外国人労働者受け入れで試される日本人のマインド変革
【考察】今治タオル「ブラック工場」騒動が問う、技能実習制度は「悪」か
2019.06.27
「このままでは死んでしまう」「助けてください」
愛媛県今治市でタオルを扱う縫製工場で働いていたベトナム人技能実習生の劣悪な労働環境が報道された。6月24日放送のNHKのドキュメンタリー番組をめぐり、SNS上で誤って特定され誹謗中傷を受けた会社が法的措置を検討するなどの騒動に発展している。
今年4月に改正出入国管理法(以降、改正入管法)が施行され、人材不足の一手として外国人雇用を拡大する企業が急増している。経営者や私たち日本人は技能実習制度の実態をどう受け止めるべきか。改正入管法と従来の技能実習制度の現状について専門家に取材した中から、「自分ごと」として考えてみたい。【@人事編集部 飯塚陽子】
きっかけはベトナム人実習生がNHKに送ったSOS動画メール
NHKのドキュメンタリー番組の冒頭は、動画つきSOSメールから始まる。放送によると、ベトナム人28人が勤務していた工場では朝7時から夜11時まで休憩15分のみで働き、「忙しくて太陽や月を見ることもなかった」と語る。30歳のベトナム人女性は「日本に行ける日が待ち遠しくてワクワクしていました」と来日前の心境を振り返った後、「絞りきったレモンのようになった」と言い放った。「残業時間180時間」「家畜扱いされている」「刑務所の中のよう」……。身につまされる思いで視聴した人も多いはずだ。
SNSでは、画面に写り込んだ建物の文字から会社を特定。Twitter上で「#今治タオル不買」を呼びかける声が上がり、憶測で名前の挙がった会社が否定コメントを出したり、今治タオルブランドの認定や商標などを管理する今治タオル工業組合が公式見解を発表する騒動に発展。同組合は、実習生の受け入れ企業は組合員等の下請け企業とし、「当組合の社会的責任及び道義的責任があると考えており、この問題を非常に重く受け止めております」と、組合としての責任を認めた。
ネット上では依然として当該工場の「犯人探し」が続いているが、問題にするべきは企業の特定ではないだろう。Twitterで飛び交ったのは、外国人労働に対するネガティブな言葉ばかりだ。
「“国産”とうたいつつ外国人労働者を搾取している」
「技能実習生が奴隷労働を強いられている」
「外国人技能実習機構も行政も今治タオルの業界もヌルすぎる」
これだけ身近に外国人労働者が増えているにも関わらず、その制度の中身や課題について私も含めて無知な人が多いことを実感させられた。
改正入管法が4月から施行。注目される外国人人材
ここ数年、こういった低賃金で重労働を強いられるといった技能実習生の労働環境に関する報道が増え続け、その度に「人権侵害ではないか」という批判が上がった。
そもそも「外国人技能実習制度」は発展途上国に日本の技術を持ち帰ってもらうという「国際貢献」の目的から1992年に制度化された。ただ、一部では外国人の「出稼ぎ」を容認する制度とも言われ、不法就労の問題も起きていた。日本の労働人口減少の課題もあり、労働を目的にした初めての在留資格「特定技能」が出入国管理及び難民認定法(入管法)の改正により、今年4月に創設された経緯がある。
【参考】特定技能制度 ・技能実習制度のあまり知られていない本当の目的
「特定技能」の特徴の一つは、「日本人と同一賃金を義務付ける」「同じ業種内で転勤できる」など人権侵害のリスクに考慮した点だ。一方、受け入れは14業種【図参照】に限られ、2019年4月時点でここに縫製業はまだ入っていない。外国人労働の実態についてあまりに課題が多いからとも言われている。
介護・宿泊・飲食の3業種では今年4月から特定技能を取得するための技能試験がスタート。特に飲食には受験者が殺到し、次々と満席になっているという。将来的に、5年の在留期間が更新され、永住の可能性が広がることを考えれば当然かもしれない。
