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日本の人事を科学する~より良いピープルアナリティクスに向けて~(前編)


ピープルアナリティクスは「より良い意思決定のため」に使う

2019.09.04

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企業でAIやクラウドなどテクノロジーの導入が進む中、HR領域では、データ活用によって人事課題を解決する手法の1つとして「ピープルアナリティクス」や「HRテクノロジー」が注目を集めている。人事領域におけるデータ活用は今、どこまで進んでいるのか。人事データで企業は何ができるのか。2019年5月13日に一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会が開催した「People Analytics & HR technology CONFERENCE 2019」では、業界のキーマンが最先端の活用例や、人事データ活用の未来について語った。今回はこの日行われたパネルディスカッションを3回に分けて紹介する。

■登壇者
大湾秀雄…早稲田大学 政治経済学術院 教授/協会理事
向坂真弓…サイバーエージェント 人材科学センター アナリスト/協会上席研究員
山崎涼子…パーソルホールディングス グループ人事本部 人事企画部 タレントマネジメント室 室長/協会上席研究員

■モデレーター
古川琢郎…協会上席研究員

目次
  1. ピープルアナリティクスは何から取り組むべきか
  2. アメリカでデータ分析した経験からチーム研究に興味を持つ(大湾秀雄・早稲田大)
  3. 「人事でマーケやらない?」と言われ、マーケから人事へ(向坂真弓・サイバーエージェント)
  4. ペーパーレス化によって、データ活用の可能性に気づく(山崎涼子・パーソルホールディングス)
  5. 専門家の知見を取り入れ、自社でできることを増やしていく(大湾)

ピープルアナリティクスは何から取り組むべきか

大湾・向坂・山崎氏

(左から)大湾氏、向坂氏、山崎氏

司会:ここからのお時間はパネルディスカッションを行います。パネラーは東京会理事、早稲田大学・政治経済学術院・教授、大湾秀雄先生。協会上席研究員、株式会社サイバーエージェント、向坂 真弓さん。協会上席研究員、パーソルホールディングス株式会社、山崎 涼子さん。以上3名にお話しいただきます。

モデレーターを務めますのは協会上席研究員の古川 琢郎さんです。それでは古川さん、よろしくお願いいたします。

古川:まず、ピープルアナリティクスやHRテックの活用というところで、もうけっこうやってますよという会社さんもあれば、これからですとか、最初の落とし穴にはまりましたとか、さまざまだと思います。今日は、最初にまずどこに着手するか。それから、最初に陥りやすい罠は何か、といったところを実際の事例を交えながらお話できればと思います。

早速、今日の登壇者の3名をご紹介したいと思います。自己紹介と、ピープルアナリティクスに関わるきっかけを話していただきます。ではまず、大湾先生。

アメリカでデータ分析した経験からチーム研究に興味を持つ(大湾秀雄・早稲田大)

大湾:私、大湾です。最初にピープルアナリティクスの出会いからですね。ピープルアナリティクスって、最近そういう言葉で統一されていますけど、私が社内データを使って分析を始めた頃ですね、2000年にアメリカにいた頃は、医療工場の生産管理データと人事データを取得して分析し始めたわけです。

我々はそういった分析をインサイダー・エコノメトリクス(内部者計量経済学)と呼んでいます。日本に帰ったときに、このインサイダー・エコノメトリクスという言葉を広めようと思ったんですけど、全然広まらなくてですね。どうもインサイダー取引を連想させるので、ネガティブだということを言われました。

2000年にチューブ生産のプロジェクトに参加したときに、その工場では伝統的な分業の、個人で生産して、個人で製函機を洗うという生産システムから、チーム生産のシステムに変えました。そこで生産性が劇的に上がったと。

当時の経済学では、チームというのはフリーライディング、ただ乗りが働くのでなかなか生産性上がらないで下がってしまうことが多いよねという議論が多い中で、そういった現実を見たときに、これは何かあるんじゃないかという事を調べました。それで、チームの中で、やはりインタラクションを通じてそこに規範ができて、相互のモニタリングとか、ピアプレッシャーが働いて、フリーライディングが回避される。かつ、お互いに学び合うことで知識の共有が働いて、生産が上がるという効果が出てきたんですね。

