特集

「副業」新時代-企業の向き合い方 vol.5


副業の労務管理や運用~重要な時間管理の新しい運用

2021.04.19

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第5回のテーマは「副業の労務管理や運用~重要な時間管理の新しい運用」。副業に関する制度を企業で運用するためには、さまざまな労務手続の整備が必要になる。社会保険労務士の松井勇策氏が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(厚生労働省)を内容を紹介しつつ、具体的に整備が必要な点を列挙し、労働時間管理と管理の際に注意が必要な問題点に焦点を当てる。

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目次
  1. 副業の時間管理の認識がまだ広まっていない
  2. 副業に関するガイドラインの内容
  3. 副業の時間管理問題の論点
  4. ガイドラインによる原則的な考え方
  5. 原則的な合算方法の問題点
  6. ガイドラインが提示した「より簡易な管理モデル」とは
  7. 管理モデルの導入と労働者への合意文書の通知書モデル
  8. 副業における時間管理と残された問題

副業の時間管理の認識がまだ広まっていない

副業に関する制度を企業で運用するためには、さまざまな労務手続の整備が必要となります。既存の社員の労務運用とは違う、整備が必要な点を列挙していきますが、特に今回は時間管理と周辺の問題に焦点を当てます。

副業に関する時間管理については、社会的に認識が広まっているとは言えません。しかし従来まで未整備だった、労働時間の合算方法の詳細なルールが既に令和2年にガイドラインとして既に定められていますそのため、今回提示するような運用を行っていない場合、適法でない運用になってしまう、つまり賃金未払や、労働時間管理が整備されていない状態であると見なされる可能性が高い、ということを認識する必要があります。

労働時間の管理運用には原則的な方法と簡略化した方法がありますが、いずれも従来の自社内の時間管理関連にさまざな付加的な運用が必要となるため、確実な整備に当たっては社会保険労務士をはじめ専門家の助言を受けることも有効です。

副業に関するガイドラインの内容

副業の労務的な運用については、特に副業の労務を中心とした運用については「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が平成30年1月に厚生労働省から発表されていたが、令和2年9月に大きく改訂・増補されました。(以下「副業に関するガイドライン」と略称)
参照:「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(厚生労働省)

旧ガイドラインとの比較で変化したのは、副業制度において考慮すべき具体的な論点がさまざまに提示されたことです。副業を契約する場合の信義則の強調、安全配慮義務・機密保持義務・競業避止義務・誠実義務等、企業が定めるべき具体的内容の考え方や基準が具体的に新しく定められています。こうした点は副業制度を整備する場合の考慮すべきポイントとして、これまでの特集記事内で指摘してきました。

今回の改訂で特に、時間管理について新しい運用が具体的に提示されたことが大きく変わっており、また記載分量としても多くを占めているため、重要な内容だと言えます。

副業の時間管理問題の論点

副業と本業の会社と複数箇所で働いている場合、労働時間はどう把握されるのか、という問題があり、従来から副業に関する労務の問題となってきました。

まず前提として、労働時間の合算が問題になってくるのは「2社以上の企業から雇用されている場合」であって、1社からは雇用されており、副業は個人事業主として受託しているような場合は、労働時間の合算は法令上求められないということです。
そもそも個人事業主ですので労働時間という概念ではとらえられません。しかしながら健康管理には、本業で雇用している企業においても、労働者自身も十分に配慮することが必要でしょう。

副業で雇用される場合の労働時間の考え方として、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」(労働基準法38条1項)という「労働時間の通算制」が原則です。
しかし、通算とは誰がどのように行うのか、通算した上で時間外労働についてはどの事業場での時間外労働とみればいいのか、賃金支払い義務があるのは誰か、などの問題が生じます。ガイドラインはこうした問題に対処するための運用が記されているものだと言えます。

ここでいう問題とは、たとえば、本業の職場で7時間働いた後に副業の職場に移動し、そこで5時間の業務を行ったとします。この場合、まず労働時間を通算するので12時間働いているわけで、法定労働時間の8時間を4時間超えていますが、どちらの職場の時間外労働なのか、というケースです。

