無意識の偏見を越えてゆけ!
ラグビーワールドカップ日本代表の大躍進に学ぶ、組織力最大化の絶対条件
2019.10.13
ラグビー日本代表が13日に行われたワールドカップ(W杯)2019日本大会の1次リーグ最終戦でスコットランドを28ー21で撃破し、史上初の8強入りを決めました。日本人選手だけではなく外国出身、外国籍の選手も含めた代表31選手の戦いぶりに、胸を熱くした人も多いのではないでしょうか。
2大会前までW杯でたった通算1勝だった日本代表。3勝するも8強入りを逃した前回の2015年大会の成績を塗り替えた原動力は、外国人選手による底上げと一体感が挙げられそうです。
「多様性のある」「個の力を場の機会にフィットさせる」スポーツのラグビーの大躍進をヒントに、「採用難」「人手不足」「ダイバーシティ推進」といった人事の現場にある課題の解決を探ります。【2019年10月13日、@人事編集部 飯塚陽子】
ラグビーの代表チームに外国人選手が多い理由は?
今回の日本代表「ブレイブブロッサムズ」の31選手中、外国出身、外国籍の選手、帰化した選手は15人。他国代表にも外国人選手が多いのは、ラグビー代表選手の条件が「出生地がその国」「両親、祖父母のうち1人がその国出身」「その国に3年以上継続して居住」「通算10年にわたり居住」のうち一つを満たせばいいことになっているから。発祥地のイングランドからラグビーエリートが散らばった植民地で盛んとなり、住む場所で代表になれるようにしたからと言われている。
永遠に世界で勝てないのか。日本ラグビーが迷走していた頃
日本が悲願の決勝トーナメント進出を決めました。2004年には8-100という大差で破れた強豪国スコットランドを実力でねじ伏せました。元スポーツ記者の筆者は約10年前にラグビーを取材。W杯2大会前の2011年大会はフランス、ニュージーランド、トンガに完敗、カナダに引き分けという惨たんたる結果。報道もひっそりとしていて、「ラグビーは永遠に世界で勝てないのでは」とメディア関係者で話していたことが思い出されます。
まさか、優勝候補のアイルランドを倒すなんて。
まさか、1次リーグトップ通過で8強入りするなんて。
なぜ、ラグビー日本代表は世界を相手に躍進できたのでしょうか?
強化策として2015-16年シーズンからスーパーラグビー(国際リーグ戦)に日本チームが参加したことも大きいですが、今回は外国出身や外国籍の15選手が日本チームにフィットした点に注目したいと思います。
リクルートマネージメントソリューションズの営業マネジャーで、早大ラグビー蹴球部で日本一の経験もある佐々木康之さん(写真左)は「今回の日本代表の戦いぶりから、ビジネスシーンでヒントにすべき点が多く垣間見えます」と話します。その一つとしてあまり深く知られてこなかったラグビーの特徴があると言い、「ラグビーが多様なメンバーで構成される組織であること、『個の強み』を『場の機会』にマッチングさせているスポーツであること」を挙げます。
フィジカル面で差がつきやすく、番狂わせが起きにくいと言われるラグビー。だからと言って屈強な外国人をたくさん代表選手に集めるだけでは強くなりません。個々のスキルをチーム力として結実させるためには、長い時間が必要でした。
外国人選手を「仲間」として受け入れるまで。当たり前の文化として
日本代表と外国人選手のこの20年の歴史を紐解いてみます。
日本代表で初めて外国籍のキャプテンが就任したのは98年です。「超大物」と言われるような6人の外国人選手を代表に起用して臨んだ99年W杯は0勝3敗でした。2005年に初めてヘッドコーチ(HC)に外国人指導者が着任し、日本の社会人リーグでプレーする多くの外国人選手が桜のジャージーに袖を通しましたが世界の壁は厚く……。1勝もできなかった2011年W杯では「外国人選手に依存している」と批判を受けました。
大学スポーツ界ではすでに80年代からトンガなどから留学生の受け入れが始まり、2000年代に入ると中学、高校から日本へラグビー留学する外国人選手も目に見えて増えていました。私が記者時代に取材した2010年前後の関西大学リーグでは、トンガやフィジー出身の選手たちが席巻。ただ当時は彼らの力の「突出」だけが目立ち、フィットしているチームは少なかったように思います。
現在代表の主将を務めるリーチマイケル(ニュージーランド出身)は2004年に札幌山の手高校入学を機に来日。初めて電車に乗るときに道を教えてくれた日本人の優しさや、実家が火事になったときに支援してくれた高校の関係者の恩を今も忘れないと言います。今の代表チームには、日本文化を理解し、日本を愛して代表になっている選手が多いのです。
