ナイル、BASEが自社の採用改革の事例をリアルに語る!
強制せず、種をまき続ける。現場を巻き込む「スクラム採用」のコツ
2019.11.22
採用の売り手市場が続き、簡単に雇用できる時代ではなくなった。さらに最近はエンジニアやデータアナリストなど専門性の高い職種が増え、人事担当者が現場の社員を巻き込んで全社で採用に取り組む必要性が高まっている。
そこで今、注目されているのが「スクラム採用」だ。HERP(東京・品川)が提唱する社員主導型の採用方式で、チームや職種単位で採用目標を持ち、人事担当者と現場がタッグを組んで欲しい人材を獲得するというもの。とはいえ、現場の巻き込みは簡単にできることではない。
@人事編集部では、スクラム採用を実践中のナイル(東京・品川)とBASE(東京・港)の採用担当者が登壇したイベントでそれぞれの自社事例を取材。「スクラム採用を加速させるための人事と現場の役割分担」と題して、各社の採用担当者が現場の巻き込みに成功した体験や今ぶつかっている課題をリアルに打ち明けた。
それぞれのエピソードから見つけた、現場巻き込み型の採用を成功させるヒントをレポートする。【取材:2019年10月10日 @人事編集部 大西里奈】
スクラム採用とは?
人材要件の定義や求人票の作成、面接などの実務は現場社員がメインで担当。人事担当者は採用のプロジェクトマネジャー(PM)として全体の進捗管理を担当し、採用市場の動向や求める人材の転職活動プロセスをふまえて現場にアドバイスする。
経営者が決めた採用方針に合わせて人事担当者が人材要件や採用人数のKPIを立てて、施策の策定から実行まで全て対応するような従来のやり方とは異なるものだ。
「スクラム採用」は、社員主導型のスクラム採用プラットフォーム「HERP ATS」を開発・運営する株式会社HERPが商標登録済み。HERPは今回のイベントも主催した。
職種が70以上になり、もはや「人事のみ」「現場のみ」では回らない
ナイル(従業員数150人)はデジタルマーケティング事業やスマートフォンメディア事業などを手掛ける企業だ。サービスが複数あり、各ポジションに必要なスキルも異なるため、採用の募集職種は細分化・多様化する。「ジョブ型(ポジションマッチ)採用」で、現在では募集職種が70以上に増えているそうだ。
登壇したナイルの渡邉慎平さんは、2018年5月に採用担当になり採用改革を進めてきた。
渡邉さんは「職種が細かくなると、それぞれの採用要件や母集団形成に適した手法、選考フローも異なるため、人事が把握しきれなくなります。現場も人事から降ってくる応募書類を見るだけでは、採用実務を理解できません。『人事のみ』『現場のみ』の採用は難しいのです」と説明する。
そこで効果を発揮するのが、人事担当者と現場社員によるスクラム採用だ。ナイルのスクラム採用は3つの要素で構成される。
ナイル流スクラム採用の3要素
・ジョブ型(ポジションマッチ)採用
・人事担当者と現場がタッグを組む
・人事担当者のPM化
社員には強制せず、火をくべ続けて自発的な行動を促す
スクラム採用を進めるためにまず実践したのは、社員の採用力強化とエンゲージメントの向上だった。渡邉さんは「最初は『なんで現場は採用を手伝ってくれないんだろう』と思ったこともありましたが、自分の方が現場に採用のことを伝えきれていないと感じました」と振り返る。
まずは社内チャットツールに「応募が来た!」「内定承諾が来た!」と積極的に採用状況を投稿し、情報をオープンにした。採用に興味がある人が少しずつ増えて、投稿にも反応してくれるようになる。
渡邉さんは「まずは採用に興味関心を持ってもらい、具体的に関わりだしてから学んでもらうステップが重要です。一気に仕組みを変えるよりは、少しずつコミュニケーションのとり方を変えていくといいのでは」とアドバイスする。
今では社員が自発的に応募者を紹介したり、自社の採用ブログの記事をSNSでシェアしたりするようになり、人事と現場の連携が進んだ。
「応募者の紹介や記事のシェアは、社員に強制しないように意識しています。火をくべ続けて、社員のモチベーションやエンゲージメントを高めて自発的に行動してもらうことが大切です」
