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「副業」新時代-企業の向き合い方 vol.2


副業制度の考え方と制度設計、申請フロー・手続き・届出など導入と運用

2021.04.13

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従業員のモチベーションや定着率の向上、能力開発、人材確保、イノベーションの創出などを目的に、「副業制度の導入」が加速している。
副業導入が企業に与える影響やメリット、リスク。導入する際には就業規則や社内ルールの制度構築や法律違反リスクを社会保険労務士の松井優策氏が解説する特集の第2回目は「副業制度の考え方と制度設計、申請フロー・手続き・届出など導入と運用」だ。
厚生労働省が2020年9月に発表した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の内容を参照しながら、副業制度の考え方や制度構築をする際に具体的に行うアクションや注意点などを紹介する。

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【2020年度調査】副業制度あり企業の72.7%が過去3年以内に制度を導入 従業員のモチベーションや定着率向上に効果を実感

目次
  1. 副業の導入判断は経営レベルで決定。人事は副業をどう扱えばよいのか
  2. 「副業ガイドライン」に書かれている制度の考え方 ~十分なコミュニケーションと事前の社内調査、その他の留意点
  3. ケース別・副業推進の留意点
    【1】技術の向上・イノベーション推進・キャリア形成の文脈での副業推進のケース:まず自社の組織力を向上させる必要がある
    【2】ワークシェアリングや収入の補填の意味合いでの副業推進のケース:健康や業務効率性に配慮し、現状の業務が遂行できるような条件を設けて許諾する
  4. 副業の申請制度の留意点 ~副業制度の目的や想定されるイメージ・判断基準を明確にする
  5. 副業は副業を行う従業員だけでなく、企業についても自己把握や自己決定が強く求められる

副業の導入判断は経営レベルで決定。人事は副業をどう扱えばよいのか

副業を企業においてどのように捉え、制度構築や支援を行っていけばよいのでしょうか。
どのような内容であれ、副業制度の整備は経営に大きな影響を及ぼす施策になり得ます。また、現在の時流から考えても、一切副業について考慮しないということは考えられないことになってきています。そのため、副業についての導入は経営レベルで決め、人事担当者が制度を構築していく必要があります。

副業に関する制度を企業で運用するためには、様々な整備が必要になります。まずは経営方針や人事方針として副業をどう扱うかということの決定、ルールの整備や申請フロー、人事労務手続の整備なども含まれてきます。
これらのうち、人事労務手続つまり、労働保険・社会保険の加入や労働時間の合算、その他労務上の副業者の扱いなどについては、本特集の後半で詳しく解説することとし、この第2回では、経営方針や人事方針としてのどのように副業制度を扱い、制度構築や運用をどう実践していけば良いのかについて解説します。

【関連記事】特集vol.1「副業の現状と類型、企業にとってのメリットとリスク、活用方法」

「副業ガイドライン」に書かれている制度の考え方 ~十分なコミュニケーションと事前の社内調査、その他の留意点

こうした制度構築についての基本的な考え方が、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に書かれています。「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、「副業ガイドライン」と略称とする)は平成30年1月に厚生労働省から発表されていましたが、令和2年9月に大きく改訂・増補されたものです。

いわゆる人事労務管理や手続きに関する内容が分量としては多いのですが、その前提となる制度の趣旨や、企業の中での設計の設計についての基本となる考え方もはっきりと提示されています。
副業ガイドラインの最初の部分に「副業・兼業の促進の方向性」として、副業の社会に対して、また働く個人の方に対して、与えるメリットとデメリットが併記されたうえで副業の推進がうたわれています。

さらに、副業を契約する場合の信義則の強調、安全配慮義務・機密保持義務・競業避止義務・誠実義務等、企業が定めるべき具体的内容の考え方や基準が具体的に提示されています。これらについては、経営や人事の方針としての制度構築でも留意すべき点だと言えます。

注目すべきこととして、「企業と労働者の双方が納得して副業を進めるために、十分にコミュニケーションをとることが重要である」ということが強く書かれています。
各人の業務や生活の状態・副業を行いたい理由などの個別の把握ができ、把握した情報に基づいて判断するような制度を構築することが重要であるといえるでしょう。ガイドラインは政策的に重要な意味があるものですので、何かトラブルが生じた時の適正性の判断基準としての役割もあり、その意味でも重要な内容です。

