生産性を高める新しい働き方「リトリート×仕事」とは?
「仕事で頑張った分休んで」と部下に言いがちな上司が知るべきこと
2019.10.18
「仕事できちんと生産性を上げてほしいので、その分休みを取って、しっかりリフレッシュしてください」。人事やマネジャー層のみなさんは、社員にこんな話をしたことはありませんか?
「仕事=緊張」「休み=弛緩」と考えると、これは「仕事で緊張した分、弛緩として休みを与える」イメージに近いでしょう。
この捉え方をちょっと変えるのが、「リトリート×仕事」という働き方。緊張と弛緩の両極端を行き来するのではなく、自分の生産性を高められる場所で、緊張と弛緩がフラットな状態で仕事をする。これこそが社員が最もパフォーマンスを出せる働き方ではないでしょうか。
今回はそんな新しいワークスタイル「リトリート×仕事」を自社ブログで発信している「Flucle(フラクル)」(大阪市)広報の本田奈津子さんに取材。部下に休暇を与えることの問題点や、社員のパフォーマンスの可能性を最大限に引き出す方法など、人事やマネジャー層が知っておきたいポイントを聞きました。【取材:2019年9月12日 @人事編集部:大西里奈】
株式会社Flucle
2015年に設立。人事労務トータルサポートサービス「HRbase(えいちあーる べーす)」、人事労務コンサルティング、コミュニケーション研修などを手掛ける。本田さんがあるきっかけで「リトリート×仕事」を実践したことから、自社のブログ「『働くをカラフルにする』ビジネスブログ」で「リトリート×仕事」の効果や活用方法を発信している。
そもそも「リトリート」「リトリート×仕事」とは
リトリートは「退却、撤退、避難」という意味で、非日常の世界で静養することを指します。
一方で「リトリート×仕事」とは、非日常の世界で仕事をすること。なぜフラクルでは「リトリート」と、その真逆にも思える「働く」を掛け合わせたのでしょうか。
本田さんは「そもそも、フラクルには『働くことがつらいものではあってはいけない』という考え方があります。頑張って仕事をすることと、そこから逃げて休むことは、緊張(仕事)と弛緩(休み)の両極端でゴムを引っ張り合っているのと同じ」と説明します。
例えば、いつもと同じ職場で、厳しい上司からのプレッシャーを受けながら必死に仕事をする。携帯には絶えず社内外からメールが届き、自分のタスクには集中できず、成果を出すために遅くまで働く。休みの日に一気に力を抜くが、休みが終わればまた職場に戻り、社内外からの圧迫感を感じながら仕事に励む。
これでは「緊張」と「弛緩」の対局を行き交うばかりで、体や心が疲弊してしまいます。「部下には働いた分、休暇を与えればいい」という単純な考え方では社員のためにはならないのです。
そこで「仕事をするか休むか」の2択ではなく、会社から離れた非日常な場所で得られる開放感を活用して働き、生産性を高めるのはどうか。外部からのプレッシャーや必要以上の連絡がない状態で、自分の脳や感覚を研ぎ澄ませながら仕事に没頭する。そんな働き方が「リトリート×仕事」です。
「リトリート×仕事」を成立させる環境条件は2つ。
一つ目は、会社から離れた非日常の場所に行くこと。必ずしも「静かな山間や海沿いの町」とは限らず、地方で働く人にとっては都心がリトリート先になるかもしれません。
二つ目は、家族や同僚、上司など日常の人間関係から離れること。可能な限りSNSやメールからも離れて「デジタルデトックス」をすることが大切です。緊張も弛緩もせず、精神を平常な状態に保てる環境にします。
「緊張しながら9時間でタスクを終わらせる」から「脳がすっきりした状態で8時間で終わる」へ
