【レポート】人事の学び舎Vol.12「リモートワークにおけるマネジメントと組織づくり」
リモートワーク下で進む“不透明な組織化”を止める「見える化」と「Youの視点」
2020.10.05
従業員の不満、不安を把握し、課題を解決するためのノウハウと考え方を専門家が披露
@人事を運営するイーディアスは9月17日、人事・総務担当者向けのアカデミックイベント「人事の学び舎vol.12」を開催した。9月第2弾のオンラインセミナーのテーマは「リモートワークにおけるマネジメントと組織づくり」。
新型コロナウイルスの影響により全国的にリモートワークが推進されたものの、組織体制が十分に整っていない状態で導入したことで、人事の中に、経営者や管理者の発信や評価、また従業員の意見や業務への姿勢などが見えづらい「不透明な組織」になっていないかという懸念がある。従業員からの不満や不安が把握できず不透明なままの組織体制が続くと、コミュニケーションが不足し、エンゲージメントや生産性の低下、ひいては離職リスクまで…あらゆる課題が芋づる式に発生する。
今回は、講師に株式会社Colorkrew代表取締役・中村圭志氏と、株式会社リクルートマネジメン トソリューションズ事業開発グループ・角野皓平氏を招き、コミュニケーションとマネジメントの側面から課題解決法を解説してもらった。【公開:2020年10月5日】
はじめに
司会:事前の集計では今回100名近くの方に参加希望のご連絡をいただいています。今回のセミナーは、人事・総務を担当し、マネジメントはしていないけれど管理職・経営層に働きかけたいと思っている方に対しても解決の糸口となるような情報を提供できればと思っております。
プログラムのご案内です。この後、colorkrew中村様から「見える化でエンゲージメントを高め、挑戦文化を作る方法」のテーマでお話しいただきます。「見える化」が非常に重要なキーワードになってくると思われます。
リクルートマネジメントソリューションズの角野様からは「従業員の自律性を高めるには?上司の対話と人事の側方支援のレシピ」についてお話しいただきます。
見える化でエンゲージメントを高め、挑戦文化を作る方法【colorkrew・中村圭志氏】
日本初のグローバルチームを作りたいという願いで独立
今日は「見える化でエンゲージメントを高め、挑戦文化を作る方法」についてお話をさせていただきます。先程アンケートで、チームコミュニケーションの、進捗の見える化、エンゲージメントについて関心が高いということが分かりました。私のプレゼンテーションの中にそれらのテーマが散りばめられていると思いますので、もしもう少し聞きたいということがあれば、Q&Aに書いていただければと思います。
自己紹介をいたします。生まれてからは既に約半世紀立ちました。大学は工学部を出ておりまして、その後商社に就職しております。ドイツに駐在した後、2010年にcolorkrewに合流いたしました。元は私がいた商社に買収された会社で、「経営者として立て直してこい」と言われ出向いたしました。最終的には親会社と協議した上で自分たちでお金を出し合い、バイアウトしてcolorkrewとして独立いたしました。
「なぜ会従業員を辞め、マネジメントバイアウトしたのか?」と言いますと、大きな会社だとダイナミックな動きが取れないことがあり、独立したcolorkrewで日本初のグローバルチームを作り、世界にインパクを与えるサービスを提供したい、と考えたからです。
バリフラットとは「階層・役職・部署なし、情報格差ゼロ」の4つのゼロ
colorkrewの紹介をいたします
- 1999年、ドリームキャストのISPとして株式会社ISAO創業
- 親会社CSKから、2010年に豊田通商に買収、中村が社長に就任
- 2019年にcolorkrewとして独立
- 超オープン&超フラットのバリフラット組織へ
- 世界のシゴトをたのしくのサービス展開
colorkrewがどんな組織かと言うと、超オープン、超フラットのバリフラットな組織運営をしています。ビジョンとしては「世界のシゴトをたのしく」を掲げ、サービスを提供しています。
バリフラットとは、「階層・役職・部署なし、情報格差ゼロ」の4つのゼロから成り立ちます。
【関連記事】ISAOのバリフラットモデルで社員はどう変わったか? 質問の嵐、反対派との攻防…役職撤廃・給与全公開の組織ができるまで
部長とか課長もいません。私も代表取締役社長となっていますが、普通の従業員と同じように仕事をしています。「情報格差ゼロ」が特に大事なポイントです。一定の人にだけ情報が偏ると全体のパワーが削がれてしまうからです。
事業部長だった小泉介更さんというメンバーがいまして、バリフラットモデル導入後は55歳にして営業職にチャレンジしました。元は事業部長だったこともありもちろん話すのは上手いのですが営業となると役割は変わります。それでも3年後には20~30代の営業職を抜いてトップ営業となりました。
私はこれを「バリフラットの奇跡」と呼んでおります。しかし彼の方はつらい思いもしたそうで、「中村さんが『バリフラットの奇跡』という本を書いたら自分は『バリフラットの闇』の第二弾を書きたい」というようなことも言っております。