上記のようなコミュニケーションの重要性があるということは、制度構築の前提として、社内の副業についての要望や、表面に上がってきていない現状把握をよく行う必要もあります
また、現状から予測される副業のニーズを推測することも重要でしょう。会社によって、収入補填的な副業へのニーズが強い企業や、技術を生かしたダブルワークがしやすい環境の企業など千差万別かと思います。そういった現状把握の前提がないと、制度を創設した結果が見当はずれのものになってしまう可能性が高いと考えられます。

ケース別・副業推進の留意点

前項のように、副業制度を作る上ではまず社内を調査した上で、経営方針としてどのような制度を作るか決めていく必要があると思います。副業は各人によって千差万別の形があるとも言えますが、本特集のvol.1「副業の現状と類型、企業にとってのメリットとリスク、活用方法」で挙げた類型の【1】【2】のいずれか、あるいは両方になってくると思います※。副業ガイドラインをはじめとした行政の資料でも、この2つが大きく分かれて記載されていることが多いものです。

【1】技術の向上・イノベーション推進・キャリア形成の文脈での副業推進
【2】ワークシェアリングや収入の補填の文脈での副業推進

制度構築の場合に留意するポイントも大きくこの2つによって違うと言えます。

※特集vol.1には「【3】広義のフリーランスや外部人材の活用の文脈での副業推進」も掲載しましたが、今回は本業企業の従業員への社内制度の問題なので除いて考えます。

【1】技術の向上・イノベーション推進・キャリア形成の文脈での副業推進のケース:まず自社の組織力を向上させる必要がある

コロナ感染症対応でワークシェアリングとしての副業や出向制度が注目される前までは、行政による副業の促進も基本的には、比較的高スキルな従業員や正社員の技術の向上・イノベーション推進・キャリア形成のための副業制度が注目されていました。

私が様々な企業の情報収集を行った結論として、副業を「技術の向上・イノベーション推進・キャリア形成」などの目的でうまく制度運用されている企業では、必ず下記の3点の条件を満たしていると考察されます。

  1. 組織のトップがコミットして、副業制度の方針や目指すものを明確に言語化している
  2. 副業によるリスクである情報管理や競業避止などについて、方針や各論の判断基準を明確に設け、現場や個別の判断任せにしないようにしている
  3. 副業制度を導入したり拡大させたりするよりも前に、理念浸透や人事施策などの実行により、組織力を高めているという前提がある

技術の向上やイノベーションの推進が副業制度の目的である場合、「副業先で働いて成長し、本業である自社でその技能を生かして業務に変革を起こしたり、提案をしたりしていただくく」ことが制度構築の目標となります。
これは、普段自社で働いているとき以上に、社員に主体的な行動が求められます。そのため、副業を行う社員には制度の目的やその実現のイメージが明確になるよう、分かりやすく伝えられている必要があります。状況よっては実施する副業ごとに「こうしたスキルや知識を身に付けてほしい」といった求めるものを定めることや、副業での成長を視野に入れたマネジメントの必要もあります。

一方で、本業である自社の組織力がない場合、副業で得たものを活用しようという意識が高くはなりにくいでしょう。この【1】の類型の副業制度を設ける場合は、まず自社の方針を明確にし、組織力を向上させる必要があるのだと言えます。

【2】ワークシェアリングや収入の補填の意味合いでの副業推進のケース:健康や業務効率性に配慮し、現状の業務が遂行できるような条件を設けて許諾する

業績低下によるシフトの変更や業務の削減により、収入補填的な意味合いでの副業を従業員に求めるようなケースや、従業員側から収入増大を目的に副業制度の導入を要求されるケースがあります。
こうした場合は健康や業務効率性に配慮し、現状の業務が遂行できるような条件を設けて許諾するような方向性の制度を作ることが考えられます。

こうした内容を判断基準として副業制度の考え方や目的を定めておく必要もあります。「なるべく副業を抑制する」ということだけを方針としてしまった場合、次項で見るように副業の可否の判断が難しくなります。
また、ワークシェアリングや収入補填のケースであっても、方針が定まっていなければ、働く方から見ても、「なるべく会社には言わずに副業をする」という副業隠しの状態を招いてしまいます。こうした把握できない副業が発生した場合には、労務関係の運用が適正にできませんし、その他様々なリスクの発生が想定されます。

