新入社員の「個」を置き去りにしない育成
新入社員受け入れカウントダウン! いまから構築したい育成体制とは何か
2020.01.08

近年、人事部門の方から「最近の若者に、自社の育成方法や研修内容が合わなくなってきている」との声が増えました。2020年卒の新入社員の入社に向けた受け入れ準備を進めていると思いますが、人材育成に必ずうまくいくという魔法の杖はなく、前年からの振り返りと見直しの精度を高めるしかありません。
多くの企業では「新入社員をどう育てるか」「研修をどう組み立てるか」といった議論に終始することが多いのですが、それだけではうまくいかなくなってきているようです。解決のためのキーワードは「個別化」です。【解説:株式会社ファーストキャリア・加藤博司】
年々変化・多様化する若者の価値観との乖離
解決策を考える前に、若者の「働くこと」の意識の変化を改めて捉えておく必要があります。
弊社発刊の「新入社員傾向レポート」の調査結果では、近年の若者は学校教育含め「個」が尊重される環境で育ってきており、「自分視点が強い」ことに加え、デジタルネイティブであり多くの情報が容易に手に入ることから、「さまざまな選択肢・生き方がある」と認識しています。そのため「組織より個人のライフ」「自分らしくいられる組織」を重視しています。
また、同様の背景から、「想像力に欠ける」傾向も強いため、「自分がやりたいことは何か」「将来どうなるのか」については漠然としたまま入社している人も多く、配属後にリアリティーショックを強く受けます。また、ある調査(※)では、入社1カ月後の新入社員の約4割が5年以内に転職を想定しているようです。
当然、このような新入社員が全てではないですが、皆様と考えたいのは、「現在の自社の受け入れ体制・施策が近年の若者の傾向を踏まえた企画になっているか」ということです。
※ マイナビ転職「2019年新入社員1カ月後の意識調査」より
置き去りにされる、個の価値観やパーソナリティ
例えば、多くの企業の導入研修では、採用時に得た、パーソナリティ、経験、価値観などの情報は一旦脇に置き、一律的に仕事に必要なものを、言語・非言語を問わずインプットさせます。
導入後の育成体系も「職能」と「階層」をベースとした設計がほとんどで、新入社員本人の就業観や思考を配慮することはほぼありません。また、人事部門と配属先の所属長や育成責任者と「育成・ジョブアサインに有効な情報は何か」、を議論することもないのが実情で、「現場任せ」になっています。
このような従来型の育成では、変化・多様化している価値観を持つ新入社員との乖離が起こるのは必然とも言えます。また、早期にキャリア観が醸成されている学生は、自己実現のスピードを優先して、自身の個に合った成長機会を得られる会社を選びますし、もしくは入社後に他の会社を選びます。
「選ばれる会社」になるには、「個別化」を推進する
新入社員は多かれ少なかれ「仕事を早く覚え、任された業務を一生懸命やって貢献したい」という前向きな気持ちを持っています。
一方で、根源的には個を大切にしたい思いも強く、多様な価値観を持っていますので、二つの思いに折り合いをつけて働いています。しかし、従来型の育成は前者に依存してしまいがちで、人事や教育担当者は「新入社員の個を尊重する視点(≒相手視点)」が欠け、「会社視点(≒自分視点)」が強くなりすぎることも少なくありません。今後はあらためて、「個別化」を考え、人材育成のしくみ・体制を見直していくことが求められます。
近年では、人事制度や採用方法の改定(ex.等級制度の新入社員への適用、ジョブ型採用など)や、育成体系の改定(ex.若年層からの早期選抜、非階層別・選択型の成長機会の拡充など)を行う企業も増えてきました。ただ、どれも大掛かりで、意志決定にも施行にも多くの時間を要します。
また、来年度の新入社員も入社してくる中、従来の受け入れ体制のまま、新入社員の価値観の多様化に合わせた育成方法を考える必要があります。
まずは、今、できることから ~個々人の価値観の把握と人事×現場の接合強化~
最初のポイントは、新入社員の各個人が持っている価値観の把握です。やり方は入社前後のタイミングで大きく2つあります。
1つ目は、入社前後の面談や雑談です。
これは、実施にあたって「心理的安全性」の高い状況が必要です。新入社員と人事部門の方は、一見何でも話せるかのようで、年齢的、組織権威的な勾配が確実に存在しますので、「親しげに話しかければ」といった幻想は捨て、利害関係がなく、本音を引き出すコミュニケーションのスキルを持った人が行うことが理想です。この方法は、定性的に深い部分まで把握できるといったメリットがある反面、実施にあたってスキルを要すること、工数が多くかかること、データ蓄積に手間がかかることがデメリットです。
2つ目は、アセスメントツールの活用です。近年では、アセスメントツールのほとんどがオンライン受検可能であり、実施ハードルが低い上にデータとして蓄積しやすく、分析しやすいメリットがあります。反面、定性的な情報までは深堀・蓄積しにくいというデメリットもあります。
