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特集

「副業」新時代-企業の向き合い方 vol.6


副業の労務管理や運用~労働保険・社会保険・税務・健康管理に関する運用

2021.04.20

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第6回のテーマは「副業の労務管理や運用~労働保険・社会保険・税務・健康管理に関する運用」。労働保険や社会保険などの副業導入の際の運用や注意点について、法改正が進んでいる状況を踏まえて、現時点でどのように対応をするべきかを社会保険労務士の松井勇策氏が解説する。

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目次
  1. 労働時間管理以外にも注意が必要な労務管理
  2. 労働保険(労災保険・雇用保険)の運用
  3. 社会保険(健康保険・年金関係)の運用
  4. ガイドラインによる原則的な考え方
  5. 健康管理の考え方とルール
  6. 副業における労務管理運用の注意点

労働時間管理以外にも注意が必要な労務管理

副業の労務関係の運用については、前回述べた労働時間管理以外の点についても整備が進んでいます。平成30年1月に厚生労働省から発表され、令和2年9月に大きく改訂・増補された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、「副業に関するガイドライン」とする)でも、「その他の制度」として、今後の整備の方向性を含めて記載され、法改正も進んでいます。
参照:「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(厚生労働省)

労務関係の運用は、労災申請時の副業含めた申請や、社会保険の2事業所での運用、労働保険の雇用保険で2021年からある一部の方への例外的な運用はじめ、特殊な運用がさまざまあります。こうした運用は現在、「例外的な運用」とされていることが多く、通常の申請書とは違う様式での申請が必要だったり、通常の申請以外に付加的な申請を行う必要があったりします。よく事前に確認をして、間違いがないように申請、運用することが重要です。

労働保険(労災保険・雇用保険)の運用

労災保険法で法改正が行われたほか、雇用保険では一部今後の法改正が予定されている論点が複数あります。いずれも副業者については特有の運用がありますので、よく理解することが必要です。

労災保険

労災保険は、2020年9月から労災保険法が改正施行されました。従来、労災保険の加入の運用については、本業と副業の両方の会社で労災保険に加入し、いずれかの会社で労災事故が起こった場合、その会社の労災保険のみが適用となるため、労災補償額が低くなることがありました。
改正により、労働災害が起きていない事業場の労災保険も合算で適用されることになりました。また、労災自体の判断においても、複数の事業場の業務の負荷を総合的に判断することになっています。

現在、労災保険料の支払いは年に一度の精算を行い、1回あるいは分割で支払う運用となっていますが、この運用自体は変わりません。上記のような改正を踏まえた申請を行ってください。。

雇用保険

雇用保険は、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける会社で加入します。つまり賃金が多い本業の会社1社でしか加入できません。副業先では雇用保険に加入しないため保険料負担はなく、本業の会社でのみ雇用保険料が継続して発生します。

本業を退職することになり失業給付等の受給をする場合、給付額の算定は本業の会社の賃金をもとに算出されます。よって、本業を退職してハローワークで失業認定の審査を受ける際、副業をしていると失業手当については副業も含めた額よりも実質的には減額となることや、または受けられない可能性があることに注意が必要です。

ただし例外があり、2022年1月1日より法改正が施行され、65歳以上の、週合計の労働時間が20時間以上の従業員について、本人の申し出に基づいて雇用保険が適用されます。要件として、次のような条件に当てはまる方は、今後雇用保険に加入できるようになります。
(1)各事業所における1週間の所定労働時間が20時間未満であること
(2)2つ以上の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の者であること
(3)1週間の所定労働時間の合計が20時間以上であること

高年齢者の複数就業者(厚生労働省では、マルチジョブホルダーという用語がよく使われています)に対する雇用の保障や支援を厚くし、高齢者の副業、また社会参加を推進する目的の施策であると言えます。
高齢者雇用安定法の法改正で、一部、個人事業主になることを企業側で促進するような選択肢が法定されたことなどもあり、より多様な働き方を促進する中で、創意工夫を生かし、それぞれの方に合った形での働き方を行えるような制度の整備が進んでいるものと言えるでしょう。

社会保険(健康保険・年金関係)の運用

社会保険については2つ以上の事業所の運用が主なポイントとなるでしょう。従来、副業者が副業において雇用ではなく会社役員になっている場合などを除いては「二以上事業所の運用」はあまり生じませんでした。週の所定労働時間が20時間以上で加入対象となる、特定的業事業所の範囲の段階的な拡大が予定されている現在では、運用において注意すべき論点になってきています。間違いがない運用を行うことが必要です。

副業の会社で社会保険の被保険者要件を満たす場合、副業の会社でも社会保険に加入する必要があります。社会保険の被保険者要件は以下の2つのいずれかです。

要件(1)

1日または1週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が一般社員の概ね4分の3以上

要件(2)

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 雇用期間が1年以上見込まれる
  • 1カ月の賃金が88,000円以上
  • 従業員が500人超(501人以上)の企業に勤務している(特定適用事業所)
    ※ただし、2022年10月〜従業員数100人超(101人以上)規模、2024年10月〜従業員数 50人(51人以上)超規模に適用拡大、ほか労使合意があれば500人以下の企業も対象になることがあります。

