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特集 人手不足業界の逆襲~保育業界編~


狙いは「潜在保育士」。人材掘り起こしのために保育園がすべきアプローチとは

2019.11.08

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「保育園落ちた、日本死ね!!!」のブログを覚えているだろうか。2016年2月当時、ある母親が投稿したこのブログは社会問題となり、国や自治体の取り組みをさらに促し、認定こども園などを含む保育園の数は5年間で約1万2,000カ所も増えた。
保育園等関連状況取りまとめ(厚生労働省)による

当然のことながら、急激に需要が増えても供給は追いつかない。国や自治体は保育士の待遇改善や雇用促進対策にも取り組んでいるが、多くの保育園で保育士の採用難は続いている。今回は船井総合研究所の保育・教育支援部チーフ経営コンサルタント・西村優美子さんにインタビュー。採用のポイントになる「潜在保育士」の掘り起こしなど、採用変革に成功した保育園事例を聞いた。【2019年10月16日取材、@人事編集部 飯塚陽子】

※特集「人手不足業界の逆襲」シリーズ
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目次
  1. 続々と開園する保育園。求職者を増やす取り組みが追いつかない
  2. 保育士資格を持つ学生のうち、保育士になるのは50%。狙いは「潜在保育士」
  3. 潜在保育士へのアプローチは現場職員の巻き込みが勝負
  4. まずやめるべきは「理事長や社長が一人で採用活動を行う体制」
  5. 保育士だけではなく、保護者に「選ばれる時代」を見据えておく

続々と開園する保育園。求職者を増やす取り組みが追いつかない

保育園の開園が止まらない。国の積極的な働きかけにより、2019年4月1日時点での待機児童数は1万6,672人で前年より3,123人減少。親が子どもを預ける「保育園等数」(認定こども園なども含める)は、2013年の24,435カ所から5年間で36,345カ所に増えている。筆者は待機児童数が多い全国自治体ランキングでワースト10入りしている首都圏のある地域に住んでいるが、ビルの1階や駅近くの土地が空くと、あっという間に新しい園がオープンしていることに気付く。

「施設数の激増により、この2年間でさらに保育士の採用は難しくなっているという印象があります。応募者を集めるのすら難しい、という園の声も聞きます」

保育所などの数の推移

保育園等関連状況取りまとめ(厚生労働省)より作成

 

自身も保育士資格を持つ西村さんは、保育園や認定こども園の経営をコンサルティングするチームの中でも保育士の採用支援を重点的に行っている。「保育士さんの労働環境改善は大きなテーマ。実際に国や自治体の取り組みによって給与も上がってきてはいますが、取り組みの成果を上回る供給量が必要という状況です」と話す。労働環境や待遇面の悪いイメージが先行し、ニーズがあるのに働き手が足りていないのは介護業界なども同じだろう。

2015年4月に「3%アップ」、2017年4月に「2%アップ」など、国は毎年のように保育士に対する処遇改善施策を実施。それでも「保育士になりたい」学生数の増加や母集団形成が追いついていないのが現状だ。

保育士資格を持つ学生のうち、保育士になるのは50%。狙いは「潜在保育士」

厚労省が2015年に発表した「保育士等に関する関係資料」によると、保育士資格を取得した学生が実際に保育園や認定こども園などに保育士として就職する割合は約50%。約4万人の学生のうち約2万人は保育士にならないというデータになっている。

そもそも求職中の保育士の数が少ないため、人員を確保するためには「潜在保育士をいかに掘り起こすか」がポイントになる。

「潜在保育士」とは、保育士資格を持っているものの、別の業種に就職したか、出産などを機に保育士を辞めてしまった人のこと。70~80万人いるとも言われている。「保育士をできるだろうか」「ブランクがあるが大丈夫だろうか」と不安を抱えている人がターゲットになるため、西村さんは「応募のしやすさ、ハードルの低さを意識することが必要。たとえば、いきなり応募して面接ではなく、『見学会があります』と打ち出す。働きやすさ、多様な働き方があることをPRする。打ち出し方を変えるだけで、応募者が応募しやすくなる環境を整えることができます」と説明する。

保育士のイメージ写真

難しいのは、新規の園よりも既存の園の人員補充だという。「他の業界と同じで、オープニングスタッフは集まりやすいが、既存施設の採用は難しい。離職率が2割くらいあって悩んでいるという園の声も聞きます」。業界全体が「給与改善」や「働きやすさ」を打ち出す中、即戦力だけではなく、潜在保育士も視野に入れて採用活動を行わない限りは、人手不足を打開できない

潜在保育士へのアプローチは現場職員の巻き込みが勝負

具体的な手法について、人口集中地区で認可保育園、企業主導型保育事業など複数の園を運営する、ある事業者の成功事例をもとに解説してもらった。

課題

新規開園に備え、50人の保育士採用が必須。応募者は80人が必要

 

新たに導入した取り組み

①職員紹介制度を有効活用
②仕事を説明するイベントを開催
③Webでの採用活動、SNS発信を活用

 

結果

8カ月で57人の保育士採用に成功、1人当たりのコストも削減し、入社後1年以内の定着率98%に

取り組み①職員紹介制度で不安を払拭させる

この事業者が力を入れたのは「職員紹介制度」だ。職員の友人知人の保育士や保育士資格保持者に積極的に声をかけてもらい、面接ではなくまず見学会などに一緒に参加してもらった。紹介者と被紹介者にはテーマパークチケットをプレゼント。人材紹介会社に依頼するよりもコストダウンになるとともに、職員と似た考えを持った保育士が集まることで、事前に園のことをよく理解した上で入社してくれるため、入社後の定着率も向上した。採用トレンドの一つ、「リファラル採用」は人手不足業界の“特効薬”になりつつあるようだ。