給与や等級、会社の財務情報の全てを見える化
今日のキーワードの見える化についてお話します。
・colorkrewで見える化している点
・人事情報 →全従業員の等級(給与)、評価内容
・財務情報 →PL/BS全て、交際費などの経費全般
・目標と活動 →日々の活動
給料は1円単位で公開されています。給与を決定するために自分で選んだ評価者が自分のことを評価します。誰が誰を評価しているのかも公開されています。
財務情報は全社・全ての部署の情報をリアルタイムで公開しています。
目標と活動についてです。
日々の進捗が見えない、チームコミュニケーションが見えないという課題を持っている企業も多いというお話がありましたが、colorkrewでは日々どんなアウトプットをしているかシェアし合っています。
我々が市場に提供しているサービスを提供してやっています。なので、リモートワークでも誰が何をやっていて何に困っているか分かるようになっています。
4億3000万円の赤字からスタート、見える化による企業再生
2010年の時点で4億3000万円の赤字があり、従業員は70人でした。そこから情報の見える化を行い、徐々に収益が上がっていきました。
オープン化することによってだんだん周囲を気にするようになり規律が生まれそこから「挑戦しなければcolorkrewではない」というカルチャーが生まれる所まで来ています。
中村:在宅勤務で見える化が進まないという課題があります。コロナ禍において在宅勤務が普及しましたが、PCのスクリーンショットを5分ごとに取るとか、離席する時はボタンを押さないといけないとか、「従業員を監視する仕組み」に向かいがちです。自発に持っていくためには「監視ではなく、自ら発信していくことが大事」というブログを最近書きました。
さて、ここからが本題です。「日本人の考えている誤解」についてお話します。
・日本のマーケットは特殊だから他国は入ってこられない
・メイドインジャパンは世界一
これらの考えは「井の中の蛙」です。
日経新聞2020年7月1日には「テスラ時価総額22兆円、トヨタ超え自動車首位に」という記事が掲載されました。このセミナー開催直前の9月16日には数字はその倍になり「テスラ44兆円、トヨタ20兆円」となっています。日本が自動車産業に強い、というのも幻想になりつつあると思います。
国の競争力で言うと、現在34位に落ち込んでいます。世界時価総額ランキングトップ50に、平成元年の時点で32社がランクインしていましたが、現在トヨタ1社のみです。
労働生産性で言うとかつての6位から20位に下がっています。20年、30年前の生産性に戻ってしまっている状況です。
IMDの調査では、日本の「起業家精神」は最下位63位、「デジタル技術のスキル」は最下位から2番目の62位です。これを見ると日本は二流国になりつつあると言えるかもしれません。
ドイツに行く前、各国の給与を調べたことがありました。リードエンジニアが11万ドル(今の為替で言うと1,200万円ぐらい)という時代があり、日本よりも低い水準でした。現在で言うと、ホワイトカラーの年収が日本の約2倍ほどで、ヨーロッパの水準も上がっています。
colorkrewの北京から来たスタッフに聞くと北京のサラリーマンの給与の方が東京のサラリーマンの1.2倍から1.3倍だと言っていました。2年くらい前の話ですが、かなり衝撃を受けました。
不可実性が高い『VUCAの時代』に対応できる組織が必要
何故このような状態になったのかと言うと、状況が変わったから、と言えます。同じものを高性能にしていったり改善したりしていったりした「KAIZENの時代」から、現在は不確実性が高い「VUCAの時代」になりました。
VUCAの時代は決まったゴールがなく、変化のスピードもものすごく早い点が特長です。現在の日本の状況は、私達自身がやり方を変えられなかったことが要因として大きいのではないかと思います。
「判子を自動で押してくれる高性能な機械が開発された」というニュースを以前見ました。「判子をなくそう」という発想にならないのが日本の弱点だと思いました。
「今あるものを改善する」は得意でも「抜本的に変える」ことが難しいのがこの国の特長なのかと思います。
KAIZEN時代のリーダーシップは過去に成功体験がある40~50代が改善を積み重ねてきましたが、VUCA時代は、目指すべき決まったゴールがありません。リーダーが「これをやるぞ!」と言って着いて行くのではなく、今後は挑戦を積み重ねてその中から次のステップを繰り返すイノベーションを生み出す時代になって行くと思います。
論功行賞でなったマネジャーではなく若い世代も含めた誰もがリーダーになってやっていかなければチームとしては強くなれない時代なのだと思います。
挑戦に必要な要素は心理的安全性と進捗の支援
挑戦ができる文化にするために、2つの要素があると感じています。
・心理的安全性
・進捗の支援
の2つです。「心理的安全性」は「サイコロジカル・セーフティー」と言い、Googleの機関re:Workが発表したことで有名になりました。
