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特集

人事のキーパーソン2人が@人事読者の「組織改革」の疑問に答えます(第4弾)


言語化能力が低い経営者には、翻訳者を立てよ。曽和利光×北野唯我対談

2019.12.02

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HR業界のキーパーソン、人材研究所の曽和利光さんとワンキャリアの北野唯我さんによる対談企画。@人事読者から寄せられた「組織改革」に関する悩みや疑問に、最前線を知る専門家ならではの新たな視点で答えていきます。

本企画最後のお悩みは「経営者と現場の意見に隔たりがあり、事業がうまく回らない」。なぜ経営者を理解するのが難しいのか、どうすれば組織全体でスムーズに議論できるようになるのか、具体的に解説しました。【取材:2019年9月18日 @人事編集部 大西里奈】

※読者から寄せられた質問は、個人が特定されないよう一部編集しています。

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「組織に一体感って必要?」人事の常識を疑え! 曽和利光×北野唯我対談

★第2弾「数値化しにくい部署(特に労務)での人事評価をどうするべきか」という悩みに答えた記事はこちら
数値化できない部署を無理に人事評価する方が問題。曽和利光×北野唯我対談

★第3弾「採用や組織改善の取り組みを全社で統一するべきか、グループ会社や事業部ごとに個別最適するべきか」という悩みに答えた記事はこちら
「採用したら最後まで一緒」の理想は嘘。曽和利光×北野唯我対談

目次
  1. 創業者は言語化能力が低いもの。翻訳者を立てて行動を分析せよ
  2. 「翻訳者」に事業部長を選んではいけない
  3. 組織や事業の展望を議論するときには、当事者意識を持たせる
  4. 「人事はこうあるべき」という無意識のバイアスにとらわれるな

プロフィール

人材研究所の曽和利光さんとワンキャリアの北野唯我さん

曽和利光(そわ・としみつ)(右)株式会社人材研究所 代表取締役社長

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。学生向けにも就活関連情報を精力的に発信中。人事歴約25年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。

北野唯我(きたの・ゆいが)(左)作家、ワンキャリア 最高戦略責任者

兵庫県生まれ。神戸大学経営学部卒業。博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。米国留学の後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年にワンキャリアに参画、最高戦略責任者執行役員に就任。2019年1月から子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略顧問も兼務。11月28日に初の本格経営書『オープネス ー職場の空気が結果を決めるー』が発売予定。著書は他に『転職の思考法』『天才を殺す凡人』『分断を生むエジソン』がある。

創業者は言語化能力が低いもの。翻訳者を立てて行動を分析せよ

質問4:天才肌の創業者を殺すことなく、互いの意見をすり合わせるにはどうすればいい?
▼20代男性、ソフトウェア、従業員数50人未満

事業に対する考え方で、経営層と現場の意見に隔たりがあり、事業がうまく回っていません

北野さんの著書『天才を殺す凡人』になぞらえると、経営層の中心である創業者はまさに天才上納アンナ氏のような存在で、天才肌で直感中心の言動にイライラを感じてしまうことがあります。「天才」を殺すことなく、お互いの意見を合わせて事業を進めていくために、組織改革の視点でなにかできることはあるでしょうか。

また、経営層が会社の業務以外にタスクを多く抱えていて、事業の展望について現場社員と深く議論する時間がほとんどありません。時間がない中でも効率的に情報のやりとりができる組織形態や、議論のフォーマットなどが知りたいです。

北野さん(以下敬称略):この質問は「経営陣と現場との隔たりをどうするのか」「天才肌の創業者の側近としてどうすればいいのか」という2つの論点に分けた方がいいかなと思います。

曽和さん(以下敬称略):こういう創業者は形式知化能力が高くないんですよね。創業者は無意識に行動できるからプロなのであり、そんな人に形式知化を求めることが間違っている。この会社には創業者の考えを形式知化する「翻訳者」がいないんじゃないでしょうか。

例えば、ある製造業で、高卒で工場の職員になってから工場長、社長まで上りつめた人がいるとします。そんなスーパーマンみたいな人は、現場の工場を回っただけで改善すべきポイントをすぐ見つけますが、彼が工場のどこをどんな順番で見ていたのかは分かりません。「その人が回ると改善点が見つかる」状態ですね。

リクルートはこれを形式知化して、とにかく「なぜ彼が改善点を見つけたのか、どうやったのか」を聞きまくって、プロの行動観察をします。その結果チェックリストができあがる、みたいなことをした方がいいです。