本田さんが「リトリート×仕事」を初めて体験したのは、2018年1月末~2月初めのこと。1月、白熱する経営会議で本田さんが「今の仕事を完結させないまま、次の業務に移りたくない」と発言したとき、三田弘道取締役代表に「山にこもって仕事をして、やりきってから下山しみたら?」と言われたことがきっかけでした。そのままの勢いで三田代表が本田さんのスケジュールを押さえ、カレンダーが「山ごもり」の文字で埋められていく光景に圧倒されながら、急遽「リトリート×仕事」の準備を進めたそうです。
本田さんはリトリート先に奈良県や三重県の山岳部を選び、5泊6日で宿泊。プレスリリースやサービスのキャッチコピーの作成に集中して取り組みました。本田さんは「会社や家族から距離をおいて、時間にも縛られず仕事ができました。会社でピリピリしながら9時間で終わらせていた仕事が、脳がすっきりとした状態で8時間で終わらせることができたんです」と振り返ります。
その後は本田さんが個人で日帰りで体験したり、チームで実施したり、社内でさまざまな方法を実施しているそうです。
「リトリート×仕事」のメリットは、自分の好きなタイミングで仕事に取り組めること。外部からの影響も受けにくいため、深く思考してクリエイティブな仕事をしたり、積み残しの作業を一気に進めたりできます。実施するのに適した頻度は個人差がありますが、本田さんは日帰りリトリートを3カ月に1回、3泊程度のリトリートを半年に1回行っているそうです。
疑問1:リトリート先で仕事をしない人もいるのでは?
今回の取材で筆者が感じた疑問を、本田さんにぶつけてみました。まずは「リトリート×仕事」のデメリットについて。
リトリート先では周りからの影響を受けず、自分のペースで仕事をします。職場で周りの同僚に見られていない分、誘惑が多く仕事をしなくなる人がいるのでは……。
本田さんも「『リトリート×仕事』が合うのは、自律的に仕事ができる人。そうでない人はサボってしまうかもしれません」と考えます。
「リトリート×仕事」は、自律性のない人にとってはただの旅行になってしまいます。成功させるポイントは、リトリート×仕事を実施する目的や、現地でどの作業をどこまでやるか、自分で決めて実行することです。
疑問2:「ワーケーション」とは何が違うのか?
ワーケーションとは、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語。社員がリゾート地で休暇を過ごす合間に仕事をすることを指し、企業が働き方改革や制度拡充の一環として導入し始めています。
※関連記事:JALも実践。 ワーケーション体験してみたら、思いのほか仕事がはかどった話
本田さんは「ワーケーションは非日常の空間でリラックスしている間に、仕事もするイメージ。『リトリート×仕事』は生産性を高めるために、非日常の空間に行って仕事をすること。実施目的が異なります」と説明します。休暇を利用して、会社から離れた場所でも仕事をするのか、仕事をするために離れた場所に行くのか。そこに大きな違いがあります。
社員それぞれの可能性を一番高める場所はどこなのか、考えて
社員に長期休暇を与える「リフレッシュ休暇」をはじめ、「休み方改革」が各社で広がっています。しかし、まずは休み方ではなく「各社員がフラットな状態で生産性を高め、仕事を最大限に楽しめる場所で働ける環境」を整えることを意識してもいいのではないでしょうか。
それは自然に囲まれた場所や、都心や、はたまた自宅やカフェなど、社員によっても異なるはずです。単純に全員が同じように利用できる休暇制度を整えても、制度が利用されなければ意味がありません。働き方の価値観は変化し、生産性の上げ方や休み方、働く場所の選び方も多様化しているのです。
※関連記事:日本の施策は30年遅れ? 誤解されたエンゲージメントの本当の意味
「仕事で緊張した分、休暇を取るのなら、逆に職場でもっと緊張を緩めてしまえばいい。社員それぞれの可能性をめいっぱい引き出せる場所がどこなのか、上司や人事の方には考えてみてほしいです」(本田さん)
Flucleの三田社長によるコラムはこちら
- 未経験の人は肯定的? リモートワーク導入前に企業が知っておくべきポイント解説