副業の場合、要件(1)の「一般社員の概ね4分の3以上」を複数の会社で満たすことはほぼありえないので、要件《2》を満たす場合に副業の会社も社会保険の適用対象となります。この場合、所定の手続きをとることで、社会保険は二重加入することになります。

その上で、保険料の支払いは、本業と副業から得られるそれぞれの賃金の合計を合算した金額をもとに、本業の会社と副業の会社で案分して支払うことになります。

例えば、本業が20万円、副業が16万円の場合、年金事務所は合計36万円を基準に標準報酬月額を決定し、保険料は賃金に比例して本業5:副業4の割合で案分されて請求されることになります。報酬月額変更届や報酬月額算定基礎届は、複数会社勤務の従業員がいれば二以上勤務であることを明記して提出します。

なお、健康保険証が2枚になることはなく、「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」で選択した本業の健康保険証を継続して利用することが可能です。
また、傷病手当金の支給を受ける場合、それぞれの会社の報酬月額の合算値に基づいて支給されます。

ポイントは上にも書いたように、要件《2)の段階的拡大です。
2022年や2024年からは、それまで社会保険加入に該当しなかった複数就業者の方が、急に該当することになる企業も出てくる
ものと思われます。二以上事業所勤務届などの運用は、現在ですと例外的な運用として申請用紙なども区分されて運用されていますが、手続きにも改善が加えられる可能性もあります。従業員の健康保険や年金に影響してくるところですので、よく確認して、間違いがないように手続きを行っていくことが必要です。

税務の運用

源泉徴収の計算には、「甲欄」と「乙欄」の2つあります。年末調整は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出した会社(本業)でする必要があり、この申告書は1か所にしか提出できません。つまり、副業により2か所以上から給与が支給されることになっても、副業の会社には「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は提出しません。

本業の会社では、毎月の給料の源泉徴収の金額を源泉徴収税額表の「甲欄」で計算しています。副業の会社は年末調整をしないため、毎月の給与の源泉徴収の金額を源泉徴収税額表の「乙欄」で計算します。

「乙欄」は、複数所得があると甲欄で計算した税額だけでは足りないので、少し高い税率で源泉徴収しようというものです。副業収入が年間20万円以下の場合は確定申告する必要はありませんが、副業の会社では高い税率で源泉徴収しているので、確定申告をすると税金が戻ってくる可能性があります。また、副業収入が年間20万円を超えると、年末調整の他に確定申告をしなければならないので注意してください。

健康管理の考え方とルール

社会保険や税務ルール以外にも、副業では時間外労働を前提とした管理を行うことになるため、健康管理が重要になります。企業が行うべき健康管理の措置として、このようなことが例示されています。

  • 従業員に対して、心身の不調があれば都度相談を受けることを伝える
  • 副業・兼業の状況も踏まえ必要に応じ法律を超える健康確保措置を実施する
  • 自社での労務と副業・兼業先での労務との兼ね合いの中で、時間外・休日労働の免除や抑制を行う

重要だと思いますので、従業員から情報提供がされやすくするような配慮を行うことが必要でしょう。なお、通常の健康診断を行う義務がある従業員は、無期契約あるいは有期契約でも4分の3以上働く社会保険の対象となる従業員、とされていますが、副業を行っている従業員の場合、それぞれの企業でこの要件を満たすかが判断され、それぞれの企業に義務が発生します。ルール上はそうであっても、健康配慮を通常よりも留意していくことは重要です。健康診断については助成金なども支給されますが、これについては次回のvol.7「副業に戦略的に活用できる助成金や補助金」でお伝えします。

副業における労務管理運用の注意点

副業をする方の労務管理の運用についてまとめました。これまで副業の場合は、副業者から労働開始・終了時間を毎月、自己申告で求めるようなルールになっている運用がありました。今回示されたガイドラインの労務運用においても、副業者が正確に副業の状態を申告することによって成り立つような手続き運用のあり方が目立つように思われます。よって、副業を行う企業では、従業員の方との信頼関係をもとに、正確な情報を取得できる状態にすることがとても重要だと言えるでしょう。

【vol.7「副業に戦略的に活用できる助成金や補助金~最新の産業雇用安定助成金の情報もあり」につづく】


【特集:「副業」新時代-企業の向き合い方】(順次公開)
vol.1「副業の現状と類型、企業にとってのメリットとリスク、活用方法」
vol.2「副業制度の考え方と制度設計、申請フロー・手続き・届出など導入と運用」
vol.3「諸外国の副業の現状・日本の労働市場における副業の位置づけ」
vol.4「副業に伴うリスクを防止するために必要なリスクマネジメント施策」
vol.5「副業の労務管理や運用~重要な時間管理の新しい運用」
vol.6「副業の労務管理や運用~労働保険・社会保険・税務・健康管理に関する運用」
・vol.7「副業に戦略的に活用できる助成金や補助金~最新の産業雇用安定助成金の情報もあり」

【参考情報】
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月1日改定版)(概要)[PDF形式:767KB]
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月1日改定版)[PDF形式:375KB]
副業・兼業に関する情報ページ(厚生労働省)
「情報セキュリティ」お役立ち資料一覧(@人事e-book)

【編集部より】副業の企業事例や導入時の注意事項などを解説した記事はこちら

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