「未来友」の荻野理事長に聞く外国人雇用が大発展を遂げるポイント
技能実習制度の活用が、10年後の日本を変える
2019.06.03
外国人技能実習制度に加えて2019年4月に新しい在留資格「特定技能」が創設され、ますます外国人雇用が広がっている。制度に関心がある多くの企業は外国人雇用を一時的な労働力の穴埋めと考えてはいないだろうか。実は、外国人雇用にこそ企業価値向上や国際的な企業発展のチャンスがあるらしい。
今春、外国人労働制度の適正化を発信する一般社団法人「未来友(みらいゆう)」(東京・葛飾)を設立した荻野一美さんに、技能実習制度を活用してきた自らの経験と外国人雇用を成功させるための条件を聞いた。【2019年5月22日取材、@人事編集部 飯塚陽子】
技能実習制度の導入はベトナムの若者との出会いから
荻野さんは建設会社やビルメンテナンス会社での勤務を経て、2004年に地元の岡山県で建設会社「OGINO」を設立。主に小~中規模のアパートの建設を行っていたが、慢性的な人手不足に陥っていた。政権交代の影響で2009~12年にかけて公共事業が激減し、多くの建設会社が倒産。その後、今度は公共事業の発注が増加し、建設業界全体が人手不足に直面していた2014年、アパート建設の発注側の大手建設会社から提案されたのが技能実習制度の活用だった。
「建設業界が技能実習制度を活用し始めた時期でした。(3~5年と)継続して雇用できるだろうか、うまくいくだろうか、という疑念もありましたが、とにかく大工不足で困っていたので、まず現地に見に行きました」
10社の建設会社と合同でベトナム・ハノイへ向かい、現地の状況を視察。その後、人材紹介会社を通じて候補の人材と直接面会した際、出会った20代前半の若者たちのまなざしが荻野さんの不安を拭い去ってくれたという。「目が違う、と思いました。昔の日本人の目というか、キラキラしていた。生活に困っていて、ハングリー精神があり、真面目に仕事をしたいと思っている。この子たちのために何かできないか、という気持ちになりました」
一緒に訪問した10社中8社は導入を不安視していたが、荻野さんは滞在中に導入を決めた。その後、面接した複数の候補者の中から2人を採用。「労働力探し」の目的が、現地で人材に会うことで「力になってあげたい」という気持ちに変化していた。
時には「親」として接し、良好な関係を築くこと
1992年に制度化された技能実習生制度は、日本で習得した技能を母国へ持ち帰ってもらう、国際的な経済発展を目的とした施策だ。ところが近年は、外国人労働者への賃金不払いや人権侵害など、一部企業による制度の悪用ばかりに注目が集まるようになった。荻野さんは「雇用する側が、同じ人間だと思って見ていないことも多い。親の気持ちで接するだけで、全然違うはずなんです」と力を込める。
※制度についての記事はこちら>>特定技能制度 ・技能実習制度のあまり知られていない本当の目的
「OGINO」では最初の2人をはじめとして、計5人のベトナム人大工を採用。いずれも現地で面接を行い、日本に来日するまでの数カ月間に再び荻野さんがベトナムへ渡り、家族にも会って挨拶をしたという。技能実習制度は企業担当者が現地で面接を行うことが多いが、実習生に決まった以降にここまでのフォローをしている社はほとんどないという。
実習生は母国で大工の研修を受けてから来日。日本語も現地で勉強しており、日常会話は問題なくできた。日本ではベトナムの文化を社員ができるだけ理解し、積極的にコミュニケーションを取った。彼らは「言ったことをきちんとやる」という真面目さに加え、社長である荻野さんとの良好な関係もあり、大工として即戦力になった。
技能実習生が母国で会社を設立し、取引先になった
「自分の国で会社を設立するくらいの気持ちで学ぶように。夢を持って働きなさい」
これは荻野さんが来日した実習生にかけている言葉だ。日本での労働はただの「出稼ぎ」ではない。制度の本来の趣旨に沿うとともに、「親」の立場から自然に出てきた思いだった。「自分の子どもが海外に仕事をしにいったら、できればその経験を次に生かしてほしいと思いますよね。海外で建設業をやって帰国して雑貨屋になっていたら、『お前、何しに行ったの?』と言いたくなるでしょう」
夢を叶えた若者がいた。3年の技能実習を終えて帰国したカインさんが、20代半ばにしてベトナムでビルメンテナンスや建設資材流通などを行う会社を2018年に設立した。技能実習生の人材送り出し機関でもあるベトナムの大手不動産グループが、荻野さんの実習生に対する熱意に動かされる形で支援を決め、カインさんの会社はその大手不動産グループや「OGINO」とも取り引きすることに。制度の活用がビジネスになり、グローバルな協業を生み出すことになったのだ。
「未来友」が目指すことは
「技能実習制度の活用をもっと多くの経営者に知ってもらいたい」という思いから設立したのが「未来友」だ。企業が制度を利用するきっかけは、やはり労働力を補うための外国人雇用になるが、荻野さんが目指す先は「人手不足解消」だけではない。
「制度を通じて、発展途上のアジアの国と新しいビジネスが生まれるチャンスがあります。実習生には技術だけではなく、日本の考え方や心も持って帰ってもらいたい。大きな発展になって返ってくるはずです」
「未来友」では、「人材」「企業」「人道」という3本の柱で、それぞれセミナーや研究会を実施して個人・企業の理解を図り、国際的な人材開発やビジネスの発展に貢献していくことを目的としている。今後はベトナムだけではなく、タイやカンボジア、ラオスなど、すでに「未来友」の関係者と縁があるアジア諸国で、その国の支援機関とも協力しながら活動を推進していく予定だ。
「未来友」の行う事業
「人材」 国際交流と労働に関する人材育成
「企業」 国際的な企業発展の方法論の確立
「人道」 社会基盤に対する人道支援の展開
今こそ、経営者が価値観を変える時
19年4月には新しい在留資格である特定技能が創設された。従来の技能実習制度と合わせて多くの外国人労働者が日本にやってくるだろう。この急速な流れの中だからこそ「経営者はこれまでの価値観を変えなければならない時」と荻野さんは言う。
外国人を雇用する経営者に伝えたいこと
・国籍が違っても「親」の気持ちになって雇用する
・「自分だけ良ければいい」という価値観を捨てる
・外国人との相互理解があってこそ貴重な労働力になる
「20歳で出会ったころの友人といい関係が築けていたら、10年後も20年後もまた会えますよね。それと同じです。一人ひとりの外国人労働者と友好関係を築くことが、10年後、20年後の日本を変えることになると思っています」
「未来友」主催の無料セミナー
7月22日(月)開催! 中小企業のための技能実習・国際労働制度活用セミナーで、外国人労働制度の「今」が分かる! 制度の内容と活用方法を知り、事業を成長させる方法を教えます。
イベントガイドはこちら>>【無料】中小企業のための技能実習・国際労働制度活用セミナー
セミナーのお申し込みはこちらから>>【お申し込み】技能実習制度・国際労働制度活用セミナー
団体情報
一般社団法人 未来友(みらいゆう)
・事業内容:国際的な労働の適正化と国際交流の推進、会員の情報共有と社会の発展を目指す
・設立:2019年5月21日
・所在地:東京都葛飾区新小岩2-9-10 2F
【編集部より】外国人雇用に関する関する記事はこちら
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