企画

1億総活躍社会の雇用(セカンドキャリア支援)


「企業側のメリットが多く、即戦力として活躍」【第1回】退職予定自衛官の再就職支援(後編)

2016.05.30

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活気を帯びる中途採用市場のなかで、「セカンドキャリア」採用に注目する企画。前回、約8,000人近い元自衛官が民間企業や自治体へと再就職を果たしていることを紹介した(平成26年度データ)。今回は、企業とのマッチングの仕組みや活躍を支えるサポート体制について紹介する。(取材:2016年2月。担当:松尾美里)

目次
  1. 再就職先で元自衛官が活躍している理由とは?
  2. より精度の高いマッチング・定着のための工夫
  3. 民間企業が元自衛官を採用することで得られる効果とは?

再就職先で元自衛官が活躍している理由とは?

自衛官は、広範な職種・職域における職務遂行と教育訓練によって、企画力や指導力、実行力、協調性、責任感などの資質を養ってきている。特に幹部クラスになると、部隊の管理者としてのリーダーシップやマネジメント力などが醸成されており、部隊の現場監督者として部下を率いてきた准尉・曹クラスは、指導力に長けている(図参照)

また士クラスは、とりわけ規律を守る精神や実行力、体力などの素養を培っている。そのため、こうした資質・能力は、業種・職種を問わず、民間企業でも大いに必要とされる能力であり、再就職先企業から高い評価を受けている。

図)「退職自衛官の資質」

退職自衛官の資質

特に最近では、自衛隊幹部として在職中に培った防災や危機管理といった専門知識を活かせる場として、「地方公共団体の防災業務、危機管理のための計画作成、職員、市民の啓発などの分野で、即戦力として活躍するケースも増えつつある」(自衛隊援護協会本部)という。
※平成26年度現在:都道府県82名、市区町村276名在籍

より精度の高いマッチング・定着のための工夫

ここ数年は、自衛官が希望する業種で再就職ができているケースが増えている。景気の回復基調や有効求人倍率の高まりという背景もあるが、同協会が紹介する求職と求人の最適なマッチングができる仕組みと、中長期的に元自衛官が再就職先で活躍できるためのサポートの体制が成功を支えている。

まずマッチングの段階では、元自衛官の希望やこれまでの経歴をしっかり面談で確認することを徹底している。そして任期制自衛官については、彼らの年齢が若く求人も多いことから、各支部で年に数回、各企業が参加する合同企業説明会を実施している。さらには、全国23カ所の駐屯地や基地に進路相談員を配置し、再就職にあたっての不安解消に向けて、退職予定自衛官の相談に応じるなどの施策にも余念がない。

次に中長期に活躍するためのサポートだが、採用する企業側にとって、元自衛官が民間企業のマインドの違いなどに順応できるのかという懸念を抱くケースもあるだろう。もちろん、彼らは再就職前に自衛隊内で、経営管理や生産管理、民間企業で働くにあたっての心構えに関する業務管理教育を受講している。

【参考】再就職に向けた教育体制の一例

平成27年通信教育講座一覧

また、再就職後にこれまでと異なる環境に置かれたことで生じるギャップや、元自衛官の実直さゆえに企業になじめずに悩みを抱いてしまうケースに対しては、「再就職先の先輩元自衛官や援護機関担当者が相談に応じる」(自衛隊援護協会本部)ことで、悩みを解消し、職場になじむよう後押しをする体制ができている。

元自衛官が培ってきた強みを活かしつつ、再就職先で新たなスキルを磨き、力量を発揮するために、再就職後も、各人の経験や素養を把握したうえで、メンタル面も含めて適宜フォローする第三者・第三者機関があることは、「マッチングした企業に就職して終わり」ではなく、その後の定着率アップにも効果が期待できる。これは元自衛官たちにとっても再就職先の企業にとっても非常に心強いだろう。

民間企業が元自衛官を採用することで得られる効果とは?

元自衛官を採用する企業が感じているメリットのひとつは、即戦力として活躍できる点だ。彼らは自衛隊時代に、電気工事士、危険物取扱者など、各職種に必要な国家資格・免許を取得しており、企業側からすれば、資格取得や技能を身に付けさせるための「教育コスト」もかからない。

教育コストの側面から見れば、「責任感や協調性、判断力などの素養が身についている」ことが企業側にとっては大きなメリットになる。これらは新卒採用時には教育コストになり、中途採用時にはリスク(面接ではチェックしきれないという意味において)になるためだ。

事実、平成26年度に退職自衛官を採用した企業の調査によれば、「採用して良かった」という回答の理由として、「勤務態度が勤勉、責任感が強い、規律性があり組織になじむ」という声が多く挙げられている。

何より、組織内の上司・部下との関わり方やチームワークの構築に長けていることは特筆すべき点だ。個人プレーに偏りがちで、メンバーとの連携がうまくとれないといった課題を抱えてしまう組織やチームが多いなか、組織やチームの目標に向かって、チームの結束を大事にしながら、やるべきことを確実に企画・実行していく人材は非常に貴重である。だからこそ、元自衛官の採用は、組織の活性化や定着率向上を生み出す源泉だといえるのではないだろうか。

執筆者紹介

松尾美里(まつお・みさと) 日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。教育出版社を経て、2015年より本の要約サイトを運営する株式会社フライヤー(https://www.flierinc.com/)に参画。ライフワークとして、面白い生き方の実践者にインタビューを行い、「人や団体の可能性やビジョンを引き出すプロジェクト」を進行中。ブログは教育×キャリアインタビュー(http://edu-serendipity.seesaa.net/)。

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