人事のキャリア【第23回】後編
従業員の小さな声を実現するためには何をしたら良いのかをひたすら考える(ステラパートナー・遠上智之さん)
2020.03.31
さまざまな業種の人事担当者に、これまでのキャリアや仕事のやりがいについてインタビューする連載企画「人事のキャリア」。パチンコ店舗の営業職から人事となり、そして経営者になった異色のキャリアを持つ遠上智之さんのインタビュー後編。遠上さんが関わった社員12,000人のモチベーションを高めるための仕組みづくりや、キャリアアップのための実践方法、会社立ち上げの経緯と今後の展望などを語った様子を紹介する。【2020年2月14日取材:編集部】
【前編はこちら】業界トップへ成長した企業を支えた人事から、ベンチャー企業の経営者に(ステラパートナー・遠上智之さん)
遠上智之(とおがみ・ともゆき)
2004年大学卒業後、新卒で株式会社マルハンに入社。4年間店舗営業を担当した後、社内公募をしていた人事部門に立候補し人事部へ異動。給与支払いや保険加入などの実務から、人事制度や採用の企画までを幅広く経験。2019年4月に同社初の社内ベンチャー企業として株式会社ステラパートナーを設立し、代表取締役に就任。
遠上さんのキャリアアップのポイント
・営業で経験したマネジメントをさらに深く学ぶため、人事に立候補。
・やみくもに、勉強を行うのではなく、目的を先に定めて、その実現に必要となる知識や資格を効率よく身につけていく自己啓発手法。
・人事として社員の声をお客様の声と捉え、会社と社員のバランスを考えながら施策を構築していく。
もっと働きやすい会社にするための答えは、従業員が持っている
──人事制度の設計・改革についても教えてください。
今では当たり前になっていますが、「多面評価システム」を導入しました。さらにマルハンでは10 年前くらいからアルバイトと正社員の垣根をなくしています。正社員が偉いとかアルバイトが偉くないとかではなく、皆が同じ役割を持っているのだから、同じ等級ステージで働こうというものです。もちろん、異動の有無や責任の大きさに違いはあるので、給与は違ってきますが、役割や一般的な人事等級で言えば、同じジョブステージという等級の中で働いています。
多面評価の等級が社員・アルバイト関係なく同じ扱い、目線で評価されます。10年前の当時としては、先進的だったと思います。
また、アルバイトの方に対して目標を設定するMBO(目標管理制度)を導入したのも同じ10年ぐらい前です。店長がアルバイトと向き合って「三カ月後にこういう目標を達成しよう」ということを、面談を繰り返しながら決めて実行してもらう制度で、当時、アルバイトに対しこういった施策をやっている企業はほとんどなかったと思います。アルバイトに対しても目標管理で成果が認められればボーナスを出していました。
──そういった制度設計のための勉強や情報収集はどのようにしていたのですか。
ファイナンシャルプランナーや宅地建物取引主任士、簿記、WEB系など最低限必要な資格も取りましたが、これを取ればあれができるというやり方ではなく、やりたいことが先にあってそのために必要な資格を取ってきたという感覚があります。
じゃあやりたいことをどうやって見つけたか。すごくシンプルですが、従業員に聞いてその声をもとに決めてきました。営業時代にお客様を増やそうと考え、いつもお客様に聞いていたのと同じ考え方かもしれません。もっと働きやすい、働きたい会社にするための答えは、従業員が持っていると私は思っています。
マルハンには労働組合があり、私は労働組合の窓口リーダーも5、6年担当しました。彼らの小さな声を逃さず拾う。そこにヒントがある。小さな言葉を実現するためには何をしたら良いのかをひたすら考えると、足りない知識や必要な資格が何かは分かる。そういうことを繰り返してきました。
──聞きすぎるとできないこともたくさんでてくるのでは。
そこが一番の課題です。人事部門の人はそこがあるから本当は分かっているものの聞かない、聞けない。変な期待を持たせてしまうからと考えてしまう。私もこの壁にぶつかったことがあります。
突破するのに、まず、自分たちだけではできないので、現場の皆さんの力を借りることにしました。例えば人事部員が1人で12,000人の社員のモチベーションを上げることは不可能ですが、現場の力を借りることでそれが実現できる可能性が高まります。そういった仕組みを作るため、コーチ制度を作りました。
人事が現場で働いている人1人1人の求めていることを実現することは不可能です。ただ、彼らのやりたいことや目的を実現できる社員が実は社内にはいて、それが、彼らをマネジメントしている人。その方であれば、細かく社員の話を聞き、目標を設定できる。人事は、マネジメントをしている社員が現場の方の要望をどう本気で実現させていけるのかを考えれば良い。
そのための役割として、マルハンには「地域の人事担当者」がいます。彼らの仕事は現場を回ることで、一番やらなければならないことは、抽象的ですが「店長との信頼関係向上」です。信頼関係ができていれば、地域人事を通じて、お願いしたいことも店長が率先してやってくれたりする。
だから、先ほどの「現場にいる人からの細かい要望にも応えられるのか」という質問にも、実は応えられるようになっています。こういう戦略をやってきましたね。