人材研究所の曽和利光さん

曽和:経営者やトッププレイヤーの行動を翻訳する係は絶対に必要なんです。社内で難しいならば外部に依頼してもいい。経営者は言っていることとやっていることが違うものなので、行動観察をベースにする。自分でも何をやっているか分からないくらい、行動が自動化されているのがプロなので。

「翻訳者」に事業部長を選んではいけない

曽和:また、会社だと経営者の言葉は独り歩きするので、スピーチライターやチェック係が入って言い換えてあげるのも、一時的には有効です。もちろんずっとその状態はよくないですが。

翻訳者の選び方も大事ですね、事業部長のような「縦のライン」で選ぶのではなく、「スタッフ」がやるべきです。大統領のスピーチライターは副大統領ではなく、あくまでもスタッフとしてのスピーチライターじゃないですか。事業部長にやらせると、上下関係の権力が生まれるので、経営者の言葉が歪んだり、事業部長が自分のいいように解釈を寄せてしまうんです。

曽和’s Answer:経営者の言葉ではなく、行動を観察すべし。
経営者の言葉は、勝手な解釈を入れずに言語化できる「スタッフ」が翻訳して現場に伝える。

北野:「戦略分かったふりおじさん」はややこしいですよね。完全には経営戦略を理解していないのに、自分の解釈を与えて、あくまでも分かったふりで説明する。その人がいる限り、永久に社長の言うことと現場に降りてくることは違ってしまいます。社長の言語化能力が低い会社では特に、こういう状況になる。

曽和:社長はほぼ、絶対に言語化能力が低いです(笑)。特に自分がやりたいことに対する言語化能力は低い。苦しみながら紡いだ言葉も、たぶん本当に言いたいことではないんですよ。そこで「こういうことですよね」と翻訳できる、諸葛孔明みたいな人が必要。関羽と張飛ではなく、諸葛孔明(笑)。

北野:諸葛孔明を見つけるのは難しいなぁ(笑)。

笑う北野氏

曽和新卒社員でその経営者が好きとか、経営者の行動を完コピできる人ならついていけますが、経営者の言葉に意識が向いている人は理解できないですね。

北野:確かに、経営者を五感で感じ取っていける新卒社員はいいですよね。

曽和:そういう社員は「社長の言葉はよく分からないけど、まずやってみよう」と思えて、実際正しいことができるし、社長の思いが伝わっている。中途でエグゼクティブ的に入社した人は、経営者の言っていることをそのまま実行しても「あいつよく分かっていない」と言われてしまう。でも、この状況は悲劇的で、悪い人はどこにもいないんですよね。

北野結局、社長に対して期待しすぎなのかなと思うんです。

「経営者の側近」という観点で考えると、僕は起業家や経営者という生き物が好きで、一緒にいるのが面白いんです。社長は完璧じゃないし、むしろ、いい会社であるほど社長が発展途上で成長段階にあることが多い。

もし質問者の方が「経営者の側近」としていたいならば、自分の期待値をコントロールした方がいいですね。

重要なミーティングの前には「何があっても最終的には社長に『イエス』と答える」とマインドセットする。社長に説明されて意味が分からなくても、最後は信じてイエスと言う。社長の側近になるには「社長の割には頑張ってくれたな」と思えることが重要なんです。だって、期待値を高めに持っても、得なことなんてないですから。

北野’s Answer:社長の側近になるためには、社長への期待値をコントロールして「最終的にはイエスと答える」とマインドセットするべし

組織や事業の展望を議論するときには、当事者意識を持たせる

北野:「組織形態や議論のフォーマットをどうするか」の質問もありましたね。

僕が今までにやってよかったのは、普段と環境をがっつり変えて合宿形式で議論すること。お互いに向き合わざるを得なくなるので。早朝に1時間くらい議論するのもいいですね。

ワンキャリアの北野唯我さん

北野:また、組織に対する議論は解釈を整えることしかできないので、ゴールを出さない方がワークしやすいです。相手を批判する人も出てきやすいですが、「じゃあ◯◯さんだったらどうしますか?」という投げかけで議論を落とすのもいいですね。

曽和当事者意識を醸成する、ということですね。

北野:そうですね。「組織」という答えのない議論をする時には「あなたならどうする?」のフォーマットはすごく大事だと思います。それがないと「社長はこう言っている」「あの事業部はこうしている」とか、主体性のないまま議論してしまうので。