そういう結果を発表して、そこでチームの役割にかなりのめり込みまして、しばらくチームの研究ばかりやっていました。それが最初です。

古川:ありがとうございます。続きまして、向坂さんお願いします。

「人事でマーケやらない?」と言われ、マーケから人事へ(向坂真弓・サイバーエージェント)

向坂:こんばんは。株式会社サイバーエージェントの人材科学センターという人事内にあるデータ分析のチームにいます。向坂と申します。

私のピープルアナリティクスとの出会いなんですけど、いまだに騙されたと思っているんですが、私はもともと2003年に新卒でこのサイバーエージェントという会社に入って、現場で営業とデータ分析をする広告代理店部門のマーケティングの部署にずっといたんですね。家庭の事情で一度辞めて、戻りたいというときに人事と面談をしたんです。

そしたら、人事担当役員から、「人事でマーケやらない?」とひとこと言われまして、きょとんとしたんですけど。意図としては、マーケをずっと経験して、ある程度、データとか数字とかに慣れている。しかもプロパーで2003年から8年、9年くらいいたので、会社の事情もよく分かっているだろうということで、人事のプロではないんだけれども、第三者的な視点で人事のことをいろいろ数字で語ってほしい、ということで半分口説き落とされて今の部署にずっといて、この仕事をやって4年目ですね。

まさかこんなにピープルアナリティクスが世の中的に盛り上がると思ってなかったので、自分としても刺激をもらっていて、毎日楽しいなと思ってます。今日はよろしくお願いします。

ペーパーレス化によって、データ活用の可能性に気づく(山崎涼子・パーソルホールディングス)

古川:山崎さんお願いします。

山崎:パーソルホールディングス株式会社の山崎と申します。よろしくお願いします。私はホールディングスの人事として、パーソルグループの約4万人の社員のタレントマネジメントをする部署におります。

ピープルアナリティクス自体はやり始めて4年くらい経つのですが、きっかけは向坂さんと違って、人事キャリアでして。新卒で入社して12年くらい人事をしているんですけれども、会社がですね、けっこう横着な会社で(笑)、ペーパーレスを面倒臭いという理由でかなり早めに始めたんですね。

その結果、「データ化が結構進んできているな」と私自身も感じるところがあって。このデータを生かして、何か別の人事策であったり、新しい人事策が作れるんじゃないかなという淡い期待があって、最初に足を踏み入れたというのがきっかけです。

私も、(ピープルアナリティクスが)ここまで盛り上がってくると思っていなかったので、楽しいなという風に思っています。もっといろんな人事の方々と連携しながらこの領域を盛り上げていければと考えている次第です。今日はよろしくお願いします。

古川:お願いします。

専門家の知見を取り入れ、自社でできることを増やしていく(大湾)

大湾秀雄教授

古川:ということで、具体的にどんなことをしているのか、皆さん気になっていると思いますので、それぞれ3名の方々に具体的なこれまでの取り組みを話していただこうと思います。まずは、大湾先生、お願いします。

大湾:私の方からは社会科学研究者として見たアナリティクスということで、経済学者ですので、そういった視点で考えていきたいと思います。

まず、ピープルアナリティクスとは何かということなんですけれども、私の定義としてはですね、より良い意思決定を行うことを目的として利用、収集可能な個人に関する情報を分析すること、という定義につきまして、大事なことはより良い意思決定のために使うということです。

ですから、分析するときにはどういう意思決定の改善につなげていくかを念頭において分析しなければいけないと思ってます。

分析は「課題発見」「予測」「因果推論」の3つに分類される

分析には大雑把に分けると3つのタイプがあって、1つは課題発見です。つまり、現状をしっかり理解して、どういった要因がこういった現象を引き起こしているかについての気づきみたいなものを得るための分析。

2つ目は予測ですね。個人に紐づけして、将来どういう可能性が高いかということを分析する。これも採用とか、配属とか育成支援の意思決定を助けるためにあるわけです。

最後に因果推論と書いたのはですね、この施策をやったからこれだけの効果がありましたよとか、この問題がこういう結果を引き起こしてますよという因果関係を突き止めるという分析があります。そのためには、可視化、統計分析、キャリア学習があるのかな。それぞれ完全に分けられるものではなくて、オーバーラップした形で出てくるかと思います。