いまは地域人事担当が増えて、地域人事課という課までできてしまい、課長もいます。地域人事のメンバーは、人事部門の中でも、ものすごく重要なポジションです。彼らがある意味人事部門を動かしているといっても過言ではないです。
──既存のエリアマネージャーとの役割の違いは。
エリアマネージャーは人事以外の営業含めて全部を統括する立場です。人事業務は地域人事に役割を担ってもらうような形です。地域人事がいれば、社員のライフプランの相談にものれます。ただ、決してエリアマネージャーが人事をやらないわけではない。エリアマネージャーができないところを地域人事がフォローします。
──単純に組織が大きくなるにつれて、人事と現場の距離が広がっていく難しさがありますが、「地域人事」の存在が事業成長を支えているような気がします。
コミュニケーションがとれる関係性ができていることが大事で、現場のやりたいことを実現するために相談できる先として、地域人事が大きな役割を担っていると思います。
もちろん、どの業界・業種にも同じやり方でそのままできるとは限りませんが、マルハンがエンゲージメントサーベイという従業員のモチベーションを測る指標のランキングで、1,000人以上規模の会社で全国1位になったり、パチンコ業界では売上がダントツでトップであるような結果が出ています。だからマルハンがやってきた戦略は間違ってはいないと思っています。
社員が新たなキャリアパスを描けるために
──会社に大きく影響を与える仕事をできていて、よりやりがいを感じている中で、会社を辞める決断はどのように伝えたのですか。
実は複雑な話になりますが、辞めていないんですよ。マルハンには社内ベンチャーという制度がなかったことで、かなりイレギュラーな形ではありましたが、いろいろ検討していただいた結果、出向という形で社内ベンチャー第1号としてやらせていただくことになりました。なので、実は今も辞めていなくてマルハンの人間です。
──今の事業でどういうことを実現したいのですか。
いま、キャッシュレスアイテムってすごく増えていますよね。使える場所もかなり増えてきてはいますが、実際にキャッシュレスを使っている人は意外と少ない。クレジットカードを使っている方で、キャッシュレスを利用している方の割合は全国で15%程度と言われています。残りの85%って潜在的なユーザーです。その多くはサラリーマンだと思っています。
サラリーマンは現金で給与をもらっているので、それをわざわざキャッシュレスアイテムにすることのハードルは結構高い。これを全額ではないにせよ例えば1%を直接キャッシュレスアイテムに変える仕組みを作ってしまえばということです。年収400万だったら4万円です。使わないともったいないじゃないですか。わざわざ変えなくてもそのまま使えるから、また使うという行動をとりやすくなる。
そこで「一回使ってみたら意外と使える」「お得だ」という体験をしてもらうことで、お金をキャッシュレスアイテムに換えていくハードルが低くなると考えました。
サービスの提供価値にもなっていますが、やっぱり、社員の生活が今よりも少しでも豊かになるように貢献したいです。
サラリーマンだと世の中のお得な仕組みに気づけていない部分ってまだまだ多いと思います。私もそうでしたが、そういった事を自然と学べるようなサービスをこれからも提供していきたいです。
──再度、マルハンに戻ってやりたいことはありますか。
あるといえばいっぱいありますけど、ただ今の事業が結果として成功することがいろんな意味でマルハンの次の未来をつくれるのではないかと思っています。これをしっかり成功させればマルハンの中で社員が自分の起案した会社を設立できる制度ができたり、従業員の新しいキャリアみたいな道を作れる希望になれたりするのではと考えています。
─ありがとうございました。
※情報は取材時点
遠上さんのある日のスケジュール
7:00 起床
8:00 出社。電車で60分ほど。移動中は携帯でWEBニュースをチェック
9:00 社内ミーティングで社員間の情報共有、お客様のコンサル進捗や課題の整理
10:00 来客、外出、時間があれば実務
19:00 退社
20:00 帰宅。夕食、入浴
23:00 就寝
遠上さんの年間スケジュール(2020年2月時点)
※画像はクリックすると拡大します。
企業情報
株式会社ステラパートナー
■事業内容:企業通貨を活用した人事制度、人事施策の設計コンサル、福利厚生、企業通貨の運営プラットフォーム(Café Point Service)の運営
■本社所在地:東京都千代田区外神田6-3-8ACN秋葉原ビル4階
■設立年:2019年4月1日
■従業員数:5名(2020年3月時点)
■HP:https://stellarpartner.net/
【インタビュー前編】業界トップへ成長した企業を支えた人事から、ベンチャー企業の経営者に(ステラパートナー・遠上智之さん)
【記事一覧】さまざまな業種の人事担当者に、これまでのキャリアや仕事のやりがいについてインタビューする連載企画「人事のキャリア」
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【参考】「人事のキャリア」シリーズ一覧
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