心理的安全性を簡単に言うと、自分の思っていること、正しいと思っていることを言ってもチームから弾かれない状況のことです。意見しても馬鹿にされたり、罰せられたりしない状況があれば心理的安全性が保たれていると言えます。
ハーバードビジネススクール教授で社会行動学の第一人者のテレサ・アマビール教授が、「どんなことをするとパフォーマンスが上がりやる気が出るか」研究したところ、「成果に対してボーナスが出る」「仲良く仕事ができる」などの要素を差し置いて「小さな進捗のサポートをする」が一番大事な要因と分かりました。研究の結果、95%のマネジャーがその大切さを理解していないと言います。
では、心理的安全性の担保や進捗の支援をどう行えば良いのでしょうか? 実例を出したいと思います。
8月21日、開発遅延が発生してトラブルが生じ、リーダーから問題発覚を伝える投稿がシェアされました。心理的安全性があるからこそあえて隠すことなくシェアをし、サポートを求めることができました。その後、金曜日に週末テスターを募集し、土曜日にメンバーが集結しました。最終的に従業員の半分である40人が協力し、開発遅延の火消しを行うことができました。
心理的安全性が保たれていれば、トラブルが発生してもチームで助け合えるという一例です。
次の事例は、コーポレートサイトのリニューアルで起きたことです。公開直後、31件の「こうした方がいい」という修正コメントが集まり、すぐに修正ができました。これは進捗の支援そのものかなと思います。
colorkrewはMamoru Bizというスマホアプリを作っていまして、これで勤怠を管理できるようになっています。オフィスでチェックインしたら自動的に勤怠が確認でき、オフィスの島のこの席に座っている、と把握できます。
コロナ禍において「出勤率を50%以下にしたい」という企業が多く、この機能を追加しました。このMamoru Bizの新機能を持って都庁の「UPGRADE with TOKYO」に参加したところ優勝し、直接イベントに関わっていないメンバーも、投稿に対するおめでとうのコメントで優勝を讃えてくれました。
また、「お客様がMamoru Bizを解約した」という失注報告の投稿もシェアしますし、韓国出身の営業メンバーが韓国へのアプローチを開始した際も投稿に応援コメントを送っています。
産休中にも出産報告を投稿してくれたメンバーがいました。その際は社内から「おめでとうコメント」が47も集まりました。
これらの投稿シェア、進捗確認とコメントを行っているサービスが、我々が開発している「ゴーラス」です。
ゴーラスには以下の特長があります。
・進捗の見える化
・結果だけでなくプロセスも評価
・ワンクリック25カ国語翻訳機能
先程紹介した活動のシェアの進捗も、グラフにしてひと目で見える化できる機能を搭載予定です。進捗に誰がどのくらい貢献したかもひと目で把握できます。
結果だけでなくプロセスを評価する使い方も可能です。ゴーラスによって毎日新着を報告するだけでなく、後からそのプロセスを確認できるのも利点です。
母国語を登録しておくとワンクリックで翻訳できます。colorkrewの従業員のうち15%は海外出身者なのでグローバルチームでは必須の機能です。
見える化のために必要なのはトップの覚悟×見える化リーダーの存在
ゴーラスはツールとしては有効ですが、ツール以外にも重要な組織の姿勢があります。
1つ目はトップの覚悟です。
色んなことを「見える化」すると、「なんであんな経費を使っているのか」「何故あの人は評価が高いのか」という声がだんだん上がってきます。そういった疑問に全て答える、というトップの覚悟が重要になります。
もう1つ重要なのが見える化の中心になるリーダーです。
このリーダーが執念深く働き賭けをすることが大切です。colorkrewももともとクローズな会社でしたが徐々にオープンにして現在に至ります。階層がたくさんある会社からバリフラットになった経験もありますしやろうとおもえばできます。見える化のリーダーの信念と、後少しのコツがあれば十分です。私達のゴーラスを使ってコツを抑えれば3カ月から半年で組織を変えることができます。
最後に「見える化の抵抗勢力」について少し解説します。社内には2種類の抵抗勢力がいます。
・情報を囲っている役職者
・自分の仕事を見られたくない担当者
この勢力の抵抗をどう乗り越えていけばいいのか、ゴーラスを使いながら「こうした方が良い」とお伝えしてしますのでぜひお問い合わせ下さい。
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・納得感のない評価は組織を滅ぼす!? あなたの組織の評価方法が、メンバーのやる気を奪っています【ホワイトペーパー】
質疑応答
司会:文化作りは時間がかかると思いますが、お話を聞いて「やろうと思えばできる」という姿勢が大前提であるのだと改めて実感しました。参加者からの質問にご回答ください。
質問:心理的安全性の重要性についてもう少しお伺いしたいです
中村:自分に置き換えてもらえば分かると思いますが、心理的安全性がないと萎縮してしまい、仕事がしづらくなります。伸び伸びと仕事をし、適度な緊張感を保つにはやはり心理的安全性が重要かと思います。
質問:リーダーの意識以外にも大事なポイントはなんでしょうか?