北野’s Answer:組織に関する議論をするときのコツ

・合宿形式にする、早朝に実施するなど、普段と環境を変えてみる
・「◯◯さんならどうしますか?」と投げかけて、当事者意識を醸成する

曽和:素晴らしいソリューションですね。もしさらに議論を加速させるとしたら、議論に入る前のコミュニケーションがあるといいです。

日本人はあうんの呼吸で、少しの言葉で相手の頭の中を想像しあっているのでズレが起こります。個人の性格によって、同じ言葉を使っていても違う意図が込められている。「早く対応してください」という指示も、1時間以内なのか、できる限り優先順位を上げればいいのか、受け取り方はそれぞれ異なります。議論の前に言葉の意味を定義することが必要です。

ただ、そのために会議を開くのも大変なので、事前にお互いの性格を知る時間を設けるのはどうでしょうか。「この人がこの言葉を言うということは、こういう意味なんだろうな」とパーソナリティーを相互理解できる状態にしておく

人材研究所の曽和利光さん

曽和:今回の質問だと、まずは経営者のパーソナリティーを開示することです。性格が分かると何かあっても許せたりするんですよね。それがないと疑心暗鬼になり、ちょっとしたことで「僕に対して敵意があるのかも」と社員は勘ぐってしまう。

フラットにディスカッションできるように更地にならして、互いに理解しあえる状態にすると、より組織の議論が進みます。

曽和’s Answer:議論に入る前のコミュニケーションが重要。

・同じ言葉でも、個人の性格によって違う意味が込められている。事前にお互いの性格を知り、相互理解できる状態にしておく。
・まずは経営者のパーソナリティーを開示する

「人事はこうあるべき」という無意識のバイアスにとらわれるな

対談中「どの質問も興味深く、難しい課題ですね」と話していた2人。最後に、今回の4つの質問から感じた「人事の課題」や、今後の人事に求められるスキルについて聞きました。

曽和:皆さん「人事はこうあるべき」「会社はこうあるべき」という無意識のアンコンシャス・バイアスにとらわれているなと思いました。本当に一体感が必要なのか、評価をすべきなのか、経営者と現場に隔たりがあってはいけないのか。これらは業績悪化や離職、メンタルでの休職などの問題に比べれば、「問題」とはいえないですよね。

人事はいい方ばかりですが、善人すぎてしまうんです。自分のいいところだけでなく、悪いところも欲望もあると認めるのは嫌だと思います。でも、人事自身の自己認知能力の低さが組織に対する認知の歪みにつながってしまう。人事の方こそ、自分のアンコンシャス・バイアスに気付いてほしいです。

人材研究所の曽和利光さんとワンキャリアの北野唯我さん

北野:僕は人事のみなさんが「Aの条件ならばBになる」という話を、分離して考えられていないんじゃないかと思いました。

例えば「サイバーエージェントさんでやっている施策だから、うちもやりましょう」みたいな話は、サイバーエージェントさんにどんな社員が集まっているかという前提条件が抜けていましたよね。

「自分はAのやり方だからBの仕事をするが、あの人はCの考え方だからDの仕事をする」という風に整理しないと、物事を根本的に解決できないと考えています。まずはそれを自分なりに言語化してみて、鍛えてみるのはどうでしょうか。

曽和:ファクトに意識が向かないんですよね。社員の意見は心理的現実という意味では「ファクト」であるかもしれないけれど、あくまで主観的な意見であり、客観的な真実ではないじゃないですか。

人事は優しくて相手の心に寄り添おうとするから、それをベースに考えてしまう。人事が善人であるがゆえの落とし穴ですよね。人事は「こういう事実がある」と受け止めて、話半分に聞いているくらいでいい。「職業的猜疑心」を持っているべきだと思います。

北野:結局解釈なので、表と裏の両面があるんですよね。この感覚を理解しているかは重要です。

曽和:「職業的猜疑心」と矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、究極的には人を信じることですよね。ただ、この「信じる」とは相手の言葉を信じるのではなく、動機に対する信頼感です。

人事をやっていると、いろんな人の悪口が入ってきて、人事を味方に引き込もうとしてくる社員もいますよね。でも動機に対する信頼感があれば「この人がこんなことをするならば、何かあるに違いない」と考えて、言葉を鵜呑みにせずに物事の両面を見ることができます
これが「人を信じて」いながら「猜疑心を持つ」ということです。

実際に職場を見てみたら、誰が悪いでもなく「あの人とあの人の考え方が合わなかっただけかな」と気付けるんです。本当の姿が見えれば適した施策を考えられますよね。人事には「客観的事実と心理的事実を分けてみてほしい」と伝えたいです。


計4回にわたってお届けした今回の特別対談。曽和さん、北野さんの言葉から人事の「思い込み」や「無意識のバイアス」に気付いた方も多いはずです。課題を解決するヒントを見つけて、日々の業務改善に役立ててもらえたらと思います。

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【編集部より】
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