特集

古き良き時代の一体感を取り戻す


「今どき?」と言われた運動会で大成功~三越伊勢丹グループ~

2016.06.17

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百貨店業界のトップランナー・三越伊勢丹グループは、2015年夏、店舗休業日にグループ共済会と労働組合の合同企画で「社内運動会」を開催した。首都圏の店舗や事業所で働く従業員とその家族、約3,500人が集まるという大イベントとなり、普段のスーツ・制服姿から一転、この日ばかりはそろいのハチマキやTシャツを身にまとった従業員が、跳んで走って汗をかき、一日中歓声を響かせた。(2016年3月取材:浜田有希子、構成:編集部)

目次
  1. 成功の鍵はプログラムにあり
  2. 手探りの準備に立ちはだかった2つの壁

成功の鍵はプログラムにあり

三越伊勢丹グループ労働組合の上田智亮氏

三越伊勢丹グループ労働組合の上田智亮氏

同社は、百貨店業界でも老舗中の老舗である三越と、ファッション性を打ち出し若い世代からの支持が厚い伊勢丹という対照的な2社が2008年に経営統合して誕生した。「大店法(大規模小売店舗法)改正の規制緩和で営業時間が拡大される以前、伊勢丹では春に所属対抗の野球大会、冬には各店から貸切バスでスキーに行くなど頻繁に交流の機会がありました。

三越も同様で、当時は社内コミュニケーションがとりやすかったのです。しかし、現在は別店舗の従業員どうしが知り合える機会は格段に減っていました」(三越伊勢丹グループ労働組合 上田智亮本部書記長)。再び社内の交流を活性化し、統合した新グループとして一体感を養い、モチベーションを上げようと企画されたのが社内運動会だった。

三越伊勢丹グループの社内運動会

顔を粉まみれにしながらラッピングに臨む店長

一体感醸成という目的を達成するためには、いくつかのポイントがあった。一つは、競技を凝ったものにせず、誰もが知っているシンプルなものにすること。綱引き、大縄跳び、リレーといったいわゆる運動会の定番競技を9チームの対抗戦で行い、出場者も応援する側も白熱し、勝敗がはっきりと決まることを意識した。一方、騎馬戦や棒倒しなどを希望する意見も出たが、ケガ人が出る可能性が高いとして実施は見送った。

二つ目は、「上位職」が普段は見せない素顔を見せるプログラムを取り入れること。障害物競争は部長・店長クラスが出場する競技とした。実際の競技では、アメ探しのゾーンで顔を粉まみれにし、百貨店ならではのラッピング技術を披露するゾーンでは、久しぶりの作業に悪戦苦闘する様子を見せ、部下たちから笑い声と声援を誘った。「普段は話かけにくいくらいの難しい顔で仕事をしている上司がニコニコしながら走り回るんです。店長とピースサインで写真を撮る若手もいました」(上田氏)。

三つ目は全員が一斉に参加できるプログラムを用意すること。2015年はフォークダンスを踊り、ギネス記録にも挑戦。最後は「世界に一つだけの花」を歌い大団円を迎えた。自然に肩を組んで輪ができ、まさに全員がひとつになることを感じられる瞬間だったという。

運動会の実施は、企画側の予想を超えたコミュニケーションも生み出した。1チームに複数の事業部や店舗を含むよう編成し、事前に発表したところ、普段は交流のない従業員どうしが作戦会議やユニフォーム・応援グッズの準備を始めたのだ。「新たな社内ネットワークの広がりは業務にも活きてきます。例えば離れた店舗間で連携が必要な状況になったときや、他店舗の情報が欲しいとき、お互い顔と名前が分かる関係があればよりスピード感をもった対応ができるでしょう」(上田氏)

手探りの準備に立ちはだかった2つの壁

一体感を醸成し、モチベーションを高めることは、人手不足に歯止めをかける点でも重要だと言える。最近はさまざまな業界で人手不足が叫ばれるが、対策として“営業時間短縮”で対応する動きが広がる百貨店業界も例外ではない。働く人と企業とがお互いに選び合う関係となっている今、従業員の「ここで働きたい」というモチベーションを高められなければ、数・質の両面で人材流出につながるだろう。

運動会企画の実務を担った共済会の木暮洋司事務局次長は、おもに2つ苦労があったと振り返る。

共済会の木暮洋司事務局次長

共済会の木暮洋司事務局次長

まず直面した壁が会場探しだ。店舗休業日という限定された日に大多数の従業員を動員するため順延ができず、また、真夏に実施することから体育館などの屋内会場を探した。

「夏休みと重なり、各種大会の予約がすでに入っていたり、利益が上がるコンサートなどが優先されたりしたため難航しました」。もう一つは、いかに参加率を上げるか。三越、伊勢丹ともに運動会の実施は20数年ぶりだった。「本番の4カ月ほど前から各店長に企画を説明して回りましたが、当初は『今どき運動会?』という意見もありました」(木暮氏)。

強制感を出さずに自発的に集まってもらえるよう、こまめに社内イントラネットで情報発信しながら盛り上がりを演出し、さらに子どものいる従業員が参加しやすいよう家族も参加できる企画を用意した。

試行錯誤の末に開催した社内運動会は大成功。社内から好評価を得たことで、同社は今年の開催も決定した。また、同じ業界内では松屋も20年ぶりの実施を予定しており、今後は「社内運動会の復活」が新たな潮流となりそうだ。

モチベーションアップの施策として社内運動会を開催したい企業に対して、木暮氏は次のようにアドバイスする。「初めは否定的な意見も出るが、終わってみれば必ず満足してもらえると思うので思い切って取り組んでほしい。また、上司がどっかりと座って見物するようではだめで、『同じ釜の飯を食う』仲間となるよう、一緒に参加して同じ空気を吸うように仕向けることが、一体感醸成には大事になってくるでしょう」

社内運動会の開催は、大きなエネルギーを必要とする。しかし、開催に向けたプロセスや競技を通じて醸成された一体感は、より大きな「熱量」となって還元される可能性を持つ。今、モチベーションアップの新たな施策として、古き良き時代の「社内運動会」が注目を浴びている。

執筆者紹介

浜田有希子(はまだ・ゆきこ) フリーライター。大学卒業後、日本テレビ系列の地方民放テレビ局に入社。夕方のローカルニュース番組で7年間に渡り事件事故・行政・災害・地域ネタなどを幅広く取材。2015年、夫の転勤に伴い東京に転居しフリーランスに転身。ライターとして企業インタビューなどを行うほか、個人起業家を対象に動画制作術をレクチャーする講座を開催。

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