外国人技能実習制度のマイナスイメージが発展を阻害する要因に
では、従来からある技能実習制度が「悪」なのだろうか。実はそれこそ間違った認識で、今回のような報道が出るたびに現場が懸念している点なのだ。
技能実習制度は2017年に大改正が行われ、全ての監理団体や受け入れ企業の責任者に法定講習を受講する義務が課せられている。受け入れ国では業種ごとの研修制度やフォロー体制も整っているという側面もある。
技能実習制度の法定講習の講師を務める特定社会保険労務士の永井知子さんは、受け入れる企業側の意識も高まっているとした上で「受講した企業の皆さんからは『実習生を受け入れて本当に良かった』という声を聞く。実習生に真摯に向き合っている人たちもたくさんいることを、多くの方に伝えたい」と話す。
技能実習制度については、外国人労働者と良好な関係を築いて活用している企業があることも忘れてはいけないだろう。
特定技能と技能実習制度は、これからも2つの制度が共存する形が見込まれている。解消しなければいけない問題は山積みだが、マイナスイメージだけ先行して実態を改善しないことには、制度の発展につながらない。
【参考】特定技能試験に応募者殺到、技能実習制度の講習も満員。現状から見える外国人受け入れのこれからの課題
経営者は、親の気持ちになる覚悟はあるか
NHKの番組を視聴して胸が苦しくなるのは、若き技能実習生たちの家族が出てくる場面ではないだろうか。子どもは「家族を貧乏から抜け出させたい」と日本行きを懇願し、親は「娘たちを行かせるために借金をしました」と話す。思い出したのは、技能実習制度を活用している経営者の一人、建築会社「OGINO」(岡山県・倉敷)の荻野一美さんの言葉だ。
「日本での労働はただの出稼ぎじゃない。彼らは夢を持ってやってきている」
「親の気持ちで接するだけで、全然違うはずなんです」
「自分の子どもが海外に仕事をしにいったら、できればその経験を次に生かしてほしいと思いますよね。海外で建設業をやって帰国して雑貨屋になっていたら、『お前、何しに行ったの?』と言いたくなるでしょう」
荻野さんは、受け入れる技能実習生が決まったら、できる限り現地に渡ってその家族に挨拶したという。それは、荻野さん自身も父親であり「子どもを信頼できる経営者に任せたいと思うのが親」という当たり前の感覚からだ。荻野さんがこれまで雇用した技能実習生は全員ベトナム人で、「まじめで、ハングリー精神がある」とその国民性をたたえていた。タオル工場の技能実習生と同じように、貧困から脱出したいと必死なのだ。
技能実習生の思いに応えられるかどうかが、経営者に問われている。これは特定技能の外国人雇用でも同じことだ。
グローバル化はひとり一人のマインド変革から
技能実習制度において「国際貢献」の目的は形骸化していると思われがちだが、荻野さんの会社では建築技術を学んで母国で会社を立ち上げた技能実習生もいるという。
「技術だけではなく、日本の心や考え方はまだまだ誇れるものがあると思っています。それを持ち帰ってほしい。私たちは海外の若い子たちから学ぶことがありますよ」(荻野さん)
インタビューでは、荻野さんが実習生の結婚式に参列した様子もうかがった。経営者が違うだけで、タオル工場で勤務していた彼女たちとこんなに違うなんて。日本に絶望して母国に帰る海外の若者がこれ以上増えてほしくない、と切に思う。
あなたは、街で見かける外国人労働者にどんな目線を送っているだろうか。
今後、飲食店やコンビニだけではなく、さらに身近なところで外国人労働者を目にすることが増えるはず。超高齢化社会に進む日本にとって、彼らはなくてはならない大切な人材になる。経営者は「親」として、私たちは「大切な仲間」として、これまでのマインドを変えることから始めなければいけないだろう。
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