コラム

企業コンサルタント大関暁夫の「組織と人事」


なぜかうまくいかない時に考えたい、「コミュニケーションの三原則」

2016.07.22

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私は経営者から新入社員まで、組織の様々な方を対象とした営業や管理に関わるセミナー講師を務めています。受講対象者やその時々のテーマに関わらず、いただいた時間に少しでも余裕があるなら必ず取り上げるのが「コミュニケーションの三原則」です。営業、管理、教育…、あらゆるマネジメントはコミュニケーションなくして存在し得ないからです。今回はこの「コミュニケーションの三原則」について、私の経験談を交えながら説明します。

目次
  1. 「コミュニケーションの三原則」その1:量が質をつくる
  2. 「コミュニケーションの三原則」その2:スキル(Skill)よりウイル(Will)
  3. 「コミュニケーションの三原則」その3:話すより聞く

「コミュニケーションの三原則」その1:量が質をつくる

銀行で支店長をしていた時のことです。私から見て部下との会話が少ない課長がおりました。「もう少し部下との会話を増やすように」と事あるごとに話していたのですが、「重要なことは口頭で伝えていますから問題ありません」と聞く耳持たず。しかし360°評価での部下からの評判は、「課長と意思疎通ができない」「課長の考えが見えない」などなど芳しくありませんでした。重要なことを直接伝えていたとしても、やはりベースになるコミュ二ケーションの絶対量が足りていなくては、その「質」すなわち信頼関係は深まらないのです。

逆にこんなこともありました。携帯電話販売店A社を手伝った時のことです。北関東を拠点とする同社は全員がマイカー通勤で飲み会もままならず、執務時間以外のコミュニケーションの絶対量が不足。店舗内の意思疎通不調がたびたび問題になっていました。そんな折に東京都下への新規出店がありました。新店舗へ異動したスタッフは、店長以下全員が電車通勤となり、仕事帰りの同僚間での突発的な寄り道や大小の食事会が当たり前に行われるようになりました。その店舗は業績優良店となり、皆が「転勤したくない」と言うほどまとまりが良くなったのです。

コミュニケーションはとにかく「量」です。「量」がなければ「質」は絶対に伴いません。これは仕事に限りません。家庭内でも同じこと。子供が大きくなるにつれ、家庭内サークルからあぶれてしまうお父さんをよく見かけます。毎日深夜帰宅で土日も不在など在宅時間が短い、反抗期の子供を相手にするのが面倒くさい、特に思春期の娘さんにどう接していいか分からないなどなど、理由は様々あるでしょう。でも原因はほぼ100%お父さんにあるのです。コミュニケーション量の不足が、自らを家族から遠ざけていってしまったのです。

「コミュニケーションの三原則」その2:スキル(Skill)よりウイル(Will)

スキル(Skill)は技術やテクニックのこと、対してウイル(Will)は意思や気持ち。すなわち、相手とのコミュニケーションを通じて意思疎通するには、下手な心理戦や裏読み的な仕掛けを考えるよりも、何より「気持ち」が一番大切であるということです。「気持ち」とはすなわち「相手を思う気持ち」です。営業で言うなら、提案先に対して「売りたい」「買って欲しい」ではなく、心底「お役に立ちたい」と思ってコミュニケーションが取れるか否か。上司と部下の信頼関係構築で言うなら、部下に対して「君ががんばってくれないと、私の評価が下がるからしっかりやれ」ではなく、「自社の将来のためにも、君にしっかりと育ってほしい」と思ってコミュニケーションが取れるか否か、ということなのです。

手前味噌で恐縮ですが、私が支店長としてある街に赴任したときの話です。その街唯一の上場企業との取引が、実はメインバンク取引ではありませんでした。その話を聞くや、ライバル銀行の倍以上の頻度で足繁く通い、なんとしてでもお役に立ちたいと熱意をもって社長と接しました。それが功を奏して、1年後には並み居る大手銀行を押しのけ、見事にメインバンクになることができました。さらには、私が銀行を辞めた後にも社外役員としてのお声掛けをいただく光栄まで。それもこれもウイルあるコミュニケーションの成せる技であったと、我ながら思っています。

「コミュニケーションの三原則」その3:話すより聞く

コミュニケーション上手を話し上手と履き違えている人はとても多いのですが、コミュニケーションの達人は決して話がうまいのではなく、むしろ多少口ベタでも聞き上手、引き出し上手であることがほとんどなのです。なぜなら、コミュニケーションは質問に答えつつ合いの手を入れられながら話をする事が、圧倒的にストレスが少ないからです。上手に聞き役に回って相手の話を引き出す人ほど、好感度が上がり信頼も厚くなるのです。

銀行員時代の部下で、口数が少なく物静かなタイプなのに、多くの取引先から気に入られて毎期抜群の実績を上げている担当者がいました。どんなセールス・トークをしているのだろうかと同行訪問をしてみると、彼はとにかく「合いの手話法」や相槌会話が本当にうまかったのです。「すごいですねぇ、驚きました」「どうしてそんなことができたのですか」「いつからそれを考えていたのですか」等々、彼の巧みな聞き役コミュニケーションに多くの経営者はすっかり乗せられて、いつの間にか最も信頼できる銀行員になっていたのです。

部下指導も同じことです。人の上に立つ立場になると、命令などなぜか自分が一方的に話すコミュニケーションをとろうとする人が多いのですが、実はあるべきコミュニケーションは逆なのです。聞くコミュニケーションこそ経営者、管理者にあるべきであり、部下が何を考え、何に悩み、どのような壁にぶち当たっているのか聞いて聞いて聞きまくり、問題を共有して共に解決策を考えることで、部下との信頼関係が築かれ部下が育つことにつながるのです。私が見てきた名経営者、名管理者は例外なく聞き上手でした。

 

初めにも申し上げたとおり、「コミュニケーションの三原則」は人と人が交わる営業、管理、教育…、あらゆる現場で通用する普遍の法則です。「何かうまくいかない」「何か変だ」そんな時には、「量」が足りないのか、「気持ち」が足りないのか、「聞くこと」が足りないのか、「三原則」に沿って現場のコミュニケーションを検証することをおすすめします。必ずや解決の糸口がそこに見えるはずです。

執筆者紹介

大関暁夫(おおぜき・あけお)(株式会社スタジオ02 社長) 東北大学卒。横浜銀行に22年勤務。経営企画、マーケティング、営業部門を歴任した。06年に独立し、コンサルタントとして「必ず実績が上がる営業チームづくり」をはじめ、企画、人事、営業面で数多くの企業を支援。若手時代には “リクルーターの神様”と呼ばれたこともある。採用に関する持論は「リクルーティングは自社を買わせる営業である」。

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