with/afterコロナのコミュニケーションと組織開発
若手社員のモチベーションが継続するチームビルディング
2020.05.14
現代のビジネスパーソンにとって、ひとつの企業で経験を積むことだけが正解ではありません。しかし、人事の立場で考えるとせっかく採用・教育した若手のモチベーションを維持できず、次々に離職。結果として人員計画が思うように進まないといった課題につながります。
ビジネスチャットの台頭や、予期せぬ在宅勤務によるリアルな対話の減少――。コミュニケーションに劇的な変化が起こっている今、若手社員のモチベーションコントロールは困難を極めています。そこで今回は、「若手社員のモチベーションを維持するチームビルディング」について考えます。
この度のコロナ騒動で、チーム作りやコミュニケーションのあり方について改めて考える企業も多いかと思います。今回ご紹介する取り組みはすぐに実践できるものもありますので、参考にしていただければ幸いです。【執筆:株式会社MAP代表・飯田健太郎】
若手社員のモチベーションが続かない3つの理由
そもそも、若手社員のモチベーションが続かない理由は何でしょうか?
与えられることに慣れている、ハングリー精神が希薄といった、若い世代特有の価値観によるもの。仕事への慣れからくるマンネリ感、給与や待遇面への不満など、仕事そのものや会社への不満。飽きっぽさなど本人の資質によるもの、さまざまな要因が考えられます。
しかし、仕事の意欲が減退する要因は、以下の3つに集約されるのではないでしょうか。
・仕事や会社に愛着が持てない
・日々の業務に変化がなく、自身の成長が感じられない
・自己評価と他己評価がずれている
いったん失った仕事への情熱を取り戻すのは容易なことではありません。一度落ちた意欲は二度と戻らないと考え、最初からモチベーションを落とさない仕組みをもつチーム作りをすべきです。
グループ企業含め従業員数129人(2020年3月時点)、平均年齢29.5歳と若いメンバーが中心である弊社が実際に取り組んでいる施策を交えながら、モチベーションを維持するチーム作りのポイントをお伝えします。
オーナーシップとメンバーシップのバランス
私がチームビルティングにおいて最も重視しているのは「自社の仕事に対する誇りを育む」ことです。愛社精神にもつながる考え方として、事業に対する「オーナーシップ」と、組織に属する「メンバーシップ」のバランスを常に意識しています。
特に、組織に貢献したいという強いメンバーシップを育てることは難しいものです。弊社では自身の業務だけでなく、事業全体の目標や課題を全社員が共有し、組織と個人業務の関連性を強く意識できる業務設計をすることで、メンバーシップを育成しています。
例えば営業担当者が個人の数字を追うだけでなく、新たなマーケティング手法を提案したり、業務効率化ツールの導入を担当したりするケースが、弊社ではよくあります。組織に貢献するために部署の垣根を越え、誰もが自由に、活発に意見できるような業務設計をしているからです。
若い社員や社歴の浅いメンバーの提案が歓迎される風土を作るためには、上司の意見には逆らわない、リーダーのアイデアは重用すべしといった保守的な考えをしないことがポイントです。
社内異動が若手を育てる
弊社が実施した社内異動に関するアンケートによると、80%の若手人材が「社内異動があったほうがいい」と回答しています。
【回答者数518人、「【アンケート結果】転職活動中の20~30代の約80%がジョブローテーションに好意的 新たなスキル習得、モチベーション維持に期待」より】
異動は事業に対する観点を増やし、視野を広げ、若手が育つ大きなチャンスになります。「この道一筋」のプロフェッショナル人材の存在は頼もしいものですが、スペシャリストでなければ動かせない事業は、ほぼ存在しません。
実施ポイントとして、弊社では「マルチ型」の社員にはドラスティックな異動を「スペシャリスト型」の社員は極端な配置転換はしないよう心がけています。普段から物事をいろんな側面から見る傾向が強い、提案型である、視点の切り替えが柔軟といったタイプはマルチ型。逆にひとつの物事を深く掘り下げ考えるタイプはスペシャリスト型と、普段のコミュニケーションや仕事の進め方から判断して異動を検討します。また、本人から部署異動希望が出た場合にも、柔軟に対応しています。
配置転換が功を奏し、本人も事業も大きく成長するケースがある一方、失敗もあります。しかし失敗を恐れず、積極的に社内異動を推進するのは「ダメなら戻せばいい」と考えているからです。チャレンジングな施策にはあらかじめ「撤退ライン」を決め共有しておけば、本人の意欲を削ぐこともありません。
成長を実感できる「グロースミーティング」
自身の成長を実感できずにモチベーションが低下し、離職につながるケースは多々あります。これを阻止するには難易度の高い仕事を任せるといった工夫と同時に「成長を実感する仕組み」の構築も必要です。
弊社は4年前から半期に一度「グロースミーティング」と名付けた全社総会を実施しています。これは半期を振り返っての事業とメンバーの成長について、各事業部のマネージャーがプレゼンテーションする、というもの。終了後には懇親会を設け、普段は接点が少ない他拠点メンバーとの交流を図っています。
多くの企業が実施している「キックオフミーティング」は、事業部長や代表が来期の計画を一方的に発表するため、若手社員がワクワクできる内容にはなりづらいものです。そこで、グロースミーティングでは徹底して「Growth(成長)」にフォーカスし、自身と事業の成長を実感してもらうのです。