さらに各々の労働契約があるため、たとえば本業の職場での1日当たりの所定労働時間が5時間であり、そこから2時間の超過が生じた場合(ただし、本業職場だけで見ると法定労働時間内)と、そもそも7時間の契約上の所定労働時間である場合は、何か扱いに違いが出るのか、という問題も含んでいます。

これらは、法令上の規定からは直ちに明らかでない問題であり、さまざまな解釈がされてきましたが、統一的な見解は今までありませんでした。

ガイドラインによる原則的な考え方

ガイドラインによれば、本業と副業で通算した労働時間が法定労働時間を超える場合は割増賃金の負担については

  • まず労働契約の前後の順に所定労働時間を順次合算していき、法定時間外労働が発生した企業が割増賃金を負担するものとされます
  • 記の計算を行った後、その当該の1日の労働の前後の順に所定外労働時間の発生順に合算していき、同様に、法定時間外労働が発生した企業に割増賃金の支払い義務があるとされています。

また労働時間は、労働者が申告することがガイドラインに記載されています。これらについては、旧ガイドラインでは曖昧に思われる記載があったが内容が整理され、明確になりました。ただし、企業としては労働者に申告するように伝える必要はあります。また、申告は毎日でなくても、週次や、一賃金期間に1回などの頻度で良いとされています。
以上の合算方法を図にすると、以下のようになります。

画像:副業の労働時間の合算方法のイメージ(@人事副業特集)

副業の労働時間の合算方法イメージ【作成:フォレストコンサルティング労務法務デザイン事務所】

 

原則的な合算方法の問題点

このような合算方法が、副業ガイドラインの30年9月の改訂ではじめて明確に提示されました。そのこと自体は大きな進展ですが、大きな問題は管理工数が非常に多くかかるということです。

日毎によって所定労働時間が変わるような契約をしている労働者の方で、しかも時間外労働が発生するような方に対しては、申告に基づいて日毎に別に合算していかなくてはなりません。また、別の企業と自社との副業の前後関係も正確に把握する必要があります。これはかなりの運用の工数になることが予測されますし、間違ってしまう可能性も高いものと思われます。

ガイドラインが提示した「より簡易な管理モデル」とは

上記のような運用上の欠点に対応するための方法として、令和2年9月改訂のガイドラインで新たに「より簡易な管理モデル」が提示されています。

概略としては、副業の開始前に、勤務先であるそれぞれの事業場における労働時間が単月100時間未満、複数月平均80時間以内の上限規制の範囲内において、各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定すれば、各々の使用者がそれぞれその範囲内を自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払うこととすることができる、というものです。

たとえば、下記の図のA社とB社で、あらかじめ、たとえばA社は所定労働時間7時間と、所定外労働時間3時間、うち法定外労働時間を2時間、B社は法定外労働時間となる5時間の、所定労働時間としてもともと定めておき、その範囲内で労働させる、ということです。

画像:副業のガイドラインが示す「より簡易な管理モデル」のイメージ

副業のガイドラインが示す「より簡易な管理モデル」のイメージ【作成:フォレストコンサルティング労務法務デザイン事務所】

この管理モデルを取れば、たとえばA社は常に自社の所定労働時間と時間外労働を把握すれば良いことになります。その上でたとえば8時間を超えたら法定外労働時間として割増賃金を支払えばよく、仮にある日についてはB社の方が先行して副業を行っていたとしても、その事実を把握する必要はありません。
またB社については、労働時間の前後関係やA社における労働時間の長短に関わりなく、必ず時間外労働の割増賃金を含めて支払う必要がありますが、時間外労働としての自社における労働時間だけを把握しておけば、それ以上の把握が必要なくなります。

管理モデルの導入と労働者への合意文書の通知書モデル

A社とB社、あるいはさらに複数社での副業を行う場合は、それぞれの企業が労働者を通じて合意することによって導入するものとされています。合意文書については厚生労働省から例示されています(下記画像)が、これを参照すると企業間での契約の形になっておらず、あくまで労働者への申告に基づいた通知書の形になっています。
そのため、あくまでも労働者に働きかけた上で、労働者の方の申請を起点としてこの施策を適用することが前提とされていることが分かります。

