実装力あり!AI、情報通信分野で評価が高騰中
ベンチャー志向も増加中! 欲しい高専卒人材の見つけ方
2019.10.28
AIをはじめとしたテクノロジーを活用したサービスの需要がますます高まる中、即戦力として人気に拍車がかかっているのが、高専(高等専門学校)卒の人材だ。
2020卒採用の求人倍率が1.83倍という売り手市場が続く中、高専生は20~30倍とも言われ、東京高専(東京工業高等専門学校)の2018年度の専攻科の求人倍率はなんと98.4倍にもなる。大企業に就職する高専生も少なくないが、これまでは担任の先生による紹介がほとんど。昨今、ベンチャー志向の学生が増えてきつつあり、ようやくキャリアパスの幅が広がり始めている。
高専卒人材と接点のないベンチャーや中小企業はどのようにアプローチをすればよいのだろうか。高専生に特化したキャリア支援を行う「高専キャリア教育研究所」の菅野流飛さんに教えてもらった。【2019年10月2日取材、@人事編集部 飯塚陽子】
あなたはどのくらい高専を知ってる? オタクが多い?女子学生はいる?
高専と聞いて、まず思い浮かべるのが「ロボコン(ロボットコンテスト)」という人も多いはずだ。これまで高専卒人材と接点のなかった人事担当者なら、大卒に比べてどんな強みがあるのか分からない人もいるかもしれない。
東京高専物質学科を卒業し、東京工業大学で分子生物学を学んだ菅野さんは「普通に高校や大学を卒業すると高専の存在を知らない人も多いと思います。でも、ベンチャー/スタートアップのCEO/CTOや、上場企業の代表者/部長クラスにも高専卒の人たちが結構いるのです」と話す。
まずは高専についての基礎知識をまとめてみた。
高専とは
・中学校卒業生を受け入れて、5年間一貫教育で優れた専門技術者を養成する学校のこと。
・日本では国立・公立・私立含めて全国に57校あり、約6万人の学生がいる。
5年制(本科)の過程を終えると
・約6割が就職=就職率は全国で99~100%。大学に換算すると大学3年生で社会人1年目となる。JR東海、花王、サントリーグループ、旭化成など名だたる大企業が毎年50人以上を採用している。
・約4割が進学=主に大学3年生への編入、もしくは2年制の専攻科へ進学する。専攻科を卒業すると就職か、大学院へ編入することもある。
どんな教育を受けている?
・大学受験を経ずに専門分野を学ぶことができ、実験や実習といった実践的な授業が中心。
・主な学科は機械・材料系学科、電気・電子系学科、情報系学科、建設系・建築系学科、化学・生物系学科、商船系学科など。グローバル教育に力を入れた学科もある。
・女子学生は約2割で、情報・化学・土木・経営などの学科に多い。
高専の3大コンテスト
高専生が青春を捧げる3大コンテストがある。
・ロボコン(ロボットコンテスト)主に電気・電子・機械系学生が参加
・プロコン(プログラミングコンテンスト)主に情報系学生が参加
・デザコン(デザインコンテスト)主に建築系学生が参加
オタク気質が多いイメージがあるが、菅野さんによると「ITへの目覚めが早い人も多いが、そうでない人ももちろんいる。小学生のときに父親にパソコンを与えられたとか、電車のオモチャからハマった、というタイプは多い」という。「自分が好きなこと、やりたいことを10代前半で発見している」という意味で、大学3年生で自分探しを始めるタイプとは違うと言っていいだろう。
この数年で需要の高まりが顕在化。東大・松尾教授「高専生は日本の宝」
長らく、高専生の就職の窓口は5年生のときの担任の先生だった。学校の推薦リストがあり、これまで関係性を築いてきた企業に決まっていく。多くが大企業や地元の有力企業なのだから、わざわざ学生自身が「就職活動」をする必要がなかった。
そんなやや時代錯誤的な高専生のキャリアパスに変化が訪れたのは、ここ数年のことだ。菅野さんによると、「さまざまなところで『高専卒の◯◯が欲しい』といった声が出始めた。メガベンチャーで高専卒の優秀な人材が活躍し始めたことも関係がありそうです」と振り返る。昨年、AI研究の権威である東大・松尾豊教授が「高専生は日本の宝である」と発信したことも影響力があった。
※松尾教授の記事はこちら 「高専生は日本の宝」 AI時代を引っ張る強みあり(日本経済新聞)
「もともと産業界では技術者としての高専生が優秀であることは分かっていたと思いますが、松尾教授の発信で需要の高まりが顕在化した形。また、親や先生が名前の分かるメガベンチャーが出てきて、ベンチャー志向の学生もちらほら出てきました」
近年はAI研究や情報セキュリティーの分野で評価が高まり、人気に拍車がかかってきたと言える。菅野さんは、大卒の新卒採用がこの10年で一気に多様化しているように、高専生の採用市場も様変わりしていくと見込んでいる。
強みは知識だけではない実装力。横のつながりが深いのも特徴
大卒にはない高専卒人材の強みについて、菅野さんは「実装力です」と断言する。
高専では5年間、専門分野において実験や実習、自主研究を重ねることが特徴だ。「社会実装教育」というプログラムが過去に試験導入されており、社会の現場に飛び込んで課題を抽出し、その課題を解決するためのアイデアを出し合い、実装するまでの実習などが行われているケースもある。
「僕の出身の東京高専では、社会実装教育がカリキュラムとして取り入れられています。過去には『病院の看護師の方々から課題をヒアリングし解決する』という取り組みがありました。研究室から実際の社会の場にいきなり飛び込むので、まずは看護師さんたちとコミュニケーションをとり、お茶を飲む間柄になるところから始まる。例えば『点滴が落ちる速度をチェックしなければいけないが、夜は暗くて見づらい』という課題が出てきたら、医療ミスを防ぐための装置を考え、まず簡易的なデバイスでつくり、実装。さらに最適化するという試みをするんです」
