一週間で応募2,000件超！ ファイターズの採用広報ツールの決め手は「ハラ落ち」

プロ野球球団・北海道日本ハムファイターズ（以下、ファイターズ）が一週間で延べ2,000件以上の中途採用応募者を集めた「採用広報ツール」が話題になっている。

同球団が2023年に開業予定の新球場を含む施設「北海道ボールパーク（仮）」に関連する人材募集で、「家族の皆様へ ファイターズへの転職のご相談」と題されたパワーポイント資料を無料公開。北海道外に居住する応募者にとっての「移住」というハードルに対して、「スギ花粉が少ない」「Gが出ない」など、生活者目線で北海道の魅力をPRしている点がウケてSNSを中心に情報拡散。採用・広報担当者の話も交え、爆発的なエントリー数のきっかけになった「ご家族円満転職サポートテンプレート」の成功ポイントを紹介する。【執筆：＠人事編集部 飯塚陽子、記事公開日：2019年9月6日、最終更新日2020年6月19日】

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ご家族円満転職サポートテンプレート」とは

ファイターズが中途採用で募集した求人内容は、2023年に北広島市内で開業予定の新球場「北海道ボールパーク」に関連した業務だ。その募集条件を見てみよう。

ボールパークの完成イメージ　提供：（株）北海道ボールパーク

応募資格は、「社会人経験1年以上で、ファイターズと共に夢を実現する気概をお持ちの方」で、年齢制限はなく、野球経験も問わない。8月19日に募集を開始したところ、一週間で延べ2,000件を超える応募があった。大手転職サイトでの大企業求人応募は平均200～300人件/月程度と言われている中で、今回は募集と同時にSNSを中心に認知が広まり、爆発的な応募につながったことになる。

情報の拡散に貢献したのが、同時に公開した「ご家族円満サポートテンプレート」だ。「ご家族の皆様へ　本日はお忙しいところ、お時間を頂き、どうもありがとうございます。」から始まる全54ページにもわたる大ボリュームのパワポ資料は、求職者が家族に「転職」と「北海道移住」への同意を獲得するためのテンプレートで、自分仕様にカスタマイズして使うこともできる。

「アスパラが、太い！」。共感とツッコミの視点でネタを吟味

資料は4部構成。ツイッター上で「斬新」「かゆいところに手が届いている」「あらゆる切り口で口説いてくる」と話題になったのは、「どのような生活メリットがあるのか？」がテーマの第3部だ。

“家族会議”のアジェンダ

ここでは北海道の魅力をあらゆる角度からフィーチャー。「都道府県魅力度ランキング1位」であることから始まり、「温泉の数が日本一」「家賃がリーズナブル」と続いて、「回転寿司がメチャクチャ、美味しい」「ジンギスカンが美味しい」といった定番のグルメネタから、「スギ花粉が少ない」「Gと遭遇しない」「冬は燃料手当が、もらえる！」などと展開していく。

「北海道生活の魅力」シリーズ「台風が力尽きる！」

「北海道生活の魅力」シリーズ「Gと遭遇しない！」

「北海道生活の魅力」シリーズ「アスパラガスが、太い！」

極めつけは、思わず笑ってしまう「アスパラガスが、太い！」だ。
なぜ、ここでアスパラ？ 担当者の1人で北海道ボールパーク・パブリックリレーション部シニアディレクターの倉田亮さんはこう説明する。

「特に第3部については、北海道を好きな方からの共感をいかに集められるかという視点と、北海道をあまり知らない方からもいかにツッコミの声を集められるかという視点でピックアップするネタを吟味しました。こちらのネタをピックアップしていただいた一般の方の投稿が、2万リツイートもされて拡がっていく光景を見て非常に嬉しく思ったと同時に、ここまでの反応があったことに正直驚いています」

これらのネタはSNSのほか、北海道の情報番組などでも取り上げられ、認知度が高まる結果となった。

大谷翔平も納得させたプレゼン力？物語性を持たせて納得感を

転職は「自分ゴト」ではなく「家族ゴト」だ。親が子どもの内定した企業に反対して内定辞退させる「親ブロック」だけではなく、妻が夫の転職先にNOを突きつける「嫁ブロック」という言葉も最近よく聞くようになった。ファイターズの転職サポートテンプレートは、転職に伴う「北海道移住」への不安が少しでも和らぐよう、家族の納得感にこだわって作られているのが秀逸だ。

随所に手作り感の温かみもありつつ、3C分析をはじめとしたマーケティング手法も用い、「受け手へのベネフィットを明確に提示」しながら「起承転結を持たせ、全体がストーリーを持った構造」というビジネスレベルの仕上がり。「ファイターズへの転職＝家族が幸せになるための手段」という結論に至るまでの54ページを一気に読ませるようになっている。

3C分析を用い、将来性について語る第2部のまとめスライド

第4部「まとめ」の結論部分。「ハラ落ちする」ストーリーが流れるように展開される

ファイターズといえば、2012年秋に1位指名した大谷翔平選手（現MLBエンゼルス）に対して「大谷翔平君 夢への道しるべ～日本スポーツにおける若年期海外進出の考察～」と題した資料を使って両親と本人の心を動かして入団を説得させたエピソードが有名だ。そのため、SNSでは「そりゃ大谷さんも口説けるわ……」「大谷の道しるべを思い出した」という声もみられた。

「ハラ落ちを意識」した担当者も驚く一週間で延べ2,000件超の応募

プロ野球という特殊な業界であるとはいえ、地方企業の中途採用でこれだけの応募数を短期間で集めたのは異例と言えるだろう。

一週間で延べ2,000件超え、最終的には延べ3,000件を超える勢いの応募数に、倉田さんは「ある程度は世の中の反応を予測しながら仕掛けたつもりですが、新聞やネットニュース、インターネットテレビだけではなく、地上波（北海道テレビ『イチモニ』）で朝の情報番組にもかかわらず、9分弱の長尺で大々的に取り上げていただいたことについては、関係者一同非常に驚いております」と話す。

北海道日本ハムファイターズ・コンシューマビジネス部のトラン ティ 美蘭さん（右）と北海道ボールパーク・パブリックリレーション部の倉田亮さん

もう1人の担当者である北海道日本ハムファイターズコンシューマビジネス部のトランティ美蘭さんは「世の中から求められている情報とうまくオーバーラップできたと思います」と分析。今回の採用広報が成功したポイントは次の2点だ。

「（非求職者も含め）世の中から求められている情報」を転職先の仕事内容や将来性だけではなく、北海道移住のメリットや家族の未来展望など、求職者の目線まで丁寧に落とし込んだことが肝と言える。内容のユニークさから「話題力で情報拡散できたこと」に加えて、この転職サポートテンプレートを見て求職者本人も転職する理由やメリットについて「ハラ落ち」できたことが、地方移住という決して低くないハードルをものともせずに、これだけの応募を集められた大きな要因だろう。

■北海道日本ハムファイターズ✕北海道ボールパーク中途採用特設ページ（9月15日まで受付中！）
人生最大にして、最後のチャンス！？ファイターズと共に新たな歴史と社会を創造する人材を募集します。

※記載内容情報は2019年9月6日時点

【編集部より】
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