画像:労働者への合意文書の通知書モデル

厚生労働省が例示している「労働者への合意文書の通知書モデル」のイメージ【作成:フォレストコンサルティング労務法務デザイン事務所】

副業における時間管理と残された問題

以上が新ガイドラインで示されている労働時間管理のポイントです。原則的な労働時間の合算は非常に手間がかかります。一方、管理モデルによると合算などの手間はかかりませんが、労働者を通じて全ての企業の間で合意をする必要があります。今まではルールがありませんでしたが、今後はこのガイドラインに従った運用が求められるため、注意が必要でしょう。

残された問題として、本業や副業を構成する企業のいずれかが、裁量労働制、フレックスタイム制や変形労働時間制の場合などを取っている場合、どのように労働時間を合算するのか、という問題はガイドラインでも明確に言及されていません。有力な法解釈等も確立していないものといえます。
しかしながら私見として、管理モデルは、各企業での労働時間のばらつきをある程度平準化して良いものとする方向性で適用できるものと考えられます。一方がフレックスタイムの場合であっても、標準労働時間などに基づいて管理上の合意はできるのではないかと考えられます。

より深い総論としては、副業ガイドラインに「労働者と十分に話し合うこと」の重要性が提示されており、個別の事例ごとに、事例の妥当性を判断することになるものと思われます。
企業と労働者が十分にコミュニケーションをとり、労働者が副業・兼業による過労によって健康を害したり、現在の業務に支障をきたしたりしていないか、確認することが重要です。最初の副業開始時だけではなく、継続的に状況の確認ができるような運用を構築することが望ましいでしょう。

【vol.5「副業の労務管理や運用~新しい重要な時間管理ルールの詳細」につづく】


【特集:「副業」新時代-企業の向き合い方】(順次公開)
vol.1「副業の現状と類型、企業にとってのメリットとリスク、活用方法」
vol.2「副業制度の考え方と制度設計、申請フロー・手続き・届出など導入と運用」
vol.3「諸外国の副業の現状・日本の労働市場における副業の位置づけ」
vol.4「副業に伴うリスクを防止するために必要なリスクマネジメント施策」
vol.5「副業の労務管理や運用~重要な時間管理の新しい運用」
vol.6「副業の労務管理や運用~労働保険・社会保険・税務・健康管理に関する運用」
・vol.7「副業に戦略的に活用できる助成金や補助金~最新の産業雇用安定助成金の情報もあり」

【参考情報】
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月1日改定版)(概要)[PDF形式:767KB]
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月1日改定版)[PDF形式:375KB]
副業・兼業に関する情報ページ(厚生労働省)
「情報セキュリティ」お役立ち資料一覧(@人事e-book)

【編集部より】副業の企業事例や導入時の注意事項などを解説した記事はこちら

執筆者紹介

松井勇策(まつい・ゆうさく)(社会保険労務士、公認心理師、Webフロントエンジニア・グラフィックデザイナー) 東京都社会保険労務士会 広報委員長(新宿支部)。フォレストコンサルティング労務法務デザイン事務所代表。名古屋大学法学部卒業後、株式会社リクルートにて広告企画・人事コンサルティングの営業職に従事、のち経営管理部門で法務・監査・ITマネジメント等に関わる。その後、社会保険労務士として独立。労働法務の問題や法改正への対応、IPO支援、人事制度整備支援、ほかIT/広報関連の知見を生かしたブランディング戦略等を専門にしている。(2020年1月末時点の情報です)

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■厚労省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改訂
厚生労働省は2020年9月1日、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定)の改定版を公表した。今回の改訂で、副業・兼業時の労働時間管理や健康管理についてのルールが明確化された【参照下記写真】。厚生労働省は、企業も労働者も健康を確保しながら安心して副業・兼業を行うことができるよう、ガイドラインの周知を図っていく。
【おすすめポイント】
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