いずれにせよ、個々人の価値観・特性を把握する方法を確立する必要があります。
併せて、今から内容を変えづらい「導入研修」の担当講師は、個を発揮しやすい「安心・安全の場づくり」、「自己を見つめる問いかけ」を強化すると良いでしょう。
次に、把握した個人の価値観や特性を現場で活かす場面です。
人事部門から現場に共有される情報は、全体の傾向やリスクある人材情報が主となっていることも多いのですが、現場の育成責任者はパーソナルな情報を欲しています。個々人に合った育成・ジョブアサインを行い活躍してもらうために必要な情報は何か、一度、現場を巻き込んで議論すると良いでしょう。そして、定期的にその情報がアップデートされるしくみを構築しておくことが大切です。
また、そもそも、育成責任者への期待・役割を理解していない人、若者への関り方やコミュニケーションの取り方に悩んでいる人も多く存在します。近年では「育成される側」より「育成する側の育成」の重要性が増しています。個人の価値観や特性を活かした育成計画の作成とフォローができるように、パーソナルな情報の活用方法や育成スキルの付与も喜ばれます。
一方で、どの組織・仕事にも、「求められるもの、できなくてはならないこと」「求める人材像」が必ずあるはずです。大切なことは、全てを網羅的・画一的に定義するのではなく、共通に目指したいことについてのみ、レベル感も含めて具体化してチェックリスト化し、育成する側・される側で「できるようになったこと」を相互に確認できることが有効です。
近年の若者は、自身への期待や役割、承認・改善ポイントなどの明確化を求める傾向があります。これらを分かりやすくしておくことで、新入社員は個人の価値観や特性と会社が求めるものを器用にすり合わせすることができます。
優先順位の高い課題に絞り、生産性高く実施を
打ち手はいろいろ考えられますが、人事部門のリソースも限られ、職場の育成責任者もプレイヤーを兼務していることが多く、「あるべき」だけを押し付けても疲弊するばかりです。そのため、「優先順位の高い課題」に絞り、また、極力、簡便に行えるようにすることが大切です。そのための方向性は2つあります。
1つ目は、HRテクノロジーの活用です。最近では、組織・人事上の重要課題の特定、個人の価値観や特性の把握、志向の変化や成長の可視化・共有など、さまざまな分野で精度の高いテクノロジーが開発されてきています。人事の方は情報収集・分析ではなく、そこから示唆を導き出し、実行することに労力をかけて下さい。
2つ目は、まずはシンプルなことから始めることです。例えば、「新入社員に生き生きと活躍してもらうためには、人事と現場がどのように連携すべきか」と、人事と現場とで腹を割って議論することから始めるだけでも、見えてくることも多くあるのです。そして、打ち手も対象も絞り、少しずつ成功事例を増やすことも有効な進め方です。
あらためてですが、人材育成に「これをやれば必ず上手くいく」という魔法の杖はなく、常に振り返り、新たな打ち手を模索するしかありません。その際に、ぜひ「会社主語から、個人を主語とした育成へ」との議論を行い、「個別化」を見据えた企画・設計をしていただければと思います。そして、今以上に、未来ある若者たちが生き生きと早期に活躍し、人事の方が達成感を得る瞬間が拡大していくことを願います。
自社の人材開発・育成の「本質的な課題」を解決する「最適な打ち手」を企画・導入できます
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https://at-jinji.jp/service/536/743
企業情報
株式会社ファーストキャリア
事業内容:新人・若手向け研修の企画・運営、若手育成・開発・採用に関するコンサルティング、若手人材に関する調査・リサーチ
本社所在地:東京都渋谷区恵比寿1-19-19 恵比寿ビジネスタワー7F
【企画・制作:@人事編集部広告制作部】
【関連記事】加藤氏のコラムおよび、ファーストキャリアの関連記事はこちら
執筆者紹介

加藤博司(かとう・はくし)(株式会社ファーストキャリア / 新卒・若手育成研究所所長) 前職まで、大手コンサルティング会社にて、大手企業向けに事業改革・事業開発のコンサルティングを実施。戦略策定から実践・マネジメント、定着・展開までを手掛ける中で、人材開発・教育研修にも携わり、経営層やリーダークラスへの合宿研修の企画・運営、マネージャークラスのコーチングなどを手掛ける。 ファーストキャリア入社後は、新卒・若手育成研究所の所長として、若者の傾向や採用・育成に関する調査・分析を行い、研究開発や各種レポートを作成。 ナレッジ開発本部も兼任し、マーケティング施策や各種サービス・研修の企画、企業の育成体系、学習体系構築などのコンサルティングを行っている。
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