保育園の園庭のイメージ

取り組み②イベントの掛け合わせで応募のハードルを下げる

この事業者は求職者向けのさまざまなイベントを用意した。「いきなり面接は不安……」という求職者にまずは園に足を運んでもらうためだ。仕事内容や会社の雰囲気を知ってもらうための「お仕事説明会」のほか、園児も参加するイベント、ゲストを呼んで保育に関する勉強会やセミナーなど、外部のものも含めて複数のイベントを複数日程で掛け合わせて開催。さまざまな行事に参加してもらい、職員と交流することで園の雰囲気を自然と感じ取ってもらったという。

その後、イベント参加者の約半数が面接を希望する形に。応募者側はいきなり面接ではなく、事前に園のことを知って安心して応募ができる。また、事業者側も「求める人材かどうか、園に合っているか」を見ることもでき、現場職員の協力のおかげでフィットする人材を採用することができる。

取り組み③SNS発信でダイレクトにアプローチ

求人特化型検索エンジンを活用して自社採用サイトへの流入を誘導し、職員紹介や動画配信などコンテンツを工夫した。また、SNSでは紹介制度やイベント情報などを発信。「いつかまた保育士として働きたい」という潜在保育士を意識してダイレクトに発信することで、これまで届かなかった層にアプローチすることができた。

保育士の離職理由で多いのが、人間関係だという。そのため、西村さんは「採用の段階から応募者に共感を得てもらう、安心してもらうことが重要」と説明。この成功事例では潜在保育士層にも「共感」「安心」をPRすることができ、8カ月間で57人の保育士の採用に成功。現場の保育士も巻き込んだ採用プロジェクトとして計画的に進めたことで期待以上の成果を出すことができたという。

まずやめるべきは「理事長や社長が一人で採用活動を行う体制」

保育園を取り巻く環境がこれだけ激変しているのにも関わらず、西村さんによると「採用手法を5年変えていない、というところも多い」という。代表者や理事長の権限が強いケースもあるためだが「これだけ環境が変わっているのですから、周辺マーケットによって年々戦略は変えていくべきです」と言い切る。

船井総合研究所の西村優美子さん

保育士資格を持つ西村さん。「働くお母さんを救う社会に」と保育業界支援を行っている

最初に見直すのは、採用体制。事業者の規模にもよるが、複数の園を運営していても理事長や代表が1人で採用を担っていることも多い。「まず、専任ではなくても良いので採用担当者を置くこと。さらに現場の職員にも採用活動に参画してもらうこと。代表や理事長だけではどうしても片手間になり、採用に注力できません」。

次に行うのは、その都度行う「補充採用」ではなく戦略的な「計画採用」への切り替えを早く行うこと。ポイントは「課題を循環させているかどうか」。

母集団形成、離職率、採用コストなどの課題はすべてつながっているため、【園にフィットする人材を採用する】⇒【定着率が上がる】⇒【コスト削減】⇒【時流に合った採用活動にするために適切な投資を行う】⇒【園にフィットする人材を採用する】という良いサイクルを生み出せる計画にする。代表者によるトップダウンの常態化や、新規開園で組織が急成長した事業者は、まずこれまでのやり方や考え方を振り返り、見直すことが最初のアクションになる。うまくいく保育園の特徴は、代表者や採用担当者が変革に意欲的で、現場を巻き込んでいることだ。

保育士だけではなく保護者に「選ばれる」時代を見据えておく

保育士の労働環境は大きく変わろうとしている。待遇改善施策で徐々にではあるものの給与が上がり、一般企業のように評価制度や新しい休暇制度を導入しているところもある。また、効率化や保育士のストレスを軽減するために園児の体調管理や連絡帳などをIT化する動きも進んでいる。さらに人材の動きが激しくなり、民間事業者運営の園は採用強者と弱者の差が広がる可能性もある。

もう一つ、保育園をめぐる大きな動きとして今年10月に幼稚園・保育園の無償化も始まった。西村さんは「一つの転機になると言えると思います」と話す。

無償化によって保護者は、保育園ではなく預かり保育が充実している幼稚園という選択肢ができ、逆に「無料で預けられるなら働きたい」と幼稚園ではなく保育園を選ぶこともできる。

保育園の申込書のイメージ

いまだに「保育園落ちた」が存在する今の日本では、少なくとも都心において保護者側は「入れてくれる保育園に入る」というのが通常だが、まもなく変化が訪れそうだ。今後の園経営について西村さんはこう話す。

「待機児童問題が解決し、保育の需要と供給のバランスが逆転すると、いずれ保護者が園を選ぶ時代になる。保護者から選ばれる園の根幹は“人財”だと思います。適切に採用活動に投資して、保育士を育成し、“選ばれる”保育園づくりを心がけていくことがこれから大切になると思います」

サービス情報

船井総合研究所
事業内容:経営コンサルティング
保育・教育支援部では、保育園・こども園・幼稚園・企業主導型保育事業・学童保育を運営する法人を対象に、園経営を成功させるために必要なマーケティング面、採用・評価制度・人材育成などのマネジメント面のほか、新規開設・新制度活用・M&Aなど全ての分野でのコンサルティングを行っている。
HP:保育園・こども園経営.com

【編集部より】人手不足の課題を打ち破る採用戦略を紹介した記事はこちら

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