中村:周囲にオープンにしろと言いながら自分がクローズな姿勢だと信用されないので、リーダー自身が率先してやる姿勢、行動が重要です。
司会:ちなみに中村様が率先していることは何でしょうか?
中村:私もゴーラスを使っていますが、colorkrewは半期4月から9月に何回投稿したか数字を見ることができます。今時点で350回くらいはシェアをしています。昨日も前田さんとの打合せをスクショしてシェアさせていただいています。
質問:当初、組織改革を行う際に見える化が問題と定義付けたきっかけとはなんですか?
中村:ちっちゃい会社なのに、階層が深く複数あって、何か報告する時にチームリーダー、課長、部長、取締役…というように伝言ゲームになってしまう状況がありました。それならばいっぺんに「こういう状況ですよ」と伝える仕組みにしようと思ったことがきっかけでした。社内の階層が深かったため、意思決定に時間がかかる点も問題としてありました。
私が知っているとある企業ではA4サイズの稟議書に、確認の判子が25個も押されていたというような状況もありました。そこまで極端でなくとも、改革前は3~6個判子を稟議書に押す必要があったので、判子は2個までにするようにしました。スピードを上げるためにまずオープン化を目指しましたが、やって行くうちにスピードだけでなく機会の平等やフェアネスも達成できるというプラスの効果がありました。
最初はものすごくオープン化には力を入れる必要がありますが、そこを抜けると楽になります。「中村はこういう考え方で意思決定をしているのだな」とメンバーにも伝わります。
質問:心理的安全性は部下を怒らないということですか?また情報のオープン化が大事ということですか?
中村:給与をオープンにすると良いことがたくさんありました。最初は違和感がありますが、やってしまえば当たり前ですし、どのくらい活動していれば給与はどの程度になると分かり、目指すべき部分が明確になります。一人ひとりのキャリアプランにいい影響を与えます。
怒らない方が良い、ということについて説明します。私はこういうちょっとふざけたキャラクターですが、怒る時はあります。それは「メンバーが真面目にやっていない時」です。「真面目にやっているのか?」ということは聞きますし、この問いかけ自体が怖いかもしれませんね。
真剣にやっていて駄目な時は仕方がありません。なので、目標を決めて行動計画に沿って頑張ってやっていればどんなに失敗しても怒ったりしません。しかし、上手く行かない場合は行動計画を変えなければならないのでそこは話し合います。
質問:バリフラットモデルのデメリットを教えて下さい。
中村:集団責任になってしまうパターンは危ないです。ふわっと「誰かがやるだろう」と思ってふわっとした連帯の責任感を持っていると、ポテンヒットが起きてしまいます。「バリフラットで役職がなくてみんながリーダー」の組織だと、自分で必要だと思ったらボールを取りに行くような考え方がないとポテンヒットが続出する、ということは指摘しておきたいです。
質問:マインドリセットすると、人が離脱することもあると思いますがそれも含めて覚悟ですよね。トップのマインドを変えるためどんな働きかけが必要でしょうか。
中村:トップの考え方を変えたい、という意図なのかと思いますが難しいですね。おだてたらやる気になる方、突き上げたらやる気になる方はそれぞれいます。なので、アプローチ方法は複数あります。よく我々がお客様に対してやるのは「中村派遣しますよ!」という方法です。トップと私で話をして、今日のセミナーの内容をもっと深くしたような内容をお伝えし、「オープンにしないといけませんね」と状況をヒアリングしながら提案します。
従業員の自律性を高めるには?上司の対話と人事の側方支援のレシピ【リクルートマネジメントソリューションズ・角野皓平】
リモートワークでは従業員の自律が大きなテーマ
私の自己紹介をさせていただきます。現在36歳です。入社時はリクルートキャリア、事業としてはリクルートエージェントで人材紹介、中途採用の支援を行っておりました。転職のご支援をする中で、転職で幸せになる方、転職で希望が叶わなかった方、それぞれを見てきました。ミスマッチを防止したいという思いを抱き、ベンチャー企業でカルチャーマッチのHRテックを提供するmitsucariを立ち上げました。
mitsucariの活動で、入社後の組織そのものは良くても上司の相性が悪ければ不幸な結果もあるというケースも見聞きしてきました。採用時・入社後の両輪で支援ができないかと思い、現在はまたリクルートグループに戻って入社後のフォローやマネジメント強化に携わっています。