副業の申請制度の留意点 ~副業制度の目的や想定されるイメージ・判断基準を明確にする

他にも、副業制度の管理課題として、「申請・承認制にするのがそれ以外の人事的な申請よりも一般的に難しい」ということが言えます。具体例として、副業に関する制度を実際に社内で運用した場合に、次のような申請が行われ、判断のポイントが以下のようになることが想定されます。

⑴社内の知的資産に直接触れ得る技術者が、自分の技術を活用した副業を行いたいと申請を出している。
→どういった基準でOKとすべきか

⑵ローキャリアで育成までに負荷がかかる営業部門の社員から、それなりにマネジメントの負荷がかかりそうな副業申請が上がってきた。
→どのような視点で判断すればいいのか

上記の問題を見るだけでも、知的資産のような内部管理的な問題から育成的な方針まで、副業との関係性での考え方が社内で決定され、共有されていないと判断が難しいものであると言えるでしょう。副業制度がうまく運用されている企業では、前項までに見たような、どういった副業に対してどのような意思決定をするか、ということの軸となる副業制度の目的やガイドラインがあるものです。

意思決定の判断基準(またはその軸となる方針)がない状態で、たとえば「どのように副業制度の運用上のリスクを減らすか・業務の調整をするのか」という視点のみで現場で判断しようとしてもうまく判断ができないことは容易に想定されます。
そういう意味でも、申請制度を機能させるためには方針の決定が重要であると言えます。
※副業制度実効の前提としての「リスクマネジメント観点での体制整備や申請に対する法的な整備」については、本特集のvol.4「副業に伴うリスクを防止するために必要なリスクマネジメント施策」で詳細に解説します。

副業は副業を行う従業員だけでなく、企業についても自己把握や自己決定が強く求められる

今回のまとめとして言えることは「副業制度の構築のためには、まずは自社の内部の(副業以外の部分の)整備が必要」ということです。組織力を向上させ、外部で副業を行った人のスキルや視野を生かせる環境を整える、という意味あいがまずあります。

また、より本質的に言えば、自社の価値の中核をどこに置き、従業員との関係をどう捉えるか、その上でどこに向かうのか--を明確にすることです。ゆえに、副業導入は経営レベルの判断が求められるのです。
明確にした上で副業を位置づけることができれば、副業制度の効果は非常に大きくなることも十分に考えられます。

副業、また副業制度とは、それを行う従業員の方が個人として自立してキャリアにおいて自己決定し主体的であることが求められますが、企業の側においても、自社をどう定義しどこに向かうかという意思決定を求めるようなものなのだと思います。
vol.3「諸外国の副業の現状・日本の労働市場における副業の位置づけ」につづく】


【特集:「副業」新時代-企業の向き合い方】(順次公開)
vol.1「副業の現状と類型、企業にとってのメリットとリスク、活用方法」
vol.2「副業制度の考え方と制度設計、申請フロー・手続き・届出など導入と運用」
vol.3「諸外国の副業の現状・日本の労働市場における副業の位置づけ」
vol.4「副業に伴うリスクを防止するために必要なリスクマネジメント施策」
vol.5「副業の労務管理や運用~重要な時間管理の新しい運用」
vol.6「副業の労務管理や運用~労働保険・社会保険・税務・健康管理に関する運用」
・vol.7「副業に戦略的に活用できる助成金や補助金~最新の産業雇用安定助成金の情報もあり」

【参考情報】
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月1日改定版)(概要)[PDF形式:767KB]
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月1日改定版)[PDF形式:375KB]
副業・兼業に関する情報ページ(厚生労働省)
部下に複業(副業)をしてほしいと思っている管理職の半数以上は、キャリア開発を期待【複業(副業)に関する意識・実態調査】パーソルプロセス&テクノロジー株式会社調べ

【編集部より】副業の企業事例や導入時の注意事項などを解説した記事はこちら

執筆者紹介

松井勇策(まつい・ゆうさく)(社会保険労務士、公認心理師、Webフロントエンジニア・グラフィックデザイナー) 東京都社会保険労務士会 広報委員長(新宿支部)。フォレストコンサルティング労務法務デザイン事務所代表。名古屋大学法学部卒業後、株式会社リクルートにて広告企画・人事コンサルティングの営業職に従事、のち経営管理部門で法務・監査・ITマネジメント等に関わる。その後、社会保険労務士として独立。労働法務の問題や法改正への対応、IPO支援、人事制度整備支援、ほかIT/広報関連の知見を生かしたブランディング戦略等を専門にしている。(2020年1月末時点の情報です)

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