「人事データなんか調べて何が分かるのか」と言われた10年前

ここ10年で、ちょうど私が、ここに書いてあります、加藤隆夫先生、川口大司先生とインサイダー・エコノメトリクス・プロジェクトというものを立ち上げたんですけど、それが10年前なんですね。

当時は、データを追うのが大変で、データをくださいという話をしに行くと、「人事データなんか調べて何が分かるんですか。全く想像つかない」というようなことを言われることが多かったんです。

それが最近は、皆さんが関心を持っているということで、そういった言葉を受けることはなくなったと。あるいは、皆さんがアクセスされているデータに範囲がかなり劇的に、10年前と比べてもかなり広がってきましたし、一元化も進んできたというような大きな変化もあったんではないかと思います。

まだまだ進んでいない部分もある

大湾教授のスライド1

ただ、まだまだ進んでいない部分もあると。例えば、ピープルアナリティクスでは課題を設定して、どんなデータが必要かを特定して、それを分析して、解釈するという流れがあるわけですけれども、これを全てできる人材というのは、まだまだ一握りしかいないと思います。

例えば、課題を特定できる課長さんがいたと。どこにデータがあるかよく知っている専門家がいると。で、分析の得意な人がいると。で、みんなで顔を突き合わせて、解釈しようとしていると。でも、これを一貫してできる人ってなかなかいらっしゃらないと思うんですね。

それから、何か施策をやるときに、必ず大きな施策を導入したときは、効果を検証するんだということを、ネットにおいて設計することはすごく大事だと思いますけど、それが一応プロセスとしてできあがっている方々はまだ少ないと思います。

それからやっぱり、データ解釈は非常にトレーニングが必要だと思います。つまり、相関関係と因果関係は違うと皆さんご理解いただいているわけですけど、どういうときに大きなズレが生じるかということをまだ深く理解していらっしゃる方が少ない。また、どんなバイアスがあるのか。どっちの方にバイアスが多くかかるかということも、ある程度経験によって生まれてくる。

他にも、経済学を中心に、社会科学で内的妥当性、外的妥当性という言葉があります。因果関係を示す条件が整っているかどうかが内的妥当性、一般的どうかが外的妥当性なんですが、これをきちんと検討することも非常に大事。それから、出てきた結果を何らかのフレームワークを使って解釈していくことも大事だと思います。

最後に、倫理的配慮が不足するような局面というのがまだ一部見られるのではないかということで、山本先生からお話があったと思いますけど、協会が策定したガイドライン案を使って、「こういった使い方は良いのか悪いのか」ということを考えながらぜひやっていただきたいと思います。

最初はですね、内製ができる作業と、コンサルタントとか、あるいは、大学の先生にお願いする作業って分けないといけないと思うんですね。社内でできることは社内でやり、あとは外に頼む。これを時間をかけてやって、中の人のレベルアップを図っていって、内製化でできることを増やしていくことによってケイパビリティ(企業全体としての強み、能力)が上がってくるんだと思います。

学術研究者が貢献できる部分とは?―①因果推論

じゃあ、大学の先生にどんなことを頼めるかということを、ちょっとここで整理しておこうかと思います。1つは因果推論ですね。経済学者がこれまで築いてきたツールボックスの中に因果推論のためのさまざまなノウハウがあります。

例えば、健康施策や研修の生産性効果がどれくらいあるのかという議論をするときに、今までは、例えば、ビフォーアフターとか、あるいは、実際に参加した人と参加しなかった人をそのまま比べていたということがあったと思います。

しかしながら、参加する人と参加しない人って相当違う人たちなので、きちっとした因果関係を掴むためには、参加した人、一人ひとりに、その人に属性が近くて参加する確率が同じであったような人を紐づけするという、マッチングという照合を使うのが良いと思います。そういうのをきちんとやって、効果を調べる。

例えば、これは1つの例なんですけど、ある製造企業でコーチング研修の効果を調べたんですね。マッチングの方法を使って、コミュニケーション能力を高めるような研修によって分析評価スコアが1%前後上がったとか、昇進確率が1、2割上がったというような結果が出ています。