今日ご参加の皆さんに以下の3つから本日のご興味をお伺いしたいと思います。
・メンバーの自律を引き出すためのマネジメント手法と人事の支援
・リモートワークにおける自律を引き出す評価制度
・リモートワークで起こった職場の変化
リモートワークでなぜ「自律」がテーマになるかについてお話します。リモートワークの生産性の変化を調査すると「人による」という結果が出ています。個人の性格や年齢層による違い、家庭環境といったハード面の違いも影響しています。
アンケートを取らせていただくと、テキストコミュニケーションのスキルに次いで自律して仕事をする能力が重要と思われていることが分かります。
コンディション面で言うと、リモートワークで寂しさ、孤独を感じる方もいるのでそういった方々のケアも必要になってくるという事情もあると思います。
少し上司の側の問題に触れたいと思います。上司の方の困りごとの代表は状況が見えづらい、指示が出しづらい、協働が成り立ちづらい、といったことで、我々の調査でも明らかになっています。
注目してもらいたいデータがあります。現在の環境下に置いて「チームワーク(協働)が上手くいっていますか?」という質問と相関があった質問をご紹介します。
チームワークが上手く行っている組織は「管理者が忙しすぎる」ことが多いと分かりました。これは解釈になりますが、チームワークにおいて「管理職が協働のハブになっている」ことが指摘できると思います。
しかし、一方でこれでいいのか?という提言もございます。マネジャー依存が過ぎると会社がバッドサイクルに陥ってしまう可能性もあります。非対面・非集合の働き方において管理職が協働をつなぐハブとなる必要性がありますが、それが過ぎるとメンバーが指示待ち状態になってしいます。
指示待ちによる管理職の業務負担の増大によって、個業化が加速し協働が停滞すると「会社全体」について行動が難しくなり、更に「管理職が協働を頑張らないと」というサイクルに入ってしまいます。
リクルート流「WILL-CAN-MUST」評価
ここでリクルートでの取り組みをお話させていただきます。
リクルートは従業員の主体性や自律性を人材開発の基本、経営の根本においている企業です。2008年からは「WILL-CAN-MUST」という仕組みを導入しています。2004年からは一般的な目標管理の評価シートを使っていましたが、2008年から本人視点の「やりたい」という視点を評価に取り入れる「WILL-CAN-MUST」の評価に切り替えました。
「WILL-CAN-MUST」について詳しく説明いたします。
Willは、今の仕事において主体者として実現したいこと。もしくは2~3年後のキャリアイメージです。実現したいキャリアは社内・社外を問いません。
Canはハブになる大事な設定で、メンバーとしては「これをやりたい」というWillに紐付いた計画で、上司から見た場合は、「こういうことを実現できるのでは?」という部分を組み合わせていく形でWillからMustにつなげる制度です。
Mustは上司主体で「組織としてこういうことをお願いしたい」というミッションを設定します。
「WILL-CAN-MUST」の評価の具体的なやり方と手順についてです。
- Willの言語化・引き出し
- 活かしたい強み・克服したい課題のすり合わせ
- 能力開発テーマの設定
- ミッションの設定
- 具体的行動の設定
1.Willの言語化・引き出し
まずメンバーがWillとCanを言語化して上司の方は本当にやりたいこと・実現したいことを引き出します。
2.活かしたい強み・克服したい課題のすり合わせ
その上で「こういうことをやっていきたい」という点を擦り合わせていきます。この段階で360度評価(PVA)に基づいて上司は「こういうことがまだ足りていないかもしれない、だから能力開発のためこの点は設定しよう」と言った認識のすり合わせを行います。
その上で能力開発の設定を行い、ミッション、具体的行動の設定を行っていきます。
しかし、このWillをきちんと扱うことは難しい側面があります。「話してみるとWillが出てこない」ということもあります。そうしていると結局上司が言う「Must」だけの会話で終わっていまいます。
一方で、「Willを言っていいんだ!」という意識が強すぎると企画部に行きたい、異動したいなど部下から一方的に希望を伝えられる場になってしまいます。
「Willを尊重しつつ、結局上司の考えるMustを押し付けてしまう」というパターンもあります。
