金もあります。
こうした補助金の場合、受給する方のその副業、つまり自身の事業が「雇用されている本業より収入が多いこと」などの収入要件がある場合が多いです。つまり中心的な収入となっていなくてはならないということです。あくまで事業を行う個人の方向けであって企業向けのものではないため参考程度の記載に留めます。
従業員が副業を行うことによるイノベーションや事業への相乗効果を狙うことが副業制度の目的である場合は、副業において十分な環境を整備することで、副業の事業の質が向上し、より相乗効果が高くなり得る場合もあると思います。戦略的に活用する余地は十分あるものと思います。
小規模事業者持続化補助金
支給額:コースにより最大50万円・100万円/1案件 2/3~4/3の補助
小規模な事業者(個人事業者あるいは法人で4人以下の従業員の規模などの要件あり)に対して、販促に繋がる事業をおこなう場合に、ホームページ・販促物・その他の必要品の出費に対して、費消した額の一定割合の補助がされます。
。
IT導入補助金
支給額:最大450万円、小規模型は150万円 1/2の補助を行う
中小企業や小規模事業者に対して、ITによって効率化や収益性の向上が見込める事業に対するIT機器の導入について、2分の1を支援するという補助金です。補助金対象の事業者から導入する必要がありますが、対象となる事業者はホームページ等でそのことを公開していることが多く、適用から申請まで支援するサービスがあることも多いものです。
創業に関する補助金(助成金という名称のものもある)
支給額:自治体や提供する主体によって様々です。東京都の場合は、創業助成金の場合300万円 2/3の創業に必要な経費の補助を行う
創業事業計画を作成し、計画が認証されると、その内容ついて補助される形である場合がほとんどであると思います。事業として発展していくことを目指すものである必要があります。単に事業計画を提出するだけでなく、前提として起業向けの講座を受けたり、何らかの施設に入居したり、などの申請に当たっての要件が付加されるものが増えている印象があります。【おわり】
【特集:「副業」新時代-企業の向き合い方】(順次公開)
・vol.1「副業の現状と類型、企業にとってのメリットとリスク、活用方法」
・vol.2「副業制度の考え方と制度設計、申請フロー・手続き・届出など導入と運用」
・vol.3「諸外国の副業の現状・日本の労働市場における副業の位置づけ」
・vol.4「副業に伴うリスクを防止するために必要なリスクマネジメント施策」
・vol.5「副業の労務管理や運用~重要な時間管理の新しい運用」
・vol.6「副業の労務管理や運用~労働保険・社会保険・税務・健康管理に関する運用」
・vol.7「副業に戦略的に活用できる助成金や補助金~最新の産業雇用安定助成金の情報もあり」
【参考情報】
・「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月1日改定版)(概要)[PDF形式:767KB]
・「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月1日改定版)[PDF形式:375KB]
・副業・兼業に関する情報ページ(厚生労働省)
・「情報セキュリティ」お役立ち資料一覧(@人事e-book)
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