特集「人手不足業界の逆襲」~宿泊業編~
湯河原の温泉旅館が外国人人材を即戦力にできた理由。カギは「1社限定面接」
2019.10.30
東京五輪を来年に控え、2019年上半期の訪日外国人客数(国際観光機構)は過去最高の1,663万人を記録。インバウンド需要が高まる一方で宿泊業の人手不足も深刻だ。湯河原や箱根など関東圏中心に「ホテル城山」「ゆがわら水の香里」など16の旅館・ホテルを運営するフォレスト(神奈川県湯河原町)は、今春に初めて外国人人材の雇用に動いた。
当初は1、2人の採用を目指していたところ、面接した外国人人材のレベルが想像以上に高く、19年5月から10月の間で入社予定者含めて13人の採用に成功。入社まもないミャンマー人従業員がホテル予約の口コミサイトで高評価を受けるなど、期待以上の活躍を見せている。
どのようにフィットする人材を見つけ、採用を決めたのか。採用の舞台裏と外国人人材の可能性について聞いてきた。【2019年10月4日取材、@人事編集部 飯塚陽子】
※特集 人手不足業界の逆襲シリーズ
ファミリーマートが店舗従業員20万人のモチベーションを上げた秘策
旅館・ホテル業に志望者が集まりにくい現実
今年創業20年を迎えたフォレストのこれまでの新卒採用は高卒人材のみ。多いときで年に3~4人採用できれば良い方だったが、ここ数年はゼロの年もあったという。同社の石田浩二社長は近年の人材不足について「一般的にいわゆる3K(きつい、汚い、危険)職場というイメージがあるんでしょうね。中途採用でも、よほどホスピタリティが好きな人じゃないと選ばなくなってしまった」と振り返る。
特に困っていたのは、早朝・深夜の勤務だ。若手社員は定着率も低く、「転職するのは決して悪いことじゃないと思っているが、数年でいなくなることが増えて現場が回らなくなった」。2018年まで同社が外国人採用を試みた実績はなし。技能実習制度や特定技能制度を利用したブルーカラー人材の雇用も考えたが、コミュニケーション力が必要なフロント係、サービス係の仕事を任せるにはリスクがあると考えていた。
頭を悩ませていた昨年春、たまたま留学生支援をする団体から飛び込み営業で打診されたのが、ベトナム人大学生のインターンシップだった。
インターン生に触れ合い、外国人人材に対する偏見がなくなった
社会貢献の意味合いはもちろん、英語力の高い大学生を受け入れることによる日本人従業員のレベルアップも期待できた。何より、外国人採用の「トライアル」という狙いもあり、研修や受け入れ体制を整えて昨年4月からベトナム人の大学4年生6人を受け入れた。
インターン生は11カ月間、住み込みで就業を体験。当時、受け入れに関わった丸茂綾乃さんは「想像以上にみんな勤勉で、素直で。スタッフもみんな可愛がって。外国人の仲間、いいね!ってなったんですね。大きなきっかけになりました」と話す。
冬を経験したことのない6人に対し、会社が10万円の予算を出してストーブを買ってあげたり、ユニクロに連れて行ったりして冬支度を整えてあげた。日が経つごとに日本文化を吸収する学生の様子を見た石田社長は「日本に住んでいる留学生なら語学、文化的な面も問題がないから即戦力になる」と確信。高い日本語能力を持つ留学生など日本在住の外国人が登録している人材紹介サービス「ゴーウェル」を利用して採用に動くことにした。
あらかじめ選抜されたメンバーがそろう「1社限定面接」とは
最初の面接は今年5月にゴーウェルの「1社限定面接」を利用して実施。「1社限定面接」とは約4,000人の外国人登録者の中からその会社の志望度が高くマッチしそうな人材をスクリーニングして行うサービスで、フォレストは石田社長をはじめ6人が面接官として現役留学生や日本の企業で就業経験のある外国人12人と会った。
面接はフォレスト側が2人ずつ3つのブースに分かれて順番に話を聞くスタイルで進行。立ち会った丸茂さんは「当初はいい人がいれば1人か2人採用できればいいか、くらいだった」と振り返る。ところが、実際は想像の遥か上をいく人材で驚いたという。「日本語のレベルの高さ、『日本のおもてなしを学びたい』という意欲の高さ。また、お客さまを気遣う気持ちや日本独特のマナーに対しても理解があってびっくりしました」。すでに“1次選抜”されたメンバーとあって、志望者の中で「宿泊業で仕事をすること」のステータスが高いことにも感動を覚えた。