部下とコミュニケーションを取るには4つのレイヤーを意識する
では上司はどうしたら上手にWillを引き出すことができるのでしょうか。私達は上司-部下間のコミュニケーションには以下4つのレイヤーがあると考えています。
・目標設定・評価
・報告・連絡
・相談
・深堀り
のレイヤーです。
「どのレイヤーまで話せているか?」が重要で、「相談」「深堀り」のレイヤーまで話ができていないと面談に置いて納得感のある対話や自律・成長につながるフィードバックを行うことは難しいと言えます。
「相談」のレイヤーの中で「全体像の整理は得意」といった「本人の強み」、上司から出た「もう少し自律的に動いて欲しい」といったコメントは「本人の課題」になります。
「深堀り」の段階では、「ゴールは高く置いた方がよい」「今のままでは成長が止まる」といった部下の発言を引き出せたら、それを「本人の意向」として考慮します。
日常のコミュニケーションがWillを引き出します。「問題ない?困ったことがあったら教えて」では部下は中々自分のことを話してくれません。全体として問題ないか?という視点ではなく部下の仕事のプロセスまで見て話すことが重要です。プロセスを知ろうとしない人には困りごとの相談はしないからです。
メンバー自身が日頃どんなことを感じながら働いているのか、どんな現実を見ているのか受け止めることが大事です。「分かってくれそう」と思えない相手には、部下も自分の課題を話そうとしません。
部下の背景まで理解するには「Youの視点」が必要
これまでマネジャー様に「こうして欲しい」というお話をしてきましたが、少し抽象度を挙げて「Youの視点」の話をしたいと思います。
トヨタ自動車の「トヨタイムズ」で取り上げられていた豊田章男社長の言葉を紹介します。
従業員の方に厳しい言い方でこんな話をしていました。
・管理職が「I」の視点ばかりになると、映し鏡のように部下も「I」の視点ばかりで話すようになる。パートナー関連会社にもトヨタの「I」ばかりを押し付けるのが当たり前になる
・目の前の部下の視点に立てない管理職は経営トップのし転移も立てないし、世の中の視点にも立てない。(略)管理職が「You」の視点を持っていくことが大切だ。
まさに、このようなYouの視点が管理職にとって重要と思います。
なせ、Youの視点が大切なのかと言うと、部下・上司それぞれ同じ状況にいながら異なるバックグラウンドを持っており、見ている現実は異なるからです。この裏側には性別やキャリア観、世代による仕事観の違いなどの「多様性」の問題もあります。
ここを考慮しないと、上司が良かれと思って言ったことがハラスメントになり離職につながることも考えられます。また、コロナ禍における「出社の考え方」「会社と自身・家庭のバランス」の捉え方の違いもあります。上司の方が「リモートワーク大変だよね、早く出社できるようにしたいね」と悪気なく言ったとしても部下の方はそんなふうに思っていない、ということもあります。一人ひとりの視点に注意を向けてみて欲しいと思います。
Youの視点を見える化し、円滑な意思疎通を可能にするINSIDES
では、人事の側はどうすれば?という視点から我々のサービスを紹介したいと思います。
我々の提供するINSIDESはYouの視点を見える化し、以下のことを実現するクラウドサービスです。
・多様性がある環境下やリモートワーク環境下でメンバーマネジメントに難しさを感じるマネジャー向け
・メンバー一人ひとりの心理状態(心理的安全性とエンゲージメント)や性格タイプを捉えたレポートを提供
・専門家がオンラインで個別相談に乗る
導入企業からは、「ウチのマネジャー陣がメンバーのことをここまで真剣に考えている」
のを初めて見た」という嬉しい声もいただいています。
サービスの説明をさせていただきます。
上司向けにメンバー一人ひとりのレポートを配信、問題点が分かった際は専門家がどう関わればよいか個別相談に乗ります。Webでレポートを配信しまして、メンバーの方にも5分、31問のアンケートに答えていただきます。
アンケートに答えていただく中で「こういう引っかかりを感じている」「こういうことに喜びを感じる」といった状態が上司に伝わり、上司の方も部下の感じ方や考えについて気づきを得ることができます。
レポートの中にも関わり方へのアドバイスがありますが、更に相談機能があり、専門家に相談可能です。
相談と解決事例:部下が上司の指導に不満を持った理由
相談事例を紹介いたします。
