ひとり人事座談会 組織改革編(後編)
人事は社長のお使いじゃない! 孤独と戦う「ひとり人事」座談会
2019.06.26
人事業務を1人でこなす人事担当者「ひとり人事」が、本音で語り合う座談会企画の後編です。前編「社長の感情次第で提案がボツに……『ひとり人事』のぶっちゃけ座談会」では、社長の感情次第で提案をボツにされる苦しみ、相談相手をつくろうと画策する若手ひとり人事のもがきを紹介しました。後編では社長の指示で社員に退職勧奨したエピソード、ひとり人事を救うお助けツールを打ち明けます。
プロフィール
▼忙しいのについ大量に相談を受けてしまう田中さん(仮名)(写真右)
・40代男性、人事歴13年。社員数100人弱の化粧品メーカーで人事、総務業務を担当
・モットー:お給料は我慢料。反省しても後悔しない
・休日の過ごし方:テニスの王子様に変身。さまざまなライブ会場に足を運び音楽三昧。
▼入社3年目で相談する上司がいない伊藤さん(仮名)(写真中)
・20代女性、人事歴3年。社員数70人の飲食業界に新卒で入社。経理、総務、採用を担当
・モットー:視野を広く持つこと
・休日の過ごし方:理想は自然を見に行くことですが、現実は忙しくてなかなか……。
▼感情豊かな社長と日々戦う鈴木さん(仮名)(写真左)
・30代男性、人事歴5年。社員数60人の印刷業界で人事、総務、法務などを担当。
・モットー:従業員を守る! 会社・社長を守る! 法律を守る!
・休日の過ごし方:日向ぼっこをしながらの読書、散歩
社長の指示で社員に退職勧奨
――鈴木さんは離職率で悩んでいるそうですね。
鈴木さん(以下、敬称略):ある時、社長の意向で関連会社の社員をそのままうちの会社に移すことになったんです。それぞれの会社で仕事のやり方が全く異なるので、慣れない人が徐々に辞めていきました。この3~4年は、毎年のように最大10人近く離職しています。
社内評価が低く改善も難しい社員がいると、社長の指示で私が、その社員に評価を伝えに行くんです。「会社はあなたをこう評価している。お互いに感じているかもしれないけれど、やりづらいところがあると思う。会社としても頑張ってくれるのを待ったけど、もう難しいと判断している。どうする?」と。要は退職勧奨ですね。
伊藤さん(以下、敬称略):ええ……。心が痛い。
鈴木:社員が激昂し、5時間話し合ったこともありました。会社や社長に対する意見を徹底的に聞き、「その考えも理解できる。このままだと喧嘩別れで後味がよくないから、言いたいことは全部教えてくれ」と伝えたんです。本当にその意見を全て書き起こすと、社員も「ここまでやってくれたのは鈴木さんだけです、もう大丈夫なので」と納得してくれました。
私は社長が言ったことをそのまま伝える「お使い」じゃない。社長の意向の実現のため、指示には従いますが、相手のためにどうしたらいいのかを考えた上で私ができることをやる。人は自分とは違うから、言うことも思うことも違います。そこをどう理解して、互いの思いを一致させるか、ですね。
他にも、「とある社員の給料を減額せよ」との指示もありました。その社員は確かに、仕事でミスもしていましたが、他の部署ならば絶対に生かせる人材だった。でも社長は「あいつは給料分働いていない」の一点張りで。本当に心苦しかった。
私がその社員を飲みに誘うと、「実は別の会社からオファーが来ている」と。本人も会社からの評価を肌で感じていたようで、給料減額の話をすると数カ月後に退職(転職)しました。
会社の人事としては、本来は社員を引き止めなければいけないのもしれません。でも、うちの会社よりも輝ける環境があるならば、その道を勧めて相手の助けになりたいと思っています。
面接のドタキャンが急増
――採用はどうですか?
鈴木:離職は止まらず、採用もできていないので社員は減る一方です。採用は年間で1~2人入る程度で、入社してもすぐに辞めてしまう。応募者が優先的に見ているのは、給料や勤務場所、残業の少なさなどの待遇面。事業内容はそのプラスアルファなのかなと。
しかも、うちの会社は社長の意向で、基本的に有料の求人媒体は一切使えないんです。今はハローワークや民間の無料の求人媒体を使っています。応募者数は少なく、たとえ応募が来ても面接はドタキャンが多いですね。
田中さん(以下、敬称略):うちの会社もそうです。わざわざ面接のために部長が地方に出張したのに、面接者が来なかったことがありました。その日、私は振替休日で休んでいたのですが、会社から連絡が来て「面接者が来ないんだけど」と怒られて。
伊藤:私も面接日に旅行に行っていて、飛行機に乗る直前に「面接者が来ない」と電話が来ました。もう「すいません」としか言えない。
田中:最近は特に面接のドタキャンが増えていませんか?求職者側が会社を選ぶ時代なので、会社のネームバリューがなく、給料が低いとどうしても難しい。求人すら見てもらえないです。
――採用難の中でも工夫していることは?
田中:うちは給料では人が集まらないので、処遇をアピールしています。3年以上の勤務者は有給休暇を20日付与し、消化率も高いです。時間外労働も、所定勤務時間を超えた分は全て残業代を支給しています。それでも、応募は来ないんですよね。
伊藤:うちは応募は来るのですが、採用基準が高くて専務や社長面接が通らないです。新しい人材が入ってこないので、業務がどんどん属人化し、仕事を他の人に振れないので休めない。負のループです。
田中:ひとり人事だと緊急対応が心配で、休日でもメールを見てしまいます。すぐに対応できないと後で困るので、休むよりも会社にいたほうが精神的に楽かもしれません。
鈴木:私は「万が一何かあったときは、それはそれで何とかする」と割り切って、休んじゃいますね。(笑)
社員と話すことが大事。やっぱり「人」が好き
――どんなに忙しい日々でも、必ず実行していることはありますか?
伊藤:現場の店舗にはなるべく顔を出すようにしています。
今は半年で10人辞めて、半年で5~6人入ってくるので、どんどん人が変わっていくのが怖いんです。店舗の社員が辞めたいと言い出したときに、何もできない事態に陥るのは避けたい。社員の顔を見て人となりを知り、退職を切り出されてもすぐに対応できるように心掛けています。
田中:私も自分で「社内お散歩」と名付けて社内を歩き、各部署の社員に声を掛けています。少しでも顔を知っている人事ならば、何かあった時にも相談しやすいと思うんです。「何かあったらいつでも聞いてね」と言って回っている分、本当にいろいろな相談が来て大変なのですが(笑)、「誰に聞いたら良いか分からなくて田中さんのところに来た」と言われるとうれしいなと。自分の仕事以外でも手を出しちゃうので、どんどん仕事が終わらなくなるんですけどね。(笑)
鈴木:私も、社員と一対一で話を聞くことが一番大事だと思います。面談で精神的な不調を抱えた社員と話し、立ち上がらせたこともあります。もちろん、復職させてあげられなかった社員もいますが。
――やはり皆さんは「人」が好きなんですね。
田中:誰かが困っていると助けてあげたいし、自分でできることならやってあげたくなるんです。周りに言いづらい困りごとでも、自分が吸い上げて役員に提案したい。少しでも社員が働きやすい環境をつくりたいんです。
伊藤:私は数字が苦手なので経理はあんまりなのですが(笑)、人を相手にする採用の仕事はすごく勉強になるし楽しいです。
鈴木:人事は相手の可能性を広げて人に寄り添える仕事。これからも続けたいですね。
田中:私は会社の下で社員を支える仕事しかやっていないけれど、たまに周りから感謝されると「自分のことを見てくれているんだ」とうれしくなる。それまでの過程はすごく大変なんですが、「やってよかった、もっと喜ばれるようなことをやろう」と思うんです。まぁ、その喜びは一瞬で、また別の仕事が降ってくるんですが。(笑)
伊藤:でも、そんな人事が理想ですね。私もそうなりたいです。
【番外編】多忙なひとり人事を救うお助けツール紹介
田中さん:勤怠管理システムの電話サポート
私が操作に困って電話すると、すぐに私の代わりに操作してくれるのですごく楽です。ソフトのバージョンアップの際は導入企業向けに説明会を開いてくれます。ひとり人事だと、どうしてもサポートの手厚さは捨てられません。
伊藤さん:採用部署ごとに適した求人媒体
求人媒体は採用する部署ごとに細かく分けています。店舗の求人は飲食店で働きたい人だけが見る求人サイトを使うと、応募がたくさん来ます。製造部門は自社ホームページで誘導して、ターゲットごとに求人媒体を変えます。
鈴木さん:無料セミナー
月3回程度、無料セミナーに行きます。一人で仕事をしていると限界があるので、外部からヒントを得て会社の制度作りなどに生かしています。良いセミナーを見分けるポイントは、講師が人事業界の有名人や、著名な士業の先生かどうかです。
年齢、性別、業種が異なる3人の「ひとり人事」から見えるリアル
今回はあえて、年齢、性別、業種もバラバラの3人に集まってもらいました。3人の悩みやノウハウのどこかに共感してもらえたらうれしいです。
@人事は今後も、ひとり人事の企画を続けていく予定です。ひとり人事ならではの秘策や努力をしている方は、ぜひ@人事編集部にご連絡を!どこかで取材に伺うかもしれません。【取材・編集:@人事編集部】
【編集部より】
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