「令和時代に必須! ハラスメント対策最前線」~社員を成長させる叱り方~
「冷静と情熱のあいだ」で叱る上司はパワハラと言われない
2019.08.21
パワハラ防止法が成立し、2020年6月から企業に防止義務が課されることになった。パワハラ問題が世間を騒がせる中、「若い社員を叱れない時代になった」とボヤいていないだろうか。
「叱ってパワハラと言われたくない」と上司がひるむ一方で、叱られないことに慣れた若手社員はモンスター化することも……。だが、叱ることにNGを突きつけられたわけではなく、管理職層はパワハラにならない指導法を身に付けなければならない。
今回は、ビジネスコミュニケーションに関する研修を行う話力総合研究所の秋田義一理事長に、これからの時代に覚えておくべき叱り方のポイントと社員を成長させる効果的な叱り方のコツを聞いた。【2019年7月2日取材、@人事編集部 飯塚 陽子】
【特集】2020年4月施行パワハラ防止法対策総まとめ 弁護士・専門家解説あり
一般社団法人 話力総合研究所理事長。1959年生まれ。1989年に(株)話力総合研究所のインストラクターに就任し、多くの企業や団体でビジネスコミュニケーションの講師を務める。2016年に一般社団法人 話力総合研究所を設立。60年間続いた旧研究所の意志を引き継ぎ、全国でビジネスコミュニケーション能力向上のための講演、研修活動を展開。技術士(情報工学部門)。国士舘大学理工学部講師。
「逆パワハラ」のモンスター社員をどうするか
昨年から、スポーツ界、政界、芸能界でパワーハラスメント問題の報道が絶えない。パワハラ防止法の成立や個々人の意識の高まりにより、いよいよ職場でも度の過ぎた叱り方や社員のためにならない叱り方にはメスが入れられることになった。一方、社員を思って叱ったつもりが「パワハラだ」と訴えられてしまう「逆パワハラ」のケースが増えてきているのも事実だ。
「世代によって受け止め方が変わってきていますね。かなり前から始まっていて、特にスポーツ界では顕著。以前のように指導していては『パワハラ』と言われてしまう。いかに成長につなげる指導をするか、教育者はすでに取り組み始めています」
一昔前は子どもの時から親や近所の人に当たり前のように叱られ、ある意味「耐える力」が身についていた。現代の10~20代はその耐性が低いため、ちょっとした叱責でショックを受けがちだ。ただ、秋田さんは「それでも叱ることは必要。リーダーの責務は、勇気と本気を持って叱ること。ただし、独りよがりにならないためにも効果をあげないと意味がないということを改めて考える必要があります」と話す。
叱る目的を考えればパワハラにならない
立場のある経営者や管理職が考えがちなのが「パワハラはどこまでOKでどこからNGか」という線引きだ。秋田さんに言わせれば、「方法論ばかり考えているから、現場でどうすればいいか戸惑うことになる」。
方法論とは、たとえば〈朝、同僚に会った時には「おはよう」と言う〉という方法だけ覚えておくとする。では、夕方に初めて職場で顔を合わせたときはどうするか? 「おはよう」はおかしいから何も話さないでおく?