前述の松尾教授も報道で「高専出身者は、とにかく手が動く。普通に東大に入学した学生は口はうまいが、やらない」「リーダーにふさわしい」とその行動力、実装力を称えている。これから求められるのは行動を起こしながらイノベーションも生み出せる人材だ。特に情報通信のジャンルでは需要が高い。
一方で弱みを聞いてみると「社会性を獲得するための機会が比較的少ないこと」。2014年から高専生のキャリア開発の啓発活動を行い、多くの現役高専生と交流する菅野さんは「カリキュラムが忙しく遊びも少ないので、他の大学生や社会人と触れ合う機会が極端に少ない。そのため、いわゆる交渉力とかコミュ力は低いかもしれない」と打ち明ける。
ただ、その逆のベクトルと言っていいのか、高専生同士のつながりの深さは特徴的だ。全国57校の高専生は卒業しても横の交流があり、「高専OBというだけで結びつく。エンジニア業界にはどこにでもいる。コミュニティーが濃く、就職後も異業種の交流も起こりやすい」とメリットを挙げる。
高専人材へのアプローチは3つ! 有効な手段は「自社でOB探し」
では、採用実績のないベンチャーや中小企業が高専人材の採用を試みる手段はあるのだろうか。これまで、高専生側がアクションを起こして自らを市場に出すことはほとんどなかったが、その潮流は「少しずつであるが変わってきている」(菅野さん)。具体的な3つの手法を挙げてくれた。
高専人材へのアプローチ① 自社でOBを探し、学校の先生と接触する
現実的に一番手っ取り早く直接的なのは、就職窓口である先生に会いに行くこと。「自社に高専卒の人材がいたらそこから紹介してもらい、接点を持って自社の魅力をアピールすることです。親御さんがブランドのある会社に行って欲しいと言う、いわゆる親ブロックもあるので、学校の先生と信頼関係を結び学校の推薦リストに載ることは重要だといえます」
高専人材へのアプローチ② コンテストに出資する
高専の3大コンテンストの「ロボコン」「プロコン」「デザコン」は常に協賛社を募集している。もちろん出資にコストはかかるが、大きなPRになる。「学生へのブランドリーチにもなりますし、最初の開拓、接点を持つ方法として有効だと思います」
高専人材アプローチ③ Web、SNSでアクティブな人材を探す
自ら就職先を探すベンチャー志向のある学生が増え始め、ハッカソンイベントや交流会など学生に接触できる機会も増えてきた。「情報系の高専生は、理工系大学生向けのインターンに参加するなど積極性が高い傾向にあります。SNSでつながっていることが多いので、企業側も情報発信して人材を探していくべき。高専キャリア教育研究所はそういった学生たちと企業をマッチングするプラットフォームを目指しています」
チャレンジングな人材のスキルに見合った環境を提供できるか
企業がまずすべきなのは、給与体系や評価制度の見直しだ。本科(5年制)卒業の初任給は大卒より低く、平成30年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況:1 学歴別にみた初任給(厚生労働省)によると、大卒(男性)が21万1千円に対し、高専卒(同)は18万2千円。その後のキャリアに影響する企業がいまだに多く、生涯年収では大きな差が出てくる。
「ベンチャー企業ではすでに学歴による給与格差はなくなりつつあり、高専卒エンジニアでも年収が400万円を超えるケースもザラです。今までは相対的に評価が低かったが、これからは間違いなくトレンドが変わっていく」
スキルの高い高専人材が欲しいなら、そのスキルを正当に評価し、チャレンジに見合う環境を準備すること。そしてきちんとPRすること。これは新卒採用全般に共通するトレンドとも言えるだろう。
菅野さんは編入した大学院博士課程まで生物分子学を学んだ後、Speee、リブセンス、リクルート、m-gramなどIT/ウェブ業界を渡り歩き、事業開発リーダーやCOOを務めるという異色の経歴を歩んだ。大企業からベンチャーまで経験したからこそ「高専生にはより可能性を追い求めてほしい」という。フラットに企業と高専生がコミュニケーションを取れる仕組みづくりを目指し、今年10月には”高専版Wantedly”と言えるマッチングサービス「Curious」を開始。今後は高専特化型の起業家育成プログラムや、企業とコラボした事業開発コンテストなども行う予定だ。
父、姉も高専卒で母もフリーのエンジニアというエンジニア一家に育った菅野さんからあふれるのは「高専愛」だ。「第一のミッションは、アクティブな高専生と企業をマッチングすることです。チャレンジングな高専生に見合う企業が増えてほしいし、高専生が活躍できる場がもっと増えてほしい」。専門分野で実装力のある人材の獲得を目指すなら、まずは周囲で高専OBを探すか、現役高専生と接触できる機会を模索し、彼らのバックボーンを理解することから始めてはどうだろうか。
サービス情報
高専キャリア教育研究所
運営:株式会社 高専キャリア教育研究所
事業内容:高専向けキャリア教育事業(キャリア講演会、クラウドファンディング、LT/アイデアソン/ハッカソンイベント、オウンドメディア、キャリアマッチングサービスなど)
設立:2017年10月
所在地:〒206-0802 東京都稲城市東長沼2132-2
HP:https://corp.kosen-career.tech/
【編集部より】
エンジニアやAI人材など実装力のある人材の採用についての記事はこちら。
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