「上司はやるべきことは指示しているつもりだが、上司の指示・アドバイスに不満という結果だった」
このケース上司の方は、アンケートの結果で「上司の仕事の指示の仕方、仕事の進め方が自分に合わない」「上司から十分なアドバイスや支援が得られない」にチェックが入れられていたことにショックを受けており、私達は、アンケート結果に対し、「Youの視点」を提供するという対応を取らせていただきました。
性格タイプと不満事項から分析した結果、この部下の方は「調和重視」の性格タイプでした。「ありがとう」という言葉や気持ちが仕事のモチベーションの源泉になるタイプで、上司と話していないと不安になる寂しがり屋でもあると考えました。
そのような点を踏まえると、「上司の〇〇様ともう少し話がしたい」「どういう期待があって仕事に取り組んでいるのか、誰の役に立つために今の仕事を頑張って欲しいのか?」の点が見えづらくなっているのが心配なので、その点を伝えて欲しいという声なのかもしれないと考えました。
認識がずれていた点は上司の方が「今後マイクロマネジメントしなければならないのだろうか?」と受け取っていた点です。実はそうではなく、仕事が終わった後の「よかったよ」「ありがとう」というリアクションが本来重視するべき点でした。
リモートワーク環境下では、上司とのコミュニケーションが減ることで不安・不満を燻ぶらせるメンバーが増えやすいと、とある企業の調査結果で明らかになっています。
マネジャーと一対一で対話する機械が増えている方は良好なコンディション、高いエンゲージメントを保っています。対話が減っている方はネガティブな感情を持ち、心理的安全性が確保されていないという結果となっています。
意図してコミュニケーション機会を増やすことがコロナ禍においては重要なのです。
【セミナーで紹介した関連資料ダウンロード】
・1分でわかるINSIDES
・1on1が形骸化してしまう3つの落とし穴
質疑応答
司会:私の感想ですが、Youの視点を持っていなかったと気付けました。そこでYouの視点を持つファーストステップとして何を持てばよいか?という点が気になりました。
角野:一番最初のステップで言うと、メンバーへの興味を持つことが一歩かなと思います。表面的な興味というより、より多様性を踏まえた興味です。自分だったらこうだけど、〇〇さんだったこう思うんだな、という視点です。例えば「成長したいんだったら頑張れるはずだ」という見方がありますが、「成長したいけど頑張れない」という事情もあるかもしれません。そこで何が引っかかっているのか、その点に興味を持っていくのが最初のステップなのかなと思います。
司会:前提として上司と部下ですけども、人と人とのコミュニケーションなのでその人のことを人として詳しく知ろうとすることが大事ということでしょうか。
角野:人が多様なのと同時に、人の気持ちが複雑だということがポイントだと思います。
質問:部下の方と会話をするテクニックを教えて下さい。
角野:リモートで言うと、オーバーリアクションが大事です。深堀りの質に至る前の「関係性の醸成」が大事で、深堀りしようとしても部下が身構えてしまいます。後は事実を取りに行くことです。1on1をする上でも事実を基にした準備が大事で、過去もらっていたメールに内容から「この点に困っているかもしれない」と仮説を立ててから「これはどうだった」と質問してみると良いと思います。
質問:「WILL-CAN-MUST」のWillを見付けられない人にはどんなサポートが必要ですか?
角野:最近、我々もWillを強要しないようにしていまして、Willを長いこと一緒にやりながら探していこうよ、というのが昨今の姿勢です。後はやはり、日常から本人の特性を見てあげることでしか見つからないとも思っています。
例えば、日報や日常の報告で「特別必要ないのにこういうことを報告してくれたな」という気付きもWillのヒントになるかもしれません。逆転の発想で、やりたくないことについても聞いてもいいかもしれないですね。
私個人で言うと、定型化された業務、例えば経費精算がすごく苦手です。新しいことに接している仕事が得意なので、こういうタイプの人材なら新しいことにアサインできる現場での挑戦が必要なのかなと思います。
司会:日報や普段のコミュニケーションの量を増やして気付いていくことが大事、ということですね。
角野:ヒントを見逃さない、というのが一番難しいけれど大事な視点だと思います。
質問:上司とのコミュニケーションが上手くいきません、部下視点からできることはありますでしょうか?
