「内定力」著者・酒場のマスターの就活コラム
就活生の間で流行する「三大疾病」が、企業の採用活動を妨げていた
2019.07.08
あまり注目されていない、近年の「学生たちの変化」
ここ数年、学生の傾向が大きく変わっています(感覚値としては4、5年前からです)。その変化は、学生にとっても企業にとっても何もメリットを生まないものでしかないのに、なぜか採用活動や就職活動の周辺では、それほど注目されていないように見えます。
効果的な採用活動をする上では、もちろんインターンシップの早期化、リファラル採用やSNSやAI・ビッグデータの活用、といった仕組みや手法の部分の議論も重要です。
ただその一方で、実際にその対象になる学生たちの変化について、大手就職情報会社が出しているアンケート調査や、オフィシャルの場(説明会や面接)での学生とのかかわりだけでは、本当の彼らの姿は見えにくいんじゃないか、とも思います。
「オフィシャルを取り繕えるだけの学生を採用する」リスクと、「本来は活躍する可能性のある学生を取りこぼす」リスクを考えると、彼らの日常的な考え方や振る舞いを知ることは、採用活動で評価・判断をする際に重要なポイントになるはずです。
そうした意味で、私が日常的に素の状態の学生たちとかかわっている中で感じている、「近年の学生たちの変化」をお伝えすることで、何かしら採用活動にかかわる方のヒントや考えるきっかけになればと思います。【執筆:光城悠人】
学生の間で流行している「三大疾病」
ここ数年の学生の変化について、私は「三大疾病」という表現をしています。
気づかないうちに感染して世の中に蔓延していく。それによって、学生にとっても企業にとっても、不健全な状況を生み出しているという意味で、まさに「病気」のようなものなのです。しかもその病気は1種類ではなく、ほとんどの学生が同時に3つの病気に感染しています。
それを治さないことには、学生はいつまでも本来の自分の価値を理解・伝達することはできないし、採用する側としても、本当の学生の姿を見極めることは難しくなってしまいます。
1.就活病
その「三大疾病」のひとつが、「就活病」です。
これは、「社会から求められているものを妄想して“架空の自分”をつくりあげ、それに沿った思考・行動をしなければならないという強迫観念により、普通の感覚を忘れてしまう病気」です。
黒スーツに黒髪、白シャツにはじまり、自己PRではボランティアや留学やサークル規模について成果と数字を盛り込み、お辞儀の角度やノックの回数に至るまで、「就活っぽい振る舞い」をするのが当たり前。そうしなければ内定を「いただけない」と思い込むことで、彼らはかえって個性をなくして「就活生」の中に埋もれていきます。
※参考:『もっと就活を自由に』パンテーン広告から見る、「就活病」の問題点
2.失敗過敏症
そして、ふたつめが「失敗過敏症」。
この病気の感染者は、人と違うことや失敗することを過剰に恐れ、目立たず波風を立てず、決められた枠からハミ出すことなくすごそうとします。かすり傷を怖がり、積極的に動くことで生まれるリスクを気にして、畏縮してしまう……。
それこそ「言われたとおりに、求められたことだけ」をこなそうとするので、個性を出すことよりも、いかに目立たなく振る舞うか、という受動的なスタンスになっていきます。もちろん失敗を避けてすごすので、気付きや成長機会に触れることは多くありません。
3.MNAS(エムナス)
最後のひとつが、「MNAS」。
これは、「もらい(M)慣れ(N)」の「与え(A)知らず(S)」を略して、私はMNAS(エムナス)といっています。人からもらうことに慣れ、与えることに意識が向かない。だから、就活でも自分のメリット(やりたい仕事や福利厚生など)にばかり目が向いてしまう。
仕事を通して他者(企業や社会)に価値を生み出すという視点より、自分の満足や安心・安定に重心を置いてしまうので、企業に求めるものは求めつつ、「与える」とか「返す」といった視点が抜け落ちてしまう傾向にあります。
「三大疾病」が企業と学生のコミュニケーションを阻害している
これらの「三大疾病」が、社会背景によるものなのか、世代傾向なのかはわかりません。ただ現状としては、この三大疾病が企業と学生のコミュニケーションを妨げる原因のひとつとしてある、と感じています。
それこそ「病気」で喩えるなら、現在の採用活動は、サッカーや野球などのスポーツでいう「トライアウト」の状態。参加者全員が何かしらの病気やケガを抱えている状況の中で、選手を見極めようとしているようなものです。そんな状況では、人材の見極めが難しくなるのは当然です。
興味深いのは、学生たちにこの「三大疾病」の話をするだけで、自分が感染していることに気づき、それを治(そうと意識)しただけで、彼らの就職活動が一気に好転することです。
そんな状況を、これまで何度となく見てきました。20社の一次面接に落ち続けて、この病気に気づいた途端に1ヶ月で上場企業の内定を2社とった学生もいます。(大手がいいという話ではなく、単に競争率の話です)
彼らの就活が好転したきっかけは、三大疾病を克服した(罹っていることに気づいた)だけのことです。彼らの過去の経験や成果、ましてや性格や能力やスキルが変わったからではありません。基本的には、ただただ「意識」が変わっただけのことです。
「三大疾病」の根絶には、企業からのアプローチが必要
この三大疾病の根絶に向けて、「むしろ企業の側からも」何かしらのアプローチをしていくことが、現状の採用・就活を適正化する重要なポイントではないかと思うのです。
たとえば私が、三大疾病に感染している学生たちに伝えているのは、「合わせず、ビビらず、与える」意識を持つ、ということです。つまり、従来のやり方や周りの人たちに「合わせず」、失敗や周囲の目に「ビビらず」、自分の利益ばかりではなく他者に価値を「与える」という3つを意識すること。
そして改めて企業の採用活動に目を向けてみると、この「3つの意識」は、企業側の課題にも通じる部分があるように見えます。
実は、企業も「三大疾病」の患者だった
就活ルールの廃止や、それによる他社の動向、さらには従来の手法や考え方、学生の反応や内定辞退。そしてもちろん学生の見極めや彼らの思考や特性について、意識的であれ無意識的であれ、企業側もどこかで縛られてしまっている状態だと感じてしまいます。
特にここ数年は、企業側にまで就活病のまま採用活動を担っている方が現れつつあるのは、企業にとっても学生にとっても不幸せな状態を生み出しかねません。
三大疾病は、学生のみならず、企業の採用活動にも浸食しつつあります。企業も学生も、両者が三大疾病にかかっているとした場合、どちらが現状を打開する「プレイヤー」になりうるか、といえば、私はやはり企業側にあると思うのです。
従来のやり方をコピーして、変化に臆病になり、他者への価値に無関心になってしまっている学生たち。そんな彼らに対し「プレイヤー」のスタンスで採用活動を行い、学生の可能性を見出し拓いていく企業が増えていくことで、現状のいびつな就職・採用活動の正常化につながっていけば、と考えています。
執筆者紹介
光城悠人(みつしろゆうと) 立命館大学卒業後、エン・ジャパン(株)に入社。営業・ライター・クリエイティブディレクターとして7年間従事。退職後に、学生が新しい価値観に出会えるコミュニティの実現を目指し、2008年に京都で猿基地を開業。年間を通して学生とかかわる中で、「8キャラ」や「ぼうけんの書」などを活用した新しい就活の形として「就活ゲーム」を構築し、『内定力』(すばる舎)に著している。公式ブログ:『楽しく、気持ち良く、適当に。』
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