石田社長が「全員採用したいくらいだった」というほど、ほとんどが合格ラインをクリアしていたが、接客業に欠かせない「好感が持てる人、明るい人」というポイントを重視。20代から30代の9人に内定を出し、うち5人から内定承諾を得た。
内定通達後には石田社長のアイデアで自社バスを使って職場を見学する湯河原ツアーを敢行。これがゴーウェルの登録者の間で評判となり、7月に実施した2回目には面接参加者が増え、最終的に入社予定者を含めて計9人の採用に成功した。また、昨年インターンに参加した学生から1人も採用し、2019年10月現在で10人の外国人従業員を出迎えた。来年4月にはさらに3人の入社が決まっている。
入社1カ月で口コミ高評価。日本文化に馴染む外国人人材の可能性
新しい仲間はさっそく能力を発揮している。日本在住4年目になるミャンマー人男性、トゥンさん(26)は入社1カ月後に旅行口コミサイトで「荷物を運んでくれた外国人男性の方、笑顔ですごく感じのいい方でした」 と評価を受けた。スタッフが名指しで褒められるのは珍しいことだという。
取材したこの日には10月までに入社した従業員の歓迎会が行われ、社長や副社長ら幹部が声をそろえて「皆さんに期待しています」とエールを送った。トゥンさんは「先輩が優しく教えてくれるので、仕事は難しくはない。難しいと思わないようにしています」と穏やかな表情で答えてくれた。
研修を担当する取締役の水永恒ニさんは「どうしても最初はコミュニケーションの問題から人見知りに感じるものの、打ち解けてからは日々の雑談の中でいろんな話をしています。昨年のインターンシップの研修が生かせていると思います」と話す。今後は彼らの母国であるアジア圏に向けて積極的にSNSで発信し、さらに客層の幅を広げたい意向という。
大切なのは「差別しないこと」「フォローすること」
外国人従業員の働きぶりの良さは組織を活性化している。ある外国人女性従業員は石田社長に対して「私、この会社で役員になります!」と宣言したという。社長は「『早く帰りなよ』という声掛けに対して、 『ここの仕事を片付けて帰ります』というような子が多いんです。頼もしいなあ、と思うし、何より職場への影響力が大きい。みんな刺激を受けるし、優しくなれる」と”いいことづくし”の現状を語る。
もちろん、彼らの待遇は日本人と同じ給与体系だ。「大切なことは、まず差別しないことでしょうね。それから日本人も同じですけど、知らない土地での勤務は慣れるまで大変です。 コンビニやスーパーなど日常生活をサポートしてあげたり、休日に車で買い物に連れて行ってあげたり、Wi-Fiの環境を整えてあげたり。継続したフォローは必要です」
単純に労働力の補てんだけではなく、組織の成長や顧客開拓という効果も期待される外国人人材。特に語学力が高く日本文化に馴染みやすい留学生人材は今後も取り合いになることは必至だ。フォレストのように、彼らが働きやすい環境や、仲間として受け入れる体制を全社的に整えることが「選ばれる」条件になっていきそうだ。
フォレストが外国人人材を即戦力にできたポイント
★最初から志望度が高く、選抜されたメンバーで行う「1社限定面接」を利用した
★インターンシップの経験から、研修やフォロー体制があり、外国人人材を受け入れる土壌ができていた
★内定通達後に職場体験ツアーを行い、内定者の不安を和らげた
★入社後も生活面のサポートなど継続してフォローを続けた
企業情報
株式会社フォレスト
・事業内容:旅館業・保養所等宿泊施設の運営受託・研修所等の給食業務受託、旅行業・一般貸切旅客自動車運送事業・旅館コンサルタント業務
・設立:1999年1月
・所在地:神奈川県足柄下郡湯河原町城堀207番地
・HP:https://www.fores.jp/
サービス情報
ゴーウェル株式会社の外国人人材紹介
東南アジアの言語に特化した通訳・翻訳事業の実績と信頼をベースに、2018年から外国人人材の紹介事業を開始。登録している外国人の日本語能力の高さが特徴。2019年7月現在で約4,000人が登録し、永住者、技術・人文知識・国際業務などの在留資格を保有しているのが全体の約36%、高度人材候補である留学生が約43%を占めている。
・設立:2007年
・所在地:東京都中央区GINZA3-8-13 銀座三丁目ビルディング7F
・HP:https://gowell-japan.com/
【編集部より】外国人人材雇用を考える企業担当者が読んでおきたい記事はこちら。
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