人事のキャリア【第23回】前編
業界トップへ成長した企業を支えた人事から、ベンチャー企業の経営者に(ステラパートナー・遠上智之さん)
2020.03.30
さまざまな業種の人事担当者に、これまでのキャリアや仕事のやりがいについてインタビューする連載企画「人事のキャリア」。パチンコ業界最大手マルハンの人事部門で活躍した遠上智之さんは、2019年4月に社内ベンチャー第一号として会社を立ち上げた。店舗営業職から人事となり、そして経営者になった異色のキャリアを持つ遠上さん。チャレンジできる者が評価される環境で育ち、自ら新たな道を切り拓いたキャリアを紐解く。前編は遠上さんが人事になるまでの経緯や仕事のやりがいなどについて語った様子を紹介する。【2020年2月14日取材:編集部】
遠上智之(とおがみ・ともゆき)
2004年大学卒業後、新卒で株式会社マルハンに入社。4年間店舗営業を担当した後、社内公募をしていた人事部門に立候補し人事部へ異動。給与支払いや保険加入などの実務から、人事制度や採用の企画までを幅広く経験。2019年4月に同社初の社内ベンチャー企業として株式会社ステラパートナーを設立し、代表取締役に就任。
遠上さんのキャリアアップのポイント
・営業で経験したマネジメントをさらに深く学ぶため、人事に立候補。
・やみくもに、勉強を行うのではなく、目的を先に定めて、その実現に必要となる知識や資格を効率よく身につけていく自己啓発手法。
・人事として社員の声をお客様の声と捉え、会社と社員のバランスを考えながら施策を構築していく。
マネジメントの面白さを深く学ぶため、人事へ
──現在の仕事内容を教えてください。
現在は、「Café Point Service」というECサイト運営を行うステラパートナーの代表を務めています。こちらのサイトの特徴は、企業で働く従業員対象のポイント交換システムとなっている部分であり、会員企業の従業員以外は利用することはできません。そのサイト内で使える通貨(ポイント)を各企業様独自で発行し従業員がそのサイト内で通貨(ポイント)交換ができます。
私たちは、企業が社員に支給する給与や賞与などの「報酬」とは別に、企業通貨(ポイント)を支給することで、その通貨でさまざまな物やサービスと交換ができる仕組みを提供しています。一般的に社員には物やサービスが現物(給与)として提供されますので、課税などの法的な対応は行います。一方でその「現物給与」の特徴を生かして新しい評価制度や報酬制度などの人事施策を構築することもできるため、提案や導入に向けたコンサルタントも行っています。
導入企業の中には、弊社のサービスを活用いただくことで「会社の経費が削減できた」「社員の実質の手取りがあがった」「社員のエンゲージメントがあがった」などの声をいただいています。
交換できる商品は、nanacoやAmazon、楽天EdyやWAONなどの超有名電子マネー商品をはじめ、HISさんの旅行メニューやコジマさんのECサイトなど常時50万を超えるメニューを用意し、表彰制度の景品をはじめ、企業の福利厚生としても幅広く活用していただけます。
──現在の利用企業、利用者数はどのくらいですか。
起業して1年が経ちますが、導入企業様は20社、会員数は約2万人まで成長しました。今は、お客様からたくさんのことを学ばせていただきながら、良い意味で毎日忙しい日々を送らせてもらっています。
──それだけ忙しいとなると営業にも自ら出向く形になりますね。
そうですね。私の役割は、営業とコンサルティング、その他に経理計算や総務業務もやっていて、“何でも屋”みたいな感じですね。まさに人事の経験が役に立っています。
──あらためてキャリアを振り返っていただきます。新卒から人事になるまでを教えてください。
新卒入社から4年間は新潟や福島のマルハン店舗に勤務していました。マルハンは役職の等級制度があり、私は一般社員からスタートし、2年目にリーダー、3年目にマネージャーとして管理職を経験し、その後に人事部に異動しました。人事部では給与の支払いや社会保険加入手続きといった実務を担当するところから始まり、健康管理・安全衛生・社会保険などの人事労務・労政の運用を経験し、それから企画業務に移って就業規則や福利厚生制度、人事制度の基礎をつくるということをやりました。兼任している期間もありますが、担当別で言えば、実務2年、運用4年、企画5年で、段階的に幅広く人事業務の経験を積むことができました。
──採用や教育は担当しませんでしたか。
企業説明会の現場に行ったり、面接をしたりということはしていませんが、そもそも採用するためにどんなことをしなければいけないのかという、根っこの企画で採用に関わっていました。何名採用しなければいけないのか、採用するためには何を仕掛けなければいけないのかという、採用戦略の部分ですね。
当時のマルハンの人事のキャリアパスは、採用、教育、人事実務それぞれからスタートして最終的に企画を行うポジションに移っていく形でした。
──人事になった経緯を教えてください。
私は社内公募に志願して人事部門に異動したケースです。会社としては人事部門から声がかかるケースもあります。
人事になりたいと思った一番の理由は人が好きだというのがあります。営業でマネジメントを経験し、1人ではなくチームで売上をどう上げていくのかを考えていくなかでいろんなことを学ばせてもらいました。メンバーのモチベーションアップや、マネジメントのコントロールなどをしながら、1人ではできないことが成し遂げられていく体験がとても勉強になって、それをもっと学びたいと感じたときに、人事というキャリアが必要ではないかと考えました。当時の上司に相談して背中を押してもらい、ちょうど募集していた社内公募に手を挙げて、人事部門に異動できました。
──実際に所属してみて、人事の仕事はご自身にあっていたのですか。