「挨拶の目的を考えてみましょう。目的は相手を無視しない、コミュニケーションを取ること。それが大事だとわかっていれば、方法論にとらわれずに対処できます。ですから『おはよう』以外の言葉、『元気そうだね』『今日も頑張っているね』でもいいのです」。
叱り方も同じで、〈相手を叱る〉こと以上に、〈相手の成長を促す〉ことに目的をシフトしてみると、柔軟に対応できるということだ。
パワハラ認定されがちな「叱り方」は、「自分の気持ちを晴らすこと」が目的になっているケース。「いつも机を叩いて怒鳴り散らしていた人が、他人に言われるまでその行為がパワハラと気付かなかった事例があります」。本当は自分の気持ちを晴らしているだけなのに、「机を叩くこと=部下のため」と目的やその行為を正当化しているのだ。
「叱り方の効果=話力✕人間関係」
では、叱る目的を考えたとき一番大切なポイントは何だろうか。「相手の立場になる、ということでしょうね。そのためには、日頃から信頼関係を築いておくことなんです。信頼関係を築くのに効果的なのが相手を褒めることです」
「叱る環境を整える」サイクル
相手のことを知る
↓
相手を褒める
↓
信頼関係を築く(相手から尊敬してもらう)
↓
相手の立場になる
↓
いつでも相手の成長を促す叱り方ができる
ベースは日々のコミュニケーションということ。秋田さんによると、叱り方の効果は、話し方のテクニック(話力)に、人間関係の関数を掛けたもの。「褒めることはその人を的確に評価すること。ウソを言う『おだてる』とは違います」
的確に評価できるということは、常日頃から見守ってくれていることの裏返し。確かに、自分の頑張りや結果を出した仕事に対して、「よく頑張った」「手本になるよ」「ありがとう」と声をかけてもらうだけで、その上司を信頼したくなるものだ。相手の成長を促す「叱る」行為のためには、まず「叱ることができる」環境を整えることから始める。
イマドキ社員を伸ばす「叱り方10か条」
「叱る目的」について腹落ちしたところで、ようやく方法論を教えてもらった。効果を上げるために覚えておきたい「叱り方10か条」だ。
効果を上げるための「叱り方10か条」
一、自尊心を守る
一、勇気と本気+冷静
一、相手の言い分を最後まで聞く(事実関係を確認する)
一、はげましながら
一、改善策を共に考える(答えを見つけさせる、答えを示す)
一、比較しない
一、追加忠告しない(叱るポイントは1点に絞る)
一、追い詰めない
一、すりかえない
一、失望させない
「自尊心を守る」とは、時と場所を考えること。他の社員の前で晒し者にしない、月曜の朝から叱らないなど。また、「カッとしてしまったら、大体何も伝わらないことになる」ということも覚えておきたい。「勇気と本気+冷静」=情熱がありながらも、常にクールでいることが相手のためになる。
「相手の言い分を最後まで聞く」つまり、頭ごなしに叱らないということ。相手に、「事情も知らないで叱ってくる」と思わせたら逆効果だ。本当にしかるべき事実があったのか、十分に確認することが大切だ。
「はげましながら」「比較しない」は、教育現場においても、叱る立場が忘れがちなポイントかもしれない。「すりかえない」は、「だから、お前は◯◯なんだ」と別の問題にすりかえること。また、「改善策を共に考える」という姿勢に立てば、反発を招くことはないだろう。
叱った後に「昨日は厳しいことを言ったが、期待しているからな」などとフォローをするとさらに効果が上がるという。「褒める」→「叱る」→「褒める」のサンドイッチ。叱っても響かない、ほんの一言で騒ぎ立てるような若手社員に対しても、「改善するまでコツコツ、あきらめず、冷静に言葉で伝えていけば伝わるはずです。モンスター社員でも諦めるのは早い」と秋田さんは話す。
最後まで読んだ人は「パワハラ上司」にはなりません
さて、ここまで読み進めた人は、パワハラを「気にしている」ので、おそらくパワハラ上司になることはないだろう。とはいえ、効果が出る叱り方に必須な相手の立場になって考えるコミュニケーション力は、一朝一夕で向上するものではない。
教育現場や企業など多くの研修現場で講演をこなす秋田さんは「コミュニケーション力は世代や生まれ育った環境で差がある」「若い人の方が飲み込みは早いのも確か」としながらも、「どんな年代からでも意識次第で変われる」と中高年層にエールを送る。多くの研修現場で経営者が口にするのが「もっと早く“話力”を知りたかった」という言葉だという。部下を変えるためには、まず上司が変わることからだ。
【編集部より】
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