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「企業価値を高めるインナーブランディング×社内広報」セミナーレポート


LIFULL、サイバーエージェント、サイボウズの「社内広報」成功事例

2019.07.10

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企業理念や自社の価値を社員に浸透させる「インナーブランディング」が注目されている。社員の意識や行動は企業ブランドに直結するため、社内広報や顧客、株主向けの社外広報を組み合わせた戦略が重要だ。自社の企業イメージを向上させて社内、社外にファンをつくるために、バックオフィスは何をすればいいのか。
5月下旬、オルトプラス(東京・豊島)は「企業価値を高めるインナーブランディング×社内広報」と題したセミナーを開催。LIFULL(東京・千代田)やサイバーエージェント(東京・渋谷)、サイボウズ(東京・中央)がそれぞれの事例を語った。先進企業のインナーブランディングのコツを、イベントレポートで紹介する。

★インナーブランディングとは? 

インナーブランディングとは、自社の企業理念やビジョン、企業価値(ブランド)を打ち出し、社員に理解、浸透させる活動のこと。社内報やポスターを使って社員に啓蒙する「社内広報」、社外に自社の価値をアピールする「社外広報」などを通じ、社員に自社のブランドを認知させていく。

関連記事:採用ブランディングに効果的な「デザイン経営」とは? 事例で解説

目次
  1. LIFULL:実働部隊は有志社員。ボトムアップトップダウンの両軸で動く
  2. サイバーエージェント:制作物に社員を登場させて、「当事者意識」を醸成
  3. サイボウズ:自社の働き方改革を「ストーリー」として社内外にPR
  4. 最初は細々と、スピード感を持って「渦」をつくれるか

LIFULL:実働部隊は有志社員。ボトムアップトップダウンの両軸で動く

不動産住宅情報サイトで知られる「LIFULL」は、「徹底した現場社員の巻き込み」でインナーブランディングを実行。クリエイティブ本部コミュニケーションユニットの山岡早穂さんは「インナーブランディングは特定の部署でなく、全員でつくり上げるもの」と強調。2017年4月の社名変更の際もプロのコピーライターには依頼せず、社内公募で集まった141案からの新社名を選んだ。

LIFULLクリエイティブ本部コミュニケーションユニットの山岡早穂さん

LIFULLの山岡早穂さん

LIFULLが目指すのは「働きやすい会社」ではなく「日本一働きがいのある会社」。山岡さんは「モチベーションを高く持つ社員が、自分の目標を叶えられる場所にしたい」と語る。

社内の新しい制度やイベントは、有志社員によるワーキンググループ(WG)から発案、実行されることが多い。

WGは自発的な社員によって自然に始まり、現在は20ほどある。「自分が会社を変えたい」「制度を作りたい」との思いを持った社員がWGを立ち上げ、組織改善の実行者となる。人事、広報、総務担当者も総会の運営、ビジョン作りの管理、社内報の運用面などで参画。特定の部門だけではなく、全社員を巻き込んでインナーブランディングをしている。

50~60人が参加する最大規模のWG「ビジョンプロジェクト」は、社員一人ひとりが自社のビジョンを理解するだけでなく、体現できるようにしようと生まれた。LIFULLの経営理念を社内の最小単位「グループ」まで落とし込み、各グループのビジョンを設定。全グループのビジョンが経営理念の下にぶら下がる「ビジョンツリー」を全社に公開している。

LIFULLのワーキンググループが作った「ビジョンツリー」

ボトムアップがあれば、トップの役員も動く。役員は行動指針「役員の心得」を発表。社員が半年に一度のアンケートで、各役員がその心得を体現できているか評価する。結果は各役員の評価にも反映する徹底ぶりだ。