角野:上司の方は上司の方で何か悩んでいることや、部下とのコミュニケーションを阻害している要因を抱えているのかもしれません。例えばKPIの話ばかりでプロセスの話ができていない、あるいは上司より役職が上の方にKPIの達成で詰められているのかもしれません。
このような状況の場合は、部下の方でKPIを上司がまとめやすいように報告した上で「残りの時間を私達のために使ってもらえませんか」と提案してみると言った対策があるかもしれません。
質問:オンラインコミュニケーションを増やすためテーマを決め雑談の朝会をしていますがイマイチ盛り上がりません、改善ポイントを知りたいです。
角野:角野:ソリューションの提案で言うと、「朝会ラジオ」を取り入れている企業もあります。ラジオ形式にしてしまって、毎日1人が話すようにします。朝会の中でプライベートのことでもいいですし、人となりについて話してもらう時間を作るのも良いと思います。いきなりハードルの高い対話は難しいので、まずは「こんな話もしていいんだ」という気付きを一つ一つ増やすのも効果的だと思います。
質問:部下とのちょっとした会話が大事で、何でもいいが「これどう?」という風に聞いていくのが良いのでしょうか?
角野:段階はあるな、と思っています。人となりや仕事の進め方の癖などを知らないうちは、その段階から話を始めても良いと思います。その段階を超え、人となりをよく知った後であれば「君とこの仕事を進めたいと思うけどどう?」とか「別の所から君の仕事を聞いたけど、〇〇君らしくて良いね」などの会話でも良いと思います。
上司部下の関係の中で「この人にはこれをやって欲しい・期待している」という目的が出来上がった上であれば、それに向かった対話を行うと効果的かもしれません。
質問:対面からオンラインになったメンバーと、入社後最初からオンラインになったメンバー同士でコミュニケーションを取る方法について教えて下さい。
角野:オンラインで活発にコミュニケーションが行われているところにいきなり参入すると「転校生」のような立ち位置になってしまいます。最初はオンラインでコミュニケーションが取りやすい方をメンターとしてアサインしていただき、その関係性を築いてから全体とコミュニケーションを取れるようにすると良いかもしれません。
司会:オフラインだと、10人でも5人や4人の小さなグループに分かれてコミュニケーションを取れますが、オンラインだとその様な小分けしたコミュニケーションが難しいので最初は狭いコミュニケーションからスタートするのも良いですね。
角野:朝会の話にも通じると思いますが、10人の中でいきなり話せというのは心理的安全性がないと難しいです。
質問:Youの視点で考えてみたいのですが、上司のいない場で部下同士によるコミュニケーションを気軽に取れる場を作るのはどうでしょうか?
角野:この場合、上司との関係性を一旦断ち切ったグラウンドルール作りが必要なのかなと思います。Iの視点の方に場の空気が行きがちなので、Youの視点をどう制御するかが大事になってくると思います。
質問:コミュニケーションを積極的に取る従業員とそうでない従業員に分かれています。日常での会話機会を取る重要性を従業員に理解してもらうために何が必要でしょうか。
角野:最初は二分化するのは仕方ないと思います。変化を享受する一方の従業員に影響されて変化を受け入れるという流れです。大事なのはコミュニケーションを積極的に取っている従業員について、「これは推奨される行動なんだよ」というメッセージを社内で送り続けることです。
【おわり】
セミナー概要
セミナータイトル:従業員の不満、不安…本当に把握できていますか? リモートワークにおけるマネジメントと組織づくり
開催日:2020年9月17日(木)
開催場所:オンラインで開催
定員:50名
受講料:無料(@人事会員への事前登録が必要)
主催:株式会社イーディアス 「@人事編集部」
プログラム:
・見える化でエンゲージメントを高め、挑戦文化をつくる方法
株式会社Colorkrew代表取締役 中村圭志氏
・社員の自律性を高めるには?上司の対話と人事の側方支援のレシピ
株式会社リクルートマネジメン トソリューションズ事業開発グループ 角野皓平氏
セミナー詳細LP:https://at-jinji.jp/cp/seminar/vol12
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