特集「新卒採用 戦国時代、来る。」第3弾
変化しないと、生き残れない。メルカリが語る新卒採用の未来
2019.07.01
通年採用、リファラル採用、オウンドメディアリクルーティング、一律初任給廃止。メルカリ(東京・港)は常に他社に先駆けた採用手法を打ち続けている。新しいアイデアで優秀な学生を採用する彼らには、「変化しないと生き残れない」という信念があった。
採用最前線を行く彼らは、次にどこへ向かうのか。メルカリHRManagerの石黒卓弥さん、新卒採用担当の奥田綾乃さんが、メルカリの展望と、未来の新卒採用担当者に求められることを語った。【2019年5月13日取材:執筆・@人事編集部、撮影・加藤武】
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プロフィール
・石黒卓弥(いしぐろ・たかや)メルカリManager, Organization & Talent Development(写真左)
NTTドコモに新卒で入社。マーケティング、営業、採用育成、人事制度を担当し、事業会社の立ち上げや新規事業開発なども手掛ける。2015年1月にメルカリに入社。採用を中心とした人事企画を担い、2019年2月より現職にて組織・人材開発の領域を担当。
・奥田綾乃(おくだ・あやの)メルカリ新卒採用チームManager(写真右)
2009年サイバーエージェントに入社。ソーシャルゲームのプロデューサーとして企画立案、運用を経験。ユニット長として事業戦略、人事広報として社内の環境整備を実施。2017年にメルカリに入社し、現在は新卒採用チームのManagerを務める。
新卒と中途の垣根はない
メルカリの採用の最大の特徴は「新卒採用と中途採用の垣根がない」こと。新卒採用を始めた2015年(2016年卒採用)以降、中途同様に新卒を通年で採用している。奥田さんは「必要なメンバーを必要なときに採用する考え方です。採用した相手が学生か社会人だったかの違い」と説明する。
2016年の新入社員は6人、2017年7人、2018年76人(秋のグローバル採用を含む)。事業拡大に合わせて採用者が急激に増え、中でもエンジニア採用に注力している。2019年は4月入社の全50人中、8~9割がエンジニアだった。
採用ルートの内訳は、半数がインターンシップ。残りはエンジニア志望の学生が集まるイベントでの接触や、リファラル採用など。
特にリファラル採用の役割は大きく、社員が自分の後輩や、技術イベントで出会った学生を人事担当者に紹介することが増えた。奥田さんは「社員の個人ブログを読んだ学生がメルカリに興味を持ち、その社員を通じて応募してきたこともあります。これもリファラル採用の一つかもしれません」と話す。
「Be Professional」で、アウトプットできることが大前提
メルカリの採用基準を支えるのは、メルカリの3つのバリュー「Go Bold(=大胆にやろう)」「All for One(=全ては成功のために)」「Be Professional(=プロフェッショナルであれ)」だ。中でも「Be Professional」を重視し、新卒にも中途と同じ専門性を求める。これが、「エンジニア採用戦争」の時代でもメルカリが優秀な学生を採用し続ける理由でもある。
選考の評価項目は、中途社員と全く同じ項目を使用。自分でアプリを作った、オリジナルのソースコードを公開している、大学の研究成果が国際的に表彰された……など、最新の技術や情報を追い続けてアウトプットしているかを見る。自作のソースコードを公開するツール「GitHub」の内容も重視する。
奥田さんは「新卒だから甘く見ることはない」と断言。入社後は社員がインプットできる機会に投資するため、新卒にも自力でアウトプットできる人材を求める。石黒さんは「厳しいですが、もの(ソースコードやアプリ)を作れる人でないと応募すらできません」と語る。
とはいえ、中途社員とは経験値に差があるため、新卒採用では「成長ポテンシャル」も考慮。今まで課題をどう解決してきたのか、経験や考え方を面接で掘り下げ、パーソナルな部分でのメルカリとの親和性がポイントとなる。
「入社後も『新卒だからこのプロジェクトに入れる』とか、特別扱いはしません。自分の力を発揮する方法を、自分で考えられる人材かどうか見極めます」(奥田さん)
「Be Professional」は新卒社員の一律初任給の廃止にもつながっている。
新卒の選考は3回以上面接があるが、面接官は全て現場の社員が担当。基本的に人事担当者は一度も面接に参加しない。その理由は「同じ職場で働くメンバーが、その学生と一緒に働きたいと思えるかを重視するから」(奥田さん)。現場の社員が絶対評価で学生の能力を判断し、定量評価に落とし込む。内定出しの直前に、全面接官と人事担当者が協議し、一人ひとりの専門性や能力に応じて適切なオファー額(年収)を提示する。
「オファー額を一律にしない取り組みも採用開始当初から続けていて、やはり『新卒採用をやろう』がスタートになっていないんです。学生もプロフェッショナルと見なし、正社員と同じ仕組みで評価する姿勢を、採用前から明確に提示します」(奥田さん)
通年採用になったのは、時期を合わせる体力がなかったから
そんなメルカリも、以前は採用の「弱さ」を感じていた。
「よく先駆けと言ってもらえるんですが……。通年採用はいい例で、メルカリには時期を合わせて採用するような体力がないんですよ」(石黒さん)