【参考】中竹竜二さんによるリーダーシップ論→ラグビーU20日本代表元監督が語る、悩めるリーダーへのアドバイス方法
ファンも外国人選手を受け入れている背景には、社会人ラグビーの全国リーグであるジャパンラグビートップリーグが海外からレジェンド級の選手を招へいし続けているのも大きいでしょう。ラグビーのチームに外国人選手がいるのは当たり前、という土壌ができていったのです。
「無意識の偏見=アンコンシャス・バイアス」が組織力を弱めている
一方でラグビーにあまり馴染みのない人は、大会が始まる前は「なぜラグビーの代表チームは外国人ばかりなの」という疑問がわいたはず。今回、外国人選手の魂のこもったプレーや流暢に日本語を話す様子を見るにつれて、少しずつ違和感が薄れていったのではないでしょうか。
数年前の日本代表チームにあった「外国人選手に依存している」という批判は、無意識の偏見であり、「代表チームには日本人が多い方がいいに決まっている」という決めつけだったかもしれません。私自身の感覚としても、日本で開催された大会でその意識に気付かされました。ビジネスの現場でも同じで、スキルが高い人、チームにフィットする人であれば、国籍やその人の背景は関係のないはずです。ダイバーシティ推進のためには、この無意識の偏見=アンコンシャスバイアスに気付き、取り払うことが必要と言われています。
※世代間の偏見に関するデータ→世代間の「無意識の偏見」 全体の6割以上がベテラン層・若手社員に「偏見あり」と回答
こんな無意識の偏見、ありませんか?
・外国人より日本人の方がコミュニケーションで困らなくていい
・小さい子どもを持つ女性はなるべく負担の少ない仕事をさせたほうがいい
・最近の若者は根性がなく、責任感がない
・時短勤務をする人は仕事より家庭を優先する
多様な人材の採用は、人口減少・高齢化社会に突き進む日本の企業にとって喫緊の課題です。先日取材した、関東圏中心にホテルや旅館を運営するフォレスト(神奈川県湯河原町)では、今年春から外国人人材の採用を始めたばかり。「最初は、求人してもなかなか日本人が集まらないため仕方なく、の気持ちでした」と率直な気持ちを振り返っていたのは同社の石田浩二社長。ところが、いざ面接してみると彼らの「日本のおもてなしを学びたい」という熱い思いに加え、日本語のレベルの高さやマナーや気遣いの心にも驚いたそうです。
面接を経て、タイやミャンマー、ロシアなどから入社予定者を含めて12人を採用。これからさらに外国人人材の採用を拡大するという石田社長は「大切なのは差別しないこと、そして継続してフォローすることです」と力を込めます。一生懸命な彼らの姿に「職場で接していると私たちも優しくなれるんですよ。いい刺激をもらっている」と、新しいエネルギーに触れ、ダイバーシティが組織の成長を促すことを期待しています。
感情が揺さぶられることでエネルギーも変わり、成果が出る
ラグビーはそもそも「多様性が魅力のスポーツ」です。ポジションごとに明確な役割があり、身体の大きな選手、小さな選手、足の速い選手といった「互いの違い」「個性」を尊重し合いながら目標に向かいます。ポジションごとの役割が明確なアメリカンフットボールとも似ていますが、15選手が一斉にフィールドに立ち「状況に応じて全員で守り、全員で攻撃する」点はラグビーならでは。「大きな戦略を掲げて意思統一を起こし、あとは個々人の裁量と判断に委ねて動機付ける」(佐々木さん)という競技性もビジネスによく例えられる部分です。
また、体を張って命を預けるスポーツのため、信頼関係が築けなければ結果は出ないとも言われます。
そんなラグビーの魅力を十分に伝えた今大会の日本代表の戦いぶりに、佐々木さんは「人同士は感情を揺さぶられることでエネルギーが高まり成果も変わる、一見科学的でない人間性も踏まえた組織づくりが必要になる、ということを学びました」と話します。
多様な人材を助っ人ではなく信頼できる仲間として迎え入れ、組織として「個の力」を「場の機会」にフィットさせることができれば。確かな戦略の下に努力を積み重ねることで、予想しなかった結果や飛躍、ほんの先の未来のイノベーションにつながるのかもしれません。心のバイアスをリセットできれば、高い壁も越えていけるのではないでしょうか。
【編集部より】ラグビー元U20日本代表監督・中竹竜二さんが語るリーダーシップ論や育成術の記事のほか、モチベーションアップや戦略人事に関するおすすめの記事
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