発表者である各事業部のマネージャー陣にとっては半期の総決算であり、責任を実感する場に。メンバーにとっては自身の成長を味わい、事業を自分事として捉えられる場になっており、社員も開催を心待ちにしている大切な社内イベントに成長しました。
自己称賛をクセづける仕組みづくり
どれだけ頑張って結果を出しても、褒められることもなく、評価もされない。自己評価と他己評価がずれたとき、やる気が急降下する若手は多いものです。また、スピード感のあるベンチャー企業は、成功のよろこびに浸る間もなく、次のプロジェクトに走り出すこともあるでしょう。
社内に称賛の文化が根付いていると「誰からも褒められない」といった不満は解消できます。さらには他者からでなく、自分自身を称賛できるのが理想です。
若い社員に対し、時には厳しく指導することも必要ですが、モチベーションを維持するには、叱咤よりも期待と称賛のほうが効果的です。褒められて気分を悪くする人はいないので、照れず妬まず、自分も他者もたたえあえる環境作りが必要ではないでしょうか。
称賛文化を醸成するため実施しているのが「One」というレポートです。これは毎月自分自身の仕事を振り返り、“スペシャルワンな仕事”を専用のファイルに記載し、社内で共有する取り組み。先輩社員のマインドや、具体的なノウハウが読めることから、新入社員の学びのツールとしても活用されています。
レポート記入のポイントは、自分自身の仕事を称賛すること。「スペシャルな仕事」なんて毎月毎月発生しない、管理部門は書くことがないのでは、と思われるかもしれませんが、人に誇れる仕事が月に一度もないようでは、自己成長などのぞめません。
毎月上司と振り返りの機会を設けている企業は多いですが、上司との面談は若手にとって緊張と苦痛をともなう、つまらないものと捉えられる場合もあるのです。それよりも、個々が自分の仕事を振り返る機会があるほうが、自身の成長を実感できますし、自己称賛のクセづけにもなります。
女性社員を大事にする理由
弊社は半数以上が女性社員であり、多数の女性リーダーが活躍しています。条件面や発言機会、重要ポジションへの登用について男女差はまったくありませんが、すべてを男女平等にすることが正しいとも考えていません。
例えば、体力が必要な業務は男性社員が担当する方が効率的ですし、小さな子供のいる女性社員が産休前と同じ量の業務をこなすのは難しい場合もあります。
パーソル総合研究所が2019年に実施したワーキングマザー調査では、未就学児を持つ女性の半数が「子育てに対する職場の理解がなく、居場所感がなくなり退職した」と回答しています。
子育て世代の社員が職場で肩身の狭い思いをしなければならないような職場は、モチベーション維持の観点でも健全ではありません。結婚、出産などのライフイベントを経ても、男女とも無理なく活躍し続けられる。そんな職場環境は、女性社員だけでなく男性社員にとっても、これからライフイベントを迎える若い社員にとっても、働きやすい職場になると信じています。
モチベーションの高いチームを作るためのキーワード
最後に、モチベーションの高いチームを作るためのキーワードを5つあげておきます。
成長と負荷
適度な負荷がないと、人は成長しない。期待という負荷をかけ、現状に甘んじさせない工夫を。
ゴールの意識
個々が業務のゴールを常に意識し、有言実行。達成できなくても批判せず、再チャレンジを恐れない文化形成を。
ディスカッション
チームの方向性がぶれないよう、事業設計には密なディスカッションが必要。
メンバーが主役
経営陣やマネージャー層が中心になるのではなく、メンバーが主役となるチーム作りを。
仕事は誇り
自分の仕事を誇れるメンバーの存在こそが、強いチームを作る。
弊社は若手のチャレンジを推奨しており、20代のうちに高度な経験を積める環境です。当然「この経験を別の場所でも活かしてみたい」と離職するメンバーは出てきます。経営者としてはつらいところですが、20代、30代がもつ向上心は止めるべきではありません。
モチベーションを高く維持したまま晴れやかに「卒業」する若手を多く輩出できる。それもまた、強いチームの証であると自負しています。
若手社員のモチベーションは、仕組みで維持できる
モチベーションが維持できないのは本人の責任であり、甘え。会社側がモチベーションコントロールのサポートまでする必要はない、という考えもあるでしょう。しかし「優秀かつ高い意識を持ち、長く勤めてくれる若手社員がなかなか採用できない」と嘆くのもまた、企業の甘えではないでしょうか。経営者や人事部による仕組み作りで、チームのモチベーションは維持できるはずです。
あらためて、この度のコロナ騒動で、チーム作りやコミュニケーションのあり方について考えた企業も少なくなかったと思います。オンラインでも実施可能な「グロースミーティング」をはじめすぐに実践できるものや仕組化を考える際のヒントにできるものもあるかと思いますので、参考にしていただければ幸いです。(終わり)
【飯田氏の連載記事】
・中小企業が「採用代行(RPO」を効果的に活用し、採用ノウハウを社内に蓄積する方法
・「不人気業種、地方の中小企業経営者が取るべき採用の施策とは」
・「最優秀エージェント」受賞企業が伝える採用の秘策【第1~4回】(@人事プライムコラム連載)
【編集部より】モチベーションアップの課題解決に役立つ記事とサービス情報はこちら
執筆者紹介
飯田健太郎(いいだ・けんたろう)(株式会社MAP 代表取締役) 1981年静岡県生まれ。(株)リクルートHRマーケティングを経て若者に特化した転職⽀援会社を25歳で設⽴、以降12期連続成⻑を達成中。働く意欲ある若い世代と優良企業をつなぐ多⾓的な事業を展開している。
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