なぜ、LIFULLの社員はここまで自発的にインナーブランディングに関わるのか。

鍵になるのは半年に1回の目標設定面談。社員はキャリアデザインシートに今後の目標、仕事内容や部署の希望を記入し、自分がどう活躍したいかという「内発的動機づけ」を明確化する。全員の希望に応えられるわけではないが、会社は希望異動先の上司との面談設定、目標達成のための環境整備などを行い、社員の希望や挑戦に向き合う。社員が当事者として会社を動かせる環境を用意することで、巻き込み型のカルチャーを浸透させた。

「大事なのは内発的動機づけと、圧倒的当事者意識。誰かではなく『自分が会社を変えたい』という気持ちをどう引き出すかです」(山岡さん)

サイバーエージェント:制作物に社員を登場させて、「当事者意識」を醸成

サイバーエージェントからはゲーム・エンターテイメント事業部(SGE)のデザイナー、青山文吾さんが登壇。青山さんの所属する「PRデザイン室」では、社内施策の浸透をはじめ、クリエイティブ集団である自分たちのスキルアップ、作品づくりへの意識向上やクオリティーアップを目的に、社内制作物を作っている。

特に、社内施策や自社のカルチャーを浸透させるポイントは、当事者意識だ。「当事者意識が組織の成長の成果に一番つながります。最も効果的なのが、当事者(社員)に制作物に出てもらうことです」(青山さん)

サイバーエージェントの青山文吾さん

サイバーエージェントの青山文吾さん

ゲームの利用者が増える大みそか~正月に、各ゲームの運用体制を競う社内施策では、各コンテンツの代表者が紅白に分かれてにらみ合い、対決するポスターを制作。2018年のポスターでは全代表者にヤンキー姿のコスプレをしてもらった。「依頼者からはとにかくインパクトを求められます。このポスターはもうよく分からないところまで行き着きました(笑)」と振り返る。

サイバーエージェントの社内ポスター

社員が体を張って施策を体現すると当事者意識が高まり、現場の社員には責任者の顔や人柄、施策の性質も伝わる。「社長にもコスプレをしてもらいます。会社全体として、社員が積極的に参加するカルチャーが根付いています」(青山さん)

もう一つのポイントは、手を替え品を替え経営メッセージや施策の意図を理解させること。「社員の性格や施策の内容によっては社員をAIのロボットに見立てたり、目からレーザーを出してみたり、デザインでいじり倒します(笑)」(青山さん)

社内報「PEOPLE」も毎月発行。人(社員)に焦点を当ててそれぞれの職種や部署の相互理解が図れる内容にこだわる。社内表彰でMVPを獲った社員から、1,000足のスニーカーを持つ社員まで、硬軟を織り交ぜた話題を紹介する。

サイバーエージェントの社内報「PEOPLE」

サイバーエージェントの社内報「PEOPLE」

ポスターやロゴ、社内報だけでなく、マグネット、ポップ、漫画など、制作物の種類にも枠は設けない。「一辺倒だと飽きられて、制作物が刺さるようなターゲットも狭まる。いろいろな角度から訴求してアウトプットすると、会社がどんな組織なのか、少しずつ社員に浸透していきます」と、制作物を通じたインナーブランディングのコツを語った。

サイボウズ:自社の働き方改革を「ストーリー」として社内外にPR

働き方改革の実践企業として有名なサイボウズだが、2005年には離職率が28%まで上昇していた。「売上高も40億円前後から動かず、『成長の踊り場』に立っていました」と、コーポレートブランディング部長の大槻幸夫さんは振り返る。

サイボウズ コーポレートブランディング部長の大槻幸夫さん

サイボウズの大槻幸夫さん

主力製品のグループウエアは当時、主に先端技術に関心が高い中小企業で導入されていた。新たに一般層の顧客の信頼を得るため、製品や会社の「ストーリー」を浸透させるマーケティングに乗り出した。

サイボウズは育児休暇6年取得可能、リモートワーク、副業解禁などの働き方改革を実践し、およそ10年で離職率を28%から4%に改善させていた。企業ミッションも「世界中のチームワーク向上に貢献する」と再定義。自社の働き方改革の事例とともに「社会的課題に身を持って取り組む会社」というストーリーを発信しようと考えた。

「ただし、サイボウズの人事制度をそのまま紹介しても興味がわきにくいはず。サイボウズのストーリーに、読者にとっての価値を乗せる『編集力』が必要と考えました」(大槻さん)

サイボウズのオウンドメディア「サイボウズ式」

社内に編集部をつくり、2012年からオウンドメディア「サイボウズ式」をスタート。初期の編集部員3人は全員兼務で、無料の記事入稿ソフトを使っていたが、コンテンツのクオリティーを守るためライティングと写真撮影はプロに外注した。

2014年には働くママを応援する動画も作り、YouTubeで162万回再生を記録。複数のテレビ番組にも取り上げられ、会社の知名度やミッションも一気に拡散された。

サイボウズの「働くママを応援する動画」がニュースで取り上げられる様子

社外への発信により、社内にも変化が生まれた。当初は「チームワーク」のビジョンが浸透しにくかったが、動画やサイボウズ式の記事の拡散で客観性が高まり、「うちの会社はチームワークの会社だ」との意識が広まった。社員が自ら「サイボウズ式に出たい」と手を上げるようになったほか、中途採用の応募者も増加。事業としても一般層や大企業の顧客獲得に貢献した。

大槻さんは「ブランドとは、意味のある差別化と一貫性のある体験。サイボウズは『日本企業の課題を解決する企業』として、競合のグローバル企業と差別化しました。社員が会社の価値観に従って一貫して行動。その姿を記事として発信する。働き方改革はやるだけでなく、外に発信して採用につなげないとクローズできません」と訴えた。

最初は細々と、スピード感を持って「渦」をつくれるか

インナーブランディングの課題の一つは、バックオフィスと現場との温度差だ。もともと社員を巻き込んで施策を打つような企業文化がないと、インナーブランディングは難しい。

サイボウズの大槻さんは「社長が企業ミッションを『チームワーク』に変えた直後は、社員はついてきてくれませんでした。編集部も最初はできる限りお金をかけず、全員兼務でやっているとアピールしました」と打ち明ける。それでも早めに成果を出すことができた結果、社内での応援者や協力者が増えていったそう。

LIFULLの山岡さんも「社員をなるべく初期から巻き込み、身近に感じてもらえるようにする」と説明する。

社内で小さな渦をつくり、スピード感を持って施策を形にできるか。その渦が社内外に波及し、社員や社外に自社のファンをつくれるようになるかが、インナーブランディングの成功の鍵になる。

【編集:@人事編集部 大西里奈】

企業情報

株式会社LIFULL

・設立:1997年3月
・事業内容:不動産情報サービス事業、地方創生、介護、インテリア、花の定期便事業など
・従業員数:1,441人(2019年3月時点)
・本社所在地:東京都千代田区麹町1-4-4

株式会社サイバーエージェント

・設立:1998年3月
・事業内容:メディア事業、インターネット広告事業、ゲームh5事業、投資育成事業
・従業員数:5,111人(2019年3月末時点)
・本社所在地:東京都渋谷区宇田川町40番1号 Abema Towers

サイボウズ株式会社

・設立:1997年8月
・事業内容:グループウエアの開発・販売・運用、チームワーク強化メソッドの開発・販売・提供
・従業員数:659人(2018年12月時点)
・本社所在地:東京都中央区日本橋2-7-1 東京日本橋タワー 27階

株式会社オルトプラス

・設立:2010年5月
・事業内容:ソーシャルゲームの企画、開発及び運営、ITサービスの開発及び運営支援
・従業員数:316人(2019年3月時点)
・本社所在地:東京都豊島区東池袋3-1-1 サンシャイン60 39階

【編集部より】
社員を巻き込んで組織改革する方法が分かる記事、企業ブランディングに関する記事はこちら

【編集部より】
LIFULL、サイバーエージェント、サイボウズに関する記事はこちら

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