- 10人未満の企業では作成義務がないのに、みんなが就業規則を作る5つの理由
- 「副業OK=良い会社」はもう古い? 経営戦略としての複業解禁を考える
【編集部より】
働き方の多様化に関する記事はこちら
【編集部より】
働き方の多様化に関する「業務ガイド」(ノウハウ記事)はこちら
@人事では『人事がラクに成果を出せるお役立ち資料』を揃えています。
@人事では、会員限定のお役立ち資料を無料で公開しています。
特に人事の皆さんに好評な人気資料は下記の通りです。
下記のボタンをクリックすると、人事がラクに成果を出すための資料が無料で手に入ります。
今、人事の皆さんに
支持されているお役立ち資料
@人事は、「業務を改善・効率化する法人向けサービス紹介」を通じて日本の人事を応援しています。採用、勤怠管理、研修、社員教育、法務、経理、物品経理 etc…
人事のお仕事で何かお困りごとがあれば、ぜひ私達に応援させてください。
「何か業務改善サービスを導入したいけど、今どんなサービスがあるのだろう?」
「自分たちに一番合っているサービスを探したいけど、どうしたらいいんだろう?」
そんな方は、下記のボタンを
クリックしてみてください。
サービスの利用は無料です。
関連記事
-
企画
人事のキャリア【第26回】
急成長するIT企業で人材採用の最前線に立つ (アルサーガパートナーズ・青山哲也さん、高橋歩さん)
さまざまな業種の人事担当者に、これまでのキャリアや仕事のやりがいについてインタビューする連載企画「人事のキャリア」。今回伺ったアルサーガパートナーズ(本社:東京・渋谷)は、「日本の...
2024.09.03
-
企画会員限定
人事の10分読書vol.37『図解 「いいキャリア」の育て方』
@人事が、本の要約サイト「フライヤー」とコラボし、人事のスキルアップにつながる書籍の要約をお届けする連載企画「人事の10分読書」。第37回は、青田努氏の著書『図解 「いいキャリア」...
2024.03.21
-
企画会員限定
人事の10分読書vol.36『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』
@人事が、本の要約サイト「フライヤー」とコラボし、人事のスキルアップにつながる書籍の要約をお届けする連載企画「人事の10分読書」。第36回は、石角友愛氏の著書『AI時代を生き抜くと...
2024.02.20
あわせて読みたい
あわせて読みたい
人気の記事
国内・海外ヘッドライン
THE SELECTION
-
PRTHE SELECTION企画
「置き型健康社食」がもたらす可能性とは
健康経営、採用強化、コミュニケーション活性化にも。 手軽に導入できる「食」の福利厚生
-
PRTHE SELECTION企画
街なかの証明写真機「Ki-Re-i(キレイ)」で、もっと社員の顔写真管理をラクに
社員証の写真、「最適化」できていますか? チーム力を強化する顔写真データ活用法とは
-
THE SELECTION特集
【特集】ChatGPT等の生成AIが一般化する社会で必須の人材戦略・人的資本経営の方法論
-
THE SELECTION企画
レポートまとめ
@人事主催セミナー「人事の学び舎」 人事・総務担当者が“今求める”ノウハウやナレッジを提供
-
THE SELECTION特集
特集「人手不足業界の逆襲」~外食産業編~
「見える化」と「属人化」の組み合わせが鍵。 丸亀製麺が外食業界を変える日
-
THE SELECTION特集
人事のキーパーソン2人が@人事読者の「組織改革」の疑問に答えます(第2弾)
数値化できない部署を無理に人事評価する方が問題。曽和利光×北野唯我対談
-
THE SELECTION会員限定特集
働きやすい職場づくり~サイバーエージェント編
「妊活支援」や 「働くママ・パパ支援」を、 一部の社員のものにしないためには?