2015年ごろのフリマアプリ「メルカリ」のダウンロード数は1,000万。コンテンツの知名度が上がり始めたばかりで、会社自体の認知度が高いわけではない。当時の社員数は60人程度。急成長中で採用活動ばかりにマンパワーをかけられない。「そんな状態では、大学を50校も100校も回れないじゃないですか。だからこそ、どうやって皆さんのアテンションを集めるか。知恵の使いどころでしょうか」(石黒さん)
2016年ローンチのオウンドメディア「mercan(メルカン)」は、会社の認知度向上を目的に開始。社員インタビューや社内イベントの様子をほぼ毎日更新している。
石黒さんは「10人ほしかったら10人が受けてくれればいい。メルカンを読んで引っかからない学生は選考を受けないはず。学生もこちらも『なんとなく』で会う採用は無駄なので、なくしたほうがいいよね、という思いでした」と振り返る。
認知度を高める、メルカリに興味がある人は理解を深める、全く興味がない人が興味を持つ……と、メルカンは複数の「認知」を高める役割を担う。社員が自社の採用やバリューを理解する機会にもなり、リファラル採用にも効果があるそうだ。
未来を切り開くために、とにかく打席に立つ
メルカンはオウンドメディアリクルーティングの先駆けとして、多くの企業から注目を集めた。2016年のGitHub採用は、GitHubのアカウントとメールアドレスだけで応募できるもので、メルカリの「実力主義」をブランディングした。
その他にも、選考参加希望者との交流会「Meetup」、一律初任給の廃止、内定者インターンや大学での研究で成果を出すと初任給が上がる可能性がある人事制度「Mergrads」、アメリカ50州に学生100人を送る「BOLD Internship」など、次々と新しい採用手法に挑戦し続けている。社外のツール活用も同様で、国内外の人材紹介のサービスもいくつもフラットに試した上で、必要なサービスに落ち着くという。
「とにかく打席に立つことは心掛けています。まずやってみて、失敗や気付きを経てやめることもある」(石黒さん)
BOLD Internshipもその一例。メルカリが新卒採用をしていること、アメリカの市場に挑戦し続ける企業方針を伝える目的があったが、いずれも認知度が高まったため、採用ブランディングの役割を終えたと判断。2018年以降は実施していない。
採用担当者がどれだけ大きな目標を淡々と追えるか
就活ルールが廃止され、多くの企業が通年採用になっていくのか、多様化がどんな変化を与えるのか。新卒採用市場は混沌とする一方だ。メルカリは次にどんな一手を打とうとしているのか。
メルカリの次の目標は「採用に強い会社」から「人材育成に強い会社」になること。これまでは2週間の研修後に現場に配属していたが、2019年4月入社からは2カ月のオンボーディングを実施。配属先以外の領域にも触れる機会をつくった。メルカリは採用の先の「育成」を視野に入れている。
ただし、これも「打ってだめならやめる」の一つ。奥田さんは「半年後に実施してよかったかを検証し、次年度の研修を設計します」と断言した。
奥田さんは現場の人事として、内定者や選考参加者との会話から、常に新たな取り組みを考えている。「海外の学生と会っていると、日本の採用が取り残されていると気付くんです」。海外では初任給の差や、職種や配属先を明示したオファーは当たり前だ。「今後は応募要項の段階で専門性の高い内容を示すことが当たり前になっていくと思います。メルカリも、今後はよりその道のプロフェッショナルを採用したい」と話す。
もちろん悩みもある。
新規事業に挑戦し続けるメルカリが、数年後にどんな企業になっているのか分からない。通年採用では学生が内定から1~2年後に入社するため、数年後のメルカリに必要な人材を想像して採用する必要がある。採用担当者として経営陣と会社の方針を綿密に話し合うが、予想外の展開もありえる。奥田さんは「自分が社長の代わりになって予想し続けなければならないと思います。ただ、なかなか難しくて悩んでいます」と胸の内を明かす。
石黒さんは「混沌とする中でも、採用担当者がどれだけ自社の大きな目標を淡々と追い続けられるか」だと語ります。「経営陣が経営方針を語っても学生はくどけないし、学生を採用できるのは人事しかいない。経営陣の方針をいかに自分の言葉に落とし込み、「一人称」で学生に話せるかにかかっています」
メルカリの目指す先は「世界基準」
メルカリにとっての「大きな目標」とは何なのか。石黒さんは「メルカリが成し遂げたいのは、世界的なマーケットプレイスをつくること。そのために、世界中から優秀な人材を集める目標に向かって走り続けています。上から言われた目標に答えるだけの仕事だと小さくなってしまう」
彼らが見つめるのは、世界の最先端企業の背中だ。
「Googleはアフリカや南アメリカなど、新たな大陸に行って採用しています。メルカリはまだまだ。『自分たちが先を行っている』と思った瞬間に終わり、です。常に変化しないと生き残れないと思っています」
【取材・編集:@人事編集部 大西里奈】
企業情報
株式会社メルカリ
・事業内容:フリマアプリ「メルカリ」の企画・開発・運用
・従業員数:1,786人(2019年3月時点)
・設立:2013年2月
・2018年6月東証マザーズ上場
・本社所在地:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー
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