あっていましたね。自分の人生のプラスになる部分が大きくて、例えば、自分の将来にも直結してくる法律の知識や経験が業務の中に転がっています。今まで知らなかったけど知るだけで「こんなにお得になるんだ」ということがいっぱいある。もちろん会社のために、従業員のために貢献したいというのが先にありますが、知らないことを知るという新しい学びに、めちゃくちゃモチベーションがあがりましたね。
──人事の仕事の中でやりがいを感じたことはどんなことですか。
仕事もプライベートも含めて社員の皆さんが悩んでいることってさまざまあります。そこで、私が持っている知識を伝えたり、アドバイスをして問題を解決できたときの「ありがとう」という感謝の気持ちをいただいたときはやっぱりうれしいですよね。それが人事の一番のやりがいかなと。人事って、一見閉鎖的な部署に見えて、社員から嫌われるイメージがありますが、本当は熱い気持ちを持ってやっている人たちもすごく多い。だからこそ、「ありがとう」と本当にたまにですがいわれるとめちゃめちゃ嬉しいんですよ。
──一方で、どのようなことが辛かったですか。
やっぱり、経営環境に合わせて労働条件の変更などがあり、社員に伝えなくてはいけないときですかね。みんな一生懸命やっている中でそういったことを伝えなくてはいけないというのはやはり辛かったですね。一方で人事である以上、それは自分たちの役割だと思って臨んでいました。
小さな声に耳を傾け、実践するため必要な「何か」を考え続ける
──―企業規模も大きく、人事制度や評価制度を作るときも、苦労されたのでは。
確かに従業員数は多いですが※、マルハンという会社はその点はやりやすかったと思います。社長を筆頭に全従業員が経営理念を軸に行動することが当たり前の文化になっている。その軸がブレてさえいなければ、それを実現するための手段が変わってもそこまでの反発はありません。
「この理念を実現するための制度」という形でやり方を変えているだけの話なので、Aのやり方よりBのやり方のほうが良いのでは、という話はありますけど、根っこの部分から否定する人がいない。そこがマルハンのすごく強いところであり、人事の立場としては施策を推進しやすかったのでありがたい部分でした。
※2010年3月末当時のマルハンの従業員数は13,125人(正社員4,575人、パート8,550人)。2019年3月時点では、12,230人(正社員4,798人、パート7,432人)。
──失敗することもあったのでは。
失敗しても許されます。マルハンはそこに向かったことを称えてくれるメンバーが多いです。個人的にはもっと責任取らせてもいいのではと思うこともありますけど(笑)。それくらい寛容な方が多くて、これが企業文化なんだと思います。企業活動・文化活動という意味ではすごく前に進んでいる会社だと思っていました。組織の理念も分かりやすく文言化されており、チャレンジすることを許容しようということが明確に示されている。だから、チャレンジしない人のほうがなかなか評価されにくいし、それを反映した人事評価制度にもなっています。
──実際に所属してみて、人事の仕事はご自身にあっていたのですか。
あっていましたね。自分の人生のプラスになる部分が大きくて、例えば、自分の将来にも直結してくる法律の知識や経験が業務の中に転がっています。今まで知らなかったけど知るだけで「こんなにお得になるんだ」ということがいっぱいある。もちろん会社のために、従業員のために貢献したいというのが先にありますが、知らないことを知るという新しい学びに、めちゃくちゃモチベーションがあがりましたね。
──そもそも理念に共感した人が採用されているから反発が少ないということでは。
おっしゃる通りですね。以前は、業界全体が人不足で、定着率をあげるため、やみくもに時間給を上げる施策を行っていました。しかし、一向に状況は改善せず、改めて施策の検証をするため社内マーケティングを行いました。そうすると、一般的な求職者が求めているニーズとマルハンで働く社員が求めているニーズには大きな乖離があることが分かりました。一番特徴的だったのが、マルハン社員は、「仕事が楽、簡単」ということより、「厳しいけどインセンティブがある」ことや、「チャレンジできる環境にあるか」といったことを求めている点でした。
おそらく、会社の文化・風土的にそういう考えを持っている人たちがマルハンの社員なのだと考え、制度や企画を見直しました。
採用の場面で本来はネガティブにとらえられそうな、「厳しい」「忙しい」「大変」をしっかり説明したうえで、「期待される」「任せられる」「チャンレンジできる」という風土と環境があることをブランディングし、新しい採用施策を作り上げていきました。
これをマルハンでは『共感型採用』と呼んでいます。採用戦略を変えたことで、定着率が10年ほどで3倍に上がり、在職年数は平均4年を超えるようになりました。こうして社員が辞めずに定着できるからこそ、今度は入り口にお金をかけられるようになりました。採用単価は高くなりますが、きちんとお金をかけて会社が求める人たちを必死に探して採用します。そして、そうやって採用した人は辞めにくいですよね。育成もしっかりできて、会社を支える人材になっていきます。(後編に続く)
※情報は取材時点
後編は遠上さんが関わった人事制度設計や改革の取り組みについて振り返ってもらいながら、キャリアアップのための実践方法や会社立ち上げの経緯について語った様子を紹介します。
後編こちら>>>【後編】従業員の小さな声を実現するためには何をしたら良いのかをひたすら考える(ステラパートナー・遠上智之さん)
企業情報
株式会社ステラパートナー
■事業内容:企業通貨を活用した人事制度、人事施策の設計コンサル、福利厚生、企業通貨の運営プラットフォーム(Café Point Service)の運営
■本社所在地:東京都千代田区外神田6-3-8ACN秋葉原ビル4階
■設立年:2019年4月1日
■従業員数:5名(2020年3月時点)
■HP:https://stellarpartner.net/
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