「デザイン経営」で採用力を強化する(前編)
採用ブランディングに効果的な「デザイン経営」とは? 事例で解説
2019.07.17

オウンドメディアやSNSなど情報発信の手段が多様化し、自社の採用ブランディングに頭を悩ませる担当者もいるのではないか。
採用ブランディングにおいて注目されているのが、デザインの視点をあらゆる企業活動に取り入れる「デザイン経営」の思考だ。この思考で企業理念や採用プロセス、入社後の育成などを一環して見直すと、採用力の強化につながる。
今回はIndeed Japan(東京・港)主催のイベント「Owned Media Recruiting SUMMIT vol.3 〜デザイン経営と採用ブランディング〜」を取材。イベントの内容を基に、前編では基礎知識としてデザイン経営の仕組みや意義を、後編ではデザイン経営を採用現場で生かし、採用競争力を上げる方法を紹介する。採用の行き詰まりを解消する、新たなヒントが見つかるはずだ。【取材:2019年6月18日 @人事編集部・大西里奈】
求職者が欲しい情報は「自分がその企業で働く姿が想像できるか」
採用難の時代、求職者に「入社したい」と思わせるような自社の魅力を発信し、ブランディングをすることは重要だ。
特に、今はオウンドメディアやSNSで発信できる情報量が増えている。求職者は仕事の概要や年収だけでなく、「自分がその企業で働く姿が想像できるか、企業理念と自分の価値観に合うかどうか」につながる情報を重視し始めている。
どんなターゲット(求職者)に、どの手段でどんな情報を届け、どう交流すれば採用ブランディングになるのか。その答えが分からずに悩む採用担当者も多い。
その課題を解決する新たな考え方が「デザイン経営」だ。
★デザイン経営とは?
デザインとは、企業が大切にしている価値、それを実現しようとする意思を表現する営みである。顧客が企業と接点を持つあらゆる体験に、その価値や意思を徹底させ、それが移管したメッセージとして伝わることで、他の企業では代替できないと顧客が思うブランド価値が生まれる。
また、デザインはイノベーションを実現する力になる。なぜか。デザインは人々が気づかないニーズを掘り起こし、事業にしていく営みでもあるからだ。
(経済産業省・特許庁「デザイン経営宣言」より一部抜粋)
ここで言う「デザイン」とは、かっこいい製品やロゴという単純な意味ではなく、「企業が大切にしている価値、それを実現しようとする意思を表現する営み」のこと。Appleやダイソン、無印良品などが良い例で、自社のメッセージを一環して製品やCMを通じて発信している。
経済産業省と特許庁は2018年5月に「デザイン経営宣言」を公表。デザインに関する15年ぶりの政策提言として話題になった。
イベントでは、経済産業省の「産業競争力とデザインを考える研究会」にも参画するデザインエンジニアの田川欣哉さんが講演。デザイン経営の仕組みを説明した。
Appleやダイソンが好事例。デザイン経営とは「企業の価値や意思を、全ての活動で一環して伝えること」
インターネットの普及により産業構造が変化し、今ではデジタルテクノロジーが買い物や宿泊、自動車配車など、人々の生活まで入り込んできている。その結果、企業がユーザーに提供する価値として「体験」の比重が上昇。サービスの使い勝手の良さはもちろん、「自分の価値観や生活に合っているか」というデザイン的な要素がビジネスに与える影響が大きくなった。少しでもデザインの質が悪ければ、ユーザーはすぐに競合サービスに乗り換えてしまう。
企業はユーザーに長く愛されるため、彼らの「体験満足度」と向き合いながら、企業活動の質を高めていかなければならない。そのため、デザインを単なる商品開発の場ではなく、経営戦略の意思決定の場まで引き上げて捉え始めた。Appleやダイソンなど世界の有名企業が実践するほか、国内でも無印良品やメルカリ、マツダがデザイン経営に取り組んでいる。
デザイン経営の考え方で採用や社内環境を見直せば、採用力強化につながる
自社の価値や意思を一環して表現する「デザイン経営」は、採用の現場にも生かせる。自社のバリューやビジョンを明確にし、採用プロセスや求職者とのコミュニケーション方法、職場環境を改善する。それらが成功すれば求職者へのブランディングとなり、採用力強化につながるからだ。
今回のイベントでは田川さんの基調講演に続き、パネルディスカッションを開催。デザイン経営を実践する企業のトップや田川さんが登壇し、デザイン経営の意義を求職者とのコミュニケーションや採用プロセスに落とし込んで語り合った。
パネルディスカッション「デザイン経営における採用のあり方」

パネルディスカッションに登壇した(左から)梅澤高明さん、林千晶さん、田川欣哉さん
【登壇者】
・梅澤高明 A.T.カーニー 日本法人会長
経営コンサルタントとして日米で20年超の経験。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」コメンテーター。
・林千晶 株式会社ロフトワーク 代表取締役
花王を経て、2000年にロフトワークを起業しWebデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなどを手掛ける。
・田川欣哉 株式会社Takram 代表
プロダクト・サービスからブランドまで、テクノロジーとデザインの幅広い分野に精通するデザインエンジニア。経済産業省の「産業競争力とデザインを考える研究会」にも参画。
【モデレーター】

モデレーターの高橋信太郎さん
・高橋信太郎 Indeed Japan 代表取締役/ゼネラルマネジャー
1989年にリクルートに入社し、求人広告事業、新規事業開発に携わる。複数社を経て、16年4月よりIndeed Japan株式会社 代表取締役/営業本部長に就任。17年10月より現職。
経営者から若手までが「自社の価値観」を理解し、求職者に分かりやすく伝えられるか
田川さん(以下、敬称略):採用プロセスやコミュニケーションの点で考えると、長く続いている日本的な採用は非人間的。「全員同じスーツを着て、同じ日に同じ場所に来い。応募者を満員電車に突っ込んで、しょうがないから移動してください」って感じなんですよね。
採用される側は「処理される側」でしかなく、デザイン経営の思想の根幹から遠いと思います。
梅澤さん(以下、敬称略):応募してくれる方々は優秀な人ばかりで、たとえそこで採用に至らなくても、数年後には他社で立派な役職になり、自社のお客さんになることもあります。そんな人を採用時に「処理する」なんてありえない。
どこかでまた一緒に仕事をするかもしれないと思うと、接し方の質も変わるし、いい印象を持って終わればいいですよね。
高橋さん(以下、敬称略):本当に人が採れない時代に、丁寧な採用になっているのか踏み込んで確認するのが大事ですね。では、採用コミュニケーションにおいて、求職者に持って帰ってほしい「体験」とは何でしょうか。
田川:まずは経営者から若手の社員まで、採用プロセスに関わる全員が「自分の会社はこんな会社だ」と誇りを持って、クリアに語れるかが肝になります。
自社のコア価値が何か、自ら問いかけて同業他社との違いが分かるまで解像度を上げられるか。そうすれば面接官が全員同じメッセージを話し、求職者がそれを受け取って帰るようになる。
でも、「価値の明確化」と「求職者とのコミュニケーション」は少し違うんです。コア価値が伝わりやすい言葉になっているか、ビジュアルで伝えるのか、求職者に会社の中を歩いてもらうのか。価値の伝え方は玄人の視点が必要なので、プロを入れてコミュニケーション方法を設計した方がいいです。
林さん(以下、敬称略):最近、経営者からロフトワークに「人と人とが自由に語り合える職場をつくりたい。もちろん社員のためなんだけれど、その前に、採用の視点から変えたい」という依頼が増えているんです。
人手不足の今、求職者に本当に見てほしい姿は職場なんですよね。昔はホテルで採用する時代もありましたが、今は「働いている場所」で採用するべきだと思います。
★デザイン経営×採用ブランディングのポイント
・応募者を処理する「日本的な採用」はありえない
・採用に関わる全社員が自社の価値や競合との違いを明確に理解し、話せるようにする
・価値の伝え方(求職者とのコミュニケーション)の設計も重要
後編ではパネルディスカッションの続きを紹介。パネリストがオウンドメディアの活用方法や効果、デザイン経営の考え方を採用ブランディングにつなげる具体的な方法を考える。
後編「鍵はバリュー設定や採用プロセスの改革。採用ブランディングの成功法」につづく
イベントデータ
Owned Media Recruiting SUMMIT vol.3 〜デザイン経営と採用ブランディング〜
・主催:Indeed Japan株式会社
・実施日:2019年6月18日(火)15時30分~19時
・会場:神田明神ホール(東京都千代田区外神田2-16-2 神田明神文化交流館2F)
・参加者:約400人
【編集部より】
採用ブランディングや採用力強化、オウンドメディアリクルーティングに関する記事はこちら
- 競合に勝つための採用ブランディング〜はじめの一歩
- 【2020年卒版】現役学生が選んだ「新卒採用キャッチコピー30選」
- 「採用の教科書」著者が教える、採用で失敗しないために必要なこと
- Indeedがオウンドメディアで採用革新 新プロジェクトを始動
【編集部より】
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