学術研究者が貢献できる部分とは?―②効果予測

で、もう1つはモデルに基づいて、どのくらい施策効果があるかを予測する意味でも、研究者の使っているモデルが使えると思います。

例えば、ハイパフォーマー分析をするときに、どんな人がハイパフォーマーなのか、その人たちがどういった行動を取っているのかを調べる上で、ある程度、客観的にハイパフォーマーを特定するということが、経済学のモデルを使ってできる。

これは我々、付加価値モデルと呼んでいるんですけど、つまり、マネージャーの影響というのは、プロジェクトの結果とか職場の業績とか、部下の業績とかに現れるんですね。

それを例えば、プロジェクトであれば、プロジェクトの属性情報、チームの属性情報をコントロールした上で、リーダーやプロジェクトマネージャーが一様に与えているであろう影響力を抽出してくるというような分析でありますが、そういう分析を使って“良いマネージャー”を定義しましょうと。

では、その良いマネージャーはどういう行動を取っているかというのは、その社内の人事データを使って明らかにしていくわけですね。多面評価もあるし、カレンダー情報なんかもあるし、インタビューなんかを使ってヒアリングもやっていく。

大湾教授のスライド2

例えば、あるBtoBサービス会社におけるマネージャーに提供したものなんですけど、非常に大きな差があったのは、良いマネージャーは非常にプロジェクトの進捗が早い。その時の平均、それぞれのプロジェクトの属性をコントロールした上で、標準的な進捗スピードと比べて、どのくらい早いかを比べたものなんですけど、良いマネージャーほど、最初の進捗がものすごい早い。

じゃあ、なんで成長が早いのかということを調べていくと、ヒアリングでは、相当マネージャーが計画している、あるいは、顧客に対して適切な情報を提供しているということが見えてきます。また、多面評価やカレンダー情報を使うと、部下とのコミュニケーションが非常に頻繁であると。それから、その人の顧客の事業ドメインに対する経験が大きいほど、非常に影響力が大きいということが分かってくる。

そうすると、そういったものが改善していくことによって、マネージャーの能力が高まってくることが予想できるわけですね。どのくらいの規模で改善できるかというと、例えば、底上げを図って、みんなが計画的に行動し、情報提供を図り、部下とのコミュニケーションを頻繁にすることで、例えば仮に進捗スピードが0.5、標準の速さ改善するとですね、粗利益率が3.2%の半分の1.6%くらい粗利益率が改善するはずだということが分かってくる。で、プロジェクトの期間も短縮されるだろうと。

そういったことを念頭に置きながら、一つ一つマネージャーの能力を高めていく。あるいは、そういった能力を持った人間を選抜していくのが大事なのかなと思います。

要するに、こういった学者でやってること、コンサルタントがやってること、それを大雑把でいいので、ある程度理解した上で、そういったことが少しずつ少しずつできるように社内の知識を高めていく努力が必要になると思います。

【質問】人事データ活用に取り組む企業が抱える課題は?

古川:ありがとうございます。大湾先生は、何年も研究会だったり、企業向けのサポートをされていますけど、特にこの領域の分析をやりたいですとか、参加される企業さんの領域の問題意識だったりとか、特にどの辺のことが多かったんですか?

大湾:まず、私の研究会で課題をいくつか出してもらって、それをどういう風に調理していくかということを一緒に議論していくんですけども、課題はバラバラですね。もちろんそのときの流行りっていうのはあって、ある程度、傾向施策を選ぶ企業さんが多いとか、採用を選ぶ企業さんが多いというのはありますけど、すごくばらつきがあるというのが私の印象です。【文中敬称略】

>>>中編「サイバーエージェントとパーソルHDが実践するピープルアナリティクス活用」に続く

【日本の人事を科学する~より良いピープルアナリティクスに向けて~】
・【前編】ピープルアナリティクスは「より良い意思決定のため」に使う
・【中編】サイバーエージェントとパーソルHDが実践するピープルアナリティクス活用
・【後編】ピープルアナリティクス活用を担う人材に必要なのは、人事領域に対する熱意

【編集部より】
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