選考フローをできる限り細分化し、アウトソースする
他にも、面接に参加する社員向けに面接マニュアルを作成。選考フェーズごとに、どのような質問で応募者のスキルを見極め、アトラクト(魅力づけ)するべきかを具体的に示し、採用力を高めてもらった。
採用のオペレーションも効率化し、ジョブディスクリプション(職務記述書)のフォーマットを設定。各採用フェーズで応募者に送るメールの文面も100以上のテンプレートを作った。選考フローは細分化し、人事や現場社員以外でもできることは採用代行サービスや業務委託先にアウトソーシングして社内の負担を減らしている。
スクラム採用を実現していく上でぶつかる壁の一つは、人事に求められるスキルの変化だ。
従来の人事業務は、求人票作成や母集団形成などの実務がメインだったが、スクラム採用では全体設計や現場サポートなどPMとしてのスキルが必要だ。渡邉さんは「一人で最初からPM業務をやるのは大変なので、業務設計が得意な社員に採用オペレーションの構築を手伝ってもらったり、アウトソーシングして業務分担したりするといい」とアドバイスする。
ナイルでは今後は各事業部に組織戦略や人材配置を考えられるHRBPを置く仕組みづくりを進める。「事業計画達成のために今、採用すべきなのか、どんな人材を採用するべきなのか、組織戦略を立てられる人(HRBP)が必要。その人を軸に、人事や現場社員が連携して採用する体制を作りたい」と語った。
ナイルがスクラム採用で実践したこと
・社内チャットツールで採用状況を公開し、情報共有
・応募者の紹介や、採用ブログの記事をSNSでシェアすることを強制しない
・面接マニュアルを作り、応募者のスキルの見極め方や魅力づけの方法を伝える
・選考フローを細分化し、社外でもできることはアウトソーシングする
→社員のエンゲージメントを高めて自発的な行動を促しながら、現場の採用力を強化する。採用業務はできる限り効率化!
最初はできるところからマネジャーに権限移譲する
BASE(従業員数140人)は無料でネットショップを作れるサービスを展開する。採用マネージャーの米田愛さんは、スクラム採用には欠かせない「現場のマネジャー」を支援する際につまづいたこと、課題を乗り越えた方法を具体的に話した。
BASEでは「人事だけでの採用では大きな成果を上げにくい」という課題があり、2019年の年明けから採用方針を転換してスクラム採用を行うことに。現場社員が事業計画やプロダクトの目指す理想像を理解した上で、その実現に必要なチームの未来や必要な人材を定義すること、いつまでにどんな人を採用するか目標を設定して、採用活動を実行できるようになることを目指している。
BASE流スクラム採用の理想像
現場社員が
・事業計画やプロダクトの目指す理想像を理解している
・その実現に必要なチームの未来や、外部から採用すべき人材を定義している
・いつまでにどんな人を採用するか目標を設定している
スクラム採用によって採用活動の実働部分はマネジャーが担当し、米田さんは採用PMとして全体を統括することになった。マネジャーはこれまで選考に参加する程度だったが、採用計画の策定や求人票の作成、スカウト、カジュアル面談、オファー面談にも主体的に携わるようになる。
米田さんは「ただし、マネジャーになったらこれらの役割が自然とできるようになるわけではありません。最初から採用計画を作るのは難しいので、やれるところから権限移譲し、私が採用PMとして各アクションごとに支援するようにしました」と話す。
最初に権限移譲するのは応募者の見極め(選考)のフェーズ。アトラクトに関わるカジュアル面談やオファー面談、根幹のチーム作りとなる求人票作成や採用計画の策定へと、徐々に移譲範囲を広げていった。
マネジャーが採用を「自分ごと化」できるまで、粘り強く働きかけられるか
マネジャーがぶつかる壁は採用フェーズによって異なる。
例えば選考フェーズでは、マネジャーは応募者が自社にマッチしていると感じて面接を通過させても、次の面接で取締役が不合格にするケースがあった。そこでマネジャーと取締役の評価の違いを比較すると、求める人物像や人材要件が異なっていたことが判明。今は事前に両者で人材要件をすり合わせ、最終面接後にも選考の参加者全員で「内定判定会議」を開いて話し合う時間を設けている。
選考前のカジュアル面談、内定後のオファー面談も、それらの面談を受けた経験のないマネジャーはイメージしづらい。米田さんは各面談の理想像やNG例を共有。オファー面談はロープレの機会を設けて、内定者の不安を解消できる受け答えができるか、具体的に確認しフィードバックする。
米田さんは「次第にマネジャーが自ら面談内容の改善をするようになりました。自ら『内定者に短期、長期的に期待すること』について資料にまとめたマネジャーもいて、うれしかったです」と振り返る。
他にも、スカウトに関しては、マネジャーから「スカウトを送る時間が取れない」と言われるケースもある。その場合はまず採用チームで候補者を選び、マネジャーに確認を取った上で採用チームがスカウトを送る形で進めた。次第にマネジャーは「採用チームが候補者をピックアップするより、自分で選んだ方が求めている人をダイレクトに見つけられる」と気付く。
米田さんは「マネジャーがその事実に気付くことが大事です。受け身ではなく、マネジャーが自分の意志で候補者を探し始められるように、人事から粘り強く働きかけました」と現場を巻き込むコツを説明する。
まずはマネジャーに実践してもらい、自分でPDCAを回せるようになるまで支援する
今の課題は、マネジャーが「今はメンバーが充足しているから採用計画を立てるのが難しい」と考えてしまうことだ。現状だけでなく、中長期的な事業計画の達成に向けて「未来の採用計画」を立てる必要性を伝えきれていなかったという。
「マネジャーや現場の社員自身が、事業計画に基づいてチームの未来を定義できないと、主体的な採用活動にはなりにくい。マネジャーに意思を持ってもらえるように。まずは部門トップに相談して、トップからマネジャーに働きかけるなど試行錯誤しています」と打ち明けた。
米田さんは「スクラム採用は自分ごと化してもらうのが大切」と言う。
「最初から完璧に採用活動ができる現場社員はいません。まずはやってもらい、マネジャーが自分で課題に気付いて改善し、PDCAを回せるようになるまで採用PMがサポートすることが重要なポイントです」
スクラム採用を成功させるポイントとして、チームに影響力があり、採用活動への意識も高いキーマンを各部門に一人以上置き、その人を起点にマネジャーや現場社員を動かすアイデアも共有した。
BASEで人事がマネジャーに採用業務を移譲するまで
・まずはカジュアル面談やオファー面談を移譲し、徐々に求人票作成、採用計画の策定へ
・選考前のすり合わせ、内定出し後の会議を通じて求める人材像がずれないようにする
・カジュアル面談やオファー面談の理想像、NG例を共有し、ロープレも実施
・マネジャーに「スカウトを送る時間がない」と言われたら、まずは採用チームが代わりに候補者選びやスカウト作業をやってみる
→マネジャーにはできることから権限移譲し、人事は丁寧にサポート。
マネジャーが自分の意志で行動するようになるまで、人事が粘り強く働きかける
「やらされ感」ではなく、「採用をやりたい」と思わせられるかどうか
ナイル、BASEの事例に共通するのが「まずは採用担当者が積極的に行動すること」だ。自ら積極的に採用情報を発信し、現場に任せたい作業も、最初は採用担当者が代わりにやってみる。社員の興味や気付きを促し、自発的に「採用に関わりたい」「自分でできるようになりたい」と思ってもらえるように種をまき続けることが大切だ。
「やらされ感」ではなく、「採用をやりたい」というモチベーションを持ってもらうために何ができるか。その工夫がスクラム採用を成功させる鍵となる。
【編集部より】
全社員巻き込み型の採用・人事戦略を紹介した記事はこちら
【編集部より】
人事労務・総務の業務を効率化する「業務ガイド」